2006年01月

2006年01月27日

北欧の森林

 ヨーロッパの森林再生のことを書いたついでに、ヨーロッパの森林についての話をもう少し続ける。
 ヨーロッパには殆ど森林は見られないと書いたが、実はそれは西ヨーロッパ、南ヨーロッパ、ブリテン諸島のことで、北欧や東欧には十分な森林が残っている。特に北欧のフィンランド、スエーデン、ノルウェーは森林ばかりといってよい。スエーデンやノルウェーには3,000〜4,000m級の山が多いので、空から見ると日本とよく似ている。フィンランドは、北部に低い山岳地帯があるが、それ以外は平坦なのに、森林被覆率は日本とほとんど同じである。この森がこの国の一番の財産だとみんなが思っているのが日本との違いである。
 フィンランドは私が1年半ほど滞在したことがあり、このとき以外には海外生活をしたことがないので、私にとっては第二の故国である。北極圏に近いところに位置し、アジアでいえばカムチャッカと殆ど同緯度にある。ヨーロッパがこんな北でも生活できるのは、メキシコ暖流のおかげである。フィンランドの国土面積は日本より少し小さく、人口は500万人で、日本の1/25である。首都ヘルシンキの気候は札幌と同じようなものと思えばよい。夏は決して暗くならず、冬は暗いうちに出勤して暗くなってから帰宅することを除いては。
 フィンランドはよく「森と湖の国」と言われる。確かにその通りで、湖は国土面積の16%を占め、それ以外は殆ど森であるが、私はもう一つ「岩」を加えたい。国中いたるところ赤い花崗岩が露出しており、ヘルシンキヴァンター空港に降りたときにまず目を奪われるのは「岩」である。本当かどうかわからないが、こことスカンジナビア半島は30億年前にできた一枚の岩でできている、という。だから、地震は絶対にない、と皆が信じている。人口500万人のうちヘルシンキとその近郷に80万人が住んでおり、地方の都市の人口は最大でも15万人程度である。フィンランド語は、ヨーロッパでは珍しい「ウラル・アルタイ語」に属し、1000年以上前に東から移ったと考えられている。ヨーロッパでは他にはハンガリーとエストニアくらいしかない。しかし、生物学的な人種と言語とは関係ないようで、多くのフィンランド人は見かけは典型的なヨーロッパ白人である。
 昨年夏、3年振りにフィンランドを訪れ、この国の木材工業と木質バイオマス事情を見てきたので、次回から少しずつ書いていこうと思う。

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2006年01月26日

ヨーロッパノ森林再生(2)

 自然再生とはどうゆうことなのか。再生というからには、破壊された状態を逆方向に進めるということになるが、実際には必ずしもそうではない。自然再生の目的は生物多様性を確保することであるが、生物多様性にも、1)遺伝子の多様性、2)種の多様性、3)生物群落/生態系の多様性、と3つのレベルがある。このうちどの多様性を守るべきか、そう簡単には決められない。日本の里山は、長い間理想に近いかたちで野生生物の多様性を支えてきたが、それは、多様性を支える様々な生育地が里山に存在し、生態系のピラミッドが形成されていた、ということらしい。
 ヨーロッパにおける自然再生の議論は、荒廃した土地を5,000年前の森林に戻すことでは必ずしもなく、人間がどう土地利用するかの問題であり、自然再生はその選択枝の一つと考えられている。どの方法が最も生物多様性の維持に適しているかの選択でもある。
 スコットランドの原生林は、2,000年前から牧羊のための人工的な草原となり、羊に植物を食べられ、その後荒れ地となった。ブラジルサミット後、カリフラン峡谷600haの森林再生計画が立てられた。それもはじめはたった二人の人間がWildwoodグループを作り、植林を始めたのがきっかけであったのが、数年後には8,000人が参加する大きな運動となった。英国政府の宝くじ売上金も投入され、スコットランド政府も資金援助するようになり、5年間で33万本の苗木が植えられ、今では見違えるような緑の大地となった。この峡谷には羊などの家畜を連れ込むことが禁止されている。
 イングランド南部のチョーク高原3,200haの再生計画は別の例である。ここは白亜紀(6,600〜14,400万年前)の泥炭層が200mの厚さで堆積しており、独特の風景と生態系を作っている。ここも5,000年前にはヨーロッパブナの森であったが、人が草原に変え、牧畜を行ってきた。ここは、イギリスの里山ともいえるもので、きわめて生物多様性に富む草原となったのだ。牧羊の衰退が草原の後退をもたらし、このままでは25年後には森林にもどってしまうことが問題となった。ここでは、カリフラン計画とは逆に、生物多様性を守るためになるべく沢山の羊を飼い、草原を維持することが目的となっている。

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2006年01月24日

ヨーロッパの森林再生(1)

 12月から毎週土曜日に牧野植物園で「牧野植物学講座」を受講している(全部で7回、14講座)。今年で3年連続受講しているが、覚えが悪くて、同じ講義を3回受けても覚えられなくて困る。
 1月21日は、ステファン・ゲイル先生(牧野植物園研究員)から、ヨーロッパの自然再生の取り組みについての講義を受けた。ヨーロッパを旅した人はわかるだろうが、今のヨーロッパには殆ど森はない。これはもともとヨーロッパの地中海性気候がもたらした自然の状態なのだろうか、それとも人間のせいなのだろうかと、いつも疑問に思っていたものである。ところが、ゲイル先生によれば、6,000年前はヨーロッパ大陸はは殆ど森林に覆われていた、ということである。今、草原と荒れ地と街しかないように見えるイギリスも、6,000年前は90%は原生林で覆われていた。オリーブ畑と荒れ地しかないギリシャや南部スペインでさえ、昔は森林だったそうである。森林は、人間が農業をやるようになってから破壊され始めた。それから牧畜が始まり、人が定住して街を作り、森林を伐採して木材とし、近年は工業が起こり、戦争が大規模化することによってほとんどの森林は失われた。特に河畔林は90%以上が失われた、という。
 ヨーロッパで自然再生(森林再生)に取り組むようになったきっかけは、1992年のブラジルサミットである(リオ議定書)。この会議では、生物多様性の危機が議論され、その再生の道を探るものであった。ヨーロッパ諸国ではこの決議は重く受け取られ、政府、NGO、個人が動き始める。EUもまたこの動きを支援し、調査と再生に資金を投入することになった。各国政府も自然再生のための法制を整備した。それから15年、いくつかの地域でその成果が現れはじめている。

m1939923 at 22:28|PermalinkComments(3)TrackBack(0) 森林 | 環境

2006年01月21日

フィトンチッドについて(2)

 植物の成分は昔から人間の病気やけがを治す薬、精神安定剤、防腐剤、殺菌剤、芳香剤、などに使われてきました。今でも、漢方薬に限らず市販されている薬の半分以上は植物から採取した成分を主成分としているのです。今。テレビで人気の「チャングムの誓い」などを見ていると、降ってくる花粉が味噌の味を良くするなど、解毒や健康に限らず食の味付け、美容などにあらゆる植物を利用しているのが面白い。「紅楼夢」などの中国の古典文学には、植物成分の使い方など詳しく記載されています。フィトンチッドの積極的な利用です。
 例えば、ヒノキ精油は昔から香料、殺菌剤、殺虫剤として使われてきましたが、ヒノキの幹、根、葉はα-ピネン、カジネン、リモネン、カンファーなどのモノテルペン類、カジノール、ヒノキオールなどのセスキテルペン類を豊富に含んでいます。テルペンというのは、イソプレン(C5H8)がいくつか結合した化学物質で、これらが抗菌作用を持ったりにおい成分になったりするのです。ヒノキ類は、虫歯を起こす細菌の生育を阻害する成分さえも持っているのです。
 ヒノキに限らず、多くの植物がこのような化学物質を生産し、放出しています。もちろん、精油の生産量は樹種によって大きく異なりますが、これらの化学物質がフィトンチッドです。
 人間が感じるにおいはppb程度からと言われています。ppbは、ppmの1000分の1、ppmは百万分の1の濃度です。殆どの植物の発するにおいは、やはりこの程度で、大部分の樹木は人間には感じられない濃度のフィトチッドしか空気中に放出しておりませんが、間違いなく森の中にはいろいろな効能を持つフィトンチッドが飛び回っているのです。だから森林浴は健康によいのです。


m1939923 at 21:59|PermalinkComments(3)TrackBack(0) 森林 | 環境

2006年01月19日

フィトンチッドについて

 フィトンチッドという言葉は、1930年にソ連のトーキンという生物学者が作り出したロシア語である。フィトンは植物、チッドは「他の植物を殺す能力」という意味だそうである。これは後に(1937年)に植物学者モリシが提唱した、植物が放出する化学物質による「他感作用(アレロバシー)」とほとんど同じ内容である。
 フィトンチッドは、植物に限らず昆虫など多くの生物が自己保存のために放出する化学物質であるが、植物についていえば以下のいくつかの種類に分類される。
 抗生物質
 病原菌毒素
 阻害物質
 成長促進物質
 植物性殺菌素
 ファイトアレキシン
 これらについての説明はそのうち機会があれば説明するとして、この中の植物性殺菌素とは、高等植物が生産し、微生物に影響を及ぼす物質のことであり、森林浴に最も関係のある作用である。即ち、森林の中では、様々な植物が殺菌性または抗菌性物質を放出することにより害菌から自分を守っているが、この害菌の中には人間を害する病原菌も含んでいるのである。

m1939923 at 23:33|PermalinkComments(3)TrackBack(0) 森林 | 環境

2006年01月18日

森林浴とフィトンチッド

 健康によい3種類の「浴」があるといいます。日光浴と水浴と大気浴です。大気浴の一つが森林浴です。
 都会の喧噪から離れて森にに入れば、静けさとすがすがしい空気が心身をリフレッシュしてくれる。森の木々や葉が、自動車の排ガスや粉塵を吸着して浄化してくれる、また葉が新鮮な酸素をはき出してくれる、これだけでも健康によさそうに感じます。しかし、もう一つ、フィトンチッドの効果があります。
 フィトンチッドという言葉を聞いたことがある人も沢山いるでしょう。これはなにも霊気のような不可思議なものでも、気分的なものでもありません。最近はやりのマイナスイオンというようなわけのわからないインチキ物質でもないのです。木々は、フィトンチッドと呼ばれるれっきとした化学物質を放出しており、これが健康によいのです。
 植物に限らず昆虫などを含めて多くの生物は、自分を守るために、あるいは自己の種を守り、繁栄させるために、化学物質を生産し、放出しています。これを総称してフィトンチッドと言います。フェロモンとか抗生物質とかもそれらの一つです。たとえば、セイタカアワダチソウは、多種植物の生長を強力に阻害するある種の化学物質を地下茎からまき散らし、他の植物を生やさないようにして自己の生活圏を広げていくのです。虫がいやがるにおいを出したり、病原菌を殺す物質を放出する植物もあります。これらはすべてフィトンチッドです。
 森では、多くの木が葉からにおい成分を放出しています。その多くは、テルペンと言われる炭化水素です。このうち揮発性のテルペンが森の中を飛び回っています。このテルペンが森の「におい」であり、人に精気を与える物質なのです。

m1939923 at 20:02|PermalinkComments(4)TrackBack(0) 森林 | 環境

2006年01月13日

速水林業

 1月12日、高知県文化環境部の主催で開かれれた速水林業(三重県)の速水亨代表との意見交換会に出席しました。出席者は30人位でした。開催場所を間違えて遅刻し、半分しか参加できなかったことは返す返すも残念でした。
 言うまでもなく速水林業は、森林の国際認証であるFSCを日本ではじめて取得した森林1,060haを管理する会社として有名で、たびたびテレビでも取り上げられています。FSC取得にはどんな意味があるのか、質の高い森林とはどうゆうものか、森林経営はどうすべきか、間伐の意義はなにか、など、多岐にわたる講演には、さすがに日本を代表する森林経営者の語ることはひと味違うな、という印象でした。特に、森林に関係のない大企業が森林経営に関心をもっており、これら大企業から資金を引き出すためにも、どうゆう森をつくるべきかのイメージを森林所有者がしっかり持たなければならないこと、狭い地域ではなくオールジャパンで考え、国際的な役割を考えて森作りを考えるべきだ、という主張は当たり前のことかもしれませんが、速水さんの発言からは新鮮さを感じました。また、森林経営は、木のことだけを考えてはだめで、「森」よりも土壌のことも含む「杜」と考えてほしい、という考えには共鳴しました。
 速水林業のHPは、http://www.re-forest.com/hayami/ です。FSCについての説明もこの中にあります。

m1939923 at 19:45|PermalinkComments(3)TrackBack(0) 森林 | 環境

2006年01月09日

バイオマス元年

 新年あけましておめでとうございます。今年も宜しくお願い申し上げます。
 新年を迎えて、これまでは文章ばかりなので、今年は趣向を変えなければと思っておりましたが、よいアイデアが浮かばず、開始が遅くなってしまいました。とりあえず、何か書かなければ、と思ってはじめました。

 いろいろな問題を含みながらも、日本国内における木質バイオマス有効利用の潮流は加速されてきています。高知でも、今年はいくつかの大きな動きが予定されています。
(1)SONIAにおけるNEDOの「バイオマスエネルギー地域システム化実験事業」の開始
(2)檮原町における、町と矢崎総業との共同プロジェクト
 その他、NEDOの地域システム化に採択されなかった3課題も、それぞれ実現にむけて動き出すことになるはずですし、これまで動いてきた県事業である「バイオマスによるハウス暖房」、「林産品活性化プロジェクト」なども新たな展開が期待されています。「ヒノキオイルによるトンネル浄化プロジェクト」も、実現できれば間伐材利用に大きな意味を持つはずです。また、森林局による「木質バイオマス活用プラン」が まとめられれば、県のバイオマス活用マスタープランとしての基本的な施策が示されることになります。まさに高知にとってのバイオマス元年です。

m1939923 at 12:56|PermalinkComments(5)TrackBack(0) 森林・木質バイオマス | 環境