【河合雅司の「ちょっと待った!」】

 鳩山政権の目玉政策のひとつである高校授業料の無償化制度がスタートした。公立高校の授業料を徴収せず、私立高校生には世帯の年収に応じて年約12万~24万円の「就学支援金」を高校側にまとめて支給するという内容だ。

 経済協力開発機構(OECD)加盟諸国の多くでは公立高校授業料を徴収しておらず、専門家からは「ようやく世界標準並みになった」という評価の声も出ている。

 だが、制度を詳細に見ていくと、国会審議でクローズアップされた朝鮮学校の取り扱いばかりでなく、無償化によって新たな「格差」が生じる可能性があるなど問題点は少なくない。ずさんな制度設計が要因で、政府はただちに見直しに着手すべきだ。

 問題点の第1は、公立と私立とで公平さを大きく欠く点だ。

 公立高校生は授業料がゼロになるのに対し、私立高生は授業料と就学支援金の差額は自己負担となる。

 私立高校については「行きたい人が行く贅沢(ぜいたく)な学校」との指摘もあるが、地域によっては生徒の公立高校志向が強く、公立に入学できず、やむなく私立高校に行くケースも少なくない。私立高に行く生徒の家庭は高所得とはかぎらない。

 つまり、裕福な家庭の子供が授業料無料の公立に入り、低所得世帯の子供が私立で授業料との差額を支払わなければならないという矛盾が生じることも十分あり得る。

 これでは、文部科学省が説明する「すべての意志ある高校生等が安心して勉学に打ち込める社会をつくる」という趣旨には合致しないだろう。

 申請手続き上の負担も、私立高校生のほうが重い。授業料を徴収しない公立は、国が地方自治体に授業料相当額を直接支給する。これに対し、私立は4月に保護者が学校に就学支援金の申請書を提出しなければならない。都道府県が認定すると、高校が支援金を代理受領する仕組みだ。

 手続きの問題点はこうした煩雑さだけではない。就学支援金は低所得者には加算されるが、課税証明書など世帯年収を確認できる書類を学校に提出することが求められる。専門家からは「個人情報の保護が大切にされる時代に、学校に所得情報を把握されることを嫌う保護者は少なくないだろう」との改善を促す意見が出ている。

 こうした公立との「格差」については、私立高校関係者からは「私立離れが加速するのでは」といった不安の声も出ている。

 第2に、所得制限をつけなかったことに伴う問題点だ。

 授業料の支払いに困っていない裕福な世帯では、無償化によって浮いた授業料分を塾代などに充て、結果的に学力の格差を広げることになりはしないかとの指摘がある。実際、塾業界では高校無償化をビジネスチャンスととらえ、新たな講座開設などの準備にかかっているところも少なくない。

 高校に納めるお金は授業料だけではない。教科書代や施設整備費、光熱水費、修学旅行などの積立金といった負担も大きい。

 限られた財源の中で「これらをすべて無償化しろ」というのは現実的ではないが、所得制限せずに授業料無償化に年間4000億円もの財源を使うのであれば、支援を本当に必要とする低所得の世帯に傾斜配分して、手厚く支援することこそが、「安心して勉学に打ち込める社会」に近づくというものだ。

 「鳩山由紀夫首相のような大金持ちの家庭の子供まで無償化することはない」といったバラマキ批判は根強い。

 さらには、高校無償化に伴って、子育て世帯がかえって負担が増えるケースもあり得る。財源確保のため、16~18歳の子供を持つ家庭の特定扶養控除が段階的に縮小されるためだ。

 各自治体が独自に行っている授業料減免制度を利用してきた世帯は、新たな恩恵はないものの、税負担だけ増えるケースが出てくる。自治体の従来の支援策が低所得世帯向けに上乗せ支援策として役割を果たせばよいが、国の高校無償化制度導入に伴い独自支援策を見直す自治体も少なくないようだ。

 進学しなかったり、中退した場合などの世帯でも、高校生と同年代の子供を育てながら負担が増加する可能性がある。

 文科省は、救済策として給付型奨学金の創設を検討しているが、見通しは立っていない。

 なぜ、こうも問題点が多いのか。鳩山政権が、「子育て世帯への家計支援」なのか「経済的理由で高校進学が困難な生徒への教育の機会確保」なのか、政策の理念が定まらないまま法案づくりが進められたことが大きい。

 鳩山政権は高校無償化について、当初は「中学卒業までは子ども手当、高校生には高校授業料を無償化する」と、少子化対策としての意味合いと家計支援である点を強調していた。親の所得に関係なく一律支援の仕組みとしたのも、「社会全体で子育て」という鳩山政権の少子化対策の考え方に基づいた理屈だ。

 ところが、できあがった法律は「教育の機会均等」が前面に押し出され、授業料を無料にしなければ教育の機会均等が担保されないかのような議論が展開された。

 しかも、支給方法が高校側への直接支給となったため、家計支援というよりも高校への助成金といった色合いも強くなり、ますます意味合いが見えづらくなった。どの学校を対象に含め、どこを外すのかに焦点があてられたのも、学校支援を前提とした議論となったためだ。

 政府内の法案検討過程は、ほとんど明らかにされなかった。参院選前の成果としたい鳩山政権が4月支給にこだわり結論を急いだため、議論が生煮えとなったのことは否めない。

 国会は法律の付則に、施行3年後の見直し規定が盛り込んだが、ここまで問題を抱えた制度を改めるのに時間を待つ必要はない。

 鳩山政権には、高校の教育現場や高校生を抱える世帯の「生の声」によく耳を傾け、国民が求めるサービスを提供できる制度へと早急に改善することが求められている。(論説委員)

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