「時計の針を戻したいです。(長男の)誕生日を祝った日まで戻したいです」

 自殺未遂で意識不明となり、入院中だった当時40歳の長男を刺殺したとして、殺人罪に問われた無職、和田京子被告(67)の裁判員裁判が21日、東京地裁(山口裕之裁判長)で結審した。前日の被告人質問で弁護人に「今願うことは」と問われ、涙ながらに「奇跡です。時間を戻したい」と答えた和田被告。高額な医療負担に苦しむ家族のために「母の責任」と決意した“子殺し”に、法廷はすすり泣きに包まれた。22日の判決公判で、裁判員はどのような判断を下すのか。

 和田被告の長男は昨年7月15日、勤務先で首つり自殺を図る。一命は取り留めたものの、医師からは「意識が回復する可能性は低い」と告げられた。家族で長男の誕生日を祝ったわずか11日後のことだった。後日見つかった手帳には長男の文字で、「変な女にだまされました」。また、家族にあてて「僕のことは早く忘れてください」「最後に、本当に本当に愛しています。今までありがとう」とつづられていた。

 追い打ちをかけるように健康保険組合から言い渡されたのは、「自殺は保険が適用外」という事実。医療費は月末には500万に、その後も1日10万~35万のペースでふくれあがるという。勤務先や弁護士にも相談したが、解決策は見つからなかった。

 「私が呼吸器を外します」

 将来を悲観した長男の妻が医師にこう詰め寄ったことを知り、和田被告は決意する。「人にやらせるわけには絶対いかない。あの子を死なせてやるのが私の責任だ」

 入院から10日目の25日。出刃包丁を持って自宅を出た和田被告の懐には、20年前に旅行先のサンフランシスコで撮影した長男の写真があった。自宅の日記には「しっかりして京子。産んだ責任」と書き残されていた。

 ガラス張りの病室で横たわる長男は、頭に鉄の輪をはめられ、けいれんを繰り返していた。息子を殺すことにためらいがなかったわけではない。ただ、「息子は生かし続けられることを望んでいるのだろうか」と思った瞬間、「母さん、頼む」という声が聞こえた気がした。握りしめた包丁を左胸に4度突き立てた。

 自ら看護師に「私がやりました」と申告。和田被告は殺人容疑で逮捕された。事件後、医療費への保険適用が決まった。

 和田被告は「人間としてすべきことではなかった。深く反省し、後悔している」と法廷で述べる一方、他に方法はなかったか問う検察官には「何かいい考えがあったのなら教えてください」と返した。

 弁護人は「被告は家族のために捨て石になった」と主張。証人として出廷した長男の妻も「母がやらなければ私がやっていました。どうか母を自由にしてあげてください。夫もそれを望んでいると思います」と、涙ながらに訴えた。

 検察側は「同情すべき点はあるものの、結果は重大」などとして懲役5年を求刑。判決は22日に言い渡される。

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