2005年12月09日

60分の1秒の世界

最近のゲーム機はかなり進化したので。
もうそういうことはなくなったのですが。

ファミコンというのは、かなり原始的なマシンでした。
機能的な制約のなかで、その最たるものは最小分解能が
「60分の1秒である」というもの。

これはどういう事かというと。
音楽の世界では、テンポの表記は「一分間に四分音符がいくつ」
というもの。そこから八分音符、十六分音符の長さが
割り出されていくわけです。
実際、計算してみるとわかりますが…。
それらを誤差なく正確に刻みだそうとすると、ものすごい
短い周期でタイマーがカウントアップしていく必要がある。

ところが。

ファミコンというのは、とにかく「60分の1秒」単位、
という区切りしかない。そういうタイミングでしか
全ての処理がさせられないのです。

これはタイマー割り込み機能といいますが。
最新の機器には、おそらくこのタイマーが
ものすごい高速で、それも複数の回路が
組み込まれて、簡単に実現されているはずです。

ところが、原始時代のファミコンには全ての一定時間毎の処理
(つまり、画面を動かす、ジョイスティックを検出する、サウンドの
処理をする)は、「60分の1秒」ごとに処理する方法しか
持たなかったのです。

「60分の1秒」というのは、1秒で60回の処理
ですから。
1分間では3600回の処理です。

「四分音符=120/分」というちょっと早めのテンポ設定だと。
30回、タイマーがまわったら四分音符ひとつ分の長さ、
という処理をサウンドドライバーが行うのです。
八分音符は15回です。では十六分音符は???
7.5回というのは不可能なので。
8回、あるいは7回です。(誤差が出るので、ずれないように
余りを手で計算しながら補正します)
三十二分音符は…4、4、4、3とか。
とにかく、誤差がでるわけです。

これがなかなか「微妙なゆらぎ」になってしまいます。
リズムがしっかりとタイトに刻んでいないと気持ちが
わるい、「絶対音感」ならぬ「絶対リズム感」のような
ものを感覚的に持っている音楽家も「稀に」いますから。
そういう人に曲の依頼などすると、後が大変です。
「もっとリズムを正確に」とか、「もうちょっと早く」とか、
「ここを3連音符にとか」とか。もう絶対に無理な
注文をつけられてしまいますが。

あなた、それは無理なのよってな事を、実際に音を
鳴らしながら試行錯誤。お互いに、眉間にシワよせながら、
歩みよりようのない歩みよりが日夜続くのです。

このストレスに打ち勝った作曲家だけが、ファミコンの
ゲーム音楽作家へのゲートをくぐれた事はいうまでもありません。

いや〜。ほんとに皆さん、ご苦労さまでした。

#しかし…このテンポの制約をみごとに超越した、
 絶妙なリズム感の音楽を産み出した人達もいました。
 何事も、使いこなせば上達するもの。
 ファミコンという「楽器」への愛情のなせる技なのかな、と
 思いました。任○堂さんとか、コ○ミさんの音はいつも
 バツグンにいい出来でしたね。

#ファミコンでは絶対に60分の1秒以上に早い周期での
 処理は不可能なのですが。
 その不可能を可能にしたサウンドドライバーを実現した
 ゲームソフトが一つだけありました。
 それは僕が音を移植したアーケード版がオリジナルの
 ゲームで「POOYAN」というタイトル。
 あのサウンドドライバーは元が300分の1秒で動いていて、
 それを実現しないと、風船の割れることが鳴らなかった。
 仕方ないので、強引にファミコンで300分の1秒の処理を
 実現させましたが…。今でも、あれはよくできた音だ、と。
 感心しちゃいます。
 といっても、ファミコンのサウンドドライバーを作った
 人じゃないと、わからない苦労ですね。

#長年、60分の1秒の世界で仕事をしていると、
 60分の1秒の間合いが「感覚」でわかるようになってし
まいます。
 目でも追えるし、耳でも判別ができます。
 あと60分の2秒、前にずらして…とか。そういう
 言葉づかいが日常になっちゃう(笑)。



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この記事へのコメント
なるほど。そいうわけでしたか。
当時も詳しい説明は聞いていたのでしょうけれど60分の1秒の話は全く忘れてました。
よく曲の中で「人間ワザ以上」の32分音符とか16分音符の3連とか平気で打ち込んでましたけど、ご苦労をおかけしたのでしょうか…。
作曲者は気楽なモンですね(笑)
Posted by キノコ at 2005年12月10日 11:44