江戸では将軍茂茂の葬儀に伴い、大名行列が行われていた。
神楽と新八はその様子を切なそうに見ていると、神楽はその場から立ち去る。
その頃、私は銀時を支えながら、松葉杖で足を引きずりながら屯所へと足を進めた。
屯所内に入ると、道場から近藤の声が聞えた。


「太刀筋に迷いが見える。犬のお巡りが、迷子の子猫そっちのけで迷ってたら世話ねぇわァ。稽古つけてやろうか?今ならコイツでも勝てそうだ」

「へっ!遠慮しとくぜ。年中迷子のはぐれ雲の行き先は、お巡りさんにもわからんさ」

「少なくとも、シラフじゃこんなムサイとこ迷い込まねぇよ。しかも、星華も連れて迷い込むなんざ尚更だ。一体なんの用だ?他の連中はどうした?」


近藤は道場の縁側に腰を下ろすと、振り返らずに呟く。


「さぁな。式にでも出てんだろ?俺には顔出す資格なんてねぇからな・・・・だが、ちょうどいい人払いになった。あの時のてめぇらの報酬、まだだったろ?まぁ、あれだ・・・・こんな時じゃなけりゃ、伝説の攘夷志士二人と真選組局長がさしで飲む機会なんざねぇ・・・・一杯付き合えよ」


お猪口を持ち、それぞれ近藤にお酒を注いでもらうと私は銀時を見た。


「普通、怪我人を酒に誘うか?」

「んなこと気にしてたら、生まれた時から頭に大怪我負ったお前は一生飲めねぇだろ?」

『よく人の男の前で言えるわね、ゴリラ』


近藤がフッと笑うと、銀時は一気にお酒を流し込む。


「戦ってのはつくづく酷なだなァ・・・・勝っても負けても、得るモンより失うモンの方が多い。それでも勝者は勝ち得たものを数え慰めも出来るが、敗者は失ったモンを数える事しかできねぇ。護れなった味方、斬り捨てた敵、戦で生まれた咎、すべてがその身に重くのしかかる・・・・俺たちの戦いはなんだったんだ?払った代償に、汚した手に・・・・・意味はあったのか・・・・ってな。お前達は、そんな思いを戦で何度もしてきたのか?」

『ないよ・・・・意味なんて。戦を始める前も終わった後も・・・・意味なんて何にもない』


私は遠くを見つめ、お酒を一口流し込んだ。
銀時の言葉で少し俯く。


「勝とうが負けようが、何を護ろうが何を失おうが、戦に意味なんてねぇ。どう繕っても最後に残るのは、屍と罪だけの不毛な所行だ。そこまでして護る価値のあるモンなんざ、なにもねぇ。もしあるとすれば、そんなくだらんモンが必要ねぇ時代を築こうとし、敵ではなく自分と戦い続けた思いだけだ・・・・そして、そいつはまだ死んじゃいねぇ・・・・・その思いが繋ぐモノがある限り・・・・」


銀時と近藤は、それぞれ徳利を持つと自分のお猪口に、そしてもう一つのお猪口に同時に注いだ。
近藤はもう一つのお猪口を手に持ち立ち上がると、日が差した空に向かってお酒を巻く。
太陽の光でキラキラと光る滴を見て呟く。


「ならば俺達には、葬式も別れの言葉もいらねぇなァ・・・・交すのはこの杯だけで十分だ」


近藤が座り、三人は同時にお酒を流し込むと、近藤が立ち上がった。 


「万事屋、星華ちゃん・・・・お前達が俺と同じ思いでよかった。たとえ、何者の屍を越えようとも・・・・護らねばならんモノがある」

「トシたちに伝えてくれ。バカな真似はするなと・・・・江戸にはまだ、お前達が必要なんだとな・・・・確かに繋げたぜ」


振り向かずに歩き出すと、私と銀時は目を見開く。
目の前には数名の見廻組の隊士たち。


「最後に四人で飲めて楽しかった・・・・もっと早くに飲んどきゃよかったな」


手錠をかけられ連れて行かれる近藤に、銀時がよろけながら声をかけた。
私は急いであとを追いかけ銀時の体を支える。


「待て・・・・どういうこった?・・・・ゴリラ・・・・てめぇっ・・・・」

「斬り合いになると思ってたけど、その気はないみたい。代わりにあなたが相手をする?」


背後に信女が立ち、チラリと私を見るとすぐに目線を銀時に戻す。


「返答によっちゃァ、喜んでその制服真っ赤に染めてやらァ」

『銀時っ・・・・やめて・・・・』

「こいつはなんの真似だ?」

「意外・・・・いつも連中といがみ合ってたあなたが、そんな顔するなんて。将軍を死なせた罪を同じく背負う事で、仲間意識でも芽生えた?あの人も、あの世で喜んでるでしょうね。大切なモノを失ったあなた達が再びそれを持とうとするなんて」


信女の言葉に私は眉を潜めると、銀時は信女をギロリとした目で見据える。


「いつになくよく喋るじゃねぇか・・・・てめぇが俺たちのなに知ってるってんだ」

「なにも。ただ、また全てを失いたくないのなら他にやる事があるんじゃない?あの男は多分、知っていた。喜喜公の政権下ではもう真選組は長くない事を・・・・みんなの前で自分が連行されれば、間違いなく隊士達は黙っていない。だから国葬の警備に就かせた。なのに、あなた達だけをここに呼んだ。その意味、分かっているはず」


見廻組の車が出ると同時に、真選組の隊士達が見廻組の隊士達に殴りかかっていた。
私と銀時は土方と沖田の前に来ると、銀時は少し俯く。


「すまねぇ・・・・・」


私も同じく少し俯き頬に涙を流すと銀時を支える手を一段と強めた。





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古びた神社に真選組の隊士達と土方、沖田が集まり話し合っていた。
私と銀時はその会話を外で聞いていた。
一人の隊士が声を荒げて言う。


「ふざけんじゃねぇ!!局長が一体なにやったってんだ!喜喜の奴、将軍暗殺の責任を全て擦りつけるつもりかァ!?乗り込もう!喜喜の所へ!どうせ真選組も潰される!!」

「それでも・・・・生きろと言ったんだろ?」 


土方が壁に寄り掛かり、煙草を口に咥え俯きながら言葉を続ける。


「真選組が組織として消えても、たとえ散りじりになっても、それぞれが真選組として自分のやれる事をやれと・・・・近藤さんはそう言ったんだろ?」


その言葉に沖田が土方を見据える。


「近藤さんの屍を越えても・・・・土方さん、そんな価値があるんですか?近藤さんを見殺しにしてまで、この腐りきった幕府に仕え侍である事にそんなに意味があるんですか?それでも俺たちは・・・・この江戸を護らなきゃいけないですか?・・・・俺ァ・・・・そんなの御免だ・・・・将軍も護れず、てめぇらの大将も護れねぇならそいつはもう侍じゃねぇ!ただの腰抜けだ・・・・」


少しの沈黙が流れる。
土方が煙草の煙を吐くと静かに言った。


「好きにしろ。それがお前達の思う真選組なら、俺は止めやしねぇ・・・・」


銀時の隣に立つと言葉を続けた。
私はその反対側の隣で膝を抱え俯き、耳を傾ける。


「ただ・・・・近藤さんを死なせたくねぇ。その気持ちはお前達と一緒だ・・・・お前達を死なせたくねぇ。その気持ちは近藤さんと同じだ・・・・俺にはもう、お前達を縛る権限はねぇ。鬼の副長も局中法度もない。それでも尚、お前達の心を縛り付けるモノがあるなら、そいつがきっと・・・・真選組にとって一番大切なモンなんだろう・・・・そいつを信じて戦え。たとえ、それがどんな道であろうとも・・・・」



「・・・・・お前達は真選組だ」



そう言い残すとその場を後にした。
俯いていた顔を上げ立ち上がると一歩前に出る。


『ごめん・・・・・先に帰ってる・・・・』


振り向かずに去ると銀時は何も言わず私を見据えたままだった。





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泣き疲れた神楽をやっと寝かせると、ソファーに横になり桔梗の簪を天井にかざし眺める。
結局この日、銀時は帰って来なかった。


『・・・・・何してんだか・・・・・』


ポツリと呟くと簪がキラキラと光っていた。