朝右衛門が船が繋がれた橋に向かう。
そこには夜右衛門の姿があった。


「朝右衛門、残念です。よもやお前も、先代と同じ過ちを犯そうとは・・・・共に池田家を光と闇から護ろうと誓いあったのに・・・・本当に裏切り者になっちゃいましたか?」

「裏切ったのはあなたの方です。公儀処刑人、池田夜右衛門・・・・その名をこれ以上、汚す事は私が許さない!」

「お前も先代と同じ道を辿るのですか?罪人の命を救うため、己の役目を捨てて・・・・」

「私たちの役目・・・・護るべき法とは人が人である事を護るためのモノです。あの人は罪なき者を救い、その法を護り通した立派な公儀処刑人です!・・・・裁かれるべきは・・・・それを御家を護るべきと称し謀殺した私たち!」


朝右衛門が帯刀をゆっくり抜き夜右衛門に突き出す。


「夜右衛門・・・・私とともにここで死んでもらいます!」

「相討ち覚悟ですか?己の身命を落とした一刀ならば、この18代目夜右衛門の首に剣が届くと?」


すると朝右衛門が走り出すと夜右衛門がポツリと呟く。


「遅い・・・・私の剣はもうとっくに届いてますよ?・・・・・お前の首に・・・・」


刹那、夜右衛門が刀を一瞬振り上げ鞘に戻した瞬間、橋が崩れ落ち朝右衛門が手をかけぶら下がる状態になっていた。
夜右衛門が刀を振り下ろそうとした時、銀時が木刀を振り下ろし刀と交わる音が響く。


『銀時!!』

「「銀さん!/銀ちゃん!」 」

「朝右衛門!!」


刀を弾くと叫び朝右衛門に手を差し伸べる。
その瞬間、銃声が響き銀時から手から木刀がスルリと落ちていった。


「朝右衛門、その二人も先代も護る価値なんてありませんよ?罪なき者・・・・先代が逃したその罪人の罪状・・・・教えてあげましょうか?」

『銀時!!しっかりして!』

「この二人は・・・・お前の本当の父親を殺した罪人です」 


駆け寄り銀時を抱き上げる。
目線を夜右衛門に戻した。


「私がこの二人の首をはねるのが早いか・・・・お前が私の首をはねるのが早いか・・・・試してみますか?それともお前がこの二人の首をはねますか?お前の本当の親の敵がここにいるのですから・・・・」


「10年前、攘夷志士だったお前の親は攘夷戦争で戦死し、孤児となったお前は先代に拾われた。そう聞かされていたはず。だが、事実は違う・・・・お前の父親はこの二人と同じく、戦を生き残りました。しかし戦後、一橋による残党狩りが始まるや、己の保身のためかつての仲間を裏切り、その家族の潜伏先まで密告・・・・一橋の粛清に手を貸したのです。しかし、用済みになった彼もまた・・・・消される運命にありました」



━━━━━━・・・・


〈頼む!命だけは助けてくれ・・・・そうだ!忠誠の証に俺の娘をくれてやるよ!〉


刹那、私と銀時は木刀で殴り倒した。
黒い着流しに赤いマフラー、一方青の着流しに一つに髪をまとめていた。


〈なんだチミはってか?そうです。私がこの盆暗の娘です。一橋なんざと喧嘩した覚えはねぇが、この白夜叉とこのクズの首くれてやらァ〉

〈紅蓮の華・・・・私の首もね〉

〈だから・・・・これ以上、他の連中に手ぇ出すんじゃねぇ〉


━━━━━━・・・・



「先代がお前を引き取ったのは、その罪悪感からだった。いずれにせよ、先代とこの二人はお前に討たれ叱るべき敵なのです。必要な首は二つだけ・・・・関係のない首まで地に転がしたくはないでしょ?朝右衛門、この二人の首を斬りなさい」


座り込む銀時の傍で私は朝右衛門を見据える。


「一つだけ聞かせてください・・・・あの人はいつか私に斬られるつもりだったんですか?」

「さぁな・・・・だが、お前に斬られるなら本望だったんじゃねぇのか?俺と一緒で・・・・・」

『銀時・・・・・・』



━━━━━━・・・・


〈ねぇねぇ。どうしてこんな所に入れられてるの?何か悪い事でもしたの?〉

〈あぁ・・・・おめぇがしょんべんちびるほど悪い事をいっぱいやった・・・・だから首斬られなきゃいけねぇんだ〉

〈本当に?〉

〈あぁ・・・・やかましいからどっか行け!クソガキ〉 

〈でも、首斬りのおじさんんが言ってたよ?あの一緒にいたお姉ちゃんもお兄ちゃんも本当は悪い奴じゃないんだって・・・・可哀想な女の子を護ってあげただけなんだって・・・・なのに・・・・可哀想だね・・・・私、あのお姉ちゃんとも約束してきたの!お兄ちゃん!私いつか立派な処刑人になったら、お兄ちゃんの首を斬ってあげる!〉

〈・・・・アイツとか?〉

〈うんっ!上手に斬るから全然痛くないよ?楽ーに天国に送ってあげるよ?だから約束!お兄ちゃん、私が立派な処刑人になるまで絶対死んじゃダメだよ!〉

〈・・・・そうかい・・・・楽ーにかい・・・・・そいつはいいやァ・・・・・約束だぜ〉


━━━━━━・・・・



「楽に・・・・頼まァ・・・・・」

『約束したから・・・・・』

「今度はしくじりません・・・・もう二度と!!」


刹那、朝右衛門が刀に手を添えると夜右衛門が首筋を刀で斬り、横に切れ目が入った。
銀時と私の首にも切れ目が入ると夜右衛門が呟いた。


「銀さん!星華さん!」

「朝右衛門、悪く思わないでください。神速の太刀、魂あらい、これを避けるには剣先を他に向けさせ技を打ったあとの虚を衝くしかない・・・・罪人の子に罪を裁く権利があるとでも?」

「あなたの言うとおり、魂あらいを制するには虚を衝くしかない・・・・・言ったはずです。私はもう二度と私を救ってくれた人たちの首を・・・・・地に落したりしない!!」


私と銀時の傷は、銀時が朝右衛門の刀を抜いた時に付いた傷だった。
銀時がニィッと笑うと刀を横に振り上げる。


「届きゃしねぇ・・・・もうどこにも!」


交わる音が響くと夜右衛門の刀が折れ、銀時はそのまま斬りつけた。


「そうか・・・・私の剣はもうあの時に・・・・・とっくに折れてしまっていたのだな」


そのまま倒れると後ろにいた銃兵が構え始める。
私は銀時を立ち上がらせようとした瞬間、後方から桶が飛んできて銃兵をなぎ倒した。


『沖田くん!!』

「こっちの用は済んだ。あとは死体運びでも何でも好きにやりなァ」


一つの桶が神楽に当たりタンコブが出来ていた。
今まで気絶していた土方が桶の中から手足だけ出すと海に飛び出していく。
すると船内から侍が次々が出て来るのと同時に、夜右衛門が素手で倒した。


「夜右衛門!!」

「早く・・・・・行きなさいっ・・・・私を表舞台から引きずり出した以上・・・・誰が池田家を護るのですか?私は父を裁いてでも、父が築いた公儀処刑人の家を護ろうとした。お前は俺を裁いてでも、父の公儀処刑人の魂を護ろうとした・・・・行きなさい!」

『朝右衛門さん!』


一緒に銀時の肩を持つとその場をあとにした。





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「囚人番号み32654番、出ろ。てめぇらもだ。待たせたなァ」


沖田が牢屋の扉を開けると、銀時はダルそうな表情を浮かべ私はため息をついた。
神楽と新八に至っては不機嫌な表情を浮かべる。


「処刑の時間だ」


車中では私の横で銀時が俯き、私は網目の窓から外を眺めていた。


「沖田さん・・・・どういう事ですか?コレ・・・・」


新八が顔を引きつらせながら手錠の付いた手を見せる。


「まさか、あんな事しでかしておいて無事で済むとでも?お前らも・・・・朝右衛門も・・・・」

『それどういう事!?』


私と新八、神楽は沖田を見据える。
銀時はそのまま俯いたままだった。


「今回の事件はどれも立件が難しくてねェ・・・・まず、辻斬りの件は被害者が元々斬首されるはずだった罪人たちであった事がややこしい。これを裁けんのかって話でさァ。なにより肝心の下手人、池田夜右衛門があれから行方不明でねェ・・・・それも含めて今回の件、一橋が裏で糸引いてたのは明白だが罪を問うにも、奴らは表向きなんら手を汚してねぇ。下手に突きゃァ、逆に俺達の責任を問われかけねェ・・・・・」


車が止まると沖田が続けて言った。


「って事で全部アンタらに被ってもらって、死んでもらうしかねェでしょう」

『なんでそうなるの!?それでもアンタ警察!?』

「お前らの死は無駄にはしねぇよ。一橋と揉めた一件もこれで解決・・・・俺も減給を免れるってわっ・・・・・」

「十分無駄になってんだろうがァァ!!ケツを拭くトイレットペーパーじゃねぇんだヨ!!」


神楽が沖田の肩に乗りながら叫ぶ。
私は神楽を宥めると沖田の言葉にピタリと動きを止めた。


「それにアンタらと朝右衛門の首が揃えば、さすがに御上もお取り潰しにはしねぇでしょう」

「おい!そいつはどういうこった?」


銀時の問いかけに私も沖田を見据える。


「あれ?知りやせんでした?朝右衛門は今回の騒動の責任を取って・・・・自裁したらしいですよ」

『朝右衛門さんが・・・・・自裁・・・・・・嘘でしょ・・・・・・』


私たちは目を見開くと、銀時が沖田の胸ぐらを掴む。


「なんでっ・・・・なんで止めなかったァァァ!?」

「止める?寝ぼけた事言わねぇでくだせェ。アイツは二人に会った時から二人の首を斬りたがってたんでしょ?二人が犯した罪ごと・・・・そいつを旦那がぶった斬った。処刑人真っ青のその剣で・・・・・アイツをやったのはアンタだよ・・・・旦那・・・・」

『ちょっと!!沖田くっ・・・・・』


ちょうど車の扉が開き、土方が煙草を咥えると呟いた。


「あとは、てめぇら二人の首さえ取れば万事片付く。かつて公儀処刑人、池田夜右衛門は大罪人を逃した。ならばその責を追い、大罪人の首を斬るのもまた・・・・・公儀処刑人、池田夜右衛門の役目だ」


土方がスッとよけると朝右衛門の姿があった。
私たちは車から降りると目を見開く。


『なんで・・・・・』

「朝右衛門さん・・・・」

「・・・・は、もういません。死神はもう・・・・いない・・・・あなた達が介錯してくれたじゃないですか。しかと届きました。その剣・・・・首を地に落さずして、魂を洗う・・・・あなた達は私に大切なモノを思い出させてくれた。私を人に返してくれた・・・・私の大切な処刑人です。もう迷いはしない・・・・」



「私は公儀処刑人、19代目池田夜右衛門です」



沖田と土方が通り過ぎると足を止めずに呟く。


「つーことで、池田朝右衛門は切腹って事で処理しとくぜ」

「あとは頼まァ。19代目~。夜右衛門の剣に検分はいらねぇだろ。もしこの先、首の繋がったバカどもを見ても・・・・」

「首の皮一枚で繋がった、ただの死体だと思っていいんだな?」

「えぇ、夜右衛門の剣に間違いはありません」


朝右衛門がドクロのお面を空に投げ出すと同時に、刀を抜き斬り込んだ。
私たちは思わず目を閉じると手錠が粉々に砕け、お面が二つに割れる。



「ここにはもう・・・・裁かれる罪人など・・・・一人もいません」



それを聞いた私はフッと笑うと銀時を見た。
神楽と新八は夜右衛門に飛びつくと銀時がお面を拾い上げ呟く。


「おっさん・・・・これで俺たちちったァ、マシな人間になれたかね」


そう言うとお面を二人で川に投げ込むと、銀時の胸に血が滲んでいた。


『フフッ・・・・また取られてるぅ~』

「乳首また斬られてんだろうがァァァ!!笑ってんじゃねぇよ!」


銀時が私にデコピンをすると二人で顔を見合わせ微笑んだ。