2008年12月16日

戦前戦後の精神

前から昭和10年代、戦後の20年代の本を読んでいると記した。

手元に『科学と芸術』(畝傍書房、s17年8月5日発行)がある。美術家、音楽家、医学者、文学博士の4名が記している。念のためにお名前を記せば、正木篤三氏が「日本美術の特性と現代美術」、田辺尚雄氏が「日本音楽と西洋音楽」、杉靖三郎氏が「道としての科学」、紀平正美氏が「科学とは何ぞや」。編集は、国民精神文化研究所編となっている。

外交関係の新聞記者、政治思想家などの錚々たる文章もあるが、意外な本音はちょっとした本の中に表れるようだ。

ここでは音楽家の田辺尚雄氏の文章を見る。この田辺氏を批判するつもりは毛頭ないことをまず指摘しておきたい。戦争中にしゃべらなければならない、書かねばならないことぐらい小生でもわかる。

急遽企画した本かもしれないが、会話調でもあるので、何かの講演会のものを書き下ろしたのかも知れない。しかし、その講演名は記していない。本文は旧漢字旧かなづかいであるが、現代漢字現代かなづかいとする。

「前略ーまず、今日の日本は何をしているか、申すまでもなく、聖戦を行っている、何が神聖なる戦であるかーすなわち日本は支那と争っているのではない、もちろん侵略しているのでもない。東洋が西洋の奴隷になりつつあるのを救って、アジヤ人のアジヤにせむための努力をしているので、これが神聖な戦でありますー(なぜ東洋の中国や印度が西洋にやられているのかを述べて)ー幸いにして日本は明治維新以来の先覚者が世界の文明に眼を開いて、先進国と名付け得る欧米の文化を十分に摂取し、十分にこれを教育に用いて来た結果、日本のみは奴隷になるのを免れたのみならず、実に世界の強国として、今日の大をなしてきたのである。」

実に戦前の思想をうまくまとめている。現代の大東亜論者が述べるのもこれと大きな相違はない。

続いて戦後の代表的思想を見てみよう。本は、『日本民族の復興と経済の自立』。こちらは出所ははっきりしている。昭和24年12月に通貨安定対策本部で日銀総裁の一万田尚登氏と京都大学名誉教授の高田保馬氏が対談し、深く参加者に感銘を与えたので、その翌日、日銀が発行している雑誌に掲載すべく対談を行った。しかし中味がすばらしいので雑誌に掲載するより単行本で出した方が世のために役立つであろうという考えから出版したと記している。表紙絵は武者小路実篤である。発刊は昭和25年5月。6/22には6刷を出している。出版社は改造社。

一万田日銀総裁は次のように述べている。

 まずこの敗戦の原因を考えるにあたり、指導精神は何であったかを考えると、明治以来の精神が悪かったというのではないがと述べて、「大体において強い国になるということが一つの大きな目標だった。従って軍備の増強がなされて来た。どうしても人口問題、原料関係から海外に対する進出ということが旗じるしとなり、そうしてその行き方が急であるあまり、あるいはまた、その時における政治上の指導者の考え方によって通商の形で自然に海外に勢力を伸ばすというよりは、どちらかというと政治的な力でもって海外への進出をはかった。さらに経済的な面と政治的な面が結び合って、一体となって海外に勢力を伸長する姿が、終戦までの日本であったと考えている」

実に素直である。確かにそうだと思う。なぜ、こういう方針を修正できなかったのか、実直に考えていきたいが、本文では今後の日本をどうすべき、どう動いたら良いのかであるから、そちらに論旨は進んでいく。そして世界平和への貢献、日本が世界から愛せられること、これを大いに推進していくべきであると述べている。

しかし、この二者の考えは庶民の考えでもあったろう。この国民の本音はどう動いていくのか、ちょっと間をおくかも知れないが、次の展開は、小泉信三著『平和論』と石垣綾子著『病めるアメリカ』をみてみることにする。

 

 



ma2221 at 16:26│Comments(0)TrackBack(0)

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