評判の高さは聞き及んでおりましたが、なるほど文句なしの傑作でありました。

40年勤め上げたフォード社をリタイアしたのち、妻に先立たれてひとり暮らしをすることになった元組立工が主人公。頑固で気難しい彼は、常に周囲に対してあれこれ悪態をついていますが、実は朝鮮戦争からの帰還兵。暗く忌まわしい戦争体験の記憶を抱えていたのです。ある日、隣家のアジア系(モン族)移民の少年が、不良グループに強要されて主人公の愛車「グラン・トリノ」を盗みに入ります。企ては失敗に終わりましたが、隣人一家がこの罪を償いたいと申し出たことをきっかけに、主人公は今まで毛嫌いしていたこの一家と次第に心を通わせていきます

物語はアメリカ的なユーモアを交えつつ、終始淡々と抑え目のトーンで進んでいきますが、なんといってもラストです。そうか!そういう決着か!と思わず唸ってしまいます。この主人公は、古き良きアメリカを愛する保守系全開のアメリカンですが、苦境に陥った隣人一家を救うために彼がとった行動は、アメリカというより、むしろ「サムライ」を感じさせるものでした。許されざる罪を背負い、懺悔すら拒んでいた主人公の決着のつけ方。悲しくも崇高なその行動は、愛する人たちを救うとともに、彼自身の忌まわしき記憶にも決着をつけたのでした。「あなたは『生』より『死』に詳しい」と若き神父が主人公に漏らした問答がじわりと効いています。なので、われわれ日本人にこそ、その真髄がよくわかるような気がします。日本人だからこそ共感できる、日本人向けの映画といえましょう。

衝撃の結末のあと、後日談からのエンディングへの流れがまた素晴らしい。悲しみの中にもささやかな、しかし力強い希望が垣間見えます。流れてくるエンディング映像と音楽がその希望を美しく包み込み、優しい余韻がいつまでも心地よく続くのでした。極上、一級品の作品でした。

(2009/05/17@ユナイテッド・シネマ金沢)

★★★★★