2008年06月01日
遂に完結 岡田斗司夫の「遺言」第六章
岡田斗司夫が自身のお仕事人生について夜半まで語りまくる「遺言」イベントもとうとう第六章。そして、ついに完結となった。いや、岡田も言ってたが、本当にこのイベントが終わる前に本人が死ななくて本当に良かった。
前回の「あとは落ち葉広いのようなもの」との言葉通り、今回は没企画についての紹介がメインだったのだが、当然ながら知らないことばかりで面白かった。岡田の日記や同人誌で目にして以来、非常に気になっていた幻の「トップをねらえ！2」岡田版エンディングについてもきちんと聞くことができ、大満足の一夜だった。
例によって、今回も自分用のメモとしてまとめ記事をアップする。いつもながら、括弧内は私の勝手な感想なのだが、それ以外についても私の主観が入っているのでそのつもりで。
前回の「あとは落ち葉広いのようなもの」との言葉通り、今回は没企画についての紹介がメインだったのだが、当然ながら知らないことばかりで面白かった。岡田の日記や同人誌で目にして以来、非常に気になっていた幻の「トップをねらえ！2」岡田版エンディングについてもきちんと聞くことができ、大満足の一夜だった。
例によって、今回も自分用のメモとしてまとめ記事をアップする。いつもながら、括弧内は私の勝手な感想なのだが、それ以外についても私の主観が入っているのでそのつもりで。
<今後のイベントについて>
○ とうとう「遺言」イベントも第六回になってしまった。今日で終わらせるぞ！予備日として来月もロフトプラスワンの予定を入れているが、今回で「遺言」イベントを終わらせて、勝手なことをくっ喋る「岡田斗司夫の『寝言』」というイベントをやりたい。
○ だいたい僕は話が長い。それがAである理由は、Bというものがあるからで、なぜならCという事実があるのだが、それはDに関係して……というような、もってまわった話し方しかできないのが原因。
<「オタクはすでに死んでいる」の反響について>
オタクはすでに死んでいる (新潮新書 258)
岡田斗司夫
○ そんなことを言いながらも、最初は世間話から。この前書いた「オタクはすでに死んでいる」という新書に対して朝日新聞から取材を受けたのだが、その記事を契機とした反響がネットを中心としてかなりあった。思ったことについて話したい。
○ 要点について再確認すると、「オタクはすでに死んでいる」は、オタク同士の相互理解や、「オタクならこれも観ておかないと」といったようなジャンルを網羅しようとする意気込みが民族としてのオタクから失われてしまったことについて「死んでいる」と表現した本である。
○ これに対する批判や反論がネットで盛り上がっている。だが、著者である僕がネット上でそれに参加する気は無い。
○ そもそも「オタクはすでに死んでいる」は、ここロフトプラスワンでやった「オタク is Dead」というイベントや、それをまとめた同人誌「オタク・イズ・デッド」を原型としている。イベントに参加した人、同人誌や新書版を読んだ人、ただ要旨をネットで知ってだけの人、様々な人がいるが、彼らに対して同じ言葉で良いのか？という気持ちがある。
○ また、現在のオタク言論はネット限定ではないのか？という疑問もある。ブログなどで盛り上がっている人達は、30代半ばか20代後半なのだろうが、勝手に盛り上がっていて欲しいという気持ちがある。喩えるなら、文化祭を温かい目で見守るOBみたいな気持ちだ。卒業したのに在校生に口出しするOBは粋じゃない。
○ そういうエクスキューズをした上で、この「遺言」イベントだからという理由で、飲み屋で在校生に意見を言うOBみたいな立場が取れるという理由で、敢えて口にするのだが、皆、反論の仕方がなっていない。
○ 「オタクはすでに死んでいる」は論理の構造として二段構えになっている。(1)、先に述べたような理由でオタクは死んだ。(2)、対処法として、オタクは「解散（個々に趣味人として生きていくこと）」します。だから、僕もオタクの代表を引退します、というものだった。
○ (2)に対する反論は前提条件である(1)を認めることになる。しかも、それはセンチメンタルすぎるものになるだろう。
○ (1)に対する反論は「いや、まだ生きている」か「ずっと前に死んだ」しかありえない。前者の観点で批判するのなら、「俺が岡田の代わりにオタクの代表になる！」という結論に達しなければおかしい。もし、まだオタク民族が滅びていないのならば、空位となった王座を誰が埋めるのか？誰がオピニオンリーダーをやるのか？という問題が発生する。しかし、そうなっていないのがとんでもなく格好悪い。「死んでいる」に反応して、反論する自由に責任をとるのなら、オタキング二代目を襲名するべき。それがやれないのだったら、一人前のこと言うな。男気の無い奴には誰もついてこない。
○ 本田透や東浩紀のような、必要十分条件を満たした人達が「オタクはすでに死んでいる」について反応しないのは、このことが分かっているからだ。新しいオタク民族の利益代表者というリスキーな位置に立ちたくないからだろう。
○ 「岡田の態度が気に喰わない」という批判は、まぁアリ（笑）。
<「おたくのビデオ」>
おたくのビデオ DVD Special Edition
岡田斗司夫
○ 宮��勤による連続幼女誘拐殺人事件、通称M君事件は衝撃的だった。オタクにとって青春期の迷いのはじまりといえるだろう。その後、オウムによる地下鉄サリン事件がくるわけだが、M君事件とオウムはオタク青春期にとっての二大クライシスだった。
○ それまでは、オタクに悪い人はいないと思っていた。ロリコンという高度に知的なゲームを楽しんでいるだけだと思っていた。
○ これは今現在「萌え」を楽しんでいる人達と同じような心持ちだと想像する。
○ だが、その時丁度子供ができて、午前中におむつを替えた後に午後会社でロリコンゲームを作るというような生活を送っていたのだが、そういうことをしていたら考え方が変わってきた。「宮��勤はオタクの代表として捕まった」という印象があった。
○ まず、ニュースで報道された宮崎勤の部屋は我々オタクの部屋と全く同じだった（鳥を知るならまず巣をみよ、ということですな）。宮崎勤が悪魔十段としたら、ガイナックスの社員は八〜九段くらいはいっていると思った。僕も六段くらいは確実だろう。
○ それまで、「おたく」という言葉はオタク（或いはおたく）内で使われる言葉だった。しかしM君事件以降、世間でも「おたく」という言葉が流通するようになった。
「おたく」の誕生!! (宝島社文庫)
別冊宝島編集部
○ その頃から、オタク業界内オタク・バッシングとでも言うべきものが始まった。宮崎勤と俺達は、世間からは同じ「おたく」で括られているが違うのだ！というムーブメントだ。ガイナックスという濃いオタクの巣窟でもそうだった。
○ 特に、サイバーコミックス編集長で、現在2ちゃんねるの削除人代表を務めている神田くんがオタク・バッシングをやりたがった。
○ それらオタク・バッシングに対して、それは思想の自由を禁じた前近代的な考え方で、近代では行動のみを制限し、思想や信条の自由があると反論した（つまり前述の「高度に知的なゲーム」をやる自由くらいあるだろう、という意味）。
○ 1991年に発表した「おたくのビデオ」の冒頭では、こうした状況を入れ込んだ。「マイティジャックのTシャツありますか？」という電話に冷たく応対した後「まったくおたくは嫌だねえ」と店員が一人ごちる冒頭なのだが、オタクがオタクを嫌っている場面を描きたかった。
○ ちなみに、このマイティジャックのTシャツを電話で執拗に問い合わせてくるお客さんというのはゼネプロ時代に経験した実話で、これを完璧に再現するよう声優さんに指示を出した。
○ 「トップをねらえ」と同じく山賀くんが脚本を書いたのだが、同じく「こんなアニメの脚本を書いたなんてことが世に知れたら名折れですから、岡田さんが書いたことにして下さい！」と頼まれて僕名義になった。
○ テニスサークルなんかに入って大学生活を謳歌していた主人公がオタク・グループと知り合い、アニメ上映会や同人誌即売会に参加するようなオタクになっていくと彼女が去っていく……という展開なのだが、これを悲しいことと捉えるところに山賀くんの限界がある。
○ それは悲しいことじゃない。オタク趣味を理解してくれない女など最初からいらん！と指摘したら、「だからこの業界には良い女がいないんですよ！」と反論された。ちょっとわかる。オタクにとって、女オタクは理想の彼女というわけではない。
○ 狩撫麻礼の「ボーダー」という漫画があって、主人公達のいる「こちら側=ヒッピー側」と「あちら側=ヤッピー側」の相克がテーマなのだが、主人公達はこちら側の素晴らしさについて語りつつも、「でも、良い女は皆あちら側にいるんだよな」という台詞が口をつく場面がある。オタクにとっても同様の構造的問題があり、良い女は皆「あちら側=一般人側」にいる。「こちら側=オタク側」にいる女は男オタクにとって必ずしも良い女ではない（確か、マンガ夜話でも誰かが同じような話をしていた気がする）。
○ 「おたくのビデオ」の続編「続・おたくのビデオ」ではアニメーターの女性が出てくるのだが、彼女が理想の女性というわけでもない。最後、女性関係でスパイラルのような展開になるのは、オタクにとっての女問題が解決されないからでもある。
○ 「おたくのビデオ」という商品には一般性がない。オタクにしか売れない作品だ。にも関わらず、これが作れたということは、少なくともガイナックスにとってどのような企画でも通るということを意味していた。スポンサーであるバンダイビジュアル側には、ガイナックスは割合良い作品を作るしブランドとしても育ってきたので、たとえ当初は赤字でもビデオ、LD、DVD……とメディアを変えて販売していくうちに採算は必ずとれるものと認識されていた。
○ だが、何でも作れる状態にあるけれど、本当に作りたいものは何？という悩みをこじらせている状態でもあった。以前話題にした「トレスコ」の企画を山賀くんが自ら取り下げたりしたのもこの頃。
<「湾岸戦隊トレンディ」>
○ この頃、山賀くんは絶不調で、「岡田さん、時代はトレンディですよ！一緒にヴェルファーレに行って踊りましょう！」」とトンデモないことを口に出していた。
○ そんな山賀くんが出した企画が「湾岸戦隊トレンディ」。「強襲揚陸艦ティラミス」とか「戦艦ナタデココ」とか、隊員の名前も「ブルーフルギ」とか「イエローアウトレット」とかいったものだったが、きちんと覚えていない。
○ とにかくトレンディな単語をガンガン使用した戦隊モノのパロディを作ろうという企画であった。「そうしないと、僕達はホイチョイプロになれません！」なんて言い出す山賀くん。ホイチョイプロになりたかったのか？！
○ 山賀くんがこういうことを言い出すのにも理由があった。「ガイナックスという会社で、メカに美少女にSFを描いて、岡田さんや庵野は幸せなんでしょ！」と問われる。うん、幸せだ。「でも、赤井くんは半分くらいしか幸せそうじゃないし、僕は不幸ですよ！」……後年「まほろまてぃっく」を監督する奴が本気でそんなこと言うか？（笑）
○ 山賀くんはオタク向けでは終わりたくないと思っていた。一般人を相手に勝負できる作品を志向していた。また、庵野くんや樋口真嗣はオタクであるが故にオタクなスタッフとすぐ打ち解けて意思疎通が図れるのだが、山賀くんはそうではなかった。スタッフとの打ち合わせも楽しくなさそう。「湾岸戦隊トレンディ」はそんな山賀くんが次の一歩を踏み出す為に必要な企画だった。
○ 当然のようにこの企画はツブれたのだが、貞本くんが嫌がらせ的に書いたイメージボードがどこかに残っているはず。制服が「コンバトラーＶ」の制服のパロディになっていて、胸の「V」マークが「T」に変わっただけという爆笑モノであった。
＜眠田直の新企画＞
○ この頃（1991〜2年）の没企画の一つに、眠田直大先生が出したものがあった。21世紀が明るくないであろうことは判っているので、敢えて「明るい未来」というものを作ろう！というゲームの企画であった。
○ 眠田直大先生の凄い所は「企画を考えて」と頼むと猛スピードでまとめてくること。しかも、スタッフやゲームのシステムまでワンパッケージでまとめた企画書を即座に出してくる。凄くない所はその企画が微妙に貧乏臭い点。いや、うちの会社もっと予算あるから！
○ 舞台はオイルショックが来なかった21世紀。オイルショックが来なかったので大繁栄している。主人公はタイムパトロールで、過去に戻ってオイルショックを起こそうとする悪の勢力と戦う。明るい21世紀VS僕らの21世紀という構図であった。
○ 今考えると「明るい未来をもう一度！」という意味では、ホイチョイプロの「バブルへGO」や筒井康隆の「美藝公」にそっくりな企画であった。前者はタイムマシンでバブル崩壊を防ごうとする映画。後者は戦後日本が経済立国ではなく映画産業立国として復興していくさま描いた小説。
バブルへGO!! タイムマシンはドラム式 スタンダード・エディション
美芸公
筒井 康隆 横尾 忠則
○ ストーリーが大きすぎて、分岐や自由度を重視するゲーム性の高いゲームに向かないという理由から没になった。
次回に続きます
○ とうとう「遺言」イベントも第六回になってしまった。今日で終わらせるぞ！予備日として来月もロフトプラスワンの予定を入れているが、今回で「遺言」イベントを終わらせて、勝手なことをくっ喋る「岡田斗司夫の『寝言』」というイベントをやりたい。
○ だいたい僕は話が長い。それがAである理由は、Bというものがあるからで、なぜならCという事実があるのだが、それはDに関係して……というような、もってまわった話し方しかできないのが原因。
<「オタクはすでに死んでいる」の反響について>
オタクはすでに死んでいる (新潮新書 258)
岡田斗司夫
○ そんなことを言いながらも、最初は世間話から。この前書いた「オタクはすでに死んでいる」という新書に対して朝日新聞から取材を受けたのだが、その記事を契機とした反響がネットを中心としてかなりあった。思ったことについて話したい。
○ 要点について再確認すると、「オタクはすでに死んでいる」は、オタク同士の相互理解や、「オタクならこれも観ておかないと」といったようなジャンルを網羅しようとする意気込みが民族としてのオタクから失われてしまったことについて「死んでいる」と表現した本である。
○ これに対する批判や反論がネットで盛り上がっている。だが、著者である僕がネット上でそれに参加する気は無い。
○ そもそも「オタクはすでに死んでいる」は、ここロフトプラスワンでやった「オタク is Dead」というイベントや、それをまとめた同人誌「オタク・イズ・デッド」を原型としている。イベントに参加した人、同人誌や新書版を読んだ人、ただ要旨をネットで知ってだけの人、様々な人がいるが、彼らに対して同じ言葉で良いのか？という気持ちがある。
○ また、現在のオタク言論はネット限定ではないのか？という疑問もある。ブログなどで盛り上がっている人達は、30代半ばか20代後半なのだろうが、勝手に盛り上がっていて欲しいという気持ちがある。喩えるなら、文化祭を温かい目で見守るOBみたいな気持ちだ。卒業したのに在校生に口出しするOBは粋じゃない。
○ そういうエクスキューズをした上で、この「遺言」イベントだからという理由で、飲み屋で在校生に意見を言うOBみたいな立場が取れるという理由で、敢えて口にするのだが、皆、反論の仕方がなっていない。
○ 「オタクはすでに死んでいる」は論理の構造として二段構えになっている。(1)、先に述べたような理由でオタクは死んだ。(2)、対処法として、オタクは「解散（個々に趣味人として生きていくこと）」します。だから、僕もオタクの代表を引退します、というものだった。
○ (2)に対する反論は前提条件である(1)を認めることになる。しかも、それはセンチメンタルすぎるものになるだろう。
○ (1)に対する反論は「いや、まだ生きている」か「ずっと前に死んだ」しかありえない。前者の観点で批判するのなら、「俺が岡田の代わりにオタクの代表になる！」という結論に達しなければおかしい。もし、まだオタク民族が滅びていないのならば、空位となった王座を誰が埋めるのか？誰がオピニオンリーダーをやるのか？という問題が発生する。しかし、そうなっていないのがとんでもなく格好悪い。「死んでいる」に反応して、反論する自由に責任をとるのなら、オタキング二代目を襲名するべき。それがやれないのだったら、一人前のこと言うな。男気の無い奴には誰もついてこない。
○ 本田透や東浩紀のような、必要十分条件を満たした人達が「オタクはすでに死んでいる」について反応しないのは、このことが分かっているからだ。新しいオタク民族の利益代表者というリスキーな位置に立ちたくないからだろう。
○ 「岡田の態度が気に喰わない」という批判は、まぁアリ（笑）。
<「おたくのビデオ」>
おたくのビデオ DVD Special Edition
岡田斗司夫
○ 宮��勤による連続幼女誘拐殺人事件、通称M君事件は衝撃的だった。オタクにとって青春期の迷いのはじまりといえるだろう。その後、オウムによる地下鉄サリン事件がくるわけだが、M君事件とオウムはオタク青春期にとっての二大クライシスだった。
○ それまでは、オタクに悪い人はいないと思っていた。ロリコンという高度に知的なゲームを楽しんでいるだけだと思っていた。
○ これは今現在「萌え」を楽しんでいる人達と同じような心持ちだと想像する。
○ だが、その時丁度子供ができて、午前中におむつを替えた後に午後会社でロリコンゲームを作るというような生活を送っていたのだが、そういうことをしていたら考え方が変わってきた。「宮��勤はオタクの代表として捕まった」という印象があった。
○ まず、ニュースで報道された宮崎勤の部屋は我々オタクの部屋と全く同じだった（鳥を知るならまず巣をみよ、ということですな）。宮崎勤が悪魔十段としたら、ガイナックスの社員は八〜九段くらいはいっていると思った。僕も六段くらいは確実だろう。
○ それまで、「おたく」という言葉はオタク（或いはおたく）内で使われる言葉だった。しかしM君事件以降、世間でも「おたく」という言葉が流通するようになった。
「おたく」の誕生!! (宝島社文庫)
別冊宝島編集部
○ その頃から、オタク業界内オタク・バッシングとでも言うべきものが始まった。宮崎勤と俺達は、世間からは同じ「おたく」で括られているが違うのだ！というムーブメントだ。ガイナックスという濃いオタクの巣窟でもそうだった。
○ 特に、サイバーコミックス編集長で、現在2ちゃんねるの削除人代表を務めている神田くんがオタク・バッシングをやりたがった。
○ それらオタク・バッシングに対して、それは思想の自由を禁じた前近代的な考え方で、近代では行動のみを制限し、思想や信条の自由があると反論した（つまり前述の「高度に知的なゲーム」をやる自由くらいあるだろう、という意味）。
○ 1991年に発表した「おたくのビデオ」の冒頭では、こうした状況を入れ込んだ。「マイティジャックのTシャツありますか？」という電話に冷たく応対した後「まったくおたくは嫌だねえ」と店員が一人ごちる冒頭なのだが、オタクがオタクを嫌っている場面を描きたかった。
○ ちなみに、このマイティジャックのTシャツを電話で執拗に問い合わせてくるお客さんというのはゼネプロ時代に経験した実話で、これを完璧に再現するよう声優さんに指示を出した。
○ 「トップをねらえ」と同じく山賀くんが脚本を書いたのだが、同じく「こんなアニメの脚本を書いたなんてことが世に知れたら名折れですから、岡田さんが書いたことにして下さい！」と頼まれて僕名義になった。
○ テニスサークルなんかに入って大学生活を謳歌していた主人公がオタク・グループと知り合い、アニメ上映会や同人誌即売会に参加するようなオタクになっていくと彼女が去っていく……という展開なのだが、これを悲しいことと捉えるところに山賀くんの限界がある。
○ それは悲しいことじゃない。オタク趣味を理解してくれない女など最初からいらん！と指摘したら、「だからこの業界には良い女がいないんですよ！」と反論された。ちょっとわかる。オタクにとって、女オタクは理想の彼女というわけではない。
○ 狩撫麻礼の「ボーダー」という漫画があって、主人公達のいる「こちら側=ヒッピー側」と「あちら側=ヤッピー側」の相克がテーマなのだが、主人公達はこちら側の素晴らしさについて語りつつも、「でも、良い女は皆あちら側にいるんだよな」という台詞が口をつく場面がある。オタクにとっても同様の構造的問題があり、良い女は皆「あちら側=一般人側」にいる。「こちら側=オタク側」にいる女は男オタクにとって必ずしも良い女ではない（確か、マンガ夜話でも誰かが同じような話をしていた気がする）。
○ 「おたくのビデオ」の続編「続・おたくのビデオ」ではアニメーターの女性が出てくるのだが、彼女が理想の女性というわけでもない。最後、女性関係でスパイラルのような展開になるのは、オタクにとっての女問題が解決されないからでもある。
○ 「おたくのビデオ」という商品には一般性がない。オタクにしか売れない作品だ。にも関わらず、これが作れたということは、少なくともガイナックスにとってどのような企画でも通るということを意味していた。スポンサーであるバンダイビジュアル側には、ガイナックスは割合良い作品を作るしブランドとしても育ってきたので、たとえ当初は赤字でもビデオ、LD、DVD……とメディアを変えて販売していくうちに採算は必ずとれるものと認識されていた。
○ だが、何でも作れる状態にあるけれど、本当に作りたいものは何？という悩みをこじらせている状態でもあった。以前話題にした「トレスコ」の企画を山賀くんが自ら取り下げたりしたのもこの頃。
<「湾岸戦隊トレンディ」>
○ この頃、山賀くんは絶不調で、「岡田さん、時代はトレンディですよ！一緒にヴェルファーレに行って踊りましょう！」」とトンデモないことを口に出していた。
○ そんな山賀くんが出した企画が「湾岸戦隊トレンディ」。「強襲揚陸艦ティラミス」とか「戦艦ナタデココ」とか、隊員の名前も「ブルーフルギ」とか「イエローアウトレット」とかいったものだったが、きちんと覚えていない。
○ とにかくトレンディな単語をガンガン使用した戦隊モノのパロディを作ろうという企画であった。「そうしないと、僕達はホイチョイプロになれません！」なんて言い出す山賀くん。ホイチョイプロになりたかったのか？！
○ 山賀くんがこういうことを言い出すのにも理由があった。「ガイナックスという会社で、メカに美少女にSFを描いて、岡田さんや庵野は幸せなんでしょ！」と問われる。うん、幸せだ。「でも、赤井くんは半分くらいしか幸せそうじゃないし、僕は不幸ですよ！」……後年「まほろまてぃっく」を監督する奴が本気でそんなこと言うか？（笑）
○ 山賀くんはオタク向けでは終わりたくないと思っていた。一般人を相手に勝負できる作品を志向していた。また、庵野くんや樋口真嗣はオタクであるが故にオタクなスタッフとすぐ打ち解けて意思疎通が図れるのだが、山賀くんはそうではなかった。スタッフとの打ち合わせも楽しくなさそう。「湾岸戦隊トレンディ」はそんな山賀くんが次の一歩を踏み出す為に必要な企画だった。
○ 当然のようにこの企画はツブれたのだが、貞本くんが嫌がらせ的に書いたイメージボードがどこかに残っているはず。制服が「コンバトラーＶ」の制服のパロディになっていて、胸の「V」マークが「T」に変わっただけという爆笑モノであった。
＜眠田直の新企画＞
○ この頃（1991〜2年）の没企画の一つに、眠田直大先生が出したものがあった。21世紀が明るくないであろうことは判っているので、敢えて「明るい未来」というものを作ろう！というゲームの企画であった。
○ 眠田直大先生の凄い所は「企画を考えて」と頼むと猛スピードでまとめてくること。しかも、スタッフやゲームのシステムまでワンパッケージでまとめた企画書を即座に出してくる。凄くない所はその企画が微妙に貧乏臭い点。いや、うちの会社もっと予算あるから！
○ 舞台はオイルショックが来なかった21世紀。オイルショックが来なかったので大繁栄している。主人公はタイムパトロールで、過去に戻ってオイルショックを起こそうとする悪の勢力と戦う。明るい21世紀VS僕らの21世紀という構図であった。
○ 今考えると「明るい未来をもう一度！」という意味では、ホイチョイプロの「バブルへGO」や筒井康隆の「美藝公」にそっくりな企画であった。前者はタイムマシンでバブル崩壊を防ごうとする映画。後者は戦後日本が経済立国ではなく映画産業立国として復興していくさま描いた小説。
バブルへGO!! タイムマシンはドラム式 スタンダード・エディション
美芸公
筒井 康隆 横尾 忠則
○ ストーリーが大きすぎて、分岐や自由度を重視するゲーム性の高いゲームに向かないという理由から没になった。
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レポートを掲載しているサイトを紹介
(08/05/01 記載 新宿ロフトプラスワンへようこそ)
2008年5月スケジュール
5月25日（日）
岡田斗司夫の『遺言??.
岡田斗司夫の『遺言』第六章 5月25日開催【「エヴァ板とガイナスレ用だよ」Blog】at 2008年06月01日 11:44
