2008年10月22日

イントゥ・ザ・ワイルド・ワイルド・ウエスト

 都内では今週で公開も終わりらしいのだが、やはり書いておこうと思う。「イントゥ・ザ・ワイルド」がかなり面白かった。

 裕福な家庭に育ち、大学を優秀な成績で卒業した青年が、両親への反発を契機としてアメリカ放浪の旅に出てしまうという内容の映画なのだが、学生の頃にバックパッカーの真似事なんかしたりした人間からすると、はっきりいってこういう映画はたまらないよね。

 人生に迷う若者が放浪の旅に出るというのは世界共通の現象だ。バックパックに最低限必要なものを詰め、家から遠く遠く離れた大地を放浪する。勿論、危険なことも山ほどある。人里遠くはなれた山奥で毒蛇に噛まれるかもしれない。危険な街角で犯罪に遭遇するかもしれない。誰一人いない荒野で行き倒れるかもしれない。心を許せる友人など皆無な安宿の一室で病に臥せるかもしれない。何よりも、常に精神を蝕む一人旅の孤独感に耐えられないかもしれない。世界はリスクと暴力に満ち満ちている。
 そんな辛い旅をなぜやるかというと、勿論確固とした、そして伝統的な理由がある。自分探しや通過儀礼としてのそれだ。アメリカ人は西部開拓時代から常に北アメリカ大陸を放浪していて、一箇所に腰を落ち着けずに放浪するのが真の合衆国市民だ!みたいなアメリカ人としての矜持みたいな要素も「イントゥ・ザ・ワイルド」という映画には内包されているらしいのだが、残念ながらアメリカ人ではない自分は読み取れなかったので、ここでは議論しない。

 自分探しと聞くと、「あいのり」とか職業「旅人」である中田英寿なんかを連想する人もいるかもしれないが、主人公クリスの旅はストイックだ。親から貰った現金や車は旅の初めに全て捨て、バイトで手に入れた金も突っ返す。カヌーを曳いて砂漠を横断した後、電車に無賃乗車して車掌にボコボコにされる。そして最後に「自然と一体化する」為に、北の果てであるアラスカを目指す。
 つまり、それまでの金や絆をすべて捨て、文明社会に背を向けた旅へと出たわけだ。一段上の存在(大人)になる為、それまでの自分を殺し、再生をはかる、これはまさしくバンジージャンプがお笑い芸人にとっての罰ゲームでしかない現代物質文明におけるオリジナル(と思ってるのは本人だけかもしれないけど)なイニシエーションだ。

 だから、「自然と一体化する」とかホザいてるくせに物質文明の象徴である銃を持っていくなとか、印刷技術の結晶である植物辞典なんかに頼るな!なんてツッコミは的外れだ。何故なら、そこにあるのは自分と剥きだしの自然との激しい戦いであるからだ。
 物質文明に生きる人間はもはや自然の一部ではない。だからそのように文明化された人間が自然に立ち入ると、常に人間を脅かし、排除しようとする自然との対決となる。そこは自然というよりは、生死の狭間とでもいうべき修行の場だ、この映画の主人公にとっては。

 「行きて帰りし物語」というのがあるけれど、物語の中において通過儀礼というのは帰還を前提とするものだ。だが、現実はそうではない。現実はもっと混沌としていて、物語のように類型的ではない。若者は皆バカで不器用でむこうみずだ。何故なら若者は若いからで、だからバカで不器用でむこうみずで、だからこそリアリティを求める為に旅に出るのだ。
 通過儀礼というものが生死の狭間でもがくことを前提とするイベントである以上、若者が若者である以上、現実においては若者が通過儀礼の場から帰れないこともある。そんなわけで、実話を基にしたこの映画の結末は腑に落ちるものがあった。
 ただクリスは、極限の体験を経て、最後の最後に自分自身を取り戻した時、失っていた名前も取り戻すんだよね。これはつまり、彼の心の中では無事に帰還したと、少なくとも監督のショーン・ペンはそう解釈したってことだよな。親や妹や旅を通して得た友人達は悲しむだろうけれども。でも、エミール・ハーシュ演じるクリスのそんな危なげな側面は若さゆえのものであり、時折感じる生きることへの陰影や、今後100年生きていても埋め合わせられそうにない喪失感も彼の魅力で、だからこそ旅の最中にあんなにも多くの心を通じ合える友人達ができたのだろう。


 自身の思い出を記すと、私が西表島で一人でキャンプした時はきっちり下調べして、きっちり水も食料も準備して、悠々自適の旅であった。あれは自分探しとか通過儀礼とかいった大仰なものじゃなかったな。
 それでも、クリスと同じく「幸せとは分かち合う人がいてはじめて味わうことができるもの」という結論に僅か3日で辿りついたのは、私が寂しん坊だったからでは断じてないぞ。断じて!
 それでも、かようにインスタントな放浪の旅であったせいか、クリステン・スチュワートみたいな美少女とお近づきになる機会はまったく無かったのが心残りだ。
 それにしても、あの状況でセックスしないなんてないよなー。大学じゃモテモテで女に不自由しなかったとかなのかね?



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