風竜胆の書評

風竜胆の書評を中心にしたブログです。コミックスから専門書まで、あらゆる本を読みます。現在「シミルボン」と「本が好き!」でも活動中。 献本歓迎します。右欄のメッセージ機能にてご連絡ください。 旧ブログ名:本の宇宙(そら)

午前0時の忘れ物4


・午前0時の忘れ物
・赤川次郎
・集英社文庫

<お腹が空いている。- それは、生きてること、そのことのように、すてきな感じだった……。>(p300)

 大林宜彦監督の「新・尾道三部作」の2作目となる「あした」。その原作となったのが本書である。ただし、原作では事故を起こしたのはバスだが、映画では船になっている。

 深夜、実ヶ原バスターミナルに集まった人々。ヤクザの親分、社長夫人、女子高生、陸上選手、会社の中間管理職。経歴も、年齢も、性別も様々で、一見共通点がないような面々。

 彼ら、彼女らは、1か月前のバス事故で大切な人を亡くしていた。そして、死んだはずの人たちから、バスターミナルに午前0時に会いに来てほしいというメッセージを受け取っていたのだ。

 これは、最終バスに乗り遅れて、一晩バスターミナルで過ごすことになった女子大生、法子とルミが目撃した、わずか1時間だけの奇蹟の物語。

 本作は、この死んでしまった大切な人たちとの再会のドラマを主体に、それにいくつかの話を絡ませて物語を大きく膨らませている。ヤクザの親分金沢の命を狙う一派の襲撃。法子と彼女の幼馴染だった金沢の子分・貢との再会と恋。

 亡くなった人の気持ちも、亡くした人の気持ちも皆同じだと言うわけではない。描かれているのはそれぞれの思い。自分はもう十分生きたからと死者についていくもの。立ち直ってほしいと死者に励まされるもの。

 考えてみれば、死者が会いにくるというのは不気味な出来事なのだが、本作にはそのような気味悪さは感じられない。描かれているのは、まさに現代のおとぎ話。そして生きているということのすばらしさだろう。

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人事課長鬼塚13


・人事課長鬼塚 1
・渡辺獏人
・集英社

 主人公の鬼塚は太陽ビールの人事課長。一見こわもてで「人事の鬼」と呼ばれているが、実は一人一人の特徴を十分に把握したうえで、それを活かせるような人事を行っている。そのためなら、役員にも異議を唱えるという、まさに理想の人事屋だ。

 でも、ちょっとまて! そんな人事屋なんていね〜よ(笑)。 大きな会社になるほど、個々の人間の能力なんて把握できなくなるから、人事の仕事は、いろんな部署から上がってきた人事案を調整と銘打って、書類上で適当に操作しているだけ。ひどいところになると、メンバーの能力など関係なく、人員の数に応じて、成績を割り当てているところもあるのでは。

 だから、どこにいるかということが人事考課のための重要な要素になる。優秀な人間が多いところにいれば、相対的に不利になり、そうでない場合は、その逆になる。また、誰が考課を行うかによってもかなり違う。きちんと部下の実力を見てくれる上司もいればそうでない上司もいる。テレビで話題の「イヤミ課長」なんて奴の下についたら最悪だろう。要するに、人事というのは、必ずしも本来の能力で決まるわけではないということだ。

 大きな企業になるほど、人間というのはコマ扱い。個人の能力なんてのは無視して、「人役」という十把一絡げでの扱いをされているところもある。

 それにこの漫画、人事課長が、直接他部署の社員を呼び出して話を聞いているが、それぞれ直属の上司がいるのに、その頭越しにというのは、普通の会社だとまずないだろう。 

 それに課長って、一応管理職だけど、ふつうはそれほど権限を持っているわけではないよ。下には係長だのがいるけど、あれは労基法上は管理職ではない。労基法上の管理職というのは、課長以上としている会社が多いので、法的には課長は管理職の末端ということになる。ただし、判例にあるような管理職の定義に当てはまるほどの権限を持った課長なんてまずいない。

 大体人事とか労務が力を持っている会社なんてろくなものではない。この会社も人事課長が、社員たちに畏怖されているが、人事課長なんて気にしているような会社って働きたくもないな。

 まあ、そうは言っても、本当にこんな人事課長がいたらいいなとは思うのだが。

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地理 2016年 09 月号4


・地理 2016年 09 月号
・古今書院

 「世の中にたえて地理のなかりせば 麿の心はのどけからまし」

 恥ずかしながら、中高時代の私の気持ちを在原業平の「世の中にたえて桜のなかりせば 春の心はのどけからまし」をもじって詠んでみた。そもそも学校というものがあまり好きではなかった私だったが、特に地理というのは退屈な科目の一つだった。なぜこんなことを覚えなくてはならないのか。田舎学校の真面目な生徒だった私は、一応それなりの成績は取れるくらいの勉強はしていたのだが、その副作用ですっかり地理嫌いになってしまった。

 ところが、本書を読んで少し考えが変わった。思っていたより、地理というものは幅が広く、学際的な学問だということが分かったからだ。この号の特集は、「魚を得る・売る・食べる」と銘打っており、「食に関わる地域や環境、産業や文化、社会を見つめてみよう」(p13)というもの。このテーマについて多様な切り口で書かれた記事が掲載されているが、執筆者の専門を見ると、水産地理学、経済地理学、漁業地理学といった、なんだか面白そうな名前が並んでいる。記事も地域の食文化の違いや水産業を通じた地域間の繋がりなどが分かり、なかなか興味深く読める。

 このほか、地図データを使った自然災害の分析、ドローンを使った気温観測や災害調査、北海道のボーダーツーリズムの展開など、興味深い記事が満載だ。こういったものを読むと、高校までの地理のあの退屈さはなんだったんだろうと思ってしまう。

 書評欄が充実しているのも好ましい。この号には6冊の本が紹介してあるが、いくつかは機会があれば読んでみたいと思った。

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少女の時間3


・少女の時間
・樋口 有介
・東京創元社

 本書は、元警視庁警部補で、今は刑事専門のフリーライター柚木草平が名探偵薬を務めるシリーズの最新刊だ。

 今回柚木が挑むのは、二年前に起こった未解決の女子高生殺人事件。彼がこの事件を調べることになったのは、小姑のような月刊EYESの編集者小高直海に尻を叩かれたからだ。なにしろ年中手元不如意の柚木のこと、ちゃんと仕事をしないと食べていけないのである。

 被害者の野川亜彩子は、ピースフル・サウス・イースト(PSE)という東南アジアからの留学生を支援するNPOでボランティアをしており、疑われていたのは、タインというベトナムからの留学生。ところがこんどは、PSEと同じビルに入っているアジアン雑貨店でアルバイトをしていた戸田香保梨が殺害された。果たして二つの事件は関係があるのか。

 この柚木、どう見てもちょいワルオヤジのような感じなのだが、どういうわけか女にもてる。だから、毎回彼の周りは美女だらけで、なんともうらやましい(笑)。今回は、以前から不倫関係にある、警視庁の女性キャリア警視の吉島冴子に加えて、直海の大学時代の同級生の枝沢柑奈とも関係を持ってしまう。この他、PSEの入っているビルのオーナーである山代千絵とその娘の女子高生美早の美人母子や玉川署の女性刑事である吹石夕子巡査部長など、綺麗どころがいっぱい登場する。

 さて、肝心の事件の方だが、「日越親善交流協会」というNGOが出てきたりして、国際問題が絡むようなでかい事件になるのかと思っていたら、ちょっと竜頭蛇尾といったような結末だった。もっと話を大きくしても良かったのではないのかと思う。

 またいくつか疑問に思ったところもある。吉島に昇進を伴う異動の話があるようだが、柚木はこう言っている。

「冴子も警察庁へ出向した時点で警視から警視正、そして次に警視長になって自動的に国家公務員になる」(p127)

 冴子はキャリア組なので、警視庁に勤めていても、元から国家公務員だし、警察庁に出向というのではなく、戻るといった方が適当だろう。また、地方採用の警察官の場合、自動的に国家公務員になるのは、警視正以上だ。

 更に、吹石に対しても、一応大卒だから準キャリアだと言っている(p145)が、大卒でも大卒程度国家一般職試験に合格して本庁採用されないと準キャリアとは言われないはず。

 草平、元刑事なのに、あまりこういったことには詳しくないのだろうか。

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京都ぎらい3


・京都ぎらい
・井上章一
・朝日新書

 京都には中華思想が根付いているような話はよく聞く。なににつけても、「洛中サイコー!」と見なして、同じ京都市内でも、洛中でない場所を低く見るというものだ。本当にそんな考え方が今でも根深いのだろうか。

 私は、大学、大学院修士と京都大学で学んだが、実はあまり京都人を知らない。なにしろ、私が入学した当時は、京都の高校からは、京都大学にはなかなか入学できず、友人はほとんど大阪人や名古屋人だったからだ。

 だから、あまり京都人の京都中華主義を見聞きしたことはないし、たとえ見聞きしたとしても、鼻で笑ってやっただろう。我々長州人には、近代日本の礎を作ったという自負がある。明治維新前後の動乱期、京都人はいったい何をやったのかと考えれば、いくら京都人が中華思想を披露したとしても、遠吠えにしか聞こえない。

 ところが、嵯峨育ちだという著者の場合は少し違うようだ。もちろん嵯峨は、京都市の一部である。嵯峨野には何度も行ったし、我々他県出身の者から見れば、嵯峨は立派な京都だろう。だから京都観光の人々も、大勢嵯峨を訪れるのだ。しかし、洛中以外の周辺部は、田舎扱いされて洛中の人々からは京都扱いされてこなかったという。

 例えば、下京にある古民家に調査の挨拶に訪れた際に、著者が嵯峨育ちだというと、その家の主人は、嵯峨からは、農家がよく肥くみにきていたのでなつかしいと言いながらも、そこには揶揄の含みがあったという。中京の老舗の令嬢は、山科の男性との見合い話があった際に、東山が西の方に見えるからと言って、嫌がったそうだ。著者が現在住んでいる宇治なども、京都扱いはされないらしい。

 本書に書かれているのは、そんな「京都」に対する怨み節といったところか。しかしその一方では、「七」は京都では「しち」ではなくて「ひち」なのだから、上七軒の読みは「かみひちけん」だと言ったり、最近では「五山の送り火」が正しいと言われているが、自分たちは「大文字焼き」と言っていた主張したりと、京都の人間としてのアンビバレントな面も伺え、なかなか面白い。

 なお、「七」の読み方については、朝日新聞社とちょっとしたバトルがあったようで、あとがきにそのことが書かれていたが、結局本書では「上七軒」のルビを「かみひちけん(ママ)」(p69)と振ってあった。いやはや・・・。


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紅壁虎(ホンピーフー)4


・紅壁虎(ホンピーフー)
・山本貴嗣
・クリーク・アンド・リバー社

 刑事の蛮童玉三郎は、あまりにも精力が強すぎて、付き合っていたら身が持たないと、女に振られてばかり。そんな彼の前に現れた謎の女「紅壁虎(ホンピーフー)」。ホンピーフーとは紅やもりのことらしい。どんな高い壁でもよじ登って、狙った的は外さないという女殺し屋の異名だ。

房中術の達人で、男の精を吸って若さを保っていると言い伝えられている。こういうと妖艶な美女を連想してしまうが、見かけは華奢で可愛らしい少女だ。ただし実年齢は推定100歳以上。

 紅壁虎が玉三郎の前に現れたのは、精力絶倫の彼から生気を吸い取って、殺し屋の仕事の際に射たれてできた怪我を回復させるため。その後も、紅壁虎がヤクザにつかまった妹分を救出する前にも何発か吸い取られて、玉三郎の扱いはほとんど充電器。

 ヤクザ、中国マフィアの争いが激化するなか、街では一般人による発砲事件が頻発。果たして紅壁虎は、この事件にどう関わってくるのか。紅壁虎のことが頭から離れない玉三郎との関係はどうなっていくのか。この後の展開がとっても気になる作品である。

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ハゲ川柳5


・ハゲ川柳
・(著)ツル多はげます会、(絵)竹浪 正造
・河出書房新社

 津軽地方の真ん中にあるという鶴田町。そこには、ハゲの総本山とでもいうべきユニークな団体がある。その名は「ツル多はげます会」。もちろん、この名称は、町名と「ツルツル」をかけたものだ。

 この会は、創設者に当たる竹浪正造さんが、なじみのスナックで出された酒の勢いで、「ハゲの会をやろう」と言いだして誕生したらしい。

 この会の例会は毎年設立日の2月22日と旧暦の8月15日(中秋の名月)に開かれ、「有多毛(うたげ)」という。どこまでも毛にこだわったネーミングである。その活動内容といえば、吸盤についたひもを禿頭で引っ張り合う「吸盤綱引き」や「ハゲ礼賛の川柳の披露」など。決して「あほらしい!」なんて思ってはいけない。みなさん、大真面目で活動をされているのだ。本書はタイトルの通り、ハゲにまつわる愉快な川柳を会の活動内容などと共に紹介したものである。

 気に入ったものを少し紹介しよう。

「振り向けば妻が合掌初詣」(p16)
きっと頭から後光が射していたんだろうなあ。

「仏教徒なのに頭は宣教師」(p102)
沙悟浄状態のことである。宣教師は、なぜか頭頂を剃っていたね。

「もてるためフランス移住してみたい」(p107)
フランス事情はよく分からないが、ハゲてるともてるのか?

 どの川柳も、思わず吹き出しそうになるくらい笑えるのだが、創設者の竹浪さんの描くイラストも味があって面白い。ハゲを全くマイナスに考えておらず、徹底的に楽しむという姿勢がうかがえて、なかなか楽しい一冊である。

 なお、この会は随時会員を募集しているそうだ。自信のある方はチャレンジしてみてはどうだろう?ただし、役員による厳しい毛髪審査があるということだ(笑)。


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