風竜胆の書評

コミックスから専門書まで、あらゆる本を読みます。最近、ちょっとフリーライターを気取っていますw 現在「シミルボン」と「本が好き!」でも活動中。 執筆依頼、献本等歓迎します。右欄のメッセージ機能にてご連絡ください。 旧ブログ名:本の宇宙(そら)

神去なあなあ夜話5


・神去なあなあ夜話
・三浦しおん
・徳間文庫

 都会育ちの青年・平野勇気が、林業の魅力に目覚めていく様子を描いた「神去なあなあ日常」の続編に当たる本書。フリーターでもしてのんびり暮らそうと思っていた主人公が、ほとんど騙されるように、林業の研修生として送り込まれた神去村。

 この神去村というのは、三重県の、奈良との県境近くにある山村で、ほとんど何もないようなところ。勇気もこの村に住んで林業に携わってもう1年。春から晴れて研修生から中村林業株式会社の正社員となった。

 本書はそんな神去村でのエピソードが合計7編。収められているのは、神去村の起源や勇気が居候しているヨキとその妻のみきさんのなれそめ話。二十年前に神去村の人たちに起きた不幸な出来事、霊験あらたかなお稲荷さんの話、そして勇気が大好きな小学校の教師をしている直紀さん(名前だけでは分かり難いが、もちろん女性)との話など。

 もちろんメインとなるのは、勇気が神去村に馴染んで、どんどん林業に嵌っていく話なのだが、それに直紀とのラブストーリーが絡んでとても楽しい。文体自体もコミカルな感じなので、時々笑い出しそうになってしまう。

 ところで、最初のころはあまり勇気を相手にしなかったような直紀だったが、最近は勇気のことを大分気にしているようである。この巻の最後では、遂に勇気が、前巻のオオヤマヅミさんの祭りの時に手に入れた「メドの権利」を発動。これは「好きな女の子にまぐあいを申し込める権利」だそうだが、どうも直紀は拒否しなかったようだ。明記はされてないのだが、直紀が学校の冬休み明けに実家から戻ってくるのに、コンドームを持参しているのだから、まあそんなところなのだろう(笑)。

 もうひとつ面白かったのが、勇気が居候をしているヨキの家の繁ばあちゃん。勇気はパソコンに、神去村での出来事を記録している。もちろんパスワードをかけてはいるのだが、繁ばあちゃん、そのパスワードを破って覗き見しただけでなく、代わりに面白可笑しく続きを書くことまで。なんというハッカーぶりだ。

 そんなこと、こんなことでいろいろなエピソードはあるものの、神去村は今日も「なあなあ」、のんびりとした時間が過ぎていく。

〇関連過去記事
神去なあなあ日常



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万能鑑定士Qの謎解き4


・万能鑑定士Qの謎解き
・松岡圭祐
・角川文庫

 あらゆるものの真贋を鑑定する、若き美女鑑定士凜田莉子が活躍する「万能鑑定士Q」シリーズの角川版としては最終巻となる本書。この後、発表媒体が講談社文庫に移り「探偵の探偵」の主人公である紗崎玲奈とのコラボ作品「探偵の鑑定」に続き、「万能鑑定士Qの最終巻 ムンクの〈叫び〉」で完結となっている。

 読み終わるのが惜しかったのか、なぜかこの巻だけぽつりと本棚の中に積んであったが、これでこのシリーズを全て読んだことになる。(ただし、レビューしそびれているものとしては「短編集供廚あるが)

 この巻でのテーマは、日中での文化財の帰属問題と、中国におけるコピー製品。日中で帰属を争っている弥勒菩薩像と瓢房三彩唐。どちらで作られたものかを洋上で鑑定することになったのだが、弥勒菩薩像は奪われ、莉子も参加していた瓢房三彩唐は、平和裏に日本側に渡されたはずが、いつの間にか強奪されたことになっていた。もちろんこれには大きなトリックがあるのだが、これを解明することに、中国でのコピー製品問題、そしてスポーツ選手の養成に関する問題を絡めた、なかなかスケールの大きなエンターテインメント作品となっている。

 このシリーズ、エンターテインメント作品として読めば確かに面白いのだが、最近の作品を読んでいると、どうも作者はあまり科学技術には詳しくないようなところが垣間見える。このあたりのツッコミがネットでもほとんど見られないので、いったいこの国の科学教育はどうなっているんだと思ってしまうのだが、最近はすっかり割り切ってしまい、松岡氏の作品は、パズルを主体にしたエンターテインメント小説で、理系の素養のある人に対しては豊富なツッコミどころも提供してくれるものとして楽しんでいる。このツッコミどころを提供してくれるのも、もしかすると松岡氏の作戦なのだろうか。「面白い」。「面白くない」の二分法でいけば、たしかに「面白い」からである。

 それでもいくつかツッコミを入れてみよう。まず「次世代ガソリン」として「グローグンZ」なるものが出てくる。この物質、なんと「燃費が従来の無鉛ガソリンの30分の1で、二酸化炭素もほとんど排出せず、不完全燃焼でも一酸化炭素を発生しない。毒性も生じない。」という優れものだ。本当にこんなものができたらいいなとは思うのだが、まず二酸化炭素も一酸化炭素も出ないということは、もともと炭素が含まれていないということだろう。ガソリンも含む石油類や天然ガスは、炭素と水素でできているので、結局純水素だということになってしまう。しかし、水素エンジンだって燃費が30分の1というのは無理だ。おまけに水素は常温では気体だが、この「グローグンZ」なるものは、液体である。いったいどんな物質をイメージしているのだろう。

 そして、この「グローグンZ」の監視を逃れて、盗み出す方法である。8つの容器にそれぞれ3リットルずつ入っており、監視は5分おきに3つの容器の合計が9リットルであることをセンサーにより確認しているというのだ。これをコピー製品を作っている組織が盗み出すのだが、最後に証拠を残さないように爆発を起こさせる手順がある。果たしてセンサーによる監視をかいくぐって、「グローグンZ」を盗み出し、爆発を起こすことが出来るのかというものだが、これなどは、科学の問題というよりは完全にパズルだ。そんなに大事なものを常時監視でなく、5分ごとに3つずつチェックするようなことは普通はありえないし、1つの容器の中身ではなく、3つの容器の合計量でチェックするということも考えられない。

 笑ったのは、コピー商品の商標として、「SQNY」だとか「HATACHI」なんてのが出てきたこと。笑い話のように思えるかもしれないが、この関係の講演会を何度か聞いたことがあるので、「あるある」なんて思ってしまった。おそらくこの関係の仕事をされている方も同じ感覚だろう。

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いけない!ルナ先生5


・いけない!ルナ先生
・上村純子
・講談社

 私らの世代でエッチな漫画といったら、まず思い浮かべるのは、永井豪の「ハレンチ学園」だろう。もちろんエロ漫画雑誌は別にして、普通の少年がアクセスできる作品としてはなんとも斬新だった。スカートめくりの流行の元凶としてお堅いPTAや教育委員会からやり玉に挙げられ、社会問題になっていたことを記憶している。

 しかし、この作品を読んでぶっ飛んだ(笑)。これはもっと上を行くかもしれない。1986年から1988年にかけて「月刊少年マガジン」に連載されていた作品だという。主人公は神谷わたるという父と二人暮らしをしている中学二年生。父親が海外赴任することになったので、わたるの世話をしてもらうために、下宿人を入れることにした。やってきたのは葉月ルナという女子大二年生。美人でナイスバディ、わたるの通う塾の先生もしている。

 わたるの母親が亡くなっていることを聞いて、しっかり面倒をみると父親と約束するルナ先生だが、その面倒のみ方が、ちょっと世間一般とはずれている。

 わたるが風呂嫌いで、周りからクサいと言われているのを見たルナ先生、いじめられて自殺でもしたら大変とばかりいっしょに風呂に入ろうと誘って、あんなところやこんなところと、いろいろなところを洗いっこ。

 分数を教えるのだって、着用中のブラとショーツの升目を塗らせて教え、答えはおっぱいの下に書いてあるからと持ち上げて確かめさせる。

 わたるが新年会の劇で女装することになったと聞けば、下着の付け方を教えるからと、自分をモデルに着せかたを手ほどき。ブラをつけるさいには、しっかりつかんでカップの中にと、わたるに自分の胸を掴ませて、やらせてみるのである。

 だから、乳揉みや、股間に顔をうずめたりするのは当たり前。いや、なんともうらやましい(笑)。わたるも小学生ではなく中二である。こんなことをしていれば、勢いで大人の階段を一気に駆け上がっても不思議はないのだが、そこはこれでも一応少年漫画だからそんなことはない。わたる君、いろいろ喜んでいるが、ずっと階段の下で足踏み状態。

 絵がギャグ漫画よりなので、内容の割にはエロさを感じられないのだが、もしこれを今時の美少女を描くのが得意な漫画家が描いたらドエロ漫画になるだろう。

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魔法騎士レイアース5


・魔法騎士レイアース
・CLAMP
・講談社

 この作品は、講談社の月間漫画雑誌「なかよし」に、1993年から1996年にかけて連載されていたものだ。あの伝説の「セーラームーン」と連載が重なっていたこともあって少しかすんでしまった観もあるかもしれないが、私はこちらの方が好きだった。

 最初の舞台は、1993年の東京。まだスカイツリーなど影も形もなく、東京タワーが東京のランドマークとしての存在感があったころだ。同じ時に、東京タワーに集った獅堂光、龍崎海、鳳凰寺風の3人の少女。学校も違い、それまで面識もなかった彼女たちは、突然異世界「セフィーロ」に召喚される。

 彼女たちを召還したのは、「柱」として、祈りの力でセフィーロを支えてきたエメロード姫。ところが、姫が神官ザガードに幽閉されたために、セフィーロは今滅亡の危機に瀕しているというのだ。彼女たちが元の世界に戻るためには、ザガードを倒して、姫を救い出すしかない。

 セフィーロでは、「意思の強さ」がすべてを決める。エメロード姫の願いに応えて、セフィーロを救うためには、強い意志の力が必要だ。セフィーロで、様々な試練を乗り越えて、成長していく3人は、ザガードと戦うために3体の「魔神」を復活させた。しかし、それはセフィーロにとっては希望であると共に、悲しみの幕開けでもあったのだ。最後に待っていたのは驚きの結末。

 なぜ、エメロード姫は異世界から伝説の魔法騎士たちを召還しなければならなかったのか。姫の本当の願いは何だったのか。それらは、読者の予想を遥かに超えるものだった。彼女たちが姫の願いに応えて、セフィーロを救おうとすることにより、その「意思の力」も成長していった。しかしそれこそが、彼女たちに、大きな悲しみをもたらすことにもなったのである。そのようなアイロニーに満ちた物語は、とても小中学生向けの漫画とは思えない。

 ヒロインたちの設定は高校生くらいにしてもよかったと思うが、中学2年生にしたというのは、連載誌の購読層が小中学生の女子ということを意識してのものだったのだろうか。それとも中学生くらいの方が、成長というこのテーマの一つに対して、よりふさわしかったからだろうか。アニメにもなり、結構男子層のマニア心をくすぐっただろうこの作品だが、さすがに男子にとっては、「なかよし」を買うのはハードルが高かったろう。今だったら「戦闘派美少女」ものとして少年誌に連載されてもおかしくない作品だと思う。(そういえば昔は少女が主人公のものって、あまり少年誌にはなかったような・・・)


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地理 2017年2月号4


・地理 2017年2月号
・古今書院

 今月号の特集は、「都市は暑くなっている?」というものだ。今地球全体が温まっている「地球温暖化」が世界的な問題となっているが、都市の場合には、これに加えて「ヒートアイランド現象」というもうひとつの問題がある。皆さんは、田舎と都会では、都会の方が熱いという実感はないだろうか。これはヒートアイランド現象のためである。

 都市と田舎との違いは、全体がコンクリートで覆われているかどうかということと、そこに住む人口の違いにより、活動によって生み出される熱に大きな差があるということだろう。コンクリートは、自然物に比べて熱を多く貯め込み、水分の蒸発も少ないので、水の潜熱(水が気化するために必要なエネルギー)という形で消費されるエネルギーも少なくなる。人口も多いので、電気、ガス、自動車などから生み出される熱エネルギーも田舎とは段違いだ。

 また、さすがにここまでは書かれていないが、人間は100W電球と同じだけの熱を発生していると言われる。つまり100万都市の場合には、1kWの電熱器が10万台も置いてあることになるのである。

 この特集は、ヒートアイランド現象を、都市の空間スケールごとの特徴、都市の気温データの信頼性・均質性に影響する因子、気圧の日変化、気候を活かしたまちづくりといった様々な観点から解説したものである。その内容は、とても高校までに学ばされてきた地理と同じレンジ内にあるものとは思えない。 

 それもそのはず。今回の特集の著者で出自が明記してある人は、すべて理工系である。つまり、地理というのは、文系の学問に収まりきるものではないのだ。私は、現在のように、地理を社会の一科目として教えていることが、地理嫌いを増やしている一因ではないかと思っている。地理は、社会と理科などにまたがった学際的な科目として再編成している必要があるのではないだろうか。

※初出は「本が好き!」です。

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お金持ちのための最強の相続4


・お金持ちのための最強の相続
・田中誠
・実務教育出版

 皆さんは、相続税の基礎控除額が2015年1月1日から縮小されているのをご存じだろうか。それまでは、5000万円+法定相続人の数×1000万円までは相続税はかからなかった。ところが新制度ではこれが3000万円+法定相続人の数×600万円となっている。つまりそれまでは税金を払わなくても良かった人が沢山納税対象になってくるのである。

 本書の主張は、相続とは相続する人とされる人とのチームワークであり、スムーズな相続を行うためには、戦略的に動いていかなければならないということだろう。つまり相続とは、駅伝においてタスキを次の走者に渡すようなものだというのだ。

 しかし、税制というのは複雑なものだ。おまけにしょっちゅう変更されている。相続というのは、普通の人はそう何回も経験するものではないということもあり、なかなか敷居が高いものだろう。おまけに本書によれば、肝心の税理士にも、相続関係についてはそれほど詳しくはないものも結構いるらしいから困ってしまう。

 ただ、制度の内容を知っているかどうかで、収めるべき相続税がかなり変わってくるようだ。私のような一般庶民から見ると、税金に詳しくないものからむしり取るような感じで、今の制度って本当に合理的なのかどうかという疑問が湧いてくるのだが。

 我が家は、決してタイトルにあるような「お金持ち」ではないため、それほど考える必要はないのかもしれないが、本書の内容程度は、いざというときのために知っておいても損はないかもしれない。

※初出は「本が好き!」です。

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絶対正義4


・絶対正義
・秋吉理香子
・幻冬舎

 これは相当嫌な気分になる作品だ。主な登場人物は、山梨の公立高校での同級生だった、高槻範子と和樹、由美子、理穂、麗香の5人。和樹たち4人は、5年前に皆で範子を殺していた。ところが今になって、4人の元に、死んだはずの範子からパーティの招待状が届いたのである。確かにあの時、範子は死んでいたはず。ならば、誰が招待状を出したのか。

 作品を読み進むにつれて、4人が範子を殺したいくらい嫌っていた理由が明らかになってくる。とにかく、この範子というのがとんでもない女だ。10m以内周りには絶対に近づいて欲しくないような嫌なキャラなのである。

 範子は、自分が正義と思い込んでいるもののために、周りの人間のあら探しを徹底的に行い糾弾する。彼女の基準は、規則と機械的に比べてみてどうかということだけ。そこから1mmでもはみ出していると許せないのである。その背景や実情、規則の合理性などは、いっさい考えない。そして、ちょっとしたことを、さも重大な事のように騒ぎ立て、大問題に発展させるのだ。

 その執拗さはほとんどビョーキといっていいほど。4人はそれに助けられたこともあったが、それ以上に深刻な被害を受けていた。しかし、形式上は正論のため、なかなか反論できない。

そもそも規則というものは、さまざまな人間の利害関係を調整するのが目的ではないのか。当然そこには人間の感情というものが入ってくる。しかし範子はそういったことを全く理解しようとはしない。自分勝手な正義に酔いしれているのだ。

 実際の裁判の場でも、情状酌量というものがあるし、刑法の刑罰もそれを考慮してある程度の幅を持たせている。範子には、きっと大岡越前の名裁きなんて、絶対に理解できないことだろう。

 作品の終わり方も、ただ嫌な気持ちだけが残るようなものだ。しかし、ここまでではなくとも、似たような人間は案外といるような気がする。ご用心、ご用心!

※初出は「本が好き!」です。

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