第6回(2009年) 本屋大賞の受賞作で、松たか子主演で映画化もされた「告白」( 湊かなえ:双葉社)。読み終ったらイヤな気持になるミステリーを指す「イヤミス」としても評判の作品だ。




 物語は、S中学校の1年B組の終業式の場面から始まった。クラスの担任の女教師、森口は生徒を前に、恐るべき告白をする。四歳で死んだ娘の愛美は、このクラスの生徒に殺されたというのだ。

 この作品は、「第一章 聖職者」、「第二章 殉教者」、「第三章 慈愛者」、「第四章 求道者」、「第五章 信奉者」そして「第六章 伝道者」と全体で六つの章から成り立っている。そして、章毎に、語り手が入れ替わって、タイトルの表すように、それぞれが事件について「告白」する形でストーリーが進行していく。

 この作品で最も特徴的なことは、全体を通して、強い母性原理が現れているということだろう。作品中では、3通りの母子関係が出てくる。殺された娘の敵を、とんでもない方法でとろうとする教師・森口、抑制された研究の道への気持ちが、我が子への虐待となって現れてしまう渡辺(犯人A)の母親そして、我が子を過保護に溺愛する下村(犯人B)の母親である。3組のどろどろとした母子関係に比べて、父親たちの影は余りにも薄い。

 カミナリ親父という言葉があったように、昔の父親は、怖くて威厳があった。その一方で、母親は優しく子供に愛情を注ぐ存在だったのだ。父親からのロゴス、母親からのパトス、これらがうまくバランスしていたのではないだろうか。(もちろん、何事にも例外があることは言うまでもないが。)

 しかし、現代社会は、父性喪失の時代だ。母性のみが異常に肥大し、ゆがんだ母子関係を作り上げがちになる。パトス優位、ロゴス不在の時代、これが現代を表すキーワードなのかもしれない。そういった、現代社会のゆがみをこの作品は良く描き出していると言えるだろう。読者は、このゆがみに、いやな気持を抱きながらも、どんどんと作品世界に引き込まれていくのだ。

 さらに、この作品は、犯罪を犯した者に対する少年法の壁の問題や、理性が発達していないために現れる本質的な子供の残酷さといったことにも問題提起をしているようにも思える。そして、ラストは、ここまでやるのかというような衝撃的な終わり方だ。正に、「イヤミス」としての真骨頂発揮というところだろうか。

 最後にひとつ、作中の気に入った言葉を紹介しておこう。森口が熱血先生と問題を起こす生徒の事について話した時に言った言葉だ。

 「道を踏み外して、その後更生した人よりも、もともと道を踏み外すようなことをしなかった人の方がえらいに決まっています。」

 まったく当然のことだが、世間では、このことが忘れられていることが案外多い気がするのはどういう訳だろう。

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(本記事は「時空の流離人」と同時掲載です。)

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