「今回のことで君が何らかの答を出せる日まで、私は君と同じ問題を抱え、悩み続けよう。忘れないでほしい。君は一人ぼっちじゃない」

 柄崎恭平は小学五年生。彼が博士と出会ったのは、玻璃で旅館を経営する伯母夫婦の許に向かう電車の中。博士とはもちろん湯川学のことだ。その街では、海底資源の開発計画が勧められており、反対運動が盛り上がっていた。湯川は、資源開発の主体となるデスメックという組織の調査船で、電磁探査法の実験指導をするためにやって来たのだ。恭平の伯母夫婦の旅館に滞在することになった湯川は、恭平との交流を深めていく。

 「こういってはなんだが、あんなに偏屈な子供は久しぶりに見た。」

 子供は苦手そうなイメージの湯川だが、よほど恭平が気に入ったのだろう。旨そうにビールを飲みながらこんなことを言う位だ。湯川は恭平の夏休みの宿題を教えたり、ペットボトルロケットを使って玻璃の美しい海底を見せてやったりする。

 物語が不穏な方向に動き始めるのは、転落死したと思われていた元刑事の塚原正次の死因が一酸化炭素中毒であることが判明したことによる。塚原は、湯川と同じ旅館に泊っていたが、行方が分からなくなり、岩場で死んでいるのが発見されたのである。塚原はなぜかデスメックの主宰する海底資源開発の討論会の参加賞を持っていた。また玻璃には塚原が16年前に元ホステス殺しで逮捕した仙波英俊の家がある。塚原はその仙波の家を見ていたという証言もあった。湯川の推理は、やがて2つの事件を一本の糸で繋げていく。

 「事件の真実は明らかにされるべきだ」というのが、多くのミステリー作品に見られる共通認識だろう。しかし、この作品は、そんな認識に対して、アンチテーゼを投げかけているように思える。湯川が苦悩していたのは、すべての真実が明らかになることにより恭平の人生が捻じ曲げられてしまう事だ。恭平は勉強は苦手なようだが意外と賢いところのある子供だ。真実に気がついてしまっている。

 「どんな問題にも答は必ずある。」

 「だけどそれをすぐに導き出せるとはかぎらない。・・・しかし焦る必要はない。答を出すためには、自分自身の成長が求められている場合も少なくない。だから人間は学び、努力し、自分を磨かなきゃいけないんだ」

 恭平はこれからもきっと悩み続けることだろう。しかし、いつかはきっと答を見つけるに違いない。あせることはない。恭平には、一緒に悩んでくれる理解者がいるのだから。


○ランキングに参加しています(面白かったら押してください)
br_decobanner_20101123214358


○姉妹ブログ
文理両道
時空の流離人