マスター工藤による絶品の料理と絶妙の謎解きが魅力の「香菜里屋シリーズ」最終巻になる「香菜里屋を知っていますか」(北森鴻:講談社)。




 収録されているのは次の5編。

・ラストマティーニ
 工藤の友人の<プロフェッショナルバー香月>のマスターが1年間通っていた<BARhasegawa>。マティーニに要求されるのは限りない冷たさ。谷川は、なぜか常温のジンを使ったマティーニを香月に出してしまい、それがきっかけのように店をたたんでしまう。

・プレジ―ル
 峰岸明美の家庭は祖母の介護で疲れ果てていた。祖母は2か月前に亡くなったが、明美は、それがきっかけのように、モツ煮込みの店で気分が悪くなったり、おでんの臭いで嘔吐するようになった。

・背表紙の友
 東山朋生は中学生のころに、買うのが恥ずかしい本の表紙カバーを他の本と入れ替えて買ったことがあった。香菜里屋に、東山に関わりがあると思われる上質の馬肉が届く。同封のメッセージは「わが背表紙の友に」。

・終幕の風景
 工藤の店に、名物のタンシチューが出なくなった。そのタンシチューは、工藤と香月が修行していた店の経営者の直伝の味だった。

・香菜里屋を知っていますか
 この話では、北森鴻の作品の登場人物が大集合だ。雅蘭堂の主人越名集治とアルバイトの女子大生安積。冬狐堂・宇佐見陶子に蓮丈那智と三国のコンビ。ここでは工藤の秘密が明らかになる。

 本作は、色々な意味での店じまいの作品だ。文字通り香菜里屋が店じまいするだけでなく、香月と笹口ひづるはスピード結婚。飯島七緒も結婚で東京を離れる。七緒の嫁ぎ先はもちろん山口県だ。しかし、時田という何か腹に一物をかかえていそうな人物が工藤の事を訪ね歩いている。時田は、工藤と香月が修行していた店が閉店する原因を作った人物で、そのために工藤は恋人と別れることになった。だから「香奈里屋シリーズ」はこれで終わったのだが、まだまだ時田との間でひと波乱ありそうな感じがあった。思うに、北森氏は、何らかの形で、この話の後日談を書こうと思っていたのではないだろうか。その日が永久に来なくなったのは本当に残念だ。

 この本に「香菜里屋シリーズ」と一緒に収録されているのが「双獣記」という未完の作品。北森作品には珍しい伝記ロマンだ。厩戸皇子が、威努(イヌ)、佐流(サル)、吉路(キジ)という3人の鬼神のような部下を操り暗躍すると言う作品。これに敵対するのが蘇我蝦夷。なぜか大阪弁をしゃべり。父の馬子とは対立している。厩戸皇子が悪玉で、蘇我蝦夷が善玉というこの種の作品では珍しい設定だ。読んでいるとどんどん引き込まれていき、未完なのが何とも惜しまれる。


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