「邪馬台国はどこですか?」、「新・世界の七不思議」に続くシリーズ第3弾「新・日本の七不思議」(鯨統一郎:創元推理文庫)。




 この作品の基本形は、新進気鋭の歴史学者で超美人の早乙女静香が、寂びれたバー・スリーバレーで、天敵とも言えるライターの宮田六郎と歴史の謎を巡ってバトルを繰り広げるというもの。静香は物凄い毒舌で噛みついて来るのだが、それを宮田が冷静かつロジカルに受け流すというのが、このシリーズのパターンだった。

 ところが、この巻では、少し様子が違う。二人はイヤに仲が良いのだ。静香は、宮田のことを「ロック」なんて呼んでいるし、宮田の方も、一緒に高野山に向かう南海電車の中で、静香のことを、「なんて綺麗な人だろう」と、初めて会ったときから思っていたのだと述懐している。

 静香に気があるスリーバレーのバーテンダー松永は、二人の雰囲気が以前と変わったので、ちょっとやきもきしているがもう遅い(笑)。これまでの巻では、二人はスリーバレーで歴史バトルをしていたのに、この巻では、なんと仲良く二人で色々なところに旅行をしている。だから、二人がバトルを繰り広げるのではなく、第三者と二人が歴史について論争するというようになっている。静香の毒舌も控えめで、以前の作品のような静香の毒舌を楽しみたいと思っている人にはちょっとあてが外れるかもしれない。もっとも、ところどころには、静香らしさがちゃんと出ているのであるが。

 今回のテーマは七不思議というだけあって、以下の七つ。

 ・原日本人の不思議
 ・邪馬台国の不思議
 ・万葉集の不思議
 ・空海の不思議
 ・本能寺の変の不思議
 ・写楽の不思議
 ・真珠湾攻撃の不思議
 

 あまり、歴史的な素養のない私には、開陳される驚くべき新説には、ただ感心するしかないのだが、空海が実は中国人だったという説はどうかなと思う。なぜなら、彼は佐伯一族の出であり、天蓋孤独だったと言う訳ではないのである。また、中国から渡って来た高僧には鑑真のような例もある。別に秘密にするようなことでもないのに、そんな記録も伝承も無いと言うのはおかしいと思うのだが。

 歴史は、覚えるものではなく、解釈するもの。過去のことなので、今正しいとされている歴史も、どこまで真実かは分からない。だからこそ様々な異説がでてくるのだが、こういった異説にも鋭い視点が隠されていることが多い。柔軟な思考を行うためには、定説ばかりでなく、異説にも触れておく必要があるだろう。本書で述べられている事が、どこまで正しいかは私には判断できないが、新しい視点を与えてくれるのは確かだろう。


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