「IT断食」のすすめ (日経プレミアシリーズ)
  • 遠藤功_::_山本孝昭
  • 日本経済新聞出版社
  • 893円
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書評


 私くらいの年代の人だと、若いころと比べて最近のオフィスの風景は大きく様変わりしていることをしみじみと感じることだろう。私の若い頃は、紙と鉛筆(またはボールペン)そして電卓を使っての仕事。技術的な計算も、パンチカードでデータを入力して、何時間も待った挙句に、エラーがあれば最初からやり直し。それが当たり前の時代だった。しかし、今は、ほとんどの人がPCを相手に仕事をしている。手書きだったものは、ワープロソフトで、計算もちょっとしたものならエクセルシート、大がかりなソフトを動かさなければならないようなものも、手元のPCを端末として使って仕事ができる。私など、手書きの文字はとても人に見せられるものではないので、今のようになったのはとてもありがたい。

 その一方で、世の中では、ITに振り回されている人も目立つようになった。例えば、電車に乗ると、多くの人が携帯相手に黙々と何かやっている。一昔前なら読書をしている人の方が多かったと思うが、今は完全に少数派だ。全員がとは言わないが、携帯依存症といっても良い人も多いのではないか。

 似たようなことが、会社の中でも見られる。一日中PCを相手に仕事をしているが、ICF(情報洪水)をさばくのに必死で、BLT(バカのロングテール)によって、時間を浪費させられている。ITを導入しても、生産性は全く上がっておらず、仕事はかえって忙しくなった。情報は色々なものが入手可能だが、肝心の情報を読み説く力の方はどんどん低下している。本書は、そんなITに振り回されているような状況に警鐘を鳴らし、ITからもっと離れて、三現主義や人同士の直接のコミュニケーションを重視することを訴えている。

 本書でも言っているように、ITは主役ではなく単なる道具である。ところが道具であることを忘れて、ITを使うこと自体が、目的化しているケースが余りにも多いのではないか。プレゼンテーション資料ひとつにしても、専用ソフトを使えば確かに見栄えの良いものができる。しかし、その資料を使ってプレゼンを受けた後、頭に残っているのは枝葉末節なことばかりだと言った経験はないだろうか。ひとつ一つのシートは工夫を凝らしてあるが、全体の論理の流れがしっかりしていないのだ。おまけに、一つのファイルに、やたらとあれもこれもと突込み過ぎている。聞いているうちに疲れて、最初の方は忘れてしまう。

 ITに過度に期待せず、もっと本質的な仕事の方に目を向けるべきだという本書の趣旨には大賛成だ。しかし、2点ばかりコメントを加えたいことがある。

 まず、ITの導入によって業務がかえって忙しくなったことについてだ。ITは、人員削減のための手段としても使われることが多いのではないか。これまで、色々なところで人がやっていた業務が、ITを使って集中化される。しかし、どんなに業務がIT化されても、現場には、何らかの付随した業務が残ってしまうことが多い。そうすると、今までは、他の人がやってくれていたものを、人員削減で、自分たちがやらなくてはならなくなる。これが、IT化により却って業務が忙しくなった理由の一つではないだろうか。こういったものは、単にIT断食をするのではなく、仕事の流れを根本から変えないと解決しない。

 もう一つ、部分最適のバラバラなITシステムが、社内のあちこちで見られるようになったのは、情報システム部門が予算を持っていたからで、全体最適なシステムをつくるには、各ユーザ部門が予算を持ち、責任を持ってシステム開発を行うことだと述べていることについてだ。ユーザー部門が予算を持って開発するのが、なぜ部分最適で無くなるのかという理屈がわからない。ユーザー部門に予算も開発も任すと、それこそ個別最適なものをつくりかねず、費用対効果についての評価も手前味噌となりかねない。おまけに、ユーザー部門には、システム開発に関するノウハウが無いため、ベンダーの言うなりになって、とんでもないシステムが出来上がるかもしれないのだ。予算については、情報システム部門がしっかりと統制し、職能的な観点からしっかりとユーザ部門を指導していく方が好ましいのではないだろうか。

 なお、この本は、「本が好き!」さまを通じて献本していただいたものです。お礼申し上げます。


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