柳田 国男の「遠野物語」と並ぶ、妖怪好きのバイブル。小泉八雲ことラフカディオ・ハーンの「怪談」(集英社)。ギリシアのサンタ・マウラ島生まれのハーンは、「ハーパーズ」の通信員として日本にやってくるが、アメリカで知り合った服部一三の斡旋で、松江中学の英語教師として赴任することになる。そこで、松江士族の娘小泉節子と結婚し、やがて日本に帰化して小泉八雲と名乗るようになった。

 余りにも有名なこの作品は、妻の節子が語る日本各地の怪談話を、ハーンが文学作品としてまとめ上げたものだ。節子は、怪談話を集めるため、だいぶ古本屋巡りをしたようであり、なんとも微笑ましい夫婦仲である。

 妖怪好きにはこたえられない話が揃っているが、中でも「雪おんな」は怪しさと美しさが織り交ざり、群を抜いたすばらしさだ。これは、武蔵の国の話。茂作と巳之吉という二人の木こりが、吹雪に遭って泊った小屋での出来ごと。夜なかに、真っ白い女が現れ、歳をとった茂作は凍死させられてしまうが、若い巳之吉は、このことを誰にも言わないという約束で命を助けられる。あくる年、巳之吉は美しい女・雪と知り合い、妻にして、10人もの子供に恵まれた。ある日のこと、巳之吉が、あの夜のことをうっかり雪に話してしまう。すると、雪は、雪おんなの正体を現し、どこかへ消え失せてしまった。

 10人も子供をつくったくらいだから、雪が人の姿で巳之吉の前に現れたのは、彼が吹雪の夜のことを誰かに話さないかを見張るためだけという訳でもないだろう。吹雪の夜に、巳之吉の命を助けたのは、巳之吉に対して、特別な感情を持ったからではないのだろうか。それなら、そんなことは、「朦朧とした意識の中で見た夢」だと言って、スル―してしまえば良いと思うのだが、なんとも融通が利かないのは妖怪ゆえか。それにしても、巳之吉、雪おんな相手に10人も子供をつくって、「○△×」(自粛)は、よく凍傷で落ちたりしなかったものだ(笑)。 なにか、民俗学的な寓意も感じられ、蓮杖那智先生に解き明かしてもらいたい気もするが、残念ながら北森鴻さんはもういない。

 他に、「耳なし芳一」や「おしどり」、「ろくろ首」など、どれ一つをとっても、一本の映画になりそうな怪談が満載である。


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