日本橋の中央に飾られている麒麟像。その麒麟像には翼があるという。その麒麟像まで瀕死の状態でたどり着いて亡くなった男。その胸にはナイフが突き立てられたいた。東野圭吾による加賀恭一郎シリーズのひとつ「麒麟の翼」(講談社)で描かれる事件の幕開けである。被害者は、青柳武明。建築部品メーカーの製造本部長の肩書を持っていた。加害者と目されたのは、元そのメーカーの派遣社員の八島冬樹。パトロール中の警官を見て、逃げだそうとしてトラックに撥ねられ、意識不明の重体に陥っている。彼は、青柳の所持品を持っており、労災隠しのために、青柳の会社から派遣を切られていたという因縁もあった。

 この作品で描かれるのは、正義面をして無責任な報道をするマスコミや、労災隠しの責任を死人に口無しとばかりにすべて青柳に被せようとする会社の悪質さ。そして、さっさと八島を犯人として片付けたい警察上層部のいいかげんさなど。しかし、加賀はあくまで事件の真相を突き止めようと、地道に捜査を進める。

 青柳は、なぜか自宅からも会社からも通い日本橋に通い詰めていた。いったい日本橋にどのような目的があったのか。どうして、亡くなる際に最後の力を振り絞って、麒麟像のところまでたどりついたのか。捜査を進める加賀の前に現れたのは、驚くような真実。

 このシリーズの魅力は、なんといっても加賀刑事の捜査方法だろう。どこやらの安楽椅子にふんぞり返って、見て来たような推理を披露するメイ探偵とは違う。自分の所管区域を足で歩き回って、事件の糸口を解明していくのだ。

<行き詰ったら、何度でも原点に戻る。それが私のやり方なんです>(p200)

 上層部の空気など気にせず、どこまでも真実を追い求める加賀の態度はすがすがしい。彼は単に事件を解決するだけでなく、事件に関わった人たちの心も救っていく。

 麒麟の翼にたどり着くことで、八島が息子に伝えたかった親としての思い。そして麒麟の翼というタイトルに込められた別の親の思い。そして、これから親になる八島の恋人・香織の思い。そんな「思い」というものがひしひしと伝わってくるような作品だ。 


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