現在放送大学で、「文化人類学」という科目を履修していることもあって、学習センターに寄った際に借りてきた「文化人類学のすすめ」(船曳建夫編:筑摩書房)。

 文化人類学は、ほぼ20世紀の開始とともに始まった、比較的新しい学問だ。それは、19世紀的な人間観、世界観を変えるほどのインパクトを秘めていた。ここでいう19世紀的な人間観、世界観とは、これまでの生命、社会現象のすべてを、壮大な体系の中に位置付けるというものだ。つまり、劣ったものから優れたものへと秩序付けようとする西洋中心の価値観であり、かっての植民地主義に繋がるようなものだった。しかし、文化人類学は、異なる自然環境、異なる地域、歴史の中で、平行して進んできた、人間の社会的、文化的活動に光を当て、20世紀を切り開いたという。

 文化人類学は、「未開社会」を扱うものという誤解があるようだ。この「未開」というのは、西欧的価値観に他ならないのだが、本当にそうだとすると、世界のグローバル化により、どんどん真の「未開」が少なくなっている昨今、文化人類学が活躍できる場はどんどん小さくなってしまう。だが、実際にはそんなことはない。〈「人類」のさまざまな文化・社会の問題を、「人間」とは何か、という深さまで降りて論じる〉(p17)のが文化人類学だからだ。だから、グローバル化により、より複雑になった社会の中で、文化人類学は、ますます重要な役割を担っていくものと思われる。

 本書は、編者による、文化人類学の大御所、山口昌男へのインタビューから始まり、編者を含めた10人の研究者が、それぞれの立場から文化人類学について熱く語っている。しかし、本書は決して文化人類学の入門書ではないだろう。これから大学での専攻を決めようという人に向けた勧誘の書なのだ。編者によれば、文化人類学をすすめる理由は2つだそうだ。ひとつは、あなたを幸せにするから。もうひとつは、世界をより良いところにするからということである。実は私が、昔大学に入った時に、一般教養として履修した科目の一つが、「文化人類学」だった。田舎の高校から出てきて、右も左もよく分からないままに履修したのだが、あのころこのような書があればよかったのにと思う。

 ところで、文化人類学の研究方法の特徴は、フィールドワークを重視するということなのだが、最近は、「フィールドワークをしなければいけないんですか」と聞いてくる学生もいるらしいから、少し嘆かわしい。

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