・ロウソクの科学
・ファラデー、(訳)三石巌
・角川文庫

 電気工学の世界では、知らぬ者はないだろうというファラデー(なんちゃって電気工学専攻という人は知らないが)。これは、そのファラデーが1861年のクリスマス休暇に、ロンドンの王立研究所で行われた講演を記録したものだという。ファラデーは19世紀の前半に活躍したイギリスの科学者である。

 読んで感じたのは、ロウソク一つをテーマにして、よく6回も講演が続けられたなということ。ファラデーは貧しい家に生まれたため、高等教育を受ける機会はなかった。だから彼には、物理現象を数学的に取り扱うことは苦手だった。しかし、そのことがファラデーの偉大さを損なうことはない。彼は偉大な実験科学者として、その名を現代まで伝えている。そして、ファラデーの発見したことは、現代の物理学や化学、これから分かれた工学での基礎として大いに役立っている。彼が電磁誘導の法則を発見しなかったら、文明の発展はかなり遅くなったのではないか。

 しかし、この部分は正しいのだろうか。
「皆さんは、気体と蒸気の違いを心得ていらっしゃらなければなりません。気体は永久的にその状態を保つもの、蒸気は凝結するものなのであります。」(p44)

 気体と液体は同じもので、物質によりその沸点に違いがあるに過ぎない。室温で気体でも、冷やせば液体になるのだ。つまり、気体とは沸点の低い物質の蒸気に過ぎない。実は塩素の液化に成功したのはファラデー自身であり、1823年のことだという。だからこの講演が行われた時には、既にファラデーは気体を液化できることを知っていたはずだ。だから、何か考えがあって、このようなことを述べたのか、実際にはこんなことは言っていなかったのか。そこはよくわからない。

 時代の流れの中で、多くの学者が埋もれていく中で、彼の名声はいまだ変わらず輝いている。この本のテーマは電気とは関係ないが、偉大な科学者とはこのようなものだということが分かるだろう。



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