風竜胆の書評

コミックスから専門書まで、あらゆる本を読みます。元エネルギー企業の専任部長。現在は、ライター・書評家を標榜する自由人w 時に書評が過激になるのは、長州人の血? 現在「シミルボン」と「本が好き!」でも活動中。 執筆依頼、献本等歓迎します。右欄のメッセージ機能にてご連絡ください。 旧ブログ名:本の宇宙(そら)

2011年12月

平城山を越えた女4



 奈良の新薬師寺は、天平19年(747)聖武天皇眼病平癒祈願の為に光明皇后によって建立されたと伝えられる。国宝である本尊薬師如来坐像や同じく国宝の十二神将像で有名な寺だ。かって、この寺に、「香薬師」と言われる美しい仏像があったという。

 高さ75cm 程の小さな像であるが、明治年間に2度も盗難に会い、そして昭和18年に3度目の盗難に会ったきりその行方が分からないという。

 内田康夫の「平城山(ならやま)を越えた女」は、この「香薬師」の盗難事件をモチーフに、因縁の物語を紡ぎだし、浅見光彦シリーズの旅情ミステリーとして仕立てたものである。

 大手出版社に勤める阿部美果が、京都大覚寺で写経をしているとき、M商事庶務課長代理の野平と名乗る男が寺にやってくる。娘が失踪したので、探しているというのだ。美果と、たまたまそこに居合わせた浅見光彦は、こうしてこの事件に関わることになる。

 数日後、奈良ホトケ谷で若い娘の死体が発見される。美果は、もしやと思い、野平の勤めるM商事に電話をかけるが、京都になど行っていないと言われて電話を切られてしまう。

 果たして、大覚寺で野平と名乗った男は何者か。ホトケ谷で死んでいた娘は誰か。「香薬師」の盗難事件に関わる意外な因縁とは・・・

 内田康夫の旅情ミステリーは、実際にあった話が織り込まれているので、本論のストーリーより、そちらの方に興味がわくことが多い。この作品には、「香薬師」の他にもかって奈良公園にあった、会津八一、亀井勝一郎、和辻哲郎などの有名人ゆかりの宿屋である「日吉館」のことも出ている。この宿屋はかってNHKで放映された連続テレビドラマ「あおによし」のモデルだったということだ。肝心のミステリー以外のところでも、興味深い話題を提供してくれて、なかなか面白い。


本記事は、2006年06月16日付で「時空の流離人」に掲載したものに加筆修正したものです。


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時空の流離人

京都・魔界巡り3






 1200年以上の歴史を誇るきらびやかな都、京都。かって、王朝文化が栄えた華やかな都というイメージを持っている方も多いだろう。確かに、京都は日本の古き文化の残る魅力的な街である。私も、学生の頃京都で過ごし、今でも懐かしい思い出多い場所である。

 しかし、その一方で京都は魔界都市でもある。京都に四神相応の結界が張ってあるのは良く知られている。北に玄武(船岡山)、南に朱雀(巨椋池)、東に青龍(鴨川)、西に白虎(山陰道)を見立てた結界である。何しろ京都は古来貴族たちの権力闘争の犠牲者たちが、怨霊となって跋扈する街だったのだから。中でも、早良親王、菅原道真、崇徳上皇などは有名だろう。

 だから、京都のあちこちには、そんな京都の裏歴史にゆかりの場所がそこかしこにある。本書は、そんな裏京都に関する異色のガイドブックだ。ちょっと変わった京都観光をしてみたい方、ぜひともこの本を片手に掲載されている箇所を巡ってみてほしい。巻末には、簡単な地図もついている。かなりアバウトな地図だが、京都は碁盤目のように整備された街だから、これでも大丈夫だろう。きっと、いつもと違った京都があなたを待っている。


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時空の流離人

淋しい狩人4



 宮部みゆきは時代ものの方が好きなのだが、これは現代ものの「淋しい狩人」(宮部みゆき:新潮社)。東京の下町にある田辺書店という古本屋を舞台に、本に関係した事件を扱った連作短編集である。

 主人公のイワさんは、会社を定年後、故人となった親友の店である田辺書店の雇われ店主となった。親友の息子は刑事だったため店をやるわけにはいかない。親友の、店をのこして欲しいという思いを継いでくれる人としてイワさんに白羽の矢がたったと言う訳だ。毎週末には孫の稔が泊まり込みで来て店を手伝ってくれる。このイワさん、定年後の雇われ店主とは思えないくらい、古本屋のおやじが板についているが、どういうわけか、本に関連する様々な事件に遭遇してしまうのである。

 本書に、収録されているのは次の6編。

○六月は名ばかりの月
 以前に妙な男に付けられていたというので店に匿い、家まで送り届けた鞠子の結婚式で、引き出物として用意した小説の表紙にいつの間にか、真っ赤な字で「歯と爪」といういたずら書きがされていたという。

○黙って逝った
 父親の遺品にあった、300冊もの同じ本。本の名前は「旗振りおじさんの日記」

○詫びない年月
 独居老人を訪問しているヘルパーの淑江さんから聞いた、柿崎家の幽霊の話

○うそつき喇叭
 小学校低学年の子供が、田辺書店で万引きを。その子が盗ろうとしたのは、「うそつき喇叭」という童話。その子の体には、虐待と思われる痕跡が。

○歪んだ鏡
 OLの久永由紀子が電車で拾った本に挟まれていた名刺の謎は。

○淋しい狩人
 未完のまま、作者が行方知れずになった小説「淋しい狩人」。その続きを現実世界に移したという殺人事件が発生する。

 これらの謎を、イワさんと孫の稔とで解決していくのだが、謎解きの話に、稔と年上の女性との恋愛話などが絡んで、なかなか面白い短編集にまとまっている。殺人事件なども絡んでいるが、小説の調子としては、それほど重い感じはないので、徒然に任せて読むのにはよいだろう。


本記事は、2008年11月09日付で「時空の流離人」に掲載したものに加筆修正したものです。


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まぼろしの邪馬台国4






 邪馬台国といえば、知らない人は少ないだろう。しかし、かって邪馬台国といえば、学者の間でしか取りあげられないようような話題だったという。世間に邪馬台国を知らしめ、ブームをつくりだしたのは、元島原鉄道常務の宮崎康平氏に負うところが大きい。「まぼろしの邪馬台国」は、視力を失いながら邪馬台国の解明に執念を燃やした康平氏と彼を支え続けた、妻和子さんを描いた映画である。2008年(平成20)に公開された。

 ただし、事実に基づいていると言っても、色々と設定は変わっているようだ。すぐ分かったのは、実際は常務だった宮崎氏が映画では社長として描かれていることだが、おそらくその他にも色々あるのだろう。

 ワンマンでいばりんぼうだが、その一方では人情に厚い人物として描かれている康平氏だが、島原鉄道を退いてからは邪馬台国の解明という青春の夢を追い続けた。そんな康平氏を懸命に支え続けたのが和子夫人だ。目の見えない夫のために魏志倭人伝を初めとする文献を朗読したり、夫の目となって、共に現地調査の旅を続ける。いつしか、邪馬台国の解明は康平氏だけではなく和子夫人の夢にもなっていたのだろう。

 夫婦愛の美しさ、夢を持ち続けることのすばらしさ、実際に現地に赴くことの大切さ、そんなことを教えてくる作品だった。


(原作)宮崎康平:まぼろしの邪馬台国



(監督)
・堤幸彦

(出演)
・吉永小百合(宮崎和子、卑弥呼)
・竹中直人(宮崎康平) ほか



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100年先を読む―永続への転換戦略3


100年先を読む―永続への転換戦略
  • 月尾嘉男
  • モラロジー研究所
  • 1470円
Amazonで購入
書評


 現代社会は、大量生産、大量廃棄、大量エネルギー消費の時代だ。しかし、既に地球には、養うことが可能な人口である48億人を大幅に超過した、65億人もの人間が居住している。本書はこんな状況がいつまでも続く訳がなく、増大から縮小の方向に転換していく必要があると訴えている。この論調には基本的には賛成である。経済の世界では、GDPで計測した成長というものが常に求められる。しかし、経済という者は、本質的にはねずみ講といっしょだ。地球が有限であることを考えると、どこかで行き詰まらざるを得ないだろう。人類は、これまでのパラダイムを大きく転換して、持続可能な世界というものに舵を取っていかなくてはならない。本書には、そのためのヒントがたくさん詰まっていると思う。

 しかし、その目線は、一部海外に向いているところも見られるものの、基本的には国内を向いているように思える。 グローバルな環境問題が話題になっているように、今の世界では、日本単独では何も解決できない。日本独自の縮小文化だとかもったいないの文化を、いかにして海外に積極的に広めていくかということについても、もっと考察が欲しかった。

 本書は、モラロジー研究所発行の「道経塾」や日本電気協会発行の「電気新聞」に掲載していたものを再構成したものだという。そのせいもあるのだろうが、思いつくことをその都度記載しているといった観があり、全体としてもう一つ纏まり感がないように思えるのも少し気になる。

 細かなところにも、気になるところがいくつかある。まず、「1000万戸の便器には出勤直前の午前8時前後に集中して使用され、温水を噴射するマイクロモーター駆動に必要な電力は日本の電力供給の3%に相当し、100万キロワットの原子力発電機五機を稼働して発電する電力である」(p89)と言っているところ。これを逆算すれば、便器には500Wのモーターがついていることになる。500Wのモーターはかなり大きいので、便器には入らないだろう。(ちなみに我が家の大きな扇風機でも定格は50Wもない。)これは、おそらく、温水をつくるためのヒーターの電力のことではないだろうか。いずれにしても、使用するのはごくわずかな時間なので、時間的に重なっている割合はかなり低くなり、それを単純に合計するのはどんなものだろう。またこの時間帯は、電気の需給にはまだ余裕があるので、温水洗浄便座が無ければ500万キロワットの発電所が不要になると誤解する人が出そうな記載はいかがなものか。

 もうひとつ、「人生の相当の時間を消費して英語を習得する必要があるかは疑問である。」(p96)という部分。確かに、以前の「ジャパン・アズ・No1」の時代ではそうだったかもしれない。しかし、現状はどうだろう。政治も国内経済もだめ、エネルギーも食糧も心もとない。企業も、拠点をどんどん海外に移していく。日本人はこれまで以上に海外に出ていかざるを得ないのではないか。その為には、英語の役割はますます重要になってくる。また、日本の縮小文化やもったいない運動を世界に広めていくためにも、英語が使える人々の裾野は出来るだけ広い方が良い。もちろん、日本の文化がもっと世界に広まり、日本語が世界共通語のデファクトスタンダードとなれば、その時こそ英語を捨てられるのだが。

 そうはいっても、考えるための材料はたくさん詰まっている。要は、読者がこれを基に自分の頭でどう考えていくかということだろう。


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メビウスレター4




 「キミが消えてから、ぼくはいったい何通の手紙を書いたろう。届くはずのないキミに向かって、ひたすらに書き続けた手紙。それが一連の事件の真相に近づいていく鍵だったなんてことを、いったい誰が予想しただろうか」(北森鴻:メビウス・レター)

 故北森鴻は、私が最も好きな作家のひとりである。1995年に、デビュー作の「狂乱廿四考」で、第六回鮎川哲也賞を受賞し、更に、1999年には「桜の下にて春死なむ」で第52回日本推理作家協会賞短編および連作短編部門賞を受賞している。すでに彼の作品の多くにレビューを書いているが、特に連作短編は読み応えがある。今回の「メビウス・レター」(北森鴻:講談社)は、長編小説だが、これも期待を裏切らない面白さで、彼の才能の幅を感じさせる。

 物語は、地震で倒壊した工事中の自動車道の橋脚近くから人骨が発見されたという新聞記事から始まる。そして、流行作家の阿坂龍一郎のところに手紙が次々に送られてくるようになった。二度と顧みないと誓って捨てたはずの過去からの手紙、それは、7年前に、ある高校で、一人の生徒が焼身自殺を遂げたとされる事件の真相を追及するものであった。

 そして、ストーリーは、裏と表の関係にある現代と手紙の中の過去が、お互いに、入れ替わりながら進んでいく。まるで、どちらが表か裏かが分からないメビウスの輪のように。そして、手紙の中の一人称の「ぼく」の正体、管理教育の権化で犯人と目された体育教師三島や美人で人気者の音楽教師小椋の本当の姿、こういったものが次々とひっくり返りながら、最後は意外な事件の全貌が明らかになる。よく考えぬかれた、いかにも北森らしい読み応えのある作品である。



本記事は、2008年07月26日付で「時空の流離人」に掲載したものに加筆修正したものです。


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めくりめくる24

倉敷美観地区

 倉敷の女子高生(時々男子高生)の等身大の日常を描いた、倉敷ご当地漫画、「めくりめくる」(拓:ワニブックス)の第2巻。ちょっと前に、仕事で倉敷を訪れた際に、この作品とタイアップした観光ポスターが貼ってあるのを目にした。ネット上でも、「聖地巡礼」と銘打った、作品の舞台となった場所の探訪報告も時折目にするので、話題性は十分というところだろう。

 この作品で扱われているのは、ちょっとした恋愛の悩みだとか友情の話だとかいったようなもの。好きな先輩ともっと近づきたいのに、なかなかうまくいかないとか、友達と一緒に進級したいとか、クラスが分かれても友達でいようねといったようなこととか、些細だが、ちょっと微笑ましいような話ばかりである。決して、大きな事件なんて言うのは起こらない。

 さわやかで、可愛らしくって、今時本当にこんな女子校生っているのだろうかと思いながらも、どんどんと作品の魅力に引き込まれていく。本当にほっとするような読後感の作品だ。

 ただ、残念なことに、明らかに倉敷だと分かるのは、表紙の美観地区と、最終話で出てくる鶴形山公園位だった。他にもひっそりと、倉敷の風景が出てきているのだろうがマニアでないと分からない。できれば、倉敷らしい見どころをもっと紹介して欲しかった。






○関連過去記事
めくりめくる1


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H25.10.26発売の図書新聞(3132号、2013年11月2日号)に「泥棒は几帳面であるべし」の書評掲載

H26.6,28発売の図書新聞(3165号、2014年7月5日号)に、「市場主義のたそがれ―新自由主義の光と影」の書評掲載

H28.8頃より「シミルボン」への投稿開始

H29.7.4「彗星パンスペルミア」の書評が「新刊JP]に掲載

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H30.7.26.「シミルボン」にインタビュー記事掲載

2019.2.23.「本が好き!」×「書店フェア」で「あなたの街で本と出会う Vol.2」に「こころを彩る徒然草」のレビュー掲載

2019.04.28.【本が好き!×カドブン】コラボレビュー!第4回『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』の書評が掲載

2020.01.24.「貧乏大名“やりくり”物語 たった五千石! 名門・喜連川藩の奮闘」が「新刊JP」に掲載

2020.02.04.『どんなことからも立ち直れる人』の書評が「新刊JP」に掲載
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