風竜胆の書評

コミックスから専門書まで、あらゆる本を読みます。元エネルギー企業の専任部長。現在は、ライター・書評家を標榜する自由人w 時に書評が過激になるのは、長州人の血? 現在「シミルボン」と「本が好き!」でも活動中。 執筆依頼、献本等歓迎します。右欄のメッセージ機能にてご連絡ください。 旧ブログ名:本の宇宙(そら)

2015年07月

再生コンサルティングの質を高める事業デューデリジェンスの実務入門5



 事業デューデリジェンス(以下事業DDと書く)という言葉は、一般にはあまりなじみがないものと思うが、事業再生に関わるコンサルタントや関係者にとっては、よく使われている言葉のようで、企業を、経営、組織、営業、製造などの色々な視点から、調査・分析して、今後の方向性や施策などを報告書として纏めることを言う。本書は、この調査・分析をいかに行い、どのように報告書に纏めたら良いのかを示した事業DDの手引書である。

 本書では、事業再生、事業DDの概要、知っておくべきフレームワークやヒアリングの方法、調査のための事前準備などについて解説された後、事業調査報告書の構成とそれに収めるべき内容が細かく説明されている。一つの項目について、見開き2ページで解説するという構成で編集されているため、通読した後、実務で事業DDに取り組む際に、不明な箇所について、その部分だけ読み直すといったような場合にはとても便利だ。

 収められている分析手法などは、経営企画系の人間にはおなじみのものも多いが、これが事業DDという一つの流れの中で体系的に配列されているため、極めて分かりやすい。本書を一読すれば、もう今からでも事業DDが行えるような気がしてくるほどだ。もちろん、そんなことは幻想で、紹介されている手法をただ頭で理解しただけでは役に立たないことは言うまでもない。本書にも明記されているように、<しっかりと分析結果を導き出すには、「知っている」⇒「中身を理解する」⇒「使い方を理解する」⇒「どこで使用すべきかを把握する」⇒「使いこなす」までにレベルを上げて>(p31)いくということが不可欠なのである。

 本書の内容は、なにも事業DDを行うコンサルタントだけに役立つものではない。例えば、経営企画部門や内部監査部門などで働く人にも十分に有用ではないだろうか。本書に書かれたことを自家薬籠中のものとすれば、一味違う仕事ができるに違いない。そのためには、自分で実際にやってみることだ。本書には、「読者限定特典」として、「事例サンプル」、「事業DDフォーマット兼ヒアリングシート」、「財務分析シート」がダウンロードできるので、必要ならこちらも参考にされたい。

 なお本書は、「本が好き!」さまを通じて献本いただいたものです。お礼申し上げます。


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ドS刑事 三つ子の魂百まで殺人事件4




 七尾与史による「ドS刑事シリーズ」(幻冬舎)第3弾「三つ子の魂百まで殺人事件」。主人公は、警視庁捜査一課三係刑事の黒井マヤ。階級は巡査部長だが、「姫様」と呼ばれ、腫れ物に触るような扱いだ。それもそのはず、マヤの父親は、次期長官と見なされている、警察庁の次長。彼女の逆鱗に触れて、へき地に島流しにされてしまったものが何人もいるらしい。

 このお姫様、長い黒髪に白磁のような柔肌。超絶美貌なのだが、ドSなうえに猟奇趣味。犯行現場から、遺体の一部をこっそり持ち帰ってコレクションしているのだ。彼女が刑事になったのも、死体が見たいかららしい。頭も切れ、推理能力は抜群なのだが、次の死体が見たいために、自らの推理を秘密にしておくという困った習性がある。

 このマヤのお守り役が、代官山脩介巡査。通称、お代官様。なぜかマヤに気に入られて、露骨に秋波を送られている。代官山の方も、マヤの美貌には魅かれているのだが、なんといっても彼女の趣味が・・・。彼の役目は、マヤが推理していることを探り出すこと。

 そして、二人と行動を共にしているのが、キャリア警察官である浜田学警部補。階級上は、二人の上司に当たるのだが、ドMで、マヤから、ほとんど犯罪と言えるようなドS行為の受け役となっている。マヤを女神のように崇拝しているのだが、いつも扱いは散々。もちろん、この巻でも、その扱いは変わらず。マヤにとっては、自分と代官山の間を飛び回るお邪魔虫にすぎないようである。

 この巻では、マヤの中学生時代の出来事が明らかになる。なんと、騙されて、親友、神童キリコといっしょに誘拐された過去があったのだ。あわやというところで、いっしょに逃げ出したものの、追跡されて、結局自分だけが助かっている。しかし、その時のショックで、当時の記憶は、あまりないらしい。ストーリーは、現在の事件と当時の事件が入れ子構造のような形で進んでいく。

 マヤの猟奇趣味は、中学時代からあったようだ。何しろ目の前で起こった交通事故の被害者の爪を持ち帰ってしまうのだから。一方、神童キリコも猟奇的なホラー映画の大ファン。まさに類は友を呼ぶ。二人はすっかり意気投合して大親友になったのだ。しかし、あっさり騙されて、キリコと二人で誘拐されるとは、まだまだこのころのマヤは、小娘に過ぎなかったようである。

 現在の事件とは、白井マヤという女性が、胃が破裂するまで、ケーキを食べることを強要されて殺された事件だ。この被害者の名前が黒白逆転のマヤということが、事件にマヤが巻き込まれていくという伏線にもなっているようだ。この被害者、外面はいいが、裏は相当邪悪だったようで、そのせいで自殺した人間もいたらしい。

 実は、過去にも同様の猟奇的な事件が発生しているのだが、被害者には、いずれも他人を自殺に追い込んでいるという共通点があった。これらの事件はやがて、マヤが昔巻き込まれた誘拐事件とクロスしていく。
 
 ところで、今回の事件で重要なガジェットとなっているのが、スナッフフィルム。実際の殺人の様子を収めているというとんでもないものだ。マヤは、つてを使って、代官山と上映会に行っているが、洋物なのが不満だったようで、「国産はないのかしら、国産は」なんて言いだしている。しかし、今回の事件では、あわや自分がスナッフフィルムの主役になってしまうところだったのである。ドS女王様が、スナッフフィルムの被害者なんかにされては、シャレにもならない。今回、いくら過去の出来事が関わっているにしても、女王様、行動が、少し軽率すぎるのではないか。
 
 巻が進むにつれ、下僕浜田へのドS攻撃は、ますますパワーアップ。異様な迫力のマヤパパも登場して、マヤと代官山の関係は、どんどん抜き差しならない方向へ。代官山は、マヤに魅かれながらも、やはり猟奇趣味にはついていけないようだ。代官山、マヤパパに撃ち殺される前に、もう覚悟を決めろ(笑)。

 最後に、最近小説を読んでいると、作者に電気に関する初歩的な知識がないことにイラッとすることが多い。この作品にも、「高圧電流」(高電圧とか大電流という表現はあっても、高圧電流というものはない)という言葉が使われていた(p133、p331)これには、、「ブルータスお前もか!?」とがっかり。


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東京育ちの京都探訪 火水さまの都4




 京都観光住人歴、丸12年(執筆時)という著者が京都の魅力を描いた、「東京育ちの京都探訪」(麻生圭子:文春文庫)。

 著者夫婦は、2005年5月から、2件目の町屋に引っ越しをした。前の家が間取りに欠陥があったということで、契約が切れたのを契機に引っ越したらしい。新しい家は、なんと2百坪の敷地に茶室付。しかし、空き家になって数年とは思えないような荒みぶりだった。なにしろ、雨漏りも半端じゃない。滝のようなと形容されるくらいなのだからすさまじい。著者夫婦は、修復工事、植栽の剪定、家の掃除と、住めるようになるまでに、膨大な費用と労力を費やす。この奮闘記を描いたのが、第一章の「「町屋」の物語」。

 普通は、住めるようにするのは、大家の責任だと思うのだが、1件目の家もだいぶ手を入れたようなので、京都の風習は違うのだろうか。人件費節約のため、自分たちでできるところは自分たちでやったということだが、おかげで、ご主人は、激やせしたらしい。皆さんも、一度試してはどうだろうか。「京都の町屋復元ダイエット」(笑)。

 ところで、本書は、第一章をプロローグとした後、第二章「「掌」の物語」、第三章「「火」の物語」、第四章「「水」の物語」と続いていく。しかし、このような章建てになっていても、各章に収められているエッセイが、きちんとタイトルに従って、分離されているわけではない。確かに、第三章は、「火」に関する話題が中心になっているし、第四章は、「水」に関する話題が中心となっている。しかし、第二章にも、「水」の話と「火」の話が入り込んでいるし、第三章、第四章にも、それぞれ、「水」や「火」に触れている部分もあるのだ。

 副題の「火水さまの都」というのは、言い得て妙だ。この「火水さま」というのは、著者が下鴨神社の宮司から、「ここでは神さんのことを火水とも書くんです」と聞いたことからきているようだが、まさに京都は、火と水の都。一般的には、水と火とは一般には並び立たない、二律背反のような存在として描かれることが多い。しかし、京都では、火と水が調和を保ってこそ京都らしさが生まれてくるのだろう。それにしても、京都観光住人という著者の立場はうらやましい。私も、また、京都へ行きたくなってきた。ほんと、宝くじでも当たらないものか(笑)。


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3




 今日は、芥川龍之介の命日、名付けて「河童忌」ということで、青空文庫から、ヘンな作品を探して読んでみることにした。芥川と言えば、「蜘蛛の糸」、「杜子春」など、昔の教科書に載っていたような(最近は教科書を読んだことがないので、今でも載っているかは不明)、なんだか説教臭い作品で有名であるが、この他にも、なんだかよく分からない作品、ヘンな上にやっぱりよく分からない作品も多く書いている。そして、この「虱」は、これらのうち、3つめのカテゴリーに入るような作品だろう。

 簡単に内容を説明すると、舞台は、長州征伐に向かう、京都守護の任に当たっていた加州家の金毘羅船の中。この船、38人もの人間が、ぎゅうぎゅう詰めに詰め込まれている上に、なぜか、沢庵桶が足の踏み場もないほどに並べられているのでむちゃくちゃ臭い。そして、<人間を乗せる為の船だか、虱を乗せる為の船だか、判然しない位である>と書かれているくらい、至る所虱だらけなのだ。どうして船の中で、これだけ虱が大繁殖しているのかは謎だが、乗り込んだ藩士たちは、暇さえあれば虱を取っている。

 人間が38人もいれば、ヘンな奴も交じっている。この船に乗った連中の中にもその例に漏れず、ヘンな奴がいた。それも二人も。一人は、森権之進という男。虱を取ったら、自分が飼うので、殺さずに自分にくれと言うのだ。彼の理屈はこうである。

<体に虱がゐると、必ずちくちく刺す。刺すからどうしても掻きたくなる。そこで、体中万遍なく刺されると、やはり体中万遍なく掻きたくなる。所が人間と云ふものはよくしたもので、痒い痒いと思つて掻いてゐる中に、自然と掻いた所が、熱を持つたやうに温くなつてくる。そこで温くなつてくれば、睡くなつて来る。睡くなつて来れば、痒いのもわからない。――かう云ふ調子で、虱さへ体に沢山ゐれば、睡つきもいいし、風もひかない。だからどうしても、虱飼ふべし、狩るべからずと云ふのである。……>

 そしてもう一人のヘンな人、井上典蔵。こちらは、「虱食う派」だ。彼によると、虱は<油臭い、焼米のやうな味>らしい。この二人には、それぞれシンパが出てきて、時折虱のことで口論が起きる。そして、井上が、森の大事にしている虱を食ったことから、あわや刃傷沙汰。長州との戦争に行くんだろう。大丈夫か加州家。

 聴いただけで体中が痒くなるような話だが、一つの推理が頭に浮かんだ。「船の中に虱を持ち込んだのは、こいつらや!」


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白鳥麗子でございます!(1)4



 鈴木由美子の「白鳥麗子でございます!(1)」(講談社)。

 「ほほほほほほほ」

 日本一のお嬢様と言えば、なんといっても、白鳥麗子。頭に響きそうな高笑い。ワンレン、肩パッド入りのボディコン。高ビーな女王様。私の中にあった白鳥麗子像はそんな感じだった。この単行本の発売が、1988年だというから、時はまだまだバブルの真っ最中。そういえば、昔はディスコのお立ち台に、こんなのがいっぱいいたなあと思いながら読んでみると、思っていたのとはだいぶ違った。

 確かに、白鳥麗子はプライドが高い。小さいころから、秋本哲也という男子が大好きなのだが、プライドが邪魔をして、それをうまく表せない。実は、哲也も麗子のことを好きで、高校の時に告白したのだが、麗子は、周りの女子たちに「もっと理想高いと思っていたわ」とか「あんがい凡人だったのね」などと散々言われて、心ならずも振ってしまう。これは、かっこいい哲也を、麗子に取られたくないという女子たちの陰謀だったのだが、女って怖い。

 高ビーなくせに、一途なところのある麗子は、哲也を追いかけて、同じ大学に聴講生で入るわ、住まいも哲也のアパートの隣のマンションにするわといったようなことなどまだ序の口。偶然を装って、まるでストーカーのように、哲也にまとわりついているのだが、高ビーな物言いだったりということもあり、にぶちんの哲也には麗子の気持ちがなかなか伝わらない。ツンデレという言葉はまだ当時浸透していなかったようだが、もしかするとこのあたりがツンデレの元祖なのだろうか。そんな麗子は、傍から見ていると可愛らしくってしょうがないのだが、ふたりの関係はすれ違いの連続。

 それでもこの1巻は、ハッピーエンドらしき終わり方をしていた。しかし、全部で7巻あるようなので、この後二人の関係はどのように展開していくのか、きわめて興味深い。


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悪女は自殺しない3





 ネレ・ノイハウスによるドイツミステリー、「オリヴァー&ピア」シリーズ第1作目となる「悪女は自殺しない」(酒寄進一訳)。ただし、邦訳の方は、ノイハウスの真価が分かる作品を優先するという理由から、第3作、第4作が先に発表されている。だから、原作シリーズでは本作品は第1作目なのだが、翻訳の方は、第3弾となっている。

 事件は、フランクフルト検察局のハルデンバッハ上級検事が自殺したことで幕を開けた。さらには、イザベルという女が毒物を注射されて殺されているのが発見される。事件は、主に、この毒殺事件の捜査という形で進行していく。これを担当するのがホーフハイム刑事警察署主席警部のオリヴァーと部下の女性警部ピアなのである。

 このイザベルという女。捜査の過程で、悪い話が出てくる、出てくる。夫はいるのだが、自分が遊び暮らすことにしか興味がなく、他の男と寝るのはあたりまえ。詐欺に加担したり弱みを握った人間を脅迫したり。もう「悪女」というよりは「ビッチ」、まさに「雌犬」といっていいような、とんでもない女だった。ものすごい美人という設定だが、いくら美人でも、さすがにこんな女は願い下げだ。

 一方、犯罪の方も出てくる、出てくる。詐欺、経済犯罪、人身売買など、多くの犯罪が蜘蛛の巣のように絡まっていくのだ。いったい、これらが、本筋の殺人事件とどのように繋がっていくのか。この複雑に絡まった蜘蛛の巣から、次第に事件の真相が見えていく過程は、なかなか読みごたえがある。最初に起きた、ハルデンバッハ上級検事の自殺事件も、途中までは、「いったいあの件はどうなったんだ?」というような感じだったが、こちらも、途中から、この蜘蛛の糸に絡まってきた。この複雑に絡まった多くの事件の中から、本筋の事件を浮かび上がらせていくというのが、この作品の大きな魅力だろう。

 ところで、ドイツの警察というのは、人を気軽に逮捕してしまうのだろうか。本作には、オリヴァーがイザベルの夫のケルストナーを「念のため、妻を殺した容疑で逮捕します」(p62)と言って逮捕してしまう場面がある。この時点で、証拠と言えるものはないにも関わらず、こんな軽いノリで逮捕されてはたまらない。すぐに釈放はされるのだが、日本なら誤認逮捕で大問題になるところだ。 

 そして、もう一つ、これは私が電気工学系のバックグラウンドを持っているからかもしれないのだが、最近小説を読んでいると、作者もしくは翻訳者に電気の知識がないということに苛立つことが多い。本作においても、「強電圧が必要なので」(p257)という表現が出ていた。「高電圧」という言葉はあるが、「強電圧」というのはない。なぜか次の258ページでは「高電圧」に直っていたが、今度は、「二、三百ボルトの電流」(電圧と電流の区別がついていない)という表現が使われており、あきれてしまった。こんなことは、中学校の理科のレベルの知識であるうえ、電気というのは、結構ミステリーにも登場する。それなのに、むちゃくちゃなことが書かれていても、誰も気づかないのだろうか。いっそ、作家や翻訳者、出版関係者には、電気の基礎知識の講習を義務付けたいものだ。

 なお本書は、「本が好き!」さまを通じて献本いただいたものです。お礼申し上げます。

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1枚の「クレド」が組織を変える!3




 「クレド」による経営の重要さを説いた「1枚の「クレド」が組織を変える!」(実島誠:実務教育出版)。「クレド」(Credo)とは、日本語で信条とか約束と訳されているが、企業経営に使われる場合には、その会社の経営理念や価値観を明記したものを言う。

 クレドの例として、最も有名なのは、ジョンソン・エンド・ジョンソン社の「我が信条(Our Credo)」だろう。これは、同社の3代目社長であるロバート・ウッド・ジョンソンJr.氏によって作られたものだが、これが有名になったのは「タイレノール事件」に対する適切かつ徹底的な対応を、クレドの精神に基づいて行ったからだ。「タイレノール事件」とは、同社の製品であるタイレノールに何者かが毒物を混入し、死者まで出した事件である。1982年のことだ。この時、同社には、対処のためのマニュアルなど存在しなかったようだが、クレドに内在された哲学に基づいて、迅速な対応を行うことができたのである。

 現代在はマニュアル全盛社会である。ゆとり世代で育った社員たちは、何から何までマニュアルに書かれていないと動かない。マニュアルに書かれてないことはやらないが、書かれていればそれがたとえ間違っていてもやってしまうという笑い話さえあるほどだ。しかし、世の中必ずしもマニュアルで対応できることばかりとは限らない。こんな時に威力を発揮するのがクレドである。もっとも、そんなに難く考える必要はない。クレドと銘打ってなくても、経営理念のない会社は少ないのではないか。大切なのは、何か問題が起きた時に、経営理念まで遡って考える風土があるかどうかなのである。おそらく、そんな会社は少ないのではないだろうか。

 本書は、このクレドの有用性とその作成方法について、実例も織り込んで解説されている。クレドが役に立つという総論としては賛成だ。しかし、各論を見ると、どうかなと思うところもある。

 まず、クレドは、「ミッション」、「ビジョン」、「バリュー」で構成するかのように書かれているが、様式には、特に決まったものはない。現に、本書の中にも示されているジョンソン・エンド・ジョンソン社の「わが信条」やザ・リッツ・カールトンのクレドもそんな形にはなっていない。これは、著者の会社が指導する際には、このような形で作るということを勧めているというだけに過ぎない。

 つぎに、クレドは経営理念や行動指針を記したカードと書かれているが、カードになっていることが、クレドの要件ではない。大切なのは、形式より内容なのである。 確かにカードにしてあれば便利ではあるが、それが単なるお題目になってしまっていては意味がないだろう。私の知っている会社で、何かあるごとに、その対策の一環としてお題目を書いたカードを作って、社員証を入れているケースにいっしょに入れさせるところがある。しまいには、ケースがパンパンになって、社員証入れやらお題目カード入れやら分からなくなってしまっているという有様だ。クレドとは、決して、社員証ケースの肥やしではない。

 更に、クレドはボトムアップで作成するように書かれているが、必ずしもボトムアップで作れば良いというものでもないだろう。ジョンソン・エンド・ジョンソン社のクレドは、3代目社長が起草したものである。本来経営理念やビジョンなんてものは、トップが自らの責任で作らなければならないのだ。しかし、日本にはお神輿に乗っているだけの経営者が多く、自分で作る能力がないので、ボトムアップで作らせないとうまくいかないうことではないだろうか。大切なのは、誰が作るのかというよりは、どうやって皆が同じ価値観を共有するかということだろう。ボトムアップ作成は、そのための一手段かもしれないが。

 また、本書には、「クレドは作成よりも運用が大事」と書かれている。これについては全くその通りで、作っただけでは何の価値もない。これが皆の行動の判断基準として血肉になってこそ、クレドは活きるのである。よくこういうものを作ると、ミーティング時に、毎回皆で唱和するという会社を知っている。しかし唱和するだけでは、意味も分からず念仏を唱えているのと同じではないか。本書にもクレド浸透策が色々と書かれているが、本当に大切なのは、経営者自ら、何事もクレドに基づいて実行するという姿勢を見せることだろう。何しろ、我が国ニッポンは、ホンネとタテマエの社会だ。「一応こうは書かれているが」とか「正論はそうだが」といった二枚舌を使われた経験はないだろうか(日本の会社ならまずある!)、これは絶対にいけない。何かあった時には、すべてクレドに立ち返って考えなければならないのだ。こういった姿勢が徹底されてこそ、社員が何をすべきかを自ら判断できるようになるのではないだろうか。

 なお本書は、「本が好き!」さまを通じて献本いただいたものです。お礼申し上げます。


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H23.3.16:読売新聞朝刊“読者のホンネ”に「カラスと髑髏―世界史の「闇」のとびらを開く」の100字書評掲載

H25.10.26発売の図書新聞(3132号、2013年11月2日号)に「泥棒は几帳面であるべし」の書評掲載

H26.6,28発売の図書新聞(3165号、2014年7月5日号)に、「市場主義のたそがれ―新自由主義の光と影」の書評掲載

H28.8頃より「シミルボン」への投稿開始

H29.7.4「彗星パンスペルミア」の書評が「新刊JP]に掲載

H29.10.19「ハンナ・アーレント - 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者」の書評が「新刊JP」に掲載

H29.11.24「ペンギン・ハイウエィ」の書評が「新刊JP」に掲載

H29.12.26.「ニッポンの奇祭」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.1.18.「問題解決大全――ビジネスや人生のハードルを乗り越える37のツール」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.4.26.「メゾン刻の湯」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.7.20.「極道ピンポン」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.7.26.「シミルボン」にインタビュー記事掲載

2019.2.23.「本が好き!」×「書店フェア」で「あなたの街で本と出会う Vol.2」に「こころを彩る徒然草」のレビュー掲載

2019.04.28.【本が好き!×カドブン】コラボレビュー!第4回『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』掲載

2020.01.24.「貧乏大名“やりくり”物語 たった五千石! 名門・喜連川藩の奮闘」が「新刊JP」に掲載
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