風竜胆の書評

コミックスから専門書まで、あらゆる本を読みます。元エネルギー企業の専任部長。現在は、ライター・書評家を標榜する自由人w 時に書評が過激になるのは、長州人の血? 現在「シミルボン」と「本が好き!」でも活動中。 執筆依頼、献本等歓迎します。右欄のメッセージ機能にてご連絡ください。 旧ブログ名:本の宇宙(そら)

2015年11月

かいぶつのまち4




 水生大海の「かいぶつのまち」(原書房)。島田荘司選による、「ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」で第1回優秀賞に輝いた、「少女たちの羅針盤」の続編に当たる作品だ。

 タイトルの「かいぶつのまち」とは、主人公の楠田瑠美が、自分が所属する劇団の若手公演のために脚本を書いた演劇の題名である。彼女がかって所属していた橘学院高等部演劇部は、その脚本を使って、見事全国大会への出場を果たした。瑠美は、高校時代にいっしょに女子高生演劇集団「羅針盤」を立ち上げた仲間である、光石要(旧名:北畠梨里子)、御蔵欄(旧姓:江嶋)共に後輩たちの晴れ舞台を見に来たのだが、上演の前日に事件が起きる。顧問教師や、生徒の一部が、急に体調を崩したのだ。

 そのうえ、主役を演じる女生徒には、カッターナイフが送り続けられていたという。元羅針盤のメンバーの3人は、かって、人の悪意により、大切な仲間を失っていた。瑠美は、もう何も出来なかったことを後悔したくないと、他の2人と事件の解明を始める。明らかになるのは、演劇部内に溢れる不協和音。そして驚くべき「かいぶつ」の正体。さらには、いま一人の「かいぶつ」の存在も・・。

 この作品では、前作のように、過去と現在が交互に入れ替わりながら進んでいくという技巧的な構成にはなっておらず、時間の流れとしては過去から未来へ一直線に進む。しかし、時折、「かいぶつ」のモノローグが挿入されることにより、不穏な雰囲気を演出している。

 この作品を単独で読んでも、十分面白いとは思うが、前作の知識があった方が、その面白さは倍増するだろう。できれば、先に前作を読んでおくことをお勧めしたい。

○関連過去記事
少女たちの羅針盤


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下読み男子と投稿女子 -優しい空が見た、内気な海の話。5




 「文学少女」シリーズの野村美月による、ラノベ新人賞の下読みのバイトをしている男子高生と、ラノベ一次選考突破を目指す美少女との物語、「下読み男子と投稿女子 -優しい空が見た、内気な海の話。」(ファミ通文庫)。

 主人公の風谷青は、葉鳥高校の2年生。中学2年の夏休みに、叔父からラノベ新人賞の下読みを押し付けられたのだが、応募原稿のカオスぶりの面白さにすっかり嵌ってしまい、ずっとその仕事を続けている。あとがきによると、作者も、下読みをやっていたとのことだが、本当に書かれているようなカオスぶりだったら、私もちょっとやってみたい気も。

 それはさておき、青は、出版社から送られてきた原稿の中に、「覚世ロイ」というペンネームで、クラスメイトの氷ノ宮氷雪が応募した作品が混じっているのを見つける。氷雪は、クラスでは、その名前の通り、近寄りがたい氷雪系美少女だと思われていた。ところが、彼女の応募してきた原稿は、フォント変えや顔文字を多用している、まさにカオスな作品。彼女のイメージとのあまりのギャップの大きさに戸惑う青だったが、結局氷雪の作品の指導をすることになる。

 実は、この氷雪、見た目とは裏腹に、自分に自信がなく、とっても傷つきやすいコンプレックスの塊という、なんともギャップ萌えのする美少女。とても厳しい祖母と二人暮らしなのだが、そちらの方にも問題を抱えているようだ。

 この作品は、そんな二人のラブストーリーを基軸に、氷雪に厳しく接する祖母の本当の思いや、氷雪のペンネームの基となった、母親との思い出の魚であるヨロイザメに関する謎解きなどを味付けとして進んでいく。つまり、基本はラブコメなのだが、ミステリー的な要素も盛り込まれた、とっても面白い作品なのだ。特に、氷雪の可愛らしさは、ページをめくる程に際立ってきて、多くの男子に胸キュンの思いを抱かせるだろう(笑)。この辺りの少女の描き方の巧みさは、まさに美月マジック。

 また、ラノベを書きたいと思っている人には、青が、氷雪にしている指導を通して、色々な注意点のようなものも分かるので、一種のテキストとして読むこともできると思う。


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もしも、あなたが「最高責任者」ならばどうするか?Vol.14




 ビジネス・ブレークスルー大学で毎週ケーススタディとして出された事例を集めた、「もしも、あなたが「最高責任者」ならばどうするか?Vol.1」(ビジネス・ブレークスルー大学総合研究所編著:ビジネス・ブレークスルー大学出版)。

 本書は、経営上の課題を抱えた企業等を取り上げ、もし自分が最高責任者だったとしたら、どのように舵取りをしていくかを考えてみようというもの。収められているのは8つの事例。それぞれ、その企業等の強み、弱み、取り巻く環境等を分析して、そこから導かれる今後の事業展開例を示している。

 「はじめに」で学長の大前研一さんも述べているように、本書は、「正解」を覚えるようなものではないということは、いくら強調しても足らないだろう。最近は、塾などの影響か、なんでも人に「正解」を教えてもらうのが当たり前だと考えている人間が多いように思える。しかし、ビジネスの世界では、「正解」などあるはずもなく、実に様々なものが、戦略オプションとして考えられるのだ。合理的にやったからといっても成功する保証はなく、エイヤーでやってもうまくいくこともあるのだから、経営というのは実に難しい。しかし、最高責任者というのは、逃げることは許されず、自分の責任で、経営判断を行わなくてはならないのだ。

 そうはいっても、KKDでやるよりは、きちんと経営環境を分析して、戦略を立てた方が、成功する確率は高くなるだろう。だから、このような本により、どうやって戦略を立てるやり方を学ぶことは大切なのである。しかし、立てる戦略には、絶対に成功するというようなものは存在しない。本書には、一応の戦略案は示されてはいるが、これは、公開されているデータから導かれた、あくまでも一つの試案なのである。また、中に入らないと見えないようなことも、実は結構あるものなので、仮にこれらの試案を採用するにしても、どの程度有効かどうかについても、更なる検証が必要だろう。

 だから、本書の存在価値は、事業戦略を立てるためのフレームワークを提供してくれることと、そのために必要なデータは、どのようなものを調べれば良いのかといったことを教えてくれるというようなところにある。

 本書に示された事例はそれぞれ独立しているので、頭から読んでいく必要はないだろう。自分が気になる企業や自分の属している業界の企業などを先に読めば、一層の興味を持って読めるのではないかと思う。しかし、他業種から得られることもあるだろうから、一応は全部に目を通して、考えてみることをお勧めしたい。

 そのうえで、向学心の強い仲間とのディスカッションをしたり、自社について、同じような分析を行ってみたりすれば、あなたのビジネスマンとしても力量は格段に伸びるに違いない。大切なのは、覚えるより、自分でやってみて、考えることだ。もう一度繰り返すが、本書は「正解」を覚えるためのものではない。あくまでも、どのように考えていくかという、思考をガイドするための手引書なのである。

 なお、本書は、レビュープラスさまより献本いただきました。ありがとうございます。 

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大鴉の啼く冬4




 イギリス本土の遥か北方沖、北海に浮かぶ島々・シェトランド諸島を舞台にした、アン・クリーブスの連作ミステリー、「シェトランド四重奏」。その開幕となるのが、本作、「大鴉の啼く冬」(創元推理文庫)である。

 島の女子高生、キャサリン・ロスが絞殺死体で発見された。美しかった彼女だが、見つかった時には、大鴉たちに顔をつつかれ、片方の目はなくなっているという、なんとも無残な姿だ。いかにも、北のこの島で起きた事件の幕開けにふさわしい設定ではないか。

 犯人と疑われたのは、マグナス・テイトという、軽い知的障がいを持った孤独な老人。彼は8年前に、カトリアナ・ブルースという少女が失踪した際にも容疑をかけられていた。起訴こそされなかったが、閉鎖的な島のこと。それ以来、まるで村八分のような扱いを受けていたのだ。そして、キャサリンは、ある目的から、彼の家に出入りしていた。

 事件を捜査するのは、地元シェットランド署のジミー・ペレス警部と、その上司となる、本土インヴァネス署のロイ・テイラー警部のコンビ。やがて、ペレスの婚約者となるフラン・ハンターは、この巻では、キャサリンとカトリアナの死体の発見者として登場するのだが、彼女の娘キャシーも行方が分からなくなってしまうのだ。3人の少女たちに共通するのは、いずれも名前が”C”で始まること。これらの3つの事件にどのような関係があるのか。

 この作品を読んでいると、障がいのある人に対する偏見の根深さや、一見仲がよさそうに見える女同士の関係の危うさといったようなことを感じてしまう。巻末の解説によれば、シェトランド諸島は、荒涼たる最果ての地であるかのように書かれている。この事件も、そんな場所にふさわしいかのような冷え冷えとしたものであった。

(関連過去記事)
○シェトランド四重奏
白夜に惑う夏

○シェトランド四重奏の続編
水の葬送


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ホーンテッド・キャンパス この子のななつのお祝いに4




 雪越大オカルト研究会の面々が、怪奇な事件に挑むと言う「ホーンテッド・キャンパス」(櫛木 理宇:角川ホラー文庫)シリーズの第8弾、「この子のななつのお祝いに」

 今回、彼らは、副部長の三田村藍の卒業旅行に出かけるのだが、途中で吹雪に巻き込まれ、近くの村に留まることになる。この村と言うのが、「いくら田舎だといっても、いったいいつの時代の日本だよ!」と突っ込みたくなるような、閉鎖的で古い因習に捕らわれているようなところ。まあ、これはある意味、こういった作品でのお約束。

 村には、恐ろしい瓜子姫の伝説が伝わっている。何しろ蛭子(地方によっては、天邪鬼となっている)が瓜子姫を殺して、自分が着こむために、その頭髪や生皮を剥いで、残りは切り刻んで畑に撒いて肥やしにしたというのだから凄まじい。

 そして、この伝説に関係して、毎年7の倍数の歳の娘が、社(やしろ)に丸1日籠って、訪ねて来る蛭子役の人間を追い返すという奇妙な祭りが伝わっている。この祭りにしても、何年か前に、籠る役の娘が何者かに殺されるという事件があったにも拘わらず、村に災いがないようにと、未だに続けられているのだ。普通なら、殺人事件が起ったら、祭りを次の年から中止するか、やるにしても安全策をきちんと整えるようなことをしそうなものだが、そのような気配もないので、いかに旧習に固執したような村かということが分かる。

 さて、雷で、村に繋がるたった一つの吊り橋が落ちて、舞台はまさに絶海の孤島状態。これが、普通のミステリーなら、オカルト研のメンバーが、一人また一人と殺害されていくのだが、これは、青春オカルト、ラブコメ&ミステリーといったテイストの作品。そんなことは起こらないのだが、代わりに、オカルティックな事件は起きる。明らかになるのは、この村のいわれと、社に籠った娘が殺された事件の真相。

 このシリーズが面白いのは、主役を務める八神森司と灘こよみのラブコメが織り込まれているところだろう。傍から見れば、二人の相思相愛ぶりは明らかなのだが、自分にあまり自身のない森司は、ひたすら自分の片思いだと思い込んで、イケメンがこよみに近づいけば悩み焦りといった具合。結構こよみの方からも秋波を送っているのだが、森司は、まったくそれに気づかないというニブちんぶり。しかし、こよみが危機のときには、自分の身を張ってでも守る。こういったところが、なんとも微笑ましいのである。

 これが最終話ではないようだが、オカルト研の美少女2枚看板のうちの一人が卒業してしまったら、果たして、このシリーズを続けられるのだろうか。本人は、就職してからも、しょっちゅう顔を出すようなことを言っているのだが、仕事をするということは、そんなに甘いものではない(笑)。

 ところで、帯には、中山優馬、安井謙太郎らの出演で、映画化されるとあった。しかし、肝心のヒロイン灘こよみを誰がやるのか書かれていないのはどういう訳だろう。男には興味が無いので、こちらを調べてみると、どうも島崎遥香がその役を務めるようだ。でもこの役、美少女だけど、目が悪いため、いつも眉間に皺が寄っていると言う設定なんだが、大変だろうなあ(笑)。


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視覚探偵日暮旅人3


 20日に、日本テレビ系列の「金曜ロードSHOW」で放映された、「視覚探偵日暮旅人」。山口幸三郎の「探偵・日暮旅人の探し物」を原作としたドラマである。

 主人公の旅人は、五感のうち、視覚以外はすべて失っているが、人の目には見えないものが見えるので、それを活かして、探し物専門の探偵をしている。彼としっしょに暮らしているのが、弟分の雪路と血のつながらない娘の灯衣だ。

 灯衣の通う保育園で保育士をしている山川洋子は、一人で帰った灯衣を心配して、後をつけ日暮の事務所に行きついたことから、何かと彼らの世話を焼くようになる。これは、そんな日暮と洋子の、ラブコメめいた話のようだ。

 大変なのは、日暮が寝てしまったとき、何しろ、読んでも聞こえないし、触っても分からないから、起こす方法がない。自然に目が覚めるのを待つしかないのである。

 全体の話の中に、幾つかのエピソードが織り込まれた作りになっているが、子供の虐待の話は無くても良いのではないかと思う。最近は、リアルの世界でも、ひどい話が多く報じられ過ぎている。いくら最後をいい話風にまとめても、どうもこの手の話は、好きにはなれない。

 灯衣が誘拐されたとき、その犯人が東大卒という設定というのも、なんだかなという感じだ。あれだけ学生がいれば、悪いやつが出てきても、統計的には当然なのだが、こういったドラマで、そういう設定があると、なんだかやっかみのようなものが入っているような気もしなくはないのだが。ところで、その犯人が指摘していた、領収書水増し事件の方は、結局どうなったんだろう?

 ところで、日暮が本気を出すとき、赤い目薬をさしている。すると彼の黒目が青く変わって、色々なものが見えてくるのだが、あのシーン、どう見てもアブナイ人だ。あの目薬の中に、何かヘンなものが入っているのだろうか。


(原作)
・山口幸三郎:探偵・日暮旅人の探し物



(演出)
・堤幸彦

(脚本)
・福原充則

(出演)
・松坂桃李(日暮旅人)
・多部未華子(山川洋子)
・濱田岳(雪路雅彦)
・小南晴夏(小野智子)
・住田萌乃(百代灯衣) ほか


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ヤマノススメ 15




 とっても可愛らしい山ガールたちの物語、「ヤマノススメ」(しろ:アース・スターコミックス)の第1巻。

 主人公は、雪村あおいという高校1年生の少女。人付き合いが大の苦手で、高校に入っても、自分の好きなようにやって行こうと思っていた。ところが、疎遠になっていた幼馴染のひなたと同じクラスになったことから、彼女は変わっていく。

 ひなたが声をかけてきたとき、あおいは、「誰だっけこいつー!!」と結構ひどい反応だったのだが、結局は、二人が小さい頃に交わした、山登りの約束を果たすことになる。ところが、あおいは、小学校の時、ジャングルジムから落ちて以来、すっかり高所恐怖症に。そんなおあいだが、ひなたに引きずられるように、次第に山の魅力に嵌っていく。山道具の店で知り合った上級生の斎藤楓や、高尾山で靴底が剥がれて困っていた、中学生のここなも仲間に加わり、あおいの高校生活は、大きく変わっていく。

 熱さなどとは無縁の可愛い山ガールたちの物語は、とても楽しい。また、山登りの基礎的な知識も身に付くので、山に興味を持っている人には、特におススメだ。もちろん、そんなに山に興味はないよという人でも、あおいの成長物語として読めば、十分に面白いだろう。


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H25.10.26発売の図書新聞(3132号、2013年11月2日号)に「泥棒は几帳面であるべし」の書評掲載

H26.6,28発売の図書新聞(3165号、2014年7月5日号)に、「市場主義のたそがれ―新自由主義の光と影」の書評掲載

H28.8頃より「シミルボン」への投稿開始

H29.7.4「彗星パンスペルミア」の書評が「新刊JP]に掲載

H29.10.19「ハンナ・アーレント - 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者」の書評が「新刊JP」に掲載

H29.11.24「ペンギン・ハイウエィ」の書評が「新刊JP」に掲載

H29.12.26.「ニッポンの奇祭」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.1.18.「問題解決大全――ビジネスや人生のハードルを乗り越える37のツール」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.4.26.「メゾン刻の湯」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.7.20.「極道ピンポン」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.7.26.「シミルボン」にインタビュー記事掲載

2019.2.23.「本が好き!」×「書店フェア」で「あなたの街で本と出会う Vol.2」に「こころを彩る徒然草」のレビュー掲載

2019.04.28.【本が好き!×カドブン】コラボレビュー!第4回『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』の書評が掲載

2020.01.24.「貧乏大名“やりくり”物語 たった五千石! 名門・喜連川藩の奮闘」が「新刊JP」に掲載

2020.02.04.『どんなことからも立ち直れる人』の書評が「新刊JP」に掲載
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