風竜胆の書評

コミックスから専門書まで、あらゆる本を読みます。元エネルギー企業の専任部長。現在は、ライター・書評家を標榜する自由人w 時に書評が過激になるのは、長州人の血? 現在「シミルボン」と「本が好き!」でも活動中。 執筆依頼、献本等歓迎します。右欄のメッセージ機能にてご連絡ください。 旧ブログ名:本の宇宙(そら)

2016年02月

ジョン・カーター5


・ジョン・カーター
・スチュアート・ムーア/エドガー・ライズ・バロウズ
・竹書房文庫

 ジョン・カーターという名前はある年代以上のSFファンには懐かしいだろう。もちろん、エドガー・ライズ・バロウズによる名作「火星シリーズ」の主人公のことだ。その1作目にあたる「火星のプリンセス」が、2012年に彼の名前をタイトルとして映画化された。本書は、その映画化された作品をもう一度ノベライズし直したものだ。原作の小説がちゃんとあるのだから、映画を再びノベライズすることにどんな意味があるのか。実は映画の設定が、細かいところでバロウズの原作と違っているので、こちらはこちらでちゃんと楽しめるのである。

 ストーリーはよく知られているとおりだ。時代はアメリカの南北戦争のころ。南軍の大尉だったジョンカーターが、火星に行き、4本腕の緑色人タルス・タルカスと友情を結び、美しい赤色人の王女デジャー・ソリスを助けて大活躍するというものである。

 原作となる「火星のプリンセス」で、かって武部本一郎さんの描くデジャー・ソリスの女神のような美しさに胸をときめかした青少年も多かったろう。しかし本書に掲載されたデジャー・ソリスの写真を見ると、そのイメージががらがらと崩れていく(笑)。いや美人なのは美人なのだが、女神というよりはアマゾネスという感じなのだ。

 ところでデジャー・ソリスは赤色人という設定だ。赤色人と聞いて、連想するのはネイティブアメリカンの人々である。カーターが火星にいくきっかけになったのは、ネイティブ・アメリカンに追われて洞窟に逃げ込んだことだ。そして彼は奴隷制度を支持していた南軍の将校だったのである。それが火星に渡って赤色人の王女であるデジャー・ソリスと恋に落ちるのは、一種のアイロニーのようにも思える。

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文理両道
時空の流離人

 

本日入手した本

   

本日届いた本。合計4冊。積読の山、益々高し!

めくりめくる45


・めくりめくる4
・拓
・ワニブックス

 この作品は、倉敷を舞台に繰り広げられる、とっても可愛らしい女子校生たちの青春群像を描いたものだ。特に大事件が起きるというわけではない。ドラマチックな出来事などもない。描かれているのは、彼女たちの日常風景。友達と遊んだり、男の子のことが気になったり。どこにでもあるありふれた光景だ。

 しかし、それこそが青春の1頁。特別なことが無くとも、キラキラと輝いていたあの時代。人はそれをノスタルジーと呼ぶのかもしれない。そう、この作品は、ノスタルジーをいたく刺激するのだ。

 例えば、岡咲瑠華という少女の話。気になる日高君と携帯番号を交換して喜んでいたところ、彼が携帯を水没させデータが消えてしまったらしい。番号を登録しなおしているところに、自分の番号を教えようとすると、「岡咲さんのは別に・・・」と言われて落ち込む。実はこれは、彼女の分は別にメモしているので聞かなくてもよかったという意味だったのだ。誤解が解けて、二人の仲はちょっとだけ進んだようだ。納められているどの話も、このようにちょっとした出来事を描いているのだが、とっても微笑ましいものばかりで心がほっこりする。

 作者は、倉敷出身だということだ。そのせいだろうか、作品には倉敷の少女たちに対する暖かい眼差しを感じる。

○関連過去記事
めくりめくる3


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時空の流離人

琵琶法師 −<異界>を語る人びと4


・琵琶法師 −<異界>を語る人びと
・兵藤裕己
・岩波新書

 ハーンの「怪談」に収められている「耳無し芳一」の話からも分かるように、琵琶を持ち、物語を弾き語る琵琶法師は、中世における物語・語り物伝承の担い手だった。本書は、この琵琶法師について歴史的な沿革をたどりながら、その芸能と宗教の面についても考察したものだ。

 楽器としての琵琶自体はペルシャ周辺で発生したものが、中国で改良され日本に渡来したものだという。また盲人が琵琶を弾いて芸能や宗教活動に関わるのも、同じように大陸渡来と推測されるとのこと。琵琶法師が文献にあらわれるのは平安時代中期のことらしい。ここでは琵琶法師は、琵琶を弾いて歌謡や物語を演唱する芸能民であると同時に、寺院に付属する下級の宗教民として描かれているという。彼らはかまど祓いで、五竜王や堅牢地神を称えた「地神経」(地心経)を唱えた。

 冒頭でも触れたように、琵琶法師と平家物語との関係は切っても切れないものだ。本書はこの「平家物語」の成立過程や、どのようにして琵琶法師が平家物語を語るようになったのか、そして彼らが権力の中でどのように位置づけられてきたかなどに関して、多くのページを使い詳細な考察を行っている。それらは、この方面に興味がある方にはぜひとも熟読して欲しいような内容だと思える。

 残念なことに、現代において、琵琶法師というものは消え去ってしまった民俗のひとつだ。それでも、中国地方西部から九州一円にかけては、琵琶演奏が民間宗教儀式と結びついていたこともあり、近代まで琵琶法師が存在していたようである。1996年に亡くなった山鹿良之という方は、最後の琵琶法師と呼ばれていた。

 このような民俗的なものは、放っておけばどんどん忘れ去られてしまうだろう。我が国にこのような文化があったことを、本書のように誰でも読みやすいかたちで残した意義は大きいのではないかと思う。同じ岩波新書の「瞽女うた」(ジェラルド・グローマー)と併せて読みたい。


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時空の流離人

謎好き乙女と奪われた青春4


・謎好き乙女と奪われた青春
・瀬川コウ
・新潮文庫nex

 何よりも赤坂アカさんによる表紙イラストの感じが秀逸な本書。思わずジャケ買いしたくなる作品だ。シリーズものとなっており、これはその1作目。

 本作は、藤ヶ崎高校に通う矢斗春一と早伊原樹里の物語。春一は、ミステリーを巻き起こす人物として有名だった。そこに目を付けたのが、新入生の美少女・早伊原樹里。恋愛などには全く興味がなくミステリー大好きという彼女が、いっしょに「青春」する(つまり、ミステリーを解く)仲間として目を付けたのである。この樹里、かなりの変わり者で曲者だ。春一はなし崩し的に樹里の彼氏ということにされ、いっしょに「青春」させられることになってしまう。

 実は、春一の回りでミステリーが起きるのにはある秘密があったのだ。本作は、それをストーリーの中骨にして、これにカンニング事件や春一の浮気告発メール事件などのエピソードを織り込み、青春ミステリーとしてうまく仕上げている。春一のミステリー体質に関しては、ラストにちょっとした叙述トリックが仕掛けられているのだが、これの必要性はよくわからなかった。却って作品を分かりにくくしているのではないかと思う。

 もうひとつ、春一がミステリー体質になった原因である中学時代のいじめ事件。これが原因で、春一は高校で普通の青春を送れなくなってしまったのだが、中学生のやることにしてはどうかなという感じがつきまとう。

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ハンナ・アーレント - 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者4


・ハンナ・アーレント - 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者
・矢野久美子
・中公新書

 本書は、「全体主義の起源」、「人間の条件」などの著作で知られる政治哲学者ハンナ・アーレントの生涯とその思想を描いたものだ。ハンナ・アーレントは、1906年ドイツのリンデンでユダヤ人中産階級の両親のもとに生まれた。7歳になる月に、父を梅毒で亡くしたが、裕福で自由主義的なユダヤ人親族に囲まれて育つ。14歳で、哲学を学ぶことを決意し、カントやヤスパース、キルケゴールなどを読み始めたというからすごい。日本のJCたちに、爪の垢を煎じて飲ませてやりたいと思うのは私だけだろうか。

 しかし、アーレントは勉強ばかりしているような大人しい娘ではなかった。大学への入学資格を得るための卒業資格試験の前に、教師から個人的侮辱を受けたと感じ、授業のボイコットを企てて退学になっているのだ。なかなか激しい性格だったようである。17歳で、卒業資格試験の受験を特別に認められ、大学入学資格を得、その年の秋には、マールブルク大学に進んだ。ここで彼女は、あのハイデガーと恋愛関係になる。

 ヤスパースの指導により22歳で博士号を取得するもナチの台頭により、パリに亡命せざるを得なくなった。しかし、ドイツの攻撃が続くなかで、ドイツ出身者としてギュルヌ収容所に収容されてしまう。彼女はナチがパリを占拠したどさくさに紛れて脱走し、アメリカに渡る。そして戦後もドイツには戻らず、アメリカ国籍を取得することになるのだ。

 彼女はアイヒマン裁判について「イェルサレムのアイヒマン」を書いたことにより、多くのユダヤ人の友人を失ってしまう。彼女の指摘が、政治的な思惑と相容れなかったからだ。彼女への攻撃は組織的なキャンペーンとなり、テキストをまったく読んでない大量の人々から追い詰められることになった。

 こういうことは、今の日本でもよく見られることだ。アーレントは、「事実を語る」ことの重要性を強調する。しかし、現代社会では、イデオロギーや結論ありきのロジックがはびこっていることがまま見られる。よく分からないままに、他人の尻馬に乗って過激な行動をする連中はいつの世にもどこの世界にもいるということだろう。このエピソードは、自分の頭で考えることの大切さを如実に示しているといえよう。

 我が国においては広く知られているとは言い難いハンナ・アーレント。しかしまさにその人生は波瀾万丈。ユダヤ人としてのプライドを持ちながら、全体主義との対決を続けた生涯だった。私のような門外漢にとっては、必ずしもするすると頭に入ってくるような内容とは言い難いが、この方面の勉強をしようとする人にはまず読むべき一冊だろうと思う。

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本日の購入品

 今日は、市内に行く用事があったので、ブックオフに寄ってみたところ、7冊も買ってしまった(汗)

○新書(3冊)



○文庫(4冊)







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H23.3:書評コミュニティ「本が好き!」より「免許皆伝」称号を受ける

H23.3.16:読売新聞朝刊“読者のホンネ”に「カラスと髑髏―世界史の「闇」のとびらを開く」の100字書評掲載

H25.10.26発売の図書新聞(3132号、2013年11月2日号)に「泥棒は几帳面であるべし」の書評掲載

H26.6,28発売の図書新聞(3165号、2014年7月5日号)に、「市場主義のたそがれ―新自由主義の光と影」の書評掲載

H28.8頃より「シミルボン」への投稿開始

H29.7.4「彗星パンスペルミア」の書評が「新刊JP]に掲載

H29.10.19「ハンナ・アーレント - 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者」の書評が「新刊JP」に掲載

H29.11.24「ペンギン・ハイウエィ」の書評が「新刊JP」に掲載

H29.12.26.「ニッポンの奇祭」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.1.18.「問題解決大全――ビジネスや人生のハードルを乗り越える37のツール」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.4.26.「メゾン刻の湯」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.7.20.「極道ピンポン」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.7.26.「シミルボン」にインタビュー記事掲載

2019.2.23.「本が好き!」×「書店フェア」で「あなたの街で本と出会う Vol.2」に「こころを彩る徒然草」のレビュー掲載

2019.04.28.【本が好き!×カドブン】コラボレビュー!第4回『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』の書評が掲載

2020.01.24.「貧乏大名“やりくり”物語 たった五千石! 名門・喜連川藩の奮闘」が「新刊JP」に掲載

2020.02.04.『どんなことからも立ち直れる人』の書評が「新刊JP」に掲載
本が好き!免許皆伝レビュアー風竜胆
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