風竜胆の書評

コミックスから専門書まで、あらゆる本を読みます。元エネルギー企業の専任部長。現在は、ライター・書評家を標榜する自由人w 時に書評が過激になるのは、長州人の血? 現在「シミルボン」と「本が好き!」でも活動中。 執筆依頼、献本等歓迎します。右欄のメッセージ機能にてご連絡ください。 旧ブログ名:本の宇宙(そら)

2017年08月

墓標都市3


・墓標都市
・キャリー・パテル、(訳)細美遙子
・創元SF文庫

 時代は未来。本書中にはその正体は描かれていないが、「大惨事」により旧文明が滅んで数百年。人々は地下に都市を作って生活しているという設定だ。そんな地下都市のひとつであるリコレッタがこの作品の舞台である。

 リコレッタを牛耳っているのが、少数の評議会のメンバー。この街は、ホワイトネイルと呼ばれる者たちが幅を利かす階級社会でもあった。

 このリコレッタで、歴史学者のカーヒルが殺害されたのをきっかけに、連続殺人事件が発生する。これを調べるのが市警察の女性捜査官であるマローンとその相棒の新人捜査官サンダーだ。しかしなぜか評議会は協力的ではない。

 面白いのは、この都市の市警察は、独自に動いているのではなく、評議会との請負契約により操作をするというところ。しかし、日本では請負契約というのはきちんとした定義があり、仕事を完成させなければならない。だからきちんと捜査ができなければ、契約違反ということになるのだが、元の言葉がどうなのか気になるところだ。私なら委任契約くらいにしておくのだが。

 そしてこの作品中で大きな役割を果たすのが、「洗濯女」のジェーン・リン。皆さん、「洗濯女」という言葉からどんな女性を連想するだろうか。腕が丸太のように太くて、力強いというようなものだと思う。ところがこのジェーン、若くてチャーミングな女性なのである。カバー裏には「洗濯娘」という言葉が使われていたが、まだそちらの方が、ジェーンのイメージに近いと思う。
 
 ところで、この作品は三部作の最初の作品になるようだ。そのせいか、あまりSF小説という雰囲気がしないのだ。人々が地下都市で暮らしているという設定も余り活かされていない。地上が地獄のようで人間が暮らせないというのならともかく、既に「大惨事」から何百年も経っており、地上には農村が広がっているようなのだ。それなら、人間が地下で暮らす必然性はないと思うのだが、続く巻では、この設定が活きてくるのだろうか。

※初出は、「本が好き!」です。

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知的人生のための考え方 わたしの人生観・歴史観2


・知的人生のための考え方 わたしの人生観・歴史観
・渡部昇一
・PHP新書

 かって「知的生活の方法」で一世を風靡した渡部昇一氏の大放談とも言えるような本書。ここまで書いていいのかいと思わなくもないが、日本は言論の自由が憲法で保証されている国だ。誰がどんなことを言おうが、他の人の人権を侵害しない限りは一つの意見として尊重されなければならない。

 確かにChinaに関する氏の主張などは共感する部分も多い。しかし、どうだろうというところも結構見受けられる。例えば記紀に対する擁護だ。氏は、戦前の皇国史観の反動で戦後記紀が否定されていることを嘆き、<これほど充実した史書、しかも時代的に見れば世界的にも例が少ない科学的な態度で書かれた史書をすべて無視しようということ自体、土台無理な話なのです。>(p153)と述べている。私も記紀に書かれていることがすべて何らかの事実を反映したものではないと思ってはいない。問題は、何が本当で何が嘘か分からないというところだろう。そのような資料はかなりたちが悪い。

 また、このようなことも書いている。道鏡や、榎本武揚などの例を出して、<日本では、政敵であったり逆賊であっても、海外のように殺されることも少なければ、・・・>(p160)しかし、乙巳の変や長屋王の事件などを例に挙げるまでもなく、我が国においても権力闘争は血の歴史ではなかったか。決して「少なければ」と言い切れるようなものではなかったと思うのだが。この他にも色々あるが、この辺りでやめておこう。

 ただ氏が卒論や修論の指導にあたって、学生に言っていたという次の言葉には賛成だ。<構想が構想であるうちは論文でも何でもなく、一応の構想やら書いてみたいことが浮かんだら書き始めてみなさい。>(p115)いくら頭の中で考えていても、それだけでは考えが堂々巡りになるだけである。まずプロトタイプをつくってみてこそ、次の段階に進めるのである。
 
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シミルボンにコラムを投稿

 「シミルボン」に「昆虫学者になりたかったよ」というコラムを投稿しました。興味のある方は、リンク先を覗いてみてください。

地理 2017年 08 月号4


・地理 2017年 08 月号
・古今書院

 最近、地震や水害の関係でハザードマップに関する関心度が上がっているからだろうか、今月号の特集は、「〇〇マップを読む・活かす」である。

 記事はやはり災害に関連したものが多い。マップをうまく使えば、災害情報を分析したり、危険を予測して情報を可視的に伝えられるのである。その他にも絵図から過去の景観がどうだったかを考えたりネパールの社会構造を地図で表したりと、〇〇マップの色々な使い方はどれも興味深い。やはり情報は可視化すると分かりやすさが段違いになる。ここで示されたもの以外にも色々な使い方が期待できそうだ。なかなか示唆に富んだ特集ではないだろうか。

 ところで、私は常々地学と地理の一本化を主張しているのだが、今月号ではいくつか気になる記事を見かけた。まず「学校教育でみかける地球惑星科学用語の不可思議」という記事である。地球惑星科学に関する用語は、理科としての地学や社会としての地理で使われているが、それらの間で不統一が存在しているというのだ。これは地学と地理という事なる分野間の不統一だけではなく、教科書会社間の不統一、学術用語と教育用語間の不統一もあるというから呆れる。早急に地学と地理の関係者が用語を統一するための活動を立ち上げるべきではないかと思うのだが。

 もう一つ気になったのは、高校で「地理総合」なる科目が必修化されるという記事だ。私達の時代は、高校1年で全員が地理を学ばされたので、それほど驚くようなことでもないが、これだけ科学リテラシーの欠如が目立つ我が国のこと。その前に物理の必修化の方が先にくるべきだろうと思うのだが。

※初出は、「本が好き!」です。

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リケコイ2


・リケコイ
・喜多喜久
・集英社文庫

 これは、一人のバカヤロウ(注:作品中の表現)の物語だ。主人公は、東大大学院で農学を専攻している森くんという学生。彼が修士1年の時に、他大学から卒業研究のためにやってきた羽生さんという眼鏡っ娘。アニメオタクで眼鏡っ娘萌えの主人公は、そんな彼女に一目ぼれした挙句に暴走しまくる。

 実は羽生さん、タカナシ(字は不明)という彼氏持ちだった。だから森くん、彼女に告白するも、あっさり撃沈。しかしこの羽生さん、森くんになんだか思わせぶりな態度も。

 そこから、森くんバカヤロウ道をまっしぐら。研究室の旅行で酔っぱらって寝ている羽生さんの乳を揉もうとしたり(これはブラがうまく外せなかったために未遂に終わった)、DTを捨てようと、自販機でコンド-さんを買ったり、果ては、やらせてくれと土下座までする始末。 もうダメダメやん。

 もちろん、そんなことでDTが捨てられるはずもなく、羽生さんとの関係も悪くなってしまうのだが、そんな彼を置き去りにして、研究室のDT仲間たちは、先に大人の階段を上ってしまう。結局森くんはDTのまま修士課程を終えて、就職することになってしまった。

 この作品に出てくる女子たちは、ビッチ(失礼)いや経験豊富なお姉さまが多い。羽生さんにしても相当のやり手だ。何しろ初体験が中二のときで、今の彼氏が5人目だというのだから。おまけに、森くんの送別会の日には、同じ研究室の後輩とラブホに。

 しかし、この作品が面白いかどうか問われれば、そんなに面白くないと答えるだろう。誰が人のバカヤロウな片思いの話など聞いて面白がるものか。

 ということで、ここからは少々ツッコミ?を。この作品は、こう締めくくられている。

<恋する理系男子にも、恋する理系女子にも、いつか幸せが訪れますようにと。この物語が、その一助になれば幸いである。>(p324)

 しかしちょっとまて!ここで「理系男子」とひとくくりにしているが事はそれほど単純ではないだろう。まず工学系と理学系、物理・数学系と化学・生物系の間にはそれぞれ暗くて深い河が流れている。文化も大分違うし、肝心の女子比率だって違うのだ。私が在籍していた工学部電気系なんて、女子学生なんか一人もいなかったよ!身近に女子がいる環境なんて羨ましいぞ、チクショー!!(失礼、つい興奮を)だから、こんな物語なんて最初から成り立たねーよ。

 そして、羽生さんだ。研究室が交流のある私立大学から、卒業研究生を受け入れる習わしがあるということだが、いくらなんでも習わしでは無理だろう。色々アドバイスを受けるくらいならともかく、机も置かれて、完全に研究室の一員になっているのである。おそらく学校間でそのような協定があるのではないだろうか。まさかヤミだったりということはないよね?

<クリスマスイブ。その呪わしき日 − クリスチャンの方申し訳ありません − の夜、世のあまたのカップルと同様、羽生さんとタカナシは性交渉に励んだのだろう。>(p151)
 最後にひとつ感じたのは、ニッポンでは、クリスマスってのは、恋人同士がエッチをする日になってしまっているんだな。キリストさまも空の上からさぞお嘆きだろうと思う。

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北斗の拳 14


・北斗の拳 1
・(原作)武論尊,(絵)原哲夫
・ノース・スターズ・ピクチャーズ

 かって少年ジャンプに連載され、圧倒的な人気を誇っていた伝説の拳法漫画・「北斗の拳」。舞台は、核戦争により壊滅した近未来。一子相伝の暗殺拳である北斗神拳の使い手であるケンシロウが、様々な拳法を使う強敵と戦っていくというのが基本的なストーリーである。

 ケンシロウの使う北斗神拳と表裏一体の関係にあるのが、南斗聖拳だ。北斗神拳が秘孔を突いて人体を内面から破壊する暗殺拳なのに対して、南斗聖拳では、外部からの破壊を極意としている。要するにこの作品のテーマは陰と陽、表と裏の二項対立の争いということだろうか。

 この第1巻では、ケンシロウが、因縁のある南斗聖拳の伝承者シンと再び相まみえるところまでが描かれている。雑誌連載中もずっと読んでいたのだが、この後物語はどんどんとものすごい展開を見せていく。

 いかにもラスボスという感じで登場したシンだが、実は南斗聖拳には六聖拳と呼ばれる六人の将がおり、シンはその中でも最強というわけではないのである。つまりは小ボスか中ボスクラスということなのだ。そしてシンの流派は作品中ではずっと南斗聖拳になっているが、他の六聖拳の流派との関連からか、後付けでやがていつの間にか、南斗孤鷲拳という流派名だということになってしまう。ところでこの作品ではいやというほど「南斗〇〇拳」という拳法を使う者が登場してくる。アニメにもなったが、そちらでは南斗爆殺拳なるものまで登場していた。これなど、ただダイナマイトを投げるだけ。どこが拳法やねん!

 ところで、この北斗神拳、暗殺拳という割には結構派手だ。それに一子相伝という割には、ラオウやトキといった実力者が同門であり、奥義を伝承されているはずのケンシロウと比べても、まったく遜色はないのである。ケンシロウ、いったい何を伝承されたんだろう。


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認知神経科学 (放送大学教材)4


・認知神経科学 (放送大学教材)
・道又爾、岡田隆
・放送大学教育振興会

 これも、放送大学の科目の教科書だ。「認知神経科学」というのは、俗な言葉でいえば「脳科学」ということだが、「脳科学」という言葉がアカデミックな場で使われることはあまりないようである。

 脳というものは、摩訶不思議なものである。その解明は、なかなか一筋縄ではいかないものだ。そのアプローチの仕方だけでも、医学・生理学的なもの、心理学的なもの、生化学的なものなどさまざまなものがある。最近はPETやMRIといった画像診断技術の発展により、これを用いたアプローチの方法も進化している。

 本書は、脳や神経の仕組みや機能、知覚のメカニズム、記憶に関する生理学的、心理学的研究などがバランスよく記載されている。通俗的な脳科学に関する本を読むのも良いが、その前に基礎的な知識を得て、書いてあることの真偽を判定できるようにするためにも、本書のような本に目を通しておくほうが良いだろう。特に心理学の基礎を固めたい人には良いと思う。

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H23.3:書評コミュニティ「本が好き!」より「免許皆伝」称号を受ける

H23.3.16:読売新聞朝刊“読者のホンネ”に「カラスと髑髏―世界史の「闇」のとびらを開く」の100字書評掲載

H25.10.26発売の図書新聞(3132号、2013年11月2日号)に「泥棒は几帳面であるべし」の書評掲載

H26.6,28発売の図書新聞(3165号、2014年7月5日号)に、「市場主義のたそがれ―新自由主義の光と影」の書評掲載

H28.8頃より「シミルボン」への投稿開始

H29.7.4「彗星パンスペルミア」の書評が「新刊JP]に掲載

H29.10.19「ハンナ・アーレント - 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者」の書評が「新刊JP」に掲載

H29.11.24「ペンギン・ハイウエィ」の書評が「新刊JP」に掲載

H29.12.26.「ニッポンの奇祭」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.1.18.「問題解決大全――ビジネスや人生のハードルを乗り越える37のツール」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.4.26.「メゾン刻の湯」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.7.20.「極道ピンポン」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.7.26.「シミルボン」にインタビュー記事掲載

2019.2.23.「本が好き!」×「書店フェア」で「あなたの街で本と出会う Vol.2」に「こころを彩る徒然草」のレビュー掲載

2019.04.28.【本が好き!×カドブン】コラボレビュー!第4回『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』掲載

2020.01.24.「貧乏大名“やりくり”物語 たった五千石! 名門・喜連川藩の奮闘」が「新刊JP」に掲載
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