風竜胆の書評

コミックスから専門書まで、あらゆる本を読みます。元エネルギー企業の専任部長。現在は、ライター・書評家を標榜する自由人w 時に書評が過激になるのは、長州人の血? 現在「シミルボン」と「本が好き!」でも活動中。 執筆依頼、献本等歓迎します。右欄のメッセージ機能にてご連絡ください。 旧ブログ名:本の宇宙(そら)

2017年10月

内田康夫サスペンス 新・浅見光彦シリーズ 漂泊の楽人 越後〜沼津・哀しき殺人者3



 TBS系の「月曜名作劇場」で放映された、「内田康夫サスペンス 新・浅見光彦シリーズ 漂泊の楽人 越後〜沼津・哀しき殺人者」。一つ前までは、速水もこみちが光彦役をやっていたが、今回からリニューアルとして平岡祐太という役者が光彦を務めるようだ。実は、彼については殆ど知らず、「誰?」という感じもするのだが、他の人は知っているのかな?

 また、今回のリニューアルに併せて、兄陽一郎役や母親の雪江役も変更になっている。しかし竹下恵子が雪江役とは、もうそんな役をやるような年代になったんだなあとしみじみ(笑)。でも、まだ慣れてないためか、視ていて、違和感ありあり。

 ところで、今回のドラマは、浅見光彦シリーズの「漂泊の楽人」を原作にしたものだ。モチーフとなっているのは、越後の角兵衛獅子。新潟県に角兵衛獅子の取材に行った光彦は、大学時代の友人漆原と偶然再会する。ところが漆原が沼津の海で亡くなる。警察は自殺と判定するが、彼が自殺するわけなど無いと、光彦は漆原の妹と事件を探り始める。やがて明らかになるのは、漆原家と新潟との関り。貧しいということの残酷さなど。

 しかし、この角兵衛獅子だが、調べてみると、1933年(昭和8)の「児童虐待防止法」の制定に伴って、大道芸としては姿を消しているらしい。それから84年。光彦や漆原の親世代が子供の頃、まだ角兵衛獅子の親方がいたという設定は、かなり苦しくなっているのではないかと思う。漆原の母は、角兵衛獅子の親方がいた時代に小学生だったので、本来なら100歳近いはずだが、とてもそうは見えない(笑)。まあ、光彦は永遠の33歳でずっとやってきたので、昔の作品だと、こんなこともあるさといったところか。

 また、この「漂泊の楽人」では、「城崎殺人事件」でも出てきた「保全投資協会」という詐欺グループとの因縁が始まるのだが、その黒幕というのが、昔このシリーズで浅見洋一郎をやっていた村井國夫というのも、ちょっと驚き。

(原作)
・漂泊の楽人:内田康夫


(出演)
・浅見光彦:平岡祐太
・浅見洋一郎:石丸幹ニ
・浅見雪江:竹下恵子 ほか


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周防大島昔話集4


・周防大島昔話集
・宮本常一
・河出文庫

 山口県が産んだ偉大な民俗学者である宮本常一が集めた、彼の故郷・周防大島で語られてきたという昔話集。本書は著者の母親が77歳を迎えた記念にまとめられたもので、話の採集は、昭和5年〜15年頃にかけて行われたようだ。

 収められているのは、全部で134の昔話。中には、九尾の狐の話や、俵藤太のムカデ退治の話など、他地方の話も入っている。また、お馴染みのサルカニ合戦の話やわらしべ長者、カチカチ山の話なども伝わっている。

 周防大島は、今でこそ本土と橋で結ばれているが、この大島大橋が作られたのが1976年(昭和51)であり、それまでは、訪れる手段は、船便しかないような瀬戸内海の孤島だった。

 私も田舎育ちだが、自分の故郷に伝わる昔話はほとんど聞いたことがない。よく周防大島にこれだけ多くの話が伝わっていたものだと感心するが、考えてみればテレビなどのない昔のこと。古老が話してくれる昔話は、子供たちにとっての大きな娯楽だったのだろう。また、孤島だったからこそ、一度入った話は、大事に語り継がれてきたのかもしれない。

 時代が進むにつれて、昔のものは次第に忘れ去られていく運命だ。そのような中で、このような記録を残すことの意義は大きいと思う。

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明治・妖モダン4


・明治・妖モダン
・畠中恵
・朝日文庫

 舞台は、明治の世になって20年を経たモダンな銀座。主な登場人物は、銀座四丁目にある巡査派出所に勤務する原田と滝の両巡査。彼らが入り浸っている牛鍋屋の亭主百賢とその常連客のタバコを商う赤手、三味線の師匠のお高など。

 江戸の夜は、暗闇が支配し、妖たちがうごめいていた。文明開化の世の中になり、夜はガス灯で明るく照らされ、もはや妖怪たちの出番はなくなったように思われる。いったい妖怪たちはどこに行ってしまったのか。

 この物語は、「しゃばけシリーズ」でユーモラスな妖を描いた著者が、その問いに対する一つの解答を与えるものだろう。もちろん妖など元々いる訳はないが、もし仮にいたとしたら、この作品のようなことになっているのではないかと思う。

 収められているのは、以下の5つの短編。

1.煉瓦街の雨
2.赤手の拾い子
3.妖新聞
4.覚り、覚られ
5.花乃が死ぬまで

 さてさて、文明開化の世の妖譚、いったいどう展開するのか乞うご期待。


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60代から簡単に頭を鍛える法: 「生涯現役」のためにやるべきこと2



・60代から簡単に頭を鍛える法: 「生涯現役」のためにやるべきこと
・高島徹治
・三笠書房

 歳を取ったので物覚えが悪くなったということを、時に聞くことがある。しかし本当にそうだろうか。本書によれば、幾つになっても、工夫次第で記憶力は維持・向上できるという。

 しかし、ここで大きな疑問が湧いてくる。「頭の良さ」とは「記憶力がいい」ということだろうか。確かに「記憶力」のいい人は、一見頭がよく見える。

 もちろん「記憶力」もあるに越したことはないが、それだけで頭の良さが決まるわけではない。いくら記憶力が良くても、それに論理力、判断力、推理力などが伴っていなければ、単なる記憶術の見世物をするくらいしか役に立たないだろうと思う。

 しかし、「頭を鍛える法」と唄いながらも、本書には、最初から最後まで、どうしたら「記憶」できるようになるのかといったようなことしか書かれておらず、それ以外の「頭の鍛え方」については特に触れられていないのだ。もちろん、記憶力を鍛えればその副次的効果で、その他の能力についても鍛えられる可能性はあるのだが、それも保障の限りではない。

 いくら頭に知識を詰め込んでも、それだけではだめだ。それをいかに運用していくのか。それが上手くできてこそ、本当に「頭の良い人」と言われるのではないかと思う。

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国語、数学、理科、誘拐3


・国語、数学、理科、誘拐
・青柳碧人
・文春文庫

 「浜村渚の計算ノート」などで知られる著者による、とある進学塾を舞台に起こった、ヘンな誘拐事件を扱った本書。

 舞台になるのは、JSS進学塾という個人塾。塾長の加賀見成一が30年以上も前に立ち上げた、地域密着型でアットホームな雰囲気が売りである。ある日、この塾に通う生徒である山下愛子が誘拐された。なぜかその脅迫状が、親や学校ではなく、塾のPCに送られてきて、身代金はなぜかたったの5千円。

 5千万円ではなく只の5千円である。そしてそれを全部1円玉で5つに分けて用意し、塾の5人の学生講師たちが、犯人が用意した問題を解いて、所定の受け渡し場所に持っていくのである。いやいや、そんなヘンな誘拐事件なんてないだろうと思ってはいけない。これにはちゃんとオチがあるのだ。

 塾講師たちが問題を解いて、身代金5千円を犯人に渡して一件落着と思ったら、今度は、1円玉5千枚を用意してくれた塾生の近衛美郷が誘拐される。身代金の額も上がるが、それでも2万円。いったい犯人の目的は何か。

 実は、この事件の裏には、ある優しさが隠されていた。本書の説く、「勉強ができることは、心に余裕が生まれ、誰よりも優しくなれる」という考え方には賛成だ。世の中には、運動で一番になると褒めたたえるくせに、勉強で一番になると貶めるという風潮があるように思える。もっと、勉強ができることに価値を持たせても良いのではないか。どうして世間は、甲子園に感動しても(私は興味がないので、まったく視ないのだが)、数学オリンピックの結果には感動しないのだろう。

 ところで、この作品もそうなのだが、近年は塾に通って当たり前のような風潮が感じられる。田舎育ちで、塾なんかとはまったく縁の無かった(そもそも塾なんてものが存在しなかった(笑))我が身を思うと、少し複雑な気持ちになってしまう。

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地理 2017年 10 月号4


・地理 2017年 10 月号
・古今書院

 地理10月号の特集は「防災 知っておきたい地形用語」である。この特集を読んでいると、中高では大嫌いだった社会科の一分野としての地理に関する記事を読んでいる気がしない。むしろ地球科学系の雑誌を読んでいるような感じになるのである。いや、これは、今に始まったことではない。以前からこの雑誌を読む度に同じような気持ちになる。だからこそ、「地理」嫌いを自認する私が、「地理」と銘打ったこの雑誌をずっと読んでいるのだろうと思う。

 しかし、私のようなへそ曲がりにとっては、どうかなと思うような記述もある。それは、「大学で学んだ地理学の知識や技術は、社会人になってから業務で直接活用することはほとんどありません。」(p9)と言いながらも、地理学を学んで社会で活躍している人は、「地理学という手法や考え方が社会にとって有用であることを実感していると言えます。」(p11)としている。それは本当だろうか。有用だったとしても、それは地理学独特の手法や考え方なのか、それとももっと一般的なものなのか。その辺りが、私にはよく分からない。

 ところで、地理学は、人文地理学と自然地理学に分かれるようだ。後者は理学部などのいわゆる理系学科に置かれることもあるが、地理学科は、日本においては圧倒的に文学部に置かれる例が多い。地理というのは、本来地球科学的なものも含めた学際的なものだと思うが、高校の指導要領などでは、地理歴史とひとくくりにされている位だから、これは社会の一教科だという思い込みは誰もが持ってしまうのではないだろうか。

 文学部で社会の一科目のような地理を収めて教員になった人が(おそらく高校の地理の教員は、圧倒的のこちらが多いはずだ)、自然科学分野にまで手が回るかどうかは非常に疑わしい。だから高校までの地理はあれほどつまらなかったのかと最近は思うようになった。この雑誌の執筆者を見ても、かなりの人が自然科学分野を専攻した人である。現在の蛸壺のような高校までの地理はなんとかならないものかと思う。

 話は変わるが、最初の方に掲載されている「地理ちりブログ」に、国際地理オリンピック2017で日本の高校生の活躍ぶりが掲載されていたのだが、通常のマスコミではほとんど報道がなく、この雑誌を読んで初めてそのことを知った。運動の方のオリンピックは、あれだけ報道するのに、もっと文化的な活動の方にも目を向けて欲しいと思うのは私だけだろうか。

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本当は中国で勝っている日本企業 なぜこの会社は成功できたのか?4


・本当は中国で勝っている日本企業 なぜこの会社は成功できたのか?
・谷崎光
・集英社

 北京に暮らして17年になるという著者による中国のビジネス事情。著者によれば、中国で成功している日本企業は多いが、そのことはあまり知られていないという。本書で紹介されているのは、FAの三菱電機、自動販売機の富士電機、化粧品の伊勢半、マヨネーズのキューピー、生活必需品の良品計画、ユニ・チャーム、名創など。

 近年発展の著しい中国だが、中国における賃金は高騰を続けており、優秀な中国人スタッフを確保したいなら、高給を払わないといけないようだ。中には部下の中国人の方が、日本から来た管理職より給料が高い例もあるようだから驚いてしまう。

 中国においては、転職は当たり前で、転職することによりどんどんと給料の高いところに移れるらしい。これは日本とは大違いで、新卒採用を重視する日本では、役職が上がっても、給料はさほど差がなく、転職すればするほど給料が下がっていく。中国とはえらい違いだ。次の記述はとても気になる。

「そういえば数年前から、中国の液晶メーカーが日本人技術者を引き抜いていた。技術はどんなに防御策をとってもマネされていく。」(p83)

 技術者が引き抜かれるのは、向こうの方が待遇が良いからだろう。引き抜かれるのがいやなら、優秀な技術者の処遇を厚くすれば済むことだ。横並びの悪平等といった日本企業の慣習を改めない限り、日本企業はグローバルになったビジネスの世界で置いていかれるのではないだろうか。

 しかし、いくら発展が著しくとも、中国の現場力はまだまだのようだ。

「中国人はいいものは見たことはないし、日本側はいいものしか見たことがないし」(p30)

「いや、図面が同じでも中国で作ると変わるんですね」(p81)

 中国人が日本製品を爆買いするのも、品質の高さと安全・安心を求めているからのようだ。品質の良さは、現場力に依存する。しかし、現場力は一朝一夕には築けないものだ。著者はあと10年は日本企業は中国で稼げるとみているようだが、結局現場力がどれだけ育つかということにもかかっているのだろうと思う。

 本書を読めば、中国で成功している企業の成功するための秘訣の一端でも掴めるのではないだろうか。もし、中国に行くことになれば、一読しておいた方が良いだろう。

 なお、本書は「オトバンク」さまからの頂き物です。ありがとうございました。

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H30.7.20.「極道ピンポン」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.7.26.「シミルボン」にインタビュー記事掲載

2019.2.23.「本が好き!」×「書店フェア」で「あなたの街で本と出会う Vol.2」に「こころを彩る徒然草」のレビュー掲載

2019.04.28.【本が好き!×カドブン】コラボレビュー!第4回『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』の書評が掲載

2020.01.24.「貧乏大名“やりくり”物語 たった五千石! 名門・喜連川藩の奮闘」が「新刊JP」に掲載

2020.02.04.『どんなことからも立ち直れる人』の書評が「新刊JP」に掲載
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