風竜胆の書評

コミックスから専門書まで、あらゆる本を読みます。元エネルギー企業の専任部長。現在は、ライター・書評家を標榜する自由人w 時に書評が過激になるのは、長州人の血? 現在「シミルボン」と「本が好き!」でも活動中。 執筆依頼、献本等歓迎します。右欄のメッセージ機能にてご連絡ください。 旧ブログ名:本の宇宙(そら)

2019年05月

生活文化の地理学4


・生活文化の地理学
・小口千明・清水克志 編
・古今書院

 本書は一言で言えば、日本各地の生活文化を紹介したものだ。本書を刊行した目的を本文から抜き出してみよう。

<数値化が難しかったり定量分析に向きにくかったりする人文現象を、地理学の「守備範囲ではない」と決めつけて等閑視するのではなく、地域に生きる人びとの性質や多様性に着目し、その分析方法を模索することにより、そこから地域形成や地域変化を説明できないか。そうすることにより、隣接諸分野にはない地理学研究の独自性を主張できるのではないか。
 本書は、以上のような問題意識にもとづき、地理学の立場から地域に生きる人びと、いわば庶民の生活文化をとらえることを目的としている。>
(p1)


 ということで、本書は、食べる〜食文化〜、暮らす〜生活と環境〜、集う〜観光〜、遊ぶ〜非日常の空間〜の4つの観点から、14の章と8つのコラムによって構成されている。

 興味深かったものをいくつか、紹介しよう。

〇第4章 在来小蜜柑から温州蜜柑への転換(豊田紘子・伊藤大生)
 江戸時代は現在のように温州蜜柑中心ではなく、実が小さく種のある小蜜柑が好まれていたようだ。これは「子種あり」と縁起物とされていたからだという。ただ温州蜜柑は江戸時代のはじめに鹿児島県において突然変異でできたものだという。温州蜜柑が広がっていく過程をシミュレーションすれば面白いと思う。

〇第7章 山梨県丹波山村にみる山村の生活文化(清水克志・加藤晴美)
 ジャガイモと言えば、メークインが男爵芋が有名だが、日本各地には在来種ジャガイモというものがあるらしい。もちろんジャガイモ自体のルーツは海外にあるが、在来種ジャガイモは、地元の農家が何代にもわたって種芋を繋いできたものだという。要するに地域野菜のジャガイモ版といったところか。おそらく今日まで続いてきたことには、何らかの理由があるのだろう。もっと特産品であることをPRしてもいいのではないかと思う。

〇第9章 世界遺産飛騨白川村における地域イメージの形成とその変容(加藤晴美)
 今でこそ世界遺産として日本の原風景のような扱いをされているが、白川村は明治・大正期、好奇の目で見られていた。大家族制で、結婚できるのは、戸主や家督を継ぐ嫡男のみ。それ以外の傍系家族は分家独立や法的な婚姻が許されなかった。だから「ヨバイ」による事実婚が普通であり、中には複数男性の子供を産んだ女性もいたと。「ヨバイ」自体はかっての日本では広く見られた風習だが、いったい白川村では何が違うのかが知りたかった。

 このように、なかなか興味深い内容なのだが、出てくる話題を見ると、本州のことばかりなのだ。著者の出身地を眺めてみると、みんな本州である。俗に「北は北海道から南は沖縄まで」と言うが、日本には色々な風俗がある。もっと今回出ていないような地域の話題を入れてもいいのではないかと思う。




しょぼい喫茶店の本4


・しょぼい喫茶店の本
・池田達也
・百万年書房

 「しょぼい喫茶店」というとなんだか悪口のようだが、東京・新井薬師に、この名前のついた喫茶店が実在する。本書は、この喫茶店を開業した著者の物語。

 著者の池田さんは、高校で自信を無くした。中学のときはバスケットボールの選手として活躍しており、高校でもバスケットボール部に入部したのだが、高校生は体も大きくて速く、芽が出なかった。そして、その部の顧問だか監督だかの教師が最悪だった。

時には先生に胸ぐらをつかまれることやビンタをされることもあった(p9)


 また、練習試合で交代に手間取っていると、

「トロトロしてんじゃねえよ! このノロマが! そんなんだからいつまで経っても役立たずなんだよ! この使えねえグズ!」と怒鳴った。(p11)


 もうクビレベルの、とんだ暴力&パワハラ教師だ。私なら、即訴えてやるのだが、当時の著者の精神状態では難しかったんだろう。

 そして自己嫌悪に苦しみながら、大学に進む。しかし就職の時期が近付くと、就活から逃れるためにカナダに留学してしまう。それは就職時期を先延ばしにしただけ。そして、帰国後に挑んだ就職試験にも失敗してしまう。それが著者をますます落ち込ませる。これが理系なら、大学院の修士課程に進んで2年間のモラトリアム期間を得るという手もあるのだが、日本では、文系で下手に大学院に進むとますます就職の間口が狭くなってしまう。

 そんな彼を救ったのはネットで知り合った人々。いろいろと彼なりの戦略はあったようだが、自営業の道を選んだ著者に、見ず知らずの人たちが、ポンと100万の出資をしてくれた。集合時間に遅刻していたにも関わらずだ。

 最初のうちは取材が入ったりして、順調だった喫茶店経営も山あり谷ありで、一時はつぶれることも覚悟していたようだ。

 そんな彼を支えたのが、後に彼の奥さんとなるおりんさんの存在だろう。実は彼女も著者と同じような苦しみを抱えていた。しかし、ツイッターで知り合った池田さんを手伝うために、なんと鹿児島から東京まで、やってきたのである。おそらく何か感じるものがあったのだろう。

 ともあれ、本書を読めば、のんびり生きていてもいいんだということに気をつかせてくれる。心がちょっと疲れているような人には特に勧めたい。


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ダーティペアの大冒険5


・ダーティペアの大冒険
・高千穂遥
・角川文庫

 みなさんはダーティペアを知っているかな。昔女子プロレスで似たような名前があったことを覚えている人は多いのではないだろうか。実は作者は大のプロレスファンで、そこからインスパイアされたらしい。

 とはいっても、この作品はプロレス関係ではなく、スペースオペラ。ケイとユリという二人の美少女が宇宙を舞台に大活躍いや大暴れするというものだ。なぜかこの第一巻は、ハヤカワ版と角川版があり、私の読んだのは角川版。でも最初に読んだのは、SFマガジンに掲載されたもの。ヒロイン二人のなんともハチャメチャぶりに一遍に引き込まれた。

 そして彼女たちが所属するのがWWWA。といっても女子プロレスの団体ではない。世界福祉事業協会(Worlds Welfare Work Associatiron)という銀河連合の付属機関なのである。彼女たちはそこのトラブル・コンサルタント略してトラコン。強大な権限を持ち、人類に関するあらゆるトラブル解決のために働くのである。

 彼女たちの正式なコードネームは、「ラブリーエンジェル」。しかし、彼女たちの行くところ屍の山が築かれる(彼女たちの責任ではないが)ので、ダーティペアと呼ばれている。

 この巻で彼女たちが訪れるのが、惑星グングル(ダーティペアの大冒険)と惑星ラメール(田舎者殺人事件)。期待にたがわず、いろいろやらかした結果、なんと後者では星一つ火の海にしてしまった。そしてこの2作の間に、惑星グングルでやらかしたことを部長に怒られ、酒場でくだを巻いている様子(酒場にて)が挿入されている。

 まあ、まじめに取ればかなり悲惨なのだが、二人のおバカ加減がなんとも面白く、それほど悲惨さは感じられない。もうハチャメチャでとにかく痛快なのだ。

〇他のダーティペアシリーズのレビュー
ダーティペアの大征服
ダーティペアの大復活

 
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戦後最大の偽書事件「東日流外三郡誌」4


・戦後最大の偽書事件「東日流外三郡誌」
・斉藤光政
・集英社文庫

 東日流外三郡誌を何と読むか知っているだろうか。これは「つがるそとさんぐんし」と読む。分かる人は相当な古代史ファンだろう。一時、話題になり、雑誌にも特集が組まれたりしたが、現在は偽書という評価がほぼ定着している。

 本書は、この本が偽書であることを徹底的に追求したものだ。著者は東日流外三郡誌の舞台でもある青森県の県紙、東奥日報の記者(本書の著者紹介によれば、現在編集局次長)だった斎藤さん。

 しかし、読んでいるとなんとなく既視感がある。それもそのはず、本書は、2009年に新人物往来社から出た新人物文庫の再文庫化だという。そして、その新人物文庫版が私の本棚にしっかり収まっているのだ。違うのは、巻末に新章が付け加わっているというところか。再文庫化ということは、中身を読めば分かるのだが、もっとよく分かるところにそのことを書いてもらうとありがたい。

 なにしろ、表紙イラストを安彦良和さんが手がけ、表紙から受けるイメージは完全に別物だ。ただ、新人物文庫版が出たのが10年前なので、殆ど内容を忘れていたこともあり、最初から読んでしまった。

〇新人物往来社版のレビュー
偽書「東日流外三郡誌」事件

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野田秀樹×鎌田浩毅 劇空間を生きる:未来を予見するのは科学ではなく芸術だ4



・野田秀樹×鎌田浩毅 劇空間を生きる:未来を予見するのは科学ではなく芸術だ
・野田秀樹、鎌田浩毅
・ミネルヴァ書房

 地球科学の研究者で京大教授である鎌田浩毅さんが受け手となって、斯界の第一人者に切り込むシリーズの第二弾。今回の相手は演劇家の野田秀樹さん。本書は、お二人の対談形式で進んでいく。なおお二人は、東京教育大付属駒場高校(現筑波大付属駒場高校)の同級生でもある。

 対談は大きく二部に分けられ、それぞれ2講、3講で構成されている。第一部は「演劇界の旗手の軌跡」と題され、野田さんの生い立ちや考えなどが語られる。そして第二部は、「演劇の世界」というタイトルの下にもっと専門的なことが話されている。対談は、同級生の気安さで進んでいるように見える。

 また対談の後には、お二人が東京教育大付属駒場高校の卒業文集に寄せたものが収録されている。まさに「栴檀は双葉より芳し」の観がある。高校生でこれだけ書ける人がどの程度いるだろうか。また、鎌田さんによる対談のバックグラウンドとなる講義レポートや、野田さんの年譜なども収録されており、至れり尽くせりと言った感じだ。

 お二人の経歴が巻末に掲載されているが、鎌田さんは東大の卒業年が書かれているのに、野田さんは東大入学年が書かれており、不思議に思ったのだが、本書を読んでいくとその理由が分かった。野田さんは演劇に夢中の学生生活で、6年通ったのだがとうとう中退してしまったようだ。

 演劇に興味がある人、野田秀樹さんのファンの方なら一読する価値があるだろう。また、自分も演劇をやるという人は、いろいろと参考になる部分があるに違いない。


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ソウナンですか?(4)5


・ソウナンですか?(4)
・(原作)岡本健太郎、(絵)さがら梨々
・講談社

 基本的には、アスカ、しおん、むつそしてほまれという4名のJKたちの無人島での遭難・無人島のサバイバル生活を描いたものだが、サバイバルの中で、女子として大事なものを失っているというのは気のせいか。

 この巻では、食料確保のために、みんなでイノシシを狩ったり、島の反対側で誰かが流れ着いて暮らしていた痕跡を見つけ、それがもとでほまれと他の3人とちょっと争いがあったり。

 この4名のJKの中でいろいろやらかしてくれるのが若干脳筋ぎみのアスカだ。例えば島の反対側に流れ着いたトランクの中に入っていたパンツを見つけたときに、

「すげ〜〜〜 このパンツ!! ほとんどヒモだぞ これ!!」

と言っていたくせに、ちゃっかりと借りて履いているんだから。

 極めつけはこれ。刺身が食べたいと筏をつくり、皆で漁に出たときのこと。サメに襲われて、あわやというとき、やはりアスカがやってくれる。サメは人間の排泄物に反応するということらしいのだが、なぜか急にもよおしてしまう。それもう〇こ

これを囮にしてサメを追い払おうとほまれが手を出して言うことには、

「私が投げるから ここにしろ!!」

 おかげで彼女たちはサメによる危機を無事に切り抜けましたとさ。でも今回はアスカが女子として大切なものを無くしたような・・・。



 
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日本史を動かした歌4




・日本史を動かした歌
・田中章義
・毎日新聞出版

 本書は、我が国の歴史上の偉人の歌を集めたものだ。神話時代から昭和・平成の歌人まで収録されているのはちょうど100首。見開き2ページで、歌と解説が書かれている。解説は主として作者についての紹介なのだが、よく読めば、その歌がどんな気持ちやシチュエーションで詠まれたのかが分かるだろう。

 歴史上の偉人といっても知らない人も結構いるし、中にはこの人が歌を詠んでいるのかと思うような人も入っているのである。例えば、日本人初のノーベル賞受賞者となった湯川秀樹博士。博士が漢籍に堪能なのはよく知られた話だが、歌も詠まれているとは知らなかった。このような歌が収録されている。

素粒子の世界の謎を解きあぐみ 旅寝の夢も結びかねつつ


いかにも湯川博士らしい歌ではないか。

 高杉晋作の歌も収められているが、帯には「高杉晋作は隠れ西行ファン?」とあったのだが、彼の歌の解説を読んでもそんなことは書かれていない。しかしご安心あれ。西行の歌も収められており、その解説に彼が西行に敬意を表して、「東行」と名乗っていたことが書かれている。ちなみに彼の墓所は下関市にあり、「東行庵」という名の史跡となっている。

 また飯沼貞吉の歌も収められている。飯沼貞吉と言っても知らない人が多いだろうが、あの白虎隊のただ一人の生き残りである。彼の父の妹が会津藩家老の西郷頼母の妻だったという。西郷頼母の養子だったのが姿三四郎のモデルとなった西郷四郎である。だから、飯沼貞吉と姿三四郎は親戚ということになる。(ん?)

 この貞吉を匿い、身の立つようにしたのが、実は敵方長州藩士の楢崎頼三なのであるが、このことが本書にまったく書かれていないのは、長州人としてとても残念である。

 最後に、本書にも収録されているが、私の好きな歌を紹介して終わろう。

倭(やまと)は国のまほろば たたなづく 青垣 山隠れる 倭し美(うるわ)し 倭建命(やまとたけるのみこと)


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H23.3:書評コミュニティ「本が好き!」より「免許皆伝」称号を受ける

H23.3.16:読売新聞朝刊“読者のホンネ”に「カラスと髑髏―世界史の「闇」のとびらを開く」の100字書評掲載

H25.10.26発売の図書新聞(3132号、2013年11月2日号)に「泥棒は几帳面であるべし」の書評掲載

H26.6,28発売の図書新聞(3165号、2014年7月5日号)に、「市場主義のたそがれ―新自由主義の光と影」の書評掲載

H28.8頃より「シミルボン」への投稿開始

H29.7.4「彗星パンスペルミア」の書評が「新刊JP]に掲載

H29.10.19「ハンナ・アーレント - 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者」の書評が「新刊JP」に掲載

H29.11.24「ペンギン・ハイウエィ」の書評が「新刊JP」に掲載

H29.12.26.「ニッポンの奇祭」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.1.18.「問題解決大全――ビジネスや人生のハードルを乗り越える37のツール」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.4.26.「メゾン刻の湯」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.7.20.「極道ピンポン」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.7.26.「シミルボン」にインタビュー記事掲載

2019.2.23.「本が好き!」×「書店フェア」で「あなたの街で本と出会う Vol.2」に「こころを彩る徒然草」のレビュー掲載

2019.04.28.【本が好き!×カドブン】コラボレビュー!第4回『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』掲載
本が好き!免許皆伝レビュアー風竜胆
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