風竜胆の書評

コミックスから専門書まで、あらゆる本を読みます。元エネルギー企業の専任部長。現在は、ライター・書評家を標榜する自由人w 時に書評が過激になるのは、長州人の血? 現在「シミルボン」と「本が好き!」でも活動中。 執筆依頼、献本等歓迎します。右欄のメッセージ機能にてご連絡ください。 旧ブログ名:本の宇宙(そら)

2020年04月

聖地巡礼 世界遺産からアニメの舞台まで4


・聖地巡礼 世界遺産からアニメの舞台まで
・岡本亮輔
・中公新書

 本書によれば、現代は、宗教が観光と融合しているということだ。例えば、スペイン北西部にあるカトリックの聖地であるサンティアゴ・デ・コンポステラまでの数百キロもの巡礼路を歩く人が2000年代以降増えているという。大変な道のりを歩くのだから、信仰に熱心な人が多いのかと思いきや、多くは、普段教会に行かなかったり、非キリスト圏の人々であるらしい。それでは彼らは何のために旅をするのか。

 実は彼らは、ゴールへ行くことよりむしろプロセスを楽しんでいるのだ。巡礼することによる非日常的な体験。宗教より観光。それこそが現代の巡礼の特徴だという。そしてそれはわが国でも同じで、例えば四国八十八か所の例を挙げている。

 しかし、我が国では、葬式は仏式でやり、初詣で神社に行き、クリスマスを祝う。あまり特定の宗教に縛られている人は少ないのではないか。(まあ、昔、マルクス主義に帰依していた人間は多かったが)。そんな我が国だから、観光で寺社に行くというのは、昔からあったことだ。だから、寺社の門前に歓楽街ができたりしたのだろう。 

 「伊勢参り 大神宮にもちょっと寄り」という川柳があるくらいなので、昔から日本では、聖地に参るよりは、観光の方が主目的の人が多かったのだと思う。

 そもそも四国八十八か所と言えば、弘法大師空海の足跡を辿るものだ。空海といえば真言宗である。八十八箇所の寺は大部分が真言宗だが、時代とともに宗派が変わったところもある。

 要するに、既存の宗教のベールが、科学のもとで1枚1枚剥がされていく。そして、残ったのが「観光」ということなのだろうと思う。日本の場合は、宗教に害される人がそんなに多くなかったのだろう。

京都・山口殺人旅行4


・京都・山口殺人旅行
・山村美沙
・角川文庫

 ミステリーの女王と呼ばれた山村美紗さんの作品のひとつ。私は文庫版で読んだのだが、今現在は古書以外では、電子版しか売っていないようだ。商社の出世争いを背景にした事件として、2時間ドラマを視ているような感覚でサクサクと読める。

 ヒロインは山川理矢子という大学生。商社マンの父とニューヨークに住んでいた。父がロンドンに異動となり、日本に一時帰国したが、そのまま失踪してしまう。父は、京都を観たあと、色々な小京都を呼ばれるところを回るつもりだったようだ。

 理矢子は、父の勤める商社のロンドン支社にいる田村信一から紹介された甥の新聞記者田村陽一そして、理矢子が京都で知り合ったナンシイというアメリカ人留学生と父を探すのだが、やがて明らかになる意外な犯人。

 タイトルに懐かしい地名が並んでいることもあり、面白く読んだのだが、ツッコミどころは結構ある。地理感がどうもおかしいのだ。舞台は、京都と小京都ということなのだが、

「山口は?」「ここよ」「その近くの小京都というと三次、竹原、備中高梁、津和野ですね」(文庫版p45(以下同様))


 地図の上では近いかもしれないが、実感としてはそう近い気はしない。特に備中高梁は岡山県にあり、間に広島県が入っている。それに三次や備中高梁なんかはググってみれば確かに小京都として出てくるが、あまりそんな気はしない。

 それに、山口は小京都とも呼ばれることもあるが、気持ちは「西京」。「東京」が東の京なら、山口は西の京という訳だ。だから山口県には西京銀行(昔の山口相互銀行:本店は周南市にあるが)や西京高校と「西京」の名を冠したものがある。京都が応仁の乱で荒れ果てた時代に大内氏の下で、大いに栄えたのである。

 そして松江への行き方だ。

「新幹線で、倉敷まで行って、そこから伯備線に乗り換え、そのあと山陰本線に乗って行った方がいいかもと考えたが・・(以下略)」(p58)


 確かに伯備線の起点は倉敷だが、新幹線で倉敷には行けない。行けるのは少し西の方にある新倉敷。それに伯備線の特急は岡山発なので、普通の人は岡山まで新幹線で行き、そこから伯備線の特急に乗るはずだ。

 父親の腕は山口県の萩で見つかったのだが、それが島根県の津和野とごっちゃになっている箇所がある。

「(前略)そして、腕を切り取られて、腕だけ津和野に運ばれたのね」(省略)「(前略)津和野で死んだようにみせかけたのよ」(p171)


 他の箇所には、これでもかというほど「萩」、「萩」と書いているにも関わらずにだ。ガイドブックなどには萩・津和野といっしょに扱われているのをよく見るが、萩は山口県、津和野は島根県にあり、全く別の場所である。

 ここもツッコミたい。理矢子が京都でマンションを借りるとき、3LDKの部屋を借りている(p139)が一人暮らしなのに、どうしてそんな広い部屋を借りる必要があるのか。普通ワンルームだろう。

 そうはいっても、本書を読んで初めて知ったこともある。山口県の県獣は「しか」だそうだ。しかなど、生まれてこのかた広島県の宮島でしか見た覚えがないのだが、調べてみると「ホンシュウジカ」が県獣らしい。これはひとつ賢くなった。


流浪のグルメ 東北めし3


・流浪のグルメ 東北めし
・土山しげる
・アクションコミックス(双葉社)

 本書は、東北を訪れた人が、主人公の案内で東北グルメを満喫するというもの。著者は、あの望月三起也さんのお弟子さんにあたる人らしい。

 主人公は獅子戸錠二、どこかで聞いたような名前だが、ローカル飯屋の情報に詳しいプロドライバー、つまりトラック野郎という訳だ。出てくるのは仙台、塩釜、石巻のグルメ。しかし考えてみるといい。表紙イラストにあるような、見るからに怪しさ満点のおっさんにいきなり声をかけられたら、大部分の人は警戒して逃げていくのではないだろうか。そもそも主人公をおっさんにして誰得なのだろうか。

 それに、ドライバー仲間の女性。なんだよ「姫トラお京」って? このお京さん、出てくる場面がこの1巻だけでも2回あったので「ヒロイン枠」なんだろう? 本当か? ヒロインってもっと線が細い美女だったら分かるが。でもおっさんより、こちらを主人公にした方が受けそうだ。

 ともあれ、あまり馴染みのない東北の大衆グルメが紹介されており、なかなか興味深い。

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学生 島耕作 就活編(1)4


・学生 島耕作 就活編(1)
・弘兼憲史
・講談社イブニングコミックス

 本書は、島耕作の就活を描いたものだ。耕作は、ワセダを卒業を控え、初芝電産に内定する。本編で耕作がどんどん成り上がっていく会社だ。

 実は初芝電産に就職が決まるまで、一波乱あった。応募者の身辺調査をするために初芝が雇った興信所が、耕作が同郷で同級生の活動家のリーダーと間違えたため一度は不合格になる。しかし、同じく初芝を受験した親友の訴えで人物を取り違えていたことが分かり、一転合格となる。この辺りにも時代を感じる。

 いまでも、身辺調査をやっているところはあるかもしれないが、もしばれたら、重大な人権侵害として世間から袋叩きにあうことは間違いないだろう。しかし、この漫画では割と堂々とやっているのだ。

 そして、大学生になったら未成年でも酒がOKだとか、やたらと喫煙率が高かったりと、身辺調査以外にも、時代を感じさせるシーンも多い。私は酒も煙草もやらないが、大学のときを思い返すとそんな感じだった。

 また、耕作が親友と受験した初芝の食堂でワセダOBとして彼らに接触してアドヴァイスしてきた者が、実は面接試験の担当者だったのだが、実に細かい。私なら、それだけで、もういやになるかもしれない。

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女神のスプリンター(1)4


・女神のスプリンター(1)
・かろちー、(原作)原田重光
・講談社

 主人公は、高瀬浩太という陸上選手を目指す高校生。兄の雄一はオリンピック出場や日本人二人目の9秒台を狙える選手として期待されていたが、突然引退し、今は海外に単身赴任中。

 浩太は、兄嫁で、「トラックのビーナス」と呼ばれていた恭子に、コーチしてもらうが、この恭子、トレーナーを目指しており、スポーツ科学に独自の理論を持っている。この実験台にされたのが浩太というわけだ。

 恭子の理論というのが一言で言えば射〇管理。アスリートに不可欠な男性ホルモンであるテストステロンを効果的に分泌させるには、9日毎にリセットすればいいということらしい。つまり発射は9日毎。発射したらテストステロンの値はリセットされる。9日間はひたすら我慢。やりたい盛りなのにひたすら我慢。勝手に出したらすぐわかると首にテストステロンの濃度が分かるチョーカーを付けられる。夢の中で発射しそうになったらすぐ起こせるように、蛇の生殺しのような恭子の添い寝。

 でも、9日我慢できたら、ご褒美にあんなことやこんなことを。でも兄嫁なので、おさわりはなし。この恭子、なぜか全裸でトラックを走り回ったり泳いだりする。一応エロさを狙っているのかもしれないが、なぜか笑えてしまう。


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フロアに魔王がいます(1)〜(3)4



・フロアに魔王がいます(1)〜(3)
・(漫画)川上真樹、(脚本)はと
・1KADOKAWA/メディアファクトリー

 かって地上を支配していた魔族。光の一族との戦いに敗れた魔王様アモン・パトリシア。逃げるためのゲートが繋がったのが、なんと「ハミング・ダイニング」というファミレスの地下。魔王様なぜかこのファミレスのバイトに応募する。この魔王さま、普段は腹ペコキャラの幼女姿なのだが、先輩バイトの入間光一のまかないを食べて満腹になると、本来のナイスバディな美女に変身する。眷属のダークドラゴンを召喚するつもりで呼び出したのが、なぜかキノコを背負っている、ノンコ。こちらも普段幼女姿なのだが、満腹になるとナイスバディになるという魔王様と同じ様な体質だ。ちなみに、背負っているキノコからは胞子が出て、魔界茸という茸が繁殖する。

 そしてファミレスで働くようになるのが、魔族四天王の一人キサラギ。美少女なのだが、他の2人のように、腹ペコか満腹かで姿が変わったりはしない。その代わり極端な人見知りで、鎧を着ていないと恥ずかしくって接客がができない。面白いのはその謝罪方法。戦闘民族の村で育ったため、男への謝罪は拳で(要するに殴る)、女に謝罪する場合は抱擁らしい。そして彼女の持っている魔剣。魔王様に傷をつけられる凄い武器なのだが、キサラギとずっといっしょにいるうちに母親愛に目覚めたみたいで、キサラギにはウザがられている。しかし四天王というからには、あと三人こんな変な人がいるのだろうか。

 光一には、「世紀末ランボーイ」というヤンキー御用達の雑誌の読モをしていたという黒歴史がある。そして可愛いは正義の店長(女性)、アルバイトの後輩五十嵐むつ(女性)、アルバイトで神主の孫の金髪巫女(女性)そして幽霊で、ぬか床のツボに住んでいるぬか床ちゃん(女性)とどんどん変な人が出てくる。これは笑える。
 

半自伝的エッセイ 廃人2





・半自伝的エッセイ 廃人
・北大路翼
・春陽堂書店

 著者は、山頭火を知り小学5年生から句作を始めたとカバーの著者紹介の部分に書かれている。この経歴からは、山頭火のような自由律俳句を詠むのかと想像していた。しかし収められているのは五・七・五の定型俳句ばかりだ。

 著者はこのように書いている。

「ルールは厳しければ厳しいほど面白い。有季定型というルールがあるから面白いんだ。こんな大きな世の中のできごとをたった十七文字で描こうというんだからむちゃくちゃじゃないか。最高にクレージーでクールだ。
 季語があるから、季語のない句を作りたくなるし、五・七・五があるから十七文字を飛び出したくなる。縛りつけるからそこに反発力が生まれるのだ。」
(p53)


 これは山頭火のように、自由律俳句をつくりたいという意味だと思ったのだが。

 しかし、山頭火の著作を読んでいると、自分はどうあがいてもだめな人間であるという哀しみを感じるのに対して、本書を読むと、そういったものは感じられない。ただオラオラと自分の言いたいことを言っているようにしか感じられないのだ。

 こういうことも書かれている。

「歯を磨くぐらいなら最初から食べなければいいんだよ。僕は食事をするから歯を磨きません。虫歯になったら抜けばいい。」(p67)


「この頃からアウトロ―をウリにした俳句の出演が増えた気がする。前歯がないまま人前に出ることにも慣れてきた。だってアウトローだもん。」(p74)


 いや歯が抜けているのがアウトローではないからね。歯を磨いた方がいいと思うよ。

 ともあれ、著者は、自分とは違う世界に生きる人だということが分かった。



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H30.7.20.「極道ピンポン」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.7.26.「シミルボン」にインタビュー記事掲載

2019.2.23.「本が好き!」×「書店フェア」で「あなたの街で本と出会う Vol.2」に「こころを彩る徒然草」のレビュー掲載

2019.04.28.【本が好き!×カドブン】コラボレビュー!第4回『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』の書評が掲載

2020.01.24.「貧乏大名“やりくり”物語 たった五千石! 名門・喜連川藩の奮闘」が「新刊JP」に掲載

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2020.04.28.「半自伝的エッセイ 廃人」の書評が「新刊JP」に掲載

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2021.06.07 【本が好き!×カドブン】に「傷痕のメッセージ」の書評が掲載
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