ダーウィンと言えば、ほとんどの人が「進化論」を唱えた人と言うくらいの認識は持っているだろうが、彼の思想の本質については案外知られていないのではないだろうか。「ダーウィンの思想」(内井惣七:岩波書店)は、どのように彼の思想が発展していったのかについて、その変遷をたどり、ダーウィンの思想の偉大さとその真価を再認識させてくれる書である。


ダーウィンの思想―人間と動物のあいだ (岩波新書)
  • 内井惣七
  • 岩波書店
  • 777円
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 ダーウィンが、イギリス海軍の測量船ビーグル号で航海に出たのは、1831年のことであった。この航海中に読んだチャールズ・ライエルの「地質学原理」と航海での体験が、ダーウィンの思想形成に大きな影響を与えることになる。ライエルは「理性」や「道徳的能力」で人間と動物は不連続な存在であると見なしていた。当時の人々は、ライエルのような学者でさえ、人間が動物と連続しているなんてことは、受け入れることができなかったのだ。しかし、ダーウィンは未開の人々を見て、文明の幅を取り除いてみれば、人間と動物との差は縮まるのではないかと考えるようになる。人間の進化を考えるとき、どうしても動物との連続性ということは避けて通れない。この航海で、ダーウィンはあっさりとライエルを超えてしまったのである。

 ダーウィンの進化論のキモは「自然淘汰」と「分岐の原理」であるという。「自然淘汰」の方はよく知られているように、「生存に有利な形質を備えた個体の方が生き残りやすく、長い年月の間にはこの形質を備えたものが種の大多数を占めるようになる。」というものだ。「分岐の原理」の方はそれほど知られていない思うが、「多様に分岐しているほど、自然界において、色々と異なった場所で生存することができ、個体数を増やすことができる」というものである。

 当時多くの人々を悩ませていた問題に「道徳性の起源」があった。ダーウィンに大きな影響を与えたライエルにしても、「道徳性の起源が説明できない限り、自然淘汰説では人間の起源を説明できないという」との考えを持っていたのだ。しかしダーウィンは、「ミツバチが本能によって彼らの社会を維持しているのと同様に、人間は道徳によって人間の社会を維持している」として、ミツバチの本能と人間の道徳をその「機能」に着目してあっさりとつないでしまう。彼は、社会生活を快適と考える個体が自然淘汰によって生き残っていったと考えたのである。この辺りが、ダーウィンの思想家としてのすごさを表していると言えよう。

 そして、もうひとつダーウィンのすごさは、彼の思想において「神」を持ち出さなかったことである。「神によるデザイン」といった当時としてはまったく当たり前といってもよいような道に迷い込まず、科学的な理性で進化論を語ったのである。「神は死んだ」というニーチェの言葉は有名であるが、ダーウィンも「神殺し」の系譜に名を連ねる一人なのである。この本は、そんなダーウィンの思想の偉大さについての認識を新たにさせてくれた一冊である。 

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*本記事は、「時空の流離人」と同時掲載です。

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