風竜胆の書評

コミックスから専門書まで、あらゆる本を読みます。元エネルギー企業の専任部長。現在は、ライター・書評家を標榜する自由人w 時に書評が過激になるのは、長州人の血? 現在「シミルボン」と「本が好き!」でも活動中。 執筆依頼、献本等歓迎します。右欄のメッセージ機能にてご連絡ください。 旧ブログ名:本の宇宙(そら)

其の他学術・教養

星宙の飛行士 宇宙飛行士が語る宇宙の絶景と夢4


・星宙の飛行士 宇宙飛行士が語る宇宙の絶景と夢
・油井亀美也、(取材、文)林君代
・実務教育出版

 本書は、航空自衛隊員を経て宇宙飛行士になった、著者の話を多くの宇宙からの写真と共に纏めたものだ。

 将来、天文学か物理学の研究者を夢見ていた著者は、家庭の事情で、腕試しとして受験した防衛大に進学する。防衛大なら、学費はかからないからだ(本書には書かれていないが手当も出る)。

 防衛大を出て、航空自衛隊に入った著者だが、宇宙への夢は捨てがたく、宇宙飛行士を目指すことになる。本書を読むと、本人の努力も大事なのだが、理解ある人に囲まれることが大切だということがよく分かる。

 例えば、JAXAの宇宙飛行士募集に応募することを勧めてくれたのは著者の奥さんだった。また、上司は快く推薦状を書いてくれたし、仲間の後押しもあった。もし、この人たちがいなかったら、油井宇宙飛行士は誕生してなかったかもしれない。

 興味深かったのが、トイレの話。タンクに貯めて、いっぱいになるとタンク毎交換するのだが、予備がない状況になると、ゴム手袋をして、タンクの中に便をぎゅうぎゅう押し込んでいたそうだ。これは素人考えだが、タンクの中のものを宇宙に捨てられるようにできないものかと思う。大昔の列車は、便を外にまき散らしながら走っていた。沿線に住んでいた人は大迷惑だが、宇宙は広い。誰も文句は言わないと思う。

 本書に収録されている、絶対に地上からでは写せないだろうい絶景写真の数々はすごい。環境破壊が問題となっているが、それでも、地球という星の美しさを再認識させてくれる。私たちは、この美しい星を守っていかなければならないのだ。それはただヒステリックに叫ぶばかりではなく、知恵を絞って、現実的な案を考えていかなくてはならないのだと思う。




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古典の裏3


・古典の裏
・松村瞳
・笠間書院

 タイトルに「裏」とあったので、どれだけどろどろしたものかとも思ったのだが、その古典が書かれた背景を解説したものだった。基本的にはQ&A方式で書かれているのだが、これがなかなか面白い。例えば、枕草子に昼間の時間帯が出てこないという。それは清少納言が夜勤だからだそうだ。色々コンプレックスのあった清少納言は、仕えていた中宮定子の計らいで、彼女が恥ずかしがらなくてもよいように、姿の見えにくい夜勤になったという。

 なぜそんなに恥ずかしかったのかと言えば、痩せていたからだという。当時の美人の条件は太っていること。今とは大分美の基準が違うのである。これは納得できる。美男・美女の基準が不変だとすれば、遺伝の法則により、そうでない者は駆逐されていくはずなので、この世は美男・美女だらけになっている筈だ。しかし必ずしもそうでないことは皆さんご存知の通り。これは美の基準が時代時代で変わっていたことから説明できるだろう。

 ただ、断定的に書かれてはいても、良く読めば、こういった説もあるというものもあるので、すべてがその通りという訳ではない。例えば徒然草の吉田兼好には、幕府や朝廷のスパイだったという説があるとのことだが、Q&Aでは、スパイであったことが断定的に書かれている(p97)

 取り上げられているのは、枕草子、源氏物語、徒然草、平家物語、竹取物語、方丈記、土佐日記、伊勢物語、更級日記、大鏡。古典の教科書にでてくるようなものは網羅してある感じだ。

 ただ幾つか気になることもある。例えば次のような記述だ。

ちなみにこのころの(評者注:鎌倉時代)仏教は基本的には「密教」です。理詰めの顕教に比べ、不思議なパワーが救ってくれるとした密教の方が、人々には断然ウケました。(p121)


 これは、浄土系の仏教がひたすら念仏を唱えればいいため、学問のない庶民も簡単に帰依できたことの説明として述べられているものだが、密教とは大日如来の秘密の教えだから密教という。そして密教とは真言宗系の東密と天台宗系の台密(厳密にはこれらの前に部分的に日本に入った雑密がある。また天台宗では顕密一致として顕教も密教も同列に扱われた。)しかないはずだ。だから浄土系の仏教も日蓮宗も密教ではない。

 こういった記述もある。

織田信長は織田家の嫡男として生まれたと思われがちですが、実際には3男でした。(p225)


 これは嫡男と長男の区別がついていないということではないか。正室の子は庶子よりは優先権があり、例え庶兄がいたとしても、正室の一番上の子が嫡男となる。その子が長男かどうかはあまり関係ない。また信長は3男だとあるが、兄弟の多くは生年が不明で、確実に兄と言われるのは、庶兄の信宏が一人だけだ。だから3男の可能性もゼロではないが、言い切るだけの証拠はない。例え庶兄がいたとしても、正室の一番上の子が長男でなくとも嫡男となる。また信長は3男だとあるが、兄弟の多くは生年が不明で、確実に兄と言われるのは、庶兄の信宏が一人だけだ。だから3男の可能性もゼロではないが、言い切るだけの証拠はない。

 このように疑問点もあるが、それを割り引いてもなかなか楽しい。これもうわさ話を面白がる人間の性だろうか。ただ時代が古すぎて、誰も迷惑する人はいないのでいいかなと思う。


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狂気の科学者たち4


・狂気の科学者たち
・アレックス・バーザ、(訳)プレシ南日子
・新潮文庫

 本書を読んで一番感じたのは、色々ヘンな研究をしている人もいるんだなあということ。

 興味深かったのは、「ヒトとサルは交配可能か」(pp43-48)という研究。これは、イリヤ・イワノフ博士という人による実験だが、要はチンパンジーとの交配実験だ。

 皆さんオリバー君を覚えているだろうか? 人間とチンパンジーの混血だと騒がれた、あのオリバー君だ。確か、オリバー君の花嫁も募集され、実際にこれに応募した女性もいたと記憶している。もっとも最後には、オリバー君は、正真正銘のチンパンジーだったことが判明したらしい。

 この実験は、リアルオリバー君を作ろうというもの。チンパンジーと人間が交配可能かどうかということだが、繁殖できるかどうかを別にすれば、おそらく私は可能だろうと思う。何しろライオンと虎やヒョウが交配できたのである。

 人間とチンパンジーの遺伝子は、その99.4%が同じなのだ。出来ないと思う理由はないだろう。むしろ科学的なものより、宗教的、倫理的な忌避感の方が強いのではないだろうか。実験者の名前から分かるように、宗教を弾圧した旧ソ連の人間により計画されたというのは納得できるところだ。

 ユーモラスな研究も多い。例えば、「『くすぐったい』のは気のせい?」(pp65-70)は、「どうして自分で自分をくすぐってもくすぐったくないのか」という疑問を解明するために行われているし、「ワインの専門家は赤く染めた白ワインを見抜けるか」(pp75-79)という研究などは、芸能人を格付けする某番組を思わせる。

 また、「目に見えないゴリラ」(pp93-98)や「なぜドイツ人はユダヤ人の強制収容に反対しなかったのか」(pp347-357)はどこかで読んだり、見たりした人も多いだろう。

 前者はバスケットの試合で、なんの脈絡もなしにゴリラの着ぐるみを着た人が出てきても誰も気が付かないというものであり、後者はアイヒマン実験とも呼ばれており、普通の人でも権威者の指示があれば人を殺しかねないというものだ。どちらも多くの心理学関係の本に出てくる。

 確かに、今の基準からはマッドサイエンティストのような実験もある。例えば、人間の脳に電極をさして、同性愛者を異性愛者にする実験「性的指向を変える快楽ボタン」(pp252-259)などだ。

 タイトルに科学者とあることから、理工系の事例を想像したのだが、収録されているのは、医学・生理学的なものや、心理学的なものである。それはそれで面白かったのだが、理工系にはヘンな研究はないのだろうか。

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ブルガリア 悠久の時を刻む5


・ブルガリア 悠久の時を刻む
・Sanna
・書肆侃侃房

 ブルガリアと言えば一般の人々にはあまりなじみがないだろう。国名くらいは知っているだろうが、具体的に知っているというとヨーグルトと相撲の琴欧州の出身国ということくらいだろうか。

 本書は、そのブルガリアについて多くのカラー写真を駆使して紹介したものだ。読んでいると、旅情を誘われ、行ってみたい気になってくる。もちろんヨーグルトの話も収められている。日本の製品に国の名前が使われるくらいだから、ブルガリアの人々は日本人とは比較にならないほどヨーグルトを良く食べるそうだ。私はヨーグルトの種類というと、せいぜいプレーンか、果肉入りそして飲むヨーグルトくらいしか知らないのだが、ブルガリアのスーパーに行けば多くの種類のヨーグルトが並んでいるそうだ。自宅で作っている家庭もあるらしい。

 面白いことに気が付いた。ブルガリアの人口は約710万人(2017年)。中国地方の人口が約730万人(1919年推計)だからほぼいっしょだ。そして首都ソフィアの人口が約124万人(2017年)。広島市の人口が約120万人でほぼ同じ。要するに、人口的には、中国地方がそのまま一つの国になったと思えば良い。そしてカザンラクという街ではバラ祭りが行われるそうだが、広島県福山市でも「福山ばら祭り」が行われているので、これも似ている。

 しかし、写真で見る限りは、異国情緒に溢れ、日本の風景とはかなり異なる。日本で言えば奈良・京都あたりか。そこに古き日本が残っているように、ブルガリアには古きヨーロッパが残っている。






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AI時代の小学生が身につけておきたい一生モノの「読解力」3


・AI時代の小学生が身につけておきたい一生モノの「読解力」
・福島美智子、福島万莉瑛
・実務教育出版

 読解力とはなんだろう。本書は読解力=語彙力+要約力としており、それらの磨き方を述べている。そのツールとして勧めているのがマッピングという技法だ。

 振り返って、自分の小学生時代を思い起こせば、「読解力」という言葉自体聞いたことがない。そういった概念を教師が持っていなければ、生徒に教えようがないだろう。要するにそのような教育は行われていなかったということだ。確かに登場人物の気持ちなどを聞く問題はあったような記憶があるのだが、どうでもいいような問題だったと思う。

 正直大学入試に際しても一番勉強しなかったのは国語(現代文)だ。当時は、国語なんて勉強のやりようがないと思っていた。今なら、国語は読解力を付けるのがその目的の大きな部分を占めるというのは分かるのだが、田舎の公立の学校で高校まで来てしまったので、教師自体もそれを頭の中に入れているようにはとても見えない。いきおい、国語は教科書を読んでお茶を濁すようなものになりがちだ。

 もし小学生のころから「読解力」ということを頭に入れて学んでいたらと思うと残念である。

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超常現象: 科学者たちの挑戦4


・超常現象: 科学者たちの挑戦
・NHKスペシャル取材班
・新潮文庫

 本書は、心霊現象や超能力などの超常現象を最先端の科学で検証しようとするものだ。そのスタンスが書かれた部分を引用してみよう。

「しかし今回の番組は、そのどちらでもない。我々がとったスタンスは、次のようなものである。まずは、超常現象を最先端の科学で徹底的に検証し、何がどこまで分かってきたのかを、詳細に見極めていく。(中略)現代科学ではまだ説明できない現象があったとしても、その事実をありのままに伝えていこうというものだ。」(p14)


 今の科学ですべてが説明できるわけがない。一例をあげると量子力学だが、本当のところが分かっている人間は皆無だろう。計算結果が現象をよく説明できるので使っているが、あるところから先は誰も分からないのだ。でも科学が発達すればどうなるかは分からない。ただ、すべてを今の科学で説明できないことを強調しすぎると、疑似科学のようなものや、科学的とは到底呼べないものに引っかかる恐れがあるだろう。

 超能力を否定する手品師が、あれは手品で出来るというのをよく聞く。実際に実演してみる例もあるようだ。それなら、そのトリックをきちんと明かせばいいと思うのだが、そういったことはあまり聞かない。そのうえで、トリックかどうかを検証すればいい。

 臨死体験は、夢で説明できると思う。脳が活動していれば何らかの夢を見ても不思議はない。本当の意味で、あの世から帰ってきた人間など皆無であることは指摘したい。

 生まれ変わりは、世界の人口が増えていることをどう説明するのだろうか。仮に生まれ変わりがあったとすると、元々の魂が分裂しているのか、それとも生まれ変わる前は人間以外のものだったのか。前者は、これまで複数の人間が元々は同じ人間だったという主張を寡聞にして知らない。後者は仏教では魂は六道を輪廻するという思想があるので、まだ受け入れられるかもしれない。バクテリアまで入れると魂のストックは無限にある。きっとあなたは、人間になる前はバクテリアだったんだろう(笑)。

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数学する人生4


・数学する人生
・岡清、(編)森田真生
・新潮社

 本書は、数学の天才と言われた岡潔さんのエッセイを集めたものだ。岡さんは、奈良女子大を定年退職後に京都産業大の教授となり教養科目の「日本民族」を担当した。本書の第1章「最終講義」は、この京都産業大で行われた講義を編者の森田さんがテープから起こしたものだ。通常は最終講義と言えば、定年を迎える大学教授が通常の講義とは別に、自らの研究人生を振り返って講義するものだ。しかし、この最終講義の章は9年に及んだ講義の最初の1年の内容を纏めたものだという。そういった意味で普通の最終講義とは異なるものの、岡さんが何を考えていたかが分かるだろう。

 第二章の「学んだ日々」は彼のフランス留学時代を綴ったもの。そして、第三章の「情緒とはなにか」、第四章の「数学と人生」に続く。岡さんといえばもちろん我が国を代表する数学者なのだが、本書には、彼の数学的な業績を解説するような記述はない。すべて色々なところに発表したエッセイなのだ。

 これは知らなかったのだが、岡さんは一時広島文理科大(今の広島大学)に助教授として勤めていたという。しかし40前にここを辞職し、故郷の和歌山で数学研究と畑仕事の日々。彼の年表を眺めているとおかしなことに気が付く。広島文理大の助教授となったとき、その前に京都帝国大学の助教授だったのだ。広島文理大に行くことも岡さんがフランス留学から完全に日本に帰りつく前に決まっていた。今ならまず考えられないような人事だが、当時はそれが普通だったのだろうか。

 岡夫人のエッセイも本書に入っているが、お金のことでは色々な苦労があったらしい。しかしそれだからこそ岡さんの生き方は私たちの胸を打つのだろう。




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H23.3:書評コミュニティ「本が好き!」より「免許皆伝」称号を受ける

H23.3.16:読売新聞朝刊“読者のホンネ”に「カラスと髑髏―世界史の「闇」のとびらを開く」の100字書評掲載

H25.10.26発売の図書新聞(3132号、2013年11月2日号)に「泥棒は几帳面であるべし」の書評掲載

H26.6,28発売の図書新聞(3165号、2014年7月5日号)に、「市場主義のたそがれ―新自由主義の光と影」の書評掲載

H28.8頃より「シミルボン」への投稿開始

H29.7.4「彗星パンスペルミア」の書評が「新刊JP]に掲載

H29.10.19「ハンナ・アーレント - 「戦争の世紀」を生きた政治哲学者」の書評が「新刊JP」に掲載

H29.11.24「ペンギン・ハイウエィ」の書評が「新刊JP」に掲載

H29.12.26.「ニッポンの奇祭」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.1.18.「問題解決大全――ビジネスや人生のハードルを乗り越える37のツール」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.4.26.「メゾン刻の湯」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.7.20.「極道ピンポン」の書評が「新刊JP」に掲載

H30.7.26.「シミルボン」にインタビュー記事掲載

2019.2.23.「本が好き!」×「書店フェア」で「あなたの街で本と出会う Vol.2」に「こころを彩る徒然草」のレビュー掲載

2019.04.28.【本が好き!×カドブン】コラボレビュー!第4回『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』掲載
本が好き!免許皆伝レビュアー風竜胆
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