男女が分離され、それぞれが人工妖精を伴侶に暮らしているという、近未来世界を描いた「スワロウテイル」(藤真千歳:早川書房)。

 人類を襲った、「種のアポトーシス」という謎の病。それは男女の交わりによって感染し、重篤化する。大発生を防ぐために、感染者は、自治区と呼ばれる人工島に男女別に隔離されている。そこで異性の役割をするのが「人工妖精(フィギア)」と呼ばれる人工生命体。ナノマシンで構成された人工妖精は美しく、成長をしないことと、背中に翅を持つこと以外は人間とほぼ同じだ。感情も持っており、人間のように悩み、愛し、そして苦しむ。こんな驚くような設定にまず目を見張ってしまう。

 人工妖精たちは、造られたときに、容姿を含めて四段階にランク付けされる。ところが、この物語の主人公である人工妖精揚羽は、格付けがされなかった規格外の五等級だ。容姿が他の人工妖精たちより劣る訳ではない。会話をしていても異常性が見られる訳でもない。なぜ揚羽が格付けを得られなかったのかというのは、実は、この作品で大きな意味を締めているのだが、そのことは、彼女にとってコンプレックスになっている。

 揚羽には、真白という双子の姉妹がいる。翅の色が黒と白と正反対であることを除けば、容姿は全く同じ。しかし、真白は目覚めれば1級の格付けが約束されているのに対して、自分は等級外の扱いである。なぜ、目覚めたのは美しい真白でなく醜い自分だったのか。考えてみれば真白が美しいのなら揚羽も美しいはずだ。しかし、揚羽は、自分はバカで醜く、取り柄もない存在だと自分を卑下し、人間に害なす狂った妖精を始末する事こそが自分の存在価値だと思いこむ。彼女は自分の意思で、人間や他の人工妖精を殺傷できる唯一の人工妖精でもあったからだ。
 
 揚羽の本当の姿は、自分が思っていたような卑小な存在ではなかった。彼女の翅は、何者も染めることができない漆黒のスワロウテイル。それは彼女の気高さの表れ。これは、未来を舞台にした「醜いアヒル子」の物語だろう。もちろん容姿については、揚羽が醜い訳はない。しかし彼女が等級外であることや漆黒の羽に対するコンプレックスは自分自身を「醜いアヒルの子」として縛りつけていたのだ。しかし、最後には、心に課した鎖が解け、蝶が蛹から羽化するように、本当の自分としての新たな一歩を踏み出す。これは、そんな物語である。揚羽の可愛さ、いじらしさに読者はドキドキ、ハラハラすることは間違いないだろう。表紙イラストは揚羽、描くのは”文学少女”でおなじみの竹岡美保。とっても可愛い揚羽の魅力が良く出ている。


○姉妹ブログ
文理両道
時空の流離人


○関連ブログ記事
みねこあ
積読を重ねる日々