風竜胆の書評

コミックスから専門書まで、あらゆる本を読みます。元エネルギー企業の専任部長。現在は、ライター・書評家を標榜する自由人w 時に書評が過激になるのは、長州人の血? 現在「シミルボン」と「本が好き!」でも活動中。 執筆依頼、献本等歓迎します。右欄のメッセージ機能にてご連絡ください。 旧ブログ名:本の宇宙(そら)

山口県

周防大島昔話集4


・周防大島昔話集
・宮本常一
・河出文庫

 山口県が産んだ偉大な民俗学者である宮本常一が集めた、彼の故郷・周防大島で語られてきたという昔話集。本書は著者の母親が77歳を迎えた記念にまとめられたもので、話の採集は、昭和5年〜15年頃にかけて行われたようだ。

 収められているのは、全部で134の昔話。中には、九尾の狐の話や、俵藤太のムカデ退治の話など、他地方の話も入っている。また、お馴染みのサルカニ合戦の話やわらしべ長者、カチカチ山の話なども伝わっている。

 周防大島は、今でこそ本土と橋で結ばれているが、この大島大橋が作られたのが1976年(昭和51)であり、それまでは、訪れる手段は、船便しかないような瀬戸内海の孤島だった。

 私も田舎育ちだが、自分の故郷に伝わる昔話はほとんど聞いたことがない。よく周防大島にこれだけ多くの話が伝わっていたものだと感心するが、考えてみればテレビなどのない昔のこと。古老が話してくれる昔話は、子供たちにとっての大きな娯楽だったのだろう。また、孤島だったからこそ、一度入った話は、大事に語り継がれてきたのかもしれない。

 時代が進むにつれて、昔のものは次第に忘れ去られていく運命だ。そのような中で、このような記録を残すことの意義は大きいと思う。

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闇色のソプラノ4

 北森鴻による「闇色のソプラノ」(文藝春秋)。作品の主な舞台は、架空の街である東京都遠誉野市。どこか遠野を連想させる名前を持つこの街は、唐突に歴史上に現れたという設定だ。遠誉野市の大学生・桂城真夜子は、たまたま、夭折した山口県の童謡詩人樹来たか子の作品に触れ、卒論のテーマにしようとたか子について調べ始める。 たか子は25年前に自殺したとされていたが、その一子である静弥は、偶然にも遠誉野市で美術教師をしていた。彼は、どこか不思議な感じがする青年であった。そして事件が起きる。

 たか子の詩に魅せられた末期癌患者の弓沢が、病室を抜け出して殺害される。そして、静弥の親友だった東京の会社員高梨が轢き逃げにあって死亡する。事件の陰には、25年前の山口で起こった、樹来たか子の悲劇があった。




 山口県出身である北森氏の作品には、よく山口県に関連したものがモチーフとして登場する。この作品に登場する童謡詩人樹来たか子のモデルとなったのは金子みすずである。ただし、大正末期から昭和初期に長門市で活躍したみずずに対して、樹来たか子は戦後に山口市で活躍したというように時代と場所についての設定は変えられている。

 この作品では、色々な謎が提示されている。遠誉野市で起こった現在の事件の謎。二十五年前に山口市で起こったたか子の事件の謎。「しゃぼろん しゃぼろん」というたか子の詩に現れる不思議な音に関する謎。そして静弥自身に関する謎。

 すべての事件が終わったかに思えた後も、更にその奥があった。多くの謎がクロスオーバーしながら、うまく収束してさせていく過程は、いかにも北森マジックという感じだろう。彼の得意な民俗学的テイストもたっぷりと感じられ、面白いミステリーに仕上がっている。

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●本記事は当ブログ本館「時空の流離人(さすらいびと)」の2009年8月26日付け記事の写しです。
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