風竜胆の書評

コミックスから専門書まで、あらゆる本を読みます。元エネルギー企業の専任部長。現在は、ライター・書評家を標榜する自由人w 時に書評が過激になるのは、長州人の血? 現在「シミルボン」と「本が好き!」でも活動中。 執筆依頼、献本等歓迎します。右欄のメッセージ機能にてご連絡ください。 旧ブログ名:本の宇宙(そら)

恩田陸

ユージニア3


・ユージニア
・恩田陸
・角川文庫

 舞台はK市。日本三庭園の一つがあり、富山からも遠くないという設定から、明らかに金沢市と分かるのだが、恩田作品には時にこのように場所を明記しないものがある。

 この作品のキーとなるのは、「白い百日紅」、「青い部屋」そして「ユージニア」という言葉。

 始まりは、地元の名家で起きた、17人もの人間が毒殺された事件。ただ一人生き残ったのは、青澤緋紗子という盲目の神秘的で美しい少女。実行犯の男は自殺し、この事件は終わったかに見えた。

 しかし、緋紗子の友人だった雑賀満喜子は、大学の卒論代わりに、「忘れられた祝祭」を書いて、あの事件を掘り返す。

 本作のストーリーは、関係者の事件に関する証言を集めた形で進んでいく。そして、事件の裏に潜む真犯人は緋紗子であると示唆していくのだ。しかし、結末は恩田作品らしく、結論は明記されないままに終わっている。もしも、彼女が真犯人だとすると様々な疑問点が首をもたげてくるのだ。

 もう一人真犯人候補を挙げるとすれば、ストーリーの流れからは、緋紗子の母親ということになるのだが、これとて母親をサイコパスのような人物にでもしない限り無理がある。結局最後はスッキリしないまま、色々な解釈だけが残る。

 これが、プロットを書かないタイプの作家なら、作品を書いていった結果、最後にこのような結末になってしまうようなこともあるだろうが、もし、最初にプロットがあったとすれば、あの結末にこのようなストーリーを置くというのも、ある意味とても凄いような気がする。恩田さんは、いったいどちらのタイプなんだろうか。読後感としては、前半飛ばし過ぎて、後半失速してしまった観もあるのだが。

 しかし、光を取り戻した緋紗子が、代わりにその神秘さを失って、普通の中年のおばさんになってしまっていたというのはなんとも・・・(以下略)。


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本日の購入品



 本日書店で買ってきた2冊。「雪月花黙示録」は久しぶりに買った恩田陸の作品。なんかこれまでの作品とは雰囲気が違うので、殆どジャケ買い。「ホーンテッド・キャンパス 春でおぼろで桜月」は、ずっと買っているシリーズの最新刊だ。


夢違3




 恩田陸の「夢違」(角川書店)。以前、北川景子主演で放映されていたTVドラマ「悪夢ちゃん」の原案だが、ストーリーはほとんど別物である。

 この作品世界では、「夢札」という、夢を記録するテクノロジーが実現している。そして、夢札の内容を肉眼で見て、夢を分析する「夢判断」という職業が成立している。主人公の野田浩章はその夢判断が仕事だ。彼にはかって思いを寄せた女性がいた。その女性の名は、古藤結衣子。兄の婚約者で、左のこめかみの部分の髪の毛一房だけが銀髪になっているという特長を持つ、美しい女性だった。予知夢を見る力を持っている人物としてマスコミに騒がれていたが、自ら予知夢で見た事故で10年以上前に死亡していた。

 ところが、浩章は、死んだはずの結衣子の姿を見かける。一方、そのころから、奇妙な事件が起こりだす。G県の小学校で4年生のクラスで生徒たちが突然苦しみだし、回復してからも夢にうなされるようになった。同じような事件は各地で起こっているという。生徒の一人である山科早夜香も夢札には、古藤結衣子と浩章の足が写されていた。更に、奈良の小学校で80人もの教師、生徒が消えた。そして、奈良のあちらこちらで、結衣子の姿が目撃されていた。

 夢札というようなものがでてくるのだから、途中までは、事件の後ろで、恐ろしいことが動いており、浩章がそれを阻止するといったような話なのかといったような話かなと思って読んでいた。しかし結局は、浩章と結衣子の再会の物語だったようだ。結衣子がいっしょにいたいと思っていた相手は、浩章だったのだ。しかし、いかにも恩田陸らしく、最後の場面はいかようにも解釈できる。いったい結衣子は死んでしまったのか、回復したのか。ラストシーンは、浩章の夢なのか、現実なのか。こういったもやもや感をの残して終わるような作品はどうも苦手だ。もう一つ、浩章には美里という妻がいるという設定だ。こんな話にするのなら、どうして独身にしておかなかったんだろう。


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「恐怖の報酬」日記―酩酊混乱紀行4




 表紙イラストとタイトルに、ホラーものかと思ってしまいそうな、恩田陸の「「恐怖の報酬」日記―酩酊混乱紀行」(講談社文庫)。実は、タイトルの副題「酩酊混乱紀行」の方が、この作品の性格をよく表してる。

 ここで言う「恐怖」とは何か。それは、飛行機に乗ること。恩田陸さんは、とにかく飛行機に乗るのが怖いそうだ。そのため、女子の大好きな海外旅行にも行けない。おかげで、「海外旅行処女」というありがたくもない異名をつけられていたという。ところが、どういうわけか、取材でイギリスとアイルランドに行くことになり、どうしても飛行機に乗らなくてはならなくなったのだ。

 本書のメインは、そのときの様子を綴った紀行文である。これがなかなか笑える。飛行機が揺れるといっては、アルバート(注:彼女の乗った飛行機の機長)を心の中で罵り、体格の良い外国人CAを見ては、自分が家畜人ヤプーになった気分を味わう。

 副題の通り、やたらと酒を飲んでる場面が多い(笑)。しかし、本や映画に関する話題がそこかしこに散りばめられているのはさすがに作家の面目躍如というところか。ひとつ参考になったのは、彼女が旅先でよく行っているという次のこと。

<気に入った場所、雰囲気のある場所に出会った時に、そこを舞台にして何が起きるかを考える。いや、考えるというより、自分やその場所に聞いてみるという方が正しいだろう>(p188-189)

このように、旅先で妄想を働かせることができるかどうかが、作家としての資質の一つなのかもしれない。これは、トレーニングすればある程度はできそうなので、作家を目指す方は参考にされてはどうだろうか。この初の海外旅行、本来は次回作の取材として行ったようだが、その顛末までもついでに本にするとは、さすがにプロの作家はすごいものだ。

 本書には、メインとなる海外旅行の話の他に、「麒麟麦酒横浜工場」、「札幌落雪注意」、「オリオンは新年、東の空から昇る」という短いエッセイがついている。もちろん、これらは、副題から推測できるように、「キリンビール」、「サッポロビール」、「オリオンビール」の話だと思えばよい。

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三月は深き紅の淵を4




 恩田陸の、「三月は深き紅の淵を」(講談社文庫)。

 タイトルが、なんとも決まっている。なかなかこんなタイトルは思いつかないと思うのだが。ところで、このタイトルは、この小説のタイトルというだけではなく、小説の中で描かれている幻の本のタイトルにもなっている。(ややこしいね)

 小説の中に描かれている「三月は深き紅の淵を」は、誰が書いたか分からない幻の本で、配布されてすぐ回収されたため、ほとんど出回っておらず、配布の際にも、作者を明かさないこと、コピーをとらないこと、友人に貸す場合は一人だけで、それも一晩だけという変わったルールが付いているという設定である。この架空の本は、「黒と茶の幻想」、「冬の湖」、「アイネ・クライネ・ナハトムジーク」、「鳩笛」の4部作(作者は、「内側の話」と呼んでいる。)になっているが、実際の小説の方は「待っている人々」、「出雲夜想曲」、「虹と雲と鳥と」、「回転木馬」の4部作(こちらは「外側の話」と呼んでいる。)なのである。(ああややこしい)読んでいるうちに頭の中がこんがらがってきそうだ(笑)。

 1〜3部までは、結構面白く読めたの。しかし、第4部は、じっくり読みたい人には良いのだろうが、私のようなせっかちには。まだるこしくて向かない。

※本記事は、2006年06月09日付けで「時空の流離人」に掲載したものに、加除修正を加えたものです。

木洩れ日に泳ぐ魚4




 一緒に暮らしていた男女の別れの日を描いた「木洩れ日に泳ぐ魚」(恩田陸:文春文庫)。登場人物はヒロとアキ。物語は、この二人の語りが、交互に入れ替わりながら進められていく。最初の出だしがいかにも不穏だ。何しろ二人はお互いに、「あの男」を殺したのは相手ではないかという疑惑を抱いているのである。このいかにもドロドロとした出だしに、読者は、作品に仕掛けられた罠に一遍で嵌り込んでしまう。

 物語が進むにつれて、少しづつ、物語の全体像が明らかになってくる。二人の名前、二人の関係、「あの男」の正体、どうして二人は別れることになったのかなど。やがて二人の記憶の底に封印されていた出来事が明らかになり、意外な展開を見せていく。このあたりは、いかにも恩田陸らしい話運びだろう。

 <木洩れ日の下には、深い淵があって、濃い緑色の水の底に多くの魚たちが蠢いている>

 二人は、木漏れ日のような関係の中で、心はずっと深い淵の底にあった。二人を縛っていた枷、それがあったからこそ二人は魅かれあい愛し合った。その枷から解放された今、もうこれまでのような関係は続けられない。朝の光の訪れと共に、二人はそれぞれの道を歩み出さざるを得ないのだ。これは一種の救済の物語なのだろうか。


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ライオンハート3



 恩田陸の、「ライオンハート」(新潮社)。日本語に直せば、「獅子の心」か。そういえば、昔、世界史の教科書に「獅子心王」と呼ばれている王様が出てきたことを思いだしたので、ちょっと調べてみた。かってイングランドの王であったリチャード1世「Richard the Lionheart」 のことらしい。もしかするとその王様の物語かなと思いながら読んでみたら、これが全く違っていたた。ちなみに、本人の後書きによると、このタイトルは、ケイト・ブッシュのセカンドアルバムからもらったと言うことである。ケイト・ブッシュの方も、なんだか懐かしいので調べてみると、現在も第一線で活躍しているようだ。最近ほとんど音楽を聴かないから、すっかりこの手の事情には疎くなってしまっている。

 それはさておき、この物語は、時空を超えて何度も巡りあい別れていく二人の男女を描いたもの。昔、大人気だったテレビアニメのセーラームーンの主題歌の一節に、「♪何度も〜めぐ〜りあう♪」なんてフレーズがあった。その言葉がぴったりくるような話だ。エドワード・ネイサンとエリザベス・ボウエンの二人が、転生を続け、一瞬の逢瀬による喜びと、別離の悲しみを繰り返して体験していく。

 作品は、いくつかのエピソードの集合で構成されているのだが、各エピソードの時代がいったりきたりしているので、読み手に混乱を与える。内容自体も曖昧感が漂い、けっきょく何だったんだと言う読後感が残ってしまう。自分で行間を補って、この世界に浸れる人には良いかもしれないが、あいにく文学的才能を持ちあわせていない私には苦手な分野の作品だ。


※本記事は、2007年10月27日で「時空の流離人」に掲載したものに、加除訂正を加えたものです。


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