風竜胆の書評

コミックスから専門書まで、あらゆる本を読みます。元エネルギー企業の専任部長。現在は、ライター・書評家を標榜する自由人w 時に書評が過激になるのは、長州人の血? 現在「シミルボン」と「本が好き!」でも活動中。 執筆依頼、献本等歓迎します。右欄のメッセージ機能にてご連絡ください。 旧ブログ名:本の宇宙(そら)

樋口有介

片思いレシピ4

 

・片思いレシピ
・樋口有介
・創元推理文庫

 本書は、樋口有介による「柚木草平シリーズ」の一冊であるが、他の作品とは少し性格が異なっている。もちろん、名探偵を務めるのは、柚木草平なのだが、彼が直接作品の中で活躍している訳ではない。変わって主役を演じているのは草平の愛娘でまだ小学生の加奈子なのである。

 つまりは、一種のスピンオフ作品のようなものなので、草平は作品には直接登場しない。それでも、草平は、加奈子と電話で話しているし、事件の調査自体も草平が請け負っている。しかし最後に真犯人を得意そうに暴露する役は、草平に事件の調査を依頼した、加奈子の親友の妻沼柚子の祖父。ちなみに、大地主で元学生運動の闘士らしい。

 事件は、加奈子と柚子が通う塾の学生講師が殺害されたというもの。ところが、この講師が、柚子にこっそりきのこチョコをあげていたことが判明。確かに柚子はお人形のように可愛いが、自分にはくれなかったと加奈子はちょっとおかんむり。小さいぞ、加奈子・・・ってまだ小学生か(笑)。

 もちろん最後には、草平により事件は見事解決される(ただし、柚子の祖父がまるで自分が解決したかのように話すのだが(笑))。

 ところで、タイトルにある「片思い」だが、どうも、加奈子には気になる男の子がいるようだ。それは柚子の兄の翔児(中学生)。さすがに、あの草平を父に持つ加奈子が気にしているだけあって、相当の変わり者のようだが、彼が入院した際には彼女らしき女の子が病室にいた。果たして、加奈子の初恋の行方はというところだ。

 

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捨て猫という名前の猫4




 樋口有介の「捨て猫という名前の猫」(創元推理文庫)。あの斜に構えたような独特の語り口が魅力の、柚木草平シリーズの一冊である。

 自殺かと思われた美少女・秋川瑠璃の死。柚木が記事を書いている「月刊EYES」の編集部に、「秋川瑠璃は自殺じゃない。そのことを柚木草平に・・・・」という電話が入る。電話したのは、野良猫のような生き方をしていた青井麦という少女 。銀色の唇、目の下には隈のような化粧。耳たぶにはキーリングに似た金色のピアス、爪には失敗した七宝焼きのようなネイルアートとなかなか個性的ないでたちだ。

 ところが、その麦が、化粧を落とした、学校の制服姿で殺害される。指には柚木の残したメモを指輪のようにまきつけて。そのメモは、ずぶぬれで訪ねて来た彼女が、柚木のアパートに泊めてもらった時のもの(もちろん不埒なことはなしで)。親もなく、宿もないという暮らしを続けていた麦は、柚木に父親を感じたのか、それとも異性として意識したのだろうか。束の間の柚木とのふれあいは、麦にとって幸せな時間だったのだろう。

 捨て猫のような生き方をせざるを得なかったにも関わらず、一見恵まれた瑠璃を妬むこともなく、ただ一人の大切な友達の敵を打とうとして命を落とした麦。そんな彼女のひたむきさと哀しさが胸を打つ。それに比べて、あまりにも汚れた大人たちの世界。同じような年頃の娘のいる柚木の心には、苦さだけの残る事件だったのではないか。

 ところで、柚木の娘で小6年生の加奈子。柚木が妻と別居中のため、普段は別れて暮らしている。本書の冒頭は、その娘と一緒に温泉に入っているシーンから始まる。加奈子曰く、「いっしょに入るのは恥ずかしいけどサービス」ということらしい。なんていい娘や!しかし、さすがに柚木の娘、二人の会話では、パパは完全に押され気味だ。事件の方は、後味の悪くなるようなものだったが、加奈子の出てくるシーンはなんとも楽しい。


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ぼくと、ぼくらの夏4




 樋口有介と言えば、元刑事で刑事専門のフリーライターの柚木草平が、名探偵役となって活躍する「柚木草平」シリーズで有名だが、その一方で青春ミステリーの名手でもある。なかでも、第6回サントリーミステリー大賞読者賞を受賞した「ぼくと、ぼくらの夏」(文芸春秋)は、著者による青春ミステリーの代表作といっても過言ではないだろう。

 主人公の戸川春一は、裕福な家の子弟が通う、私立深大寺学園高校の2年生。父親は刑事だが、先祖代々の財産があり、それらから、給料を遥かに超える収入があるようだ。しかし、母親は、人生をやり直したいという理由から家を出てしまっため、現在は父親と二人で暮らしている。父親は家のことはほとんどやらないため、家事は殆ど春一の仕事だ。クラスメートの岩沢訓子が突然謎の死を遂げたことから、春一は、クラスメートでテキヤの親分の娘・酒井麻子といっしょに事件を調べ始める。

 殺人事件や、学園に潜む闇の部分など、かなりシリアスな内容を扱いながらも、ストーリーは、軽快なテンポで進んでいく。樋口作品の多くは、主人公の減らず口に近いような洒脱な語り口が魅力であるが、この作品もその例にもれず、春一のセリフには、なかなか面白いものが多い。一方、麻子の方は、かなり勝気で感情の起伏が大きい性格のようだ。思いこんだら突っ走ってしまうようなところがあり、そこがなかなかかわいらしくもある。

 事件には、驚くような背景があり、おまけに、春一の父親の失恋という付録も付いて来るのだが、事件の調査を通じて、春一と麻子の中は、以前の話したこともなかったと言う関係から大きく前進する。春一が事件の鍵を握る重要人物に会いに行く際に、麻子が付いて来ると言うのだが、危険なので、来させないために言ったセリフが最高だ。

<君にもしものことがあったらおれは捕鯨船にでも載って、一生を船の上で暮らすことになる。おれにそんなことをさせたいのか>

 念押ししておくが、春一はまだ高校2年生である。捕鯨船で一生暮らすって・・・。この作品が書かれた時期は、ちょうど商業捕鯨が停止された時期だし、捕鯨船に載っている人も、ずっと船で暮らしている訳ではないんだけど。でも、女の子は、好きな相手からこんなことを言われたら喜びそうだ。機会があれば試してみたらどうだろう(笑)。



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船宿たき川捕物暦4




 柚木草平シリーズや青春小説で知られる樋口有介による時代小説「船宿たき川捕物暦」(筑摩書房)。これが樋口作品初の時代小説になるようだ。

 主人公は、白川藩主の落し種との噂もある、真木倩一郎という青年剣士。小野派一刀流の達人で、佐伯谷九郎道場の師範代を務めている。この道場には、倩一郎の親友で、剣の腕でも彼と双璧を成す荒井七之助という男があり、その風貌から「赤鬼」と渾名されている。倩一郎は、その対比から「青鬼」と呼ばれているのだが、実際はなかなかのイケメンのようだ。江戸の市井で自由気ままに暮らすのが好きなようで、白河藩の後継者・松平定信からの帰藩の話も、師匠の一人娘・綾乃との縁談もあっさりと断っている。そんな倩一郎だが、拉致されかかっていた船宿たき川の娘・お葉を助けたことから、彼の人生は大きな変化を迎える。

 樋口作品の主人公と言えば、柚木草平に代表されるように、どこか冷めた感じで、斜に構えたシニカルなセリフ回しが特徴だ。この作品では、倩一郎はやはり冷めたところはあるものの、時代物のせいか、他の作品ほどはそういったセリフは目立たない。それでも、ところどころに、樋口作品らしい言い回しが出てきて面白い。

 江戸の岡っ引き制度や町人たちの心意気といったものを独自の解釈で描いており、なかなか楽しめる作品だろう。ところで、このエンディングは、いかにも、次につながるような雰囲気なのだが、調べてみると、2作目もちゃんと出ていた。2作目では、倩一郎、この作品とは大分立場が変わっているが、どのような活躍をしているのだろうか。


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枯葉色グッドバイ4



 樋口有介の「枯葉色グッドバイ」(文藝春秋)。

 東京は大田区のマンションで両親と娘の3人が惨殺されるという事件が起きる。助かったのは、たまたま家を開けていた長女だけ。その少女・坂下美亜は、学校への出席率も悪く、外泊を繰り返すような不良少女だった。そして、今度は、美亜の友達の大間幹江が代々木公園で殺される。多摩川署の女性刑事吹石夕子は、元刑事で、今は代々木公園でホームレスとなっている椎葉明郎を日当2000円で雇い、事件の調査に当たるのだが、探偵がホームレスと言う設定がなんとも意外で面白い。一方、美亜の方も、犯人は伯父に違いないから調べてくれと椎葉に依頼する。彼女の周りには、何か大きな問題があるようだ。

 この椎葉の容貌を文中から引用すると、「髭面の蓬髪にきたないレインコート、レインコートの下にはオレンジ色の上着がのぞき、首にはタオルまで巻いている。火星人でも辟易しそうな風体で、加えてホームレス臭まで臭う」といったぐあいで、なかなかすさまじい。こんな名探偵が他にいるだろうか。

 この作品は、ミステリーとしてはちょっと異色だ。通常のミステリーなら、事件A,B,Cが起こったとすれば、一見関係なさそうだったこれらの事件が、ストーリーが進むにつれて、だんだんと意外な関係が明らかになっていき、一つの真実にたどりつくといったパターンが多いだろう。しかし、この作品は、いかにも関係ありそうな事件が、だんだんと独立性を帯びてきて、通常のミステリーとは逆のパターンなのである。だから、最後の種明かしになって、ここまでの話は、いったいなんだったんだという感じが残ってしまう。しかし、考えて見れば、前者のパターンはいかにもご都合主義であり、実際の事件は案外とこの作品のように、紆余曲折の果てに、やっと真実にたどりくものなのであろう。

 この作品の最大の魅力は、なんといっても椎葉を中心として、独特のテンポのある会話が交わされていることである。このあたりは、同じ作者の「柚木草平シリーズ」と共通している。シニカルでちょっとコミカルでウィットに富んだテンポの良い会話は、抜群に面白い。



本記事は、2008年11月26日付で「時空の流離人」に掲載したものに加筆修正したものです。

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ピース3





 柚木草平シリーズでおなじみの、樋口有介によるミステリー、「ピース」(中央公論新社)。 埼玉県秩父地方の田舎町で、連続バラバラ殺人事件が起こったという設定だ。

 実はこのピースというのには3重の意味があると思う。ひとつは表紙イラストから分かる通り、指でVの形をつくるといういわゆるピース(peace)サインだ。二つ目は、事件の断片をパズルの部品に見立てたピース(piece)のこと。巻末で解説を担当している文芸評論家の郷原宏氏もここまでは触れていた。しかし、私は英語で書けば同じpieceとなるのだが、例えば、tear 〜 into pieces だとか break 〜 into pieces と言ったような使い方をする、バラバラという意味もあると思う。もちろんこの作品が扱っているバラバラ殺人を暗示している。 一見無関係に見える、これら3つのピースが、まるで三題噺のように、最後はひとつにまとまっていくというのがこの作品の見どころといって良いだろう。

 元警察官で今はスナック「ラザロ」のマスター・八田、同じ店で働いている訳ありの青年・梢路、定年間際のベテラン刑事・坂森など、個性的な人物が多く登場して、なかなか面白く読める。ただ、他の樋口作品のように、主人公が斜に構えているようなセリフが目立たないのが少し残念だ。

 しかし、事件の動機の方はリアリティが薄く、もうひとつすっきりしない。帯には、「ラストのどんでん返し」と書いてあるが、本当にどんでん返しだったのか。最後はまだ、たくさんの謎が残ったまま終わっているのではないか。パズルを見事組みたてたと思ったら、箱の中にまだピースが幾つも残っていたという感じだ。


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八月の舟4





 樋口有介の青春小説「八月の舟」(文芸春秋)。主人公は葉山研一という高校生。この物語は、いつもと同じ暑い夏に彼が体験した出来事を描いたものである。

 研一には、田中くんという親友がいる。彼らの暮らす街では、二人とも結構な不良で通っているようだ。だから、無免許の酔っ払い運転で事故を起こしたりする。同じ車に乗っていたのが、田中くんの同い年の姪の晶子さんだ。この物語の軸の一つ目は、研一と晶子さんの出会いである。

 晶子さんも、田中くんの親戚だけあってやはり不良だ。酒も飲めばタバコもやっている。おまけに結構な変わり者のようだが、研一もかなり変わっているので、案外お似合いなのかもしれない。

 この夏は、色々なことがあった。事故のこと、晶子さんとの出会いのこと、心臓の弱かった中学の時の同級生がプールで亡くなったこと、酔っ払って田中くんに殴られて池に落とされたこと、そして研一の母親が亡くなったことなど。

 色々なことがあった夏も、いつものように淡々と過ぎていく。きっと、この夏の記憶も、やがてセピア色の思い出に変わっていくのだろう。そんな、ほろ苦さとノスタルジーを感じさせる作品である。


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