風竜胆の書評

コミックスから専門書まで、あらゆる本を読みます。元エネルギー企業の専任部長。現在は、ライター・書評家を標榜する自由人w 時に書評が過激になるのは、長州人の血? 現在「シミルボン」と「本が好き!」でも活動中。 執筆依頼、献本等歓迎します。右欄のメッセージ機能にてご連絡ください。 旧ブログ名:本の宇宙(そら)

歴史

倭の五王 - 王位継承と五世紀の東アジア4


・倭の五王 - 王位継承と五世紀の東アジア
・河内 春人
・中公新書

 倭の五王とは、中国の歴史書に現れる日本の王のことだ。中国の歴史書には、讃、珍、済、興、武とあるこの5人が、果たして日本の古代天皇の誰に当たるかは謎が多い。讃が仁徳天皇、珍が反正天皇、済が允恭天皇、興が安康天皇、武が雄略天皇だというのが代表的な説だが、異論も多い。済、興、武についてはほぼ定まっているというのが定説だが、これとて決定的なものはない。

 本書は、中国の歴史書に見える倭の五王について解説したものだ。従来の定説にも異を唱える意欲的なものである。例えば、武を雄略天皇(ワカタケル)とした従来の説にも色々と根拠を示したうえで、疑義を呈している。

<武とワカタケル、471年前後の王の問題は今後の課題として残される。>(p205)

 しかし、残念なことに、倭の五王が日本の古代天皇の誰に当たるのかということについては、あまり踏み込んではいない。

<天皇系譜は五世紀以来、政治的変動や歴史書の編纂のなかで追加や削除が繰り返されてきたものものである。それをふまえずに誰に当てはまるかを議論しても、それは実りのある結論を生み出すことはない。倭の五王は、記・紀に拘泥せずにひとまずそれを切り離して五世紀の歴史を組み立ててみる作業が必要なのであり、本書はそのための露払いである。>(p206)

 これは研究者としては明確な証拠がない限り、深入りはできないということだろうが、読者の立場からは少し物足りないかもしれない。

 歴史の定説というのは、よくひっくり返る。例えば鎌倉幕府の成立年だ。私たちが高校で日本史を履修した時には1192年ということになっており、「いいくにつくろう」という語呂合わせで覚えていた人も多いだろう。今は色々な説があるようだ。また、聖徳太子や足利尊氏の絵だとされていたものが、現在は異論ありとされている。

 歴史の真実は、作為的なものが入る文献的なものよりは、考古学的な成果に期待したい。しかし、これとて、モノが現在まで残っている必要がある。何と言っても大昔のことだ。残っている方が不思議なくらいである。ともあれ、学会の大ボスが言っうことが絶対だと、安易に迎合することのないようにしてほしい。


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眠れないほどおもしろい「古代史」の謎: 「神話」で読みとく驚くべき真実2


・眠れないほどおもしろい「古代史」の謎: 「神話」で読みとく驚くべき真実
・並木伸一郎
・王様文庫(三笠書房)

 本書の根底を流れているのは、神話にもある歴史的事実が隠されているということだろうか。しかしそれはひとつの仮説であり、いくら神話をもとに力説されても、聞いている方は眉に唾をつけざるを得ない。また、私も古代史は好きなので、どこかで読んだり聞いたりしたようなことが多く、それほど新鮮味は感じられなかった。またほぼ偽書とされる「東日流外三郡誌」なんかを批判的に扱ってないのも大きな減点ポイントだろう。

 例えば、本書には箸墓古墳について以下のように書かれている。

<時の天皇陵である崇神天皇陵よりもはるかに巨大なのだ。これはまさしく、モモソヒメが天皇すらしのぐ権力を掌握していたことの表れなのである。>(p93)

 たしかに箸墓古墳はモモソヒメの墓となっているが、実際には誰が眠っているかはわからないのである。

 私が常々疑問に思っていたことの一つに、3種の神器である。たしか南北朝の時、受け渡しがあったと思う。最初南朝側が持っていたものを北朝側が接収したはずだ。しかし、それより前の時代に八咫鏡はアマテラスのご神体として伊勢神宮に、草薙剣は熱田神宮に置かれている。それとも3種の神器と言いながら実は八坂の勾玉だけだったのか。もしかすると南北朝でやりとりしたのはレプリカということか。このあたりは、あまり突っ込まれていないが、どちらにしても、あまりありがたみはないなあ。

 なお、タイトルは「眠れないほどおもしろい」だが、正直なところ、読んでいる間に何度も寝落ちしたのは余談。

シリーズ<本と日本史>(1) 『日本書紀』の呪縛4



・シリーズ<本と日本史>(1) 『日本書紀』の呪縛
・吉田一彦
・集英社新書

<『日本書紀』は日本の過去をありのままに記したような書物ではない。それは、権力の座についた氏族たちが自分たちの権力の根拠と正当性を神話と歴史から述べた政治の書物であり、過去を支配することを目的とした書物であった。>(p225)

 本書の主張は、「日本書紀」とは、極めて政治的な書物であるというものだ。この書物は、過去の支配、勝者が自らの正当性を主張するために編纂され、我々は、今なお、この呪縛に囚われているのではないかというのである。

 日本書記は、全30巻。神話の部分も含めて、戦前は金科玉条のように扱われていたが、戦後前半の3分の2は削除された。しかし、後ろの3分の1は残り、我が国の歴史のベースとなっている。まさか、この現在において神話部分を信じている者がいるとは思えないが、例えばアメリカでは今なお、キリスト教の影響で、進化論を信じない人が少なくないというから何ともいえない。

 これまでの研究成果からは、日本書紀の内容はかなり盛られているようだ。それは政治的な書物であることから当然のことだろう。勝者が自分たちの支配を正当化するために作り上げた歴史。例えば、大化の改新や聖徳太子の話などである。

 興味深かったのは、「天皇と皇后」の組み合わせについてである。「天皇」の概念は元々中国のもので、その対になるの概念は「天后」だという。つまり「天皇と皇后」の組み合わせが成立したのは、「皇后」のいなかった時代であり、つまりは、天皇号が我が国で成立したのは、天武の途中からではなく、女帝である持統から使われたというのが著者の推測するところだ。


銭湯:「浮世の垢」も落とす庶民の社交場 (シリーズ・ニッポン再発見)4


・銭湯:「浮世の垢」も落とす庶民の社交場 (シリーズ・ニッポン再発見)
・町田 忍
・ミネルヴァ書房

 昔のちょっとませた男の子のあこがれの職業といえば、銭湯の番台だった。今はまず銭湯に行くことはないので、現在どうなっているのかはよく知らないが、昔は、いろいろと見放題だった(少なくとも多くの、ませた少年はそう想像していた)のである。しかし、そんな 銭湯も今や絶滅危惧種といっても過言ではない。本書によれば、1968年には18325軒もあったものが現在(2015年10月現在)では4000軒を切るまでに減っているという。

 私の生まれ育った場所は田舎だったので銭湯というものはなかった。初めて銭湯というものに入ったのが、大学進学のために京都で一人暮らしを始めてからだ。昔は学生用のアパートと言えば風呂などないのがデフォで、その代わりにいたるところに銭湯があった。

 これは余談だが、当時住んでいたのが坂の上なので、原付で銭湯に通っていた。風呂から上がってみると、バックミラーが無くなっているのは何度も。ひどいときはリアサスペンション(後ろにある大きなバネのような部品。わからなければググってほしい。画像がいくらでも出てくるので)やハンドルについているグリップ部分が片方無くなっていたこともある。バックミラーはまだわからないでもないが、リアサスペンションやグリップなんて盗んでどうするんだろうと、憤るよりは不思議だった。

 本書は、庶民の社交場たる銭湯の歴史から始まり、全国の銭湯に見る地域性や銭湯建築銭湯の浴室に描かれる絵画などを紹介している。私は三助さんを実際に見たことはないが、知識としてはかってそのような仕事があったのは知っていた。かなり昔に絶滅した職業だと思っていたのだが、最後の三助さんが引退したのが2014年だというから意外だった。また、幕末の頃には、銭湯の近くに住んでいた人は、男女を問わず素っ裸で自宅に帰る場合もあったようである。今ではちょっと考えられないことだ。

 温泉のようなものを除けば、これだけ内湯が普及している世の中だ。通常の銭湯というものは、衰退していくのは避けられない運命なのだろう。しかし、我が国には、確かにこのような庶民文化があった。それを忘れないためにも、このような本が出版される意義は高いと思う。
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ふるさと萩・長門・美祢―生活感あふれる写真でつづる決定版写真集! 保存版5


・ふるさと萩・長門・美祢―生活感あふれる写真でつづる決定版写真集! 保存版
・森本文規
・郷土出版社

 たまたま実家の近くにある図書館で見つけた本書。戦前から戦後にかけての萩・長門・美祢地方の様子を多くの写真で記録したものだ。

 ただ、カラーは最初の8ページのみで比較的新しいものを写している。ほとんどの写真はモノクロであるが、紹介されているのは、この地方の風俗、風景、行われたイベント、郷土芸能、学校の様子など。今は失われてしまったようなものもあり、なんとも懐かしい思いがする。

 昭和2年ごろには、秋芳洞の中に渡し舟を使って渡る場所があったとか、昭和24年には青海島にイルカの大群が迷い込んだことがあったとか初めて知るようなことも多い。

 提灯ブルマの女児や丸坊主の男児が写った写真があったり、ボンネットバスが走っている写真があったりするのも時代を感じさせ、読む者をノスタルジックな気持ちにさせるだろう。 

 余談だが、ネットで調べてみると、本書を出版した会社は長野県にあったが、2016年2月末で閉業しているようだ。このような本はなかなか売れなくなっているのだろうが、少し寂しい気がする。


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軍神の血脈4


・軍神の血脈
・高田崇史
・講談社文庫

  「QEDシリーズ」などでもお馴染みの高田崇史氏による本書。この作品も作者の他作品と同様、現実の事件と歴史上の謎を組み合わせて解明していこうとするものだ。この作品のモチーフになっているのは楠木正成。南北朝時代に活躍し、戦前の皇国史観の元では軍神とあがめられた人物である。

 鎌倉末期、皇位継承権を巡っての争いがおこったが、鎌倉幕府の執権北条時宗の仲裁により、後深草天皇の子孫である「持明院統」と亀山天皇の子孫である「大覚寺統」が、10年を目途に交互に皇位を継いでいくこととなった。しかし、「大覚寺統」の流れを汲む第96代後醍醐天皇は譲位を拒み、鎌倉幕府を倒して天皇親政の世を作ろうとする。これがいわゆる「建武の親政」だ。しかし、これは、貴族よりの政治を目指すものであり、武士たちへの恩賞も反故にされた。そのため、武士の棟梁たる足利尊氏は、武士たちに担がれる形で後醍醐天皇と袂を分かって室町幕府を開いたのである。この後、皇統は、後醍醐から続く南朝と、尊氏がバックアップする「持明院統」の北朝に分かれて、約半世紀に渡り両統迭立の時代が続くこととなった。

 この南北朝、明治時代に南朝が正統とされたこともあり、戦前の皇国史観の元で、尊氏は天皇に背いた大悪人とされ、一方正成は、湊川の戦いで戦死するまで、後醍醐天皇に付き従った大忠臣という扱いだったそうだ。ところが、この作品では、そんな正成像を根本からひっくり返すような驚くべき推理が展開される。

 本作の主人公は、神宮医大病院に勤務する早乙女瑠璃。作者が薬学部出身で薬剤師免許を持っているためか、この作品でもヒロインは、QEDの棚旗奈々と同様に薬剤師という設定だ。彼女の祖父で、歴史研究家で特攻隊の生き残りだった早乙女修吉が、何者かに謎の毒物を撃たれて、生死の境をさまよう。この毒物の組成が分からなければ、修吉は死んでしまうのだ。彼は「鵺」の能を見ている時に、楠木正成に関して、何かが閃いたらしい。手がかりは、戦時中に海軍の神風特攻隊の隊員の中で、楠木正成にちなんで結成されたという「南木の会」の紋章と、修吉の残したメモ。

 売れない歴史作家で高校の時の同級生だった山本京一郎といっしょに、事件の謎を追い求める瑠璃だが、彼女たちの前に現れたのは、皇国史観を崩壊させかねないような驚くべき秘密だった。

 「QEDシリーズ」などとも同様、歴史の謎を解明していく過程は、手に汗握るようで、読み応えがある。本当の歴史がどうなのかは分からないが、歴史素人の私などは、書かれていることを信じ込んでしまいそうだ。しかし、「QEDベイカー街の問題」(講談社)で、架空の人物であるはずのホームズさえ、実際の出来事であったかのように思わせる筆力の作者だ。騙されないぞと、眉に唾をつけながら読んでしまうというのもある意味皮肉か(笑)。これに比べると、現実の事件の方は、無理やり歴史上の事件にリンクさせているような観もあり、若干リアリティに欠ける気がする。もっともイデオロギーの虜になる人間はいつの時代にもいるので、絶対にこんなことはないとは言い切れないというのがちょっと怖いところだろう。

※本記事は、「シミルボン」に掲載したものです。

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幼い王様の涙4



 童話と言えば、心温まる結末のお話が多いが、この「幼い王様の涙」(イ・ギュヒ/イ・ジョンギュ/榊原咲月:現文メディア)は、だいぶ様子が違う。

 この物語の端宗(タンジョン)は李氏朝鮮の第6代王である。わずかに11歳で即位したが、叔父の首陽(スヤン)に次第に権力を握られ、王位を追われたあげく、最後は悲運の死を遂げている。ウィキペディアによると15世紀の中頃の話のようだ。

 本書の内容を端的に言えばお家騒動である。我が国の時代劇でも、よく悪家老がお家乗っ取りを企んでいたりするが、大抵は水戸黄門なり桃太郎侍といった正義の味方が阻止してくれる。しかし、これは、史実に基づいたお話だ。端宗には助けはこなかった。端宗に心を寄せるものは、次々に首を刎ねられたり流罪にされてしまう。端宗の姉(首陽の実の姪にあたる)も、夫を流罪にされたあげく、自分も官の下人にされた。

 近親憎悪と言う言葉もあるが、実の叔父が、血の繋がった甥や姪に対してどうしてここまで残酷な仕打ちができるのであろう。童話というには、あまりにも残酷で悲しい話だ。しかし、そんな過酷な運命を懸命に生きる端宗の姿は胸を打つ。

※本記事は、2009.03.15付で「時空の流離人」に掲載したものに加除修正を行ったものです。
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2019.2.23.「本が好き!」×「書店フェア」で「あなたの街で本と出会う Vol.2」に「こころを彩る徒然草」のレビュー掲載

2019.04.28.【本が好き!×カドブン】コラボレビュー!第4回『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』掲載
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