風竜胆の書評

コミックスから専門書まで、あらゆる本を読みます。元エネルギー企業の専任部長。現在は、ライター・書評家を標榜する自由人w 時に書評が過激になるのは、長州人の血? 現在「シミルボン」と「本が好き!」でも活動中。 執筆依頼、献本等歓迎します。右欄のメッセージ機能にてご連絡ください。 旧ブログ名:本の宇宙(そら)

短編

世界推理短編傑作集2【新版】3



・世界推理短編傑作集2【新版】
・(編)江戸川乱歩
・創元推理文庫

 最近はあまり翻訳ミステリーは読まないのであるが、編者が江戸川乱歩ということで、どのような話が収録されているかということに興味を引かれて、読んでみた次第だ。収録されているのは、9つの短編。正直作者の名前を知っているのは、「奇妙な足音」のG.K.チェスタトンくらいである。探偵役のブラウン神父というのは、名前くらいは聞いたことがあるが、この作品については初めて読んだ。

 いくつか面白いと思ったものについてコメントしてみよう。「放心家組合」(ロバート・バー)という作品は、最初偽銀貨づくりの話かと思ったのだが、これが詐欺事件に変わっていく。

 名いや迷探偵役はフランス人のユウゼーヌ・ヴァルモンという設定だ。スコットランドヤードの人間をバカだのでくの坊という割には、最後は犯人にしてやられてしまう。作者の名前を見ると、イギリス系のようだが(最初の著者の紹介を見ればやはりイギリス人だった)、どうもイギリス人のフランス人に対する評価(要するにフランス人は口ばっかりというもの)のようなものがあるような気が・・・。

 「赤い絹の肩かけ」(モーリス・ルブラン)はアルセーヌ・リュパンを主人公とするものだ。日本では某マンガの影響か、ルパンの方が通りがいいかもしれない。この作品では、リュパンが名探偵を務めるのかと思ったら、やっぱり怪盗だった。

 「オスカー・ブロズキー事件」(オースチン・フリーマン)では、殺人事件だが、最初に犯人が被害者を殺害する場面が描かれている。要するに犯人も犯行の方法も最初から明らかなのだが、この作品はソーンダイクという名探偵がいかにしてその犯人を突き止めるかというのが読みどころだろう。

 「ブルックベンド荘の悲劇」(アーネスト・ブラマ)という作品では、「高圧電流」という表現が出てきた(p289)のが気になった。電気を知っている人は絶対にこの表現は使わない。「高圧」というのは「電圧」のことで「電流」の場合は「大電流」というからだ。作者が悪いのか翻訳者が悪いのかは分からないが(私なら原文にどう書かれていても科学的に正しい表現にする)、本当に世の中には科学技術オンチが多いのだなと感じる。この手の表現は本当によく目にするので、いちいち指摘するのにくたびれてしまう。

 また、電車線から窓枠まで電線をつないだようだが、電車線側への接続はどうやってやったんだろう。犯罪のために停電なんかするわけはないので、活線でやったということになるのだが、感電せずによくやれたものだ。

 そのほか、「奇妙な跡」(バルドゥイン・グロラー)、「ギルバート・マレル卿の絵」(V.L.ホワイトチャーチ)、「ズームドルフ事件」(M.D.ポースト)、「急行列車内の謎」(F.W.クロフツ)を収録。

 色々なミステリー作家の作品を読めてなかなか興味深かった。もし次に個々の作者の作品を読むことがあれば、より馴染みを持って読むことができるだろう。

棘の闇4



・棘の闇
・朝松健
・廣済堂出版

本書は、朝松健さんによる、室町の闇5編を収めた短編集だ。

 ところで、なぜ舞台が室町なのだろうか。思うに、これが江戸時代だと少し近すぎる。そしてこれは個人的な感想かもしれないが、江戸時代の怪異はどこかユーモラスな感じがあるのだ。逆に鎌倉時代以前になると、ちょっと遠すぎて、あまり実感が湧かない。極端な話をすれば、邪馬台国時代あたりの怪異譚など、誰が怖がるものか。やはり、室町あたりがちょうどよいのだ。

 室町の時代、夜の闇は今よりもずっと深く、魑魅魍魎が跋扈していた。この短編集は、そんな時代を舞台にした、珠玉のホラー集といったところだろうか。

 面白いのは、あの一休さんが主人公の物語が2編収められていることだろう。しかし、この作品の一休さんは、アニメでおなじみの可愛らしい小僧さんではない。また、あのいかにも変わり者といった感じの晩年の一休さんの肖像とも少し違うようだ。

 描かれているのは、怪異と対決するゴーストハンター的な、まだ元気いっぱいの一休さんだ。この短編集を読む限りは、一休さんにはひとつのパターンがある。

,泙此⊆分は後小松上皇の子供だと言って一発かます。
△修譴通じなければ、実力行使に出る。なにしろこの一休さん、明式棒術には、腕に覚えがあるようだ。なかなかの武闘派である(笑)。一休さんの持っている杖は、実は武器だったとは知らなかった。

 表紙イラストに描かれた、ぞくりとする美女がとても目を引く。このイラストだけでも、本書を手に取ってしまいそうだ。この女性は、一休さんの出てくる「屍舞図」に登場する玉蘭だろうか。他には該当するような登場人物は見当たらないのだが。

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時空の流離人

 

予知夢4


・予知夢
・東野 圭吾
・文春文庫

 以前テレビで放映されて、人気を博していた「ガリレオ」シリーズ。本書は、そのドラマの原作のひとつに当たる。読みやすくて、面白いのは面白いのだが、ただ褒めるだけでは、私らしさがないので、色々と突っ込んでみたい。

 この本も、全巻にあたる「探偵ガリレオ」と同じく、短編集で、収録されている作品は、以下の5編である。

 少女の部屋に不法侵入した男は、その少女が、子供の頃夢見た運命の恋人だと主張」:「夢想(ゆめみ)る」
 殺人事件が起きた同時刻に殺された女の幽霊が:「霊視(みえ)る」
 ポルターガイスト現象の起こる家の秘密:「騒霊(さわ)ぐ」
 不思議な絞殺事件:「絞殺(しめ)る」
 女が殺される予知夢を見た子供:「予知(し)る」

 このシリーズの持ち味は、湯川が、一見オカルトに見える事件に潜む、科学的なトリックを見事解き明かすというものだろう。しかし、最初の2つは、どう考えても、普通のミステリーの謎解きである。理系ミステリーとは言えない。さすがにネタにつまったのか。

 ところで、これは、前作から思っていたのだが、湯川の専攻はなんだろう。物理学といっても分野がとてつもなく広いし、アプローチの仕方でも、理論物理学系と実験物理学系がある。理屈っぽいところは、理論物理学系のようだが、それなら、実験なんてほとんどしないだろう。しかし、草薙が訪問したときには、よく、綱引きや、ガラスに電気を通すといったような、天才物理学者にふさわしいとも思えない実験をしている。

 「湯川、あんたは『でんじろう先生』か?」

 そもそも、使われているトリックは、物理学というより、工学の分野が多いと思う。湯川が物理学者であるという必然性が良く分からない。ぜひとも物理学者でなければ解けない事件というのを期待したいのだが。

 また、「騒霊(さわ)ぐ」で、神崎弥生が、草薙刑事に、どうしてあの家が気になるのかと聞かれて、堂々と、「勘です」って、答えている。

 「神崎弥生、あんたは『浅見光彦』か?」(ごめんなさい。ここは内田康夫ファンの方しか分からないかもしれません。)

 そういえば、結構長い間、このシリーズの新作を読んでないような。続きはでるのかな。

本記事は、「時空の流離人」に掲載したものを大幅に加筆修正したものです。

桜桃2





 太宰の命日にちなんで「桜桃忌」いうんがあるようやけど、その名前のもとになったんが、この小説みたいやな。最初に言うとくけど、うち、太宰なんて大嫌いや。人間的に受け付けられません。そん理由が、この小説にもよう現れとる。

 内容は、或る日の夫婦の様子を描いた、ほんにたわいもないもんや。夫婦の様子いうても、夫婦喧嘩しとるんやけど、これがまた静かな喧嘩や。そやけど圧倒的に、太宰の部が悪い。食事の後、「どうも、こんなに子供たちがうるさくては、いかにお上品なお父さんといえども、汗が流れる」言うと、奥さんから「お父さんは、お鼻に一ばん汗をおかきになるようね。いつも、せわしくお鼻を拭いていらっしゃる」いうて返されるんやけどな、それに対して太宰が言うたんが、「それじゃ、お前はどこだ。内股かね?」やて。やっぱ変態や。そやけど、奥さんに、「この、お乳とお乳のあいだに、……涙の谷、……」言われて、返す言葉なかったんや。普段の生活が伺えるゆうもんやろ。

 最悪なのは、息子さんのことや。「四歳の長男は、痩せこけていて、まだ立てない。言葉は、アアとかダアとか言うきりで一語も話せず、また人の言葉を聞きわける事も出来ない。這はって歩いていて、ウンコもオシッコも教えない。それでいて、ごはんは実にたくさん食べる。けれども、いつも痩せて小さく、髪の毛も薄く、少しも成長しない。」と太宰は書いとる。どうも障がいを持ってはったみたいやな。「父はしばしば発作的に、この子を抱いて川に飛び込み死んでしまいたく思う。」いうとるけど、結局、他所の女と心中しとったら世話ないわ。それも何度も心中未遂を起こした揚句やし。なんともはた迷惑なオヤジやないやろか。父親の責任放棄するやて、人間としてどうかなあ。世の中には、そんなお子さんを一生懸命育てていはる人も多いんや。

 そん他にも、太宰には、パクリ疑惑もありますなあ。太宰ファンは、パクリやない言い張るけど、現在の著作権法に照らしてみたらどうやろなあ。まあ、昔は著作権なんて固いことは言いませんでしたけど。

 仕事もろくにせんと、酒ばっかり飲んどるもんやから、夫婦喧嘩も旗色悪い言うもんや。とうとう居たたまれなくなりはって、仕事場の方に行く言い出すんやけど、奥さんの妹さんが重体で、見舞いに行きたがっているのを知っとりながらやで。「女房が見舞いに行けば、私は子供のお守りをしていなければならぬ。」やて、ほんま、鞭でしばいてやりたいわ。

 くさくさして、酒を飲む場所へ一直線に行った太宰やけど、子供さんたちが見たこともない言う、桜桃を出されて、まずそうにしながらもパクパク食べるんや。「子供よりも親が大事」やと心の中で言いながらな。ほんに「人間失格」やな。こん小説は、短編やけど、太宰の性格がよう現れとるんやないか。そやけど、なんで、あんなに太宰ファンって多いんやろ。うちには理解できませんわ。

                               by 月

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たね子の憂鬱3





 芥川竜之介の短編、「たね子の憂鬱」。たね子は、夫の関係で結婚式の披露宴に出席しなければならなくなりました。 これが彼女の頭痛の種なのです。何しろ場所が帝国ホテル。今はともかく、当時は、庶民が気楽に行けるような場所ではありません。おまけに、たね子は、洋食のマナーなんて無縁の生活だったのですから。

 みかねた夫は、たね子を銀座の裏にあるレストランに連れて行き、食べ方を教えますが、所詮は、付け焼き刃。披露宴では、背骨も震えるような緊張ぶりです。 終わった後も、変な夢は見るし、かなり精神的に疲れてしまったようです。たね子、いかにも小市民です。洋食を食べるくらいで、そんなに緊張しなくてもよいと思うのですが、当時の庶民には、案外これが普通だったのかもしれません。

 ただこれだけの、なんということもないようなお話なのですが、芥川は、そんな素材を、ユーモラスながらもどこかペーソスの漂う小品として、うまくまとめています。


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ホルモー六景4





 万城目学の「鴨川ホルモー」のエピソード集とも言えるのが、この「ホルモー六景」(角川書店)。タイトルの通り、6つの短編から構成された短編集だ。収録されている作品は以下の通りである。

○第一景 鴨川(小)ホルモー
 京都産業大学玄武組の彼氏いたことがない記録更新中の、二人静と呼ばれる女学生2人の恋と友情と戦いのお話。

○第二景 ローマ風の休日
 京大青竜会の一員、楠木ふみのアルバイト先でのエピソード。彼女には指揮官としての意外な才能が。本編で彼女が好きな男に告白しているが、その後ろにあった物語。

○第三景 もっちゃん
 もっちゃんの恋と失恋のお話。もっちゃんとは、なんと「檸檬」のあの人。そうえいば、もっちゃん、旧制三高だった。さすがにもっちゃんがホルモーしていたというわけではなく、彼の友人の「安倍」がホルモー関係者だったということ。

○第四景 同志社大学黄竜陣
 京大青竜会の嫌な奴、芦屋満の元カノである山吹巴の物語。実はホルモーは、四神ではなく、かっては五神で争っていた?新島襄もクラーク博士もホルモーとの接触が?

○第五景 丸の内サミット
 なんとホルモーは京都だけでなく東京でも行われていた?江戸も四神相応を考えて作られたそうだからあっても不思議はないか。

○第六景 長持の恋
 立命館大学白虎隊のメンバー細川珠美がバイト先で見つけた不思議な長持。そして時空を超えた恋。彼女の運命の相手は意外にも・・・

 第三景と第五景以外は、直接本編の「鴨川ホルモー」の話とリンクしている。本書を読んで、もう一度本編の方を読みなおして見ると、あれは、実はこういうことだったのかと分かるので、よりこの世界を楽しむことができるだろう。第四景では、黄竜陣復活の条件を満たしていたようだが、この後どうなるのだろう。また、第五景のように東京でもホルモーがあるということなら、そちらにも興味がある。ぜひ、この方面での続編を期待したいものだ。


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湯槽の朝3





<三月廿八日、午前五時ころ、伊豆湯ケ島温泉湯本館の湯槽(ゆぶね)にわたしはひとりして浸つてゐた。>

 若山牧水の「湯槽の朝」の出だしである。牧水先生、昨夜は少しお酒を聞こし召したらしい。二日酔いの頭で、窓を開けて、渓にかかる霧を眺める。オチらしいオチもない、ただそれだけのお話だ。さすがに朝の5時。他に人が居るような様子は作品からは感じられない。温泉に入りながら、早春の自然を眺める。何とも優雅なものだ。さすがは牧水先生。さすがは歌人。普通なら、飲み過ぎたことの後悔しかないだろう二日酔いの朝のことだって、立派な文学作品になるのだ。私もひとつ山峡の温泉に浸って、のんびりと外の景色を眺めてみたくなった。しかし、朝が苦手な私。朝の5時起きは、ちょっと考えてしまう。

 困った事と言えば、<宿醉(ふつかよひ)はいよ/\出て來た>という事くらいだが、それ以外はいたって平和そのもの。ある春の早朝の、ほんのたわいもない時間。しかし、そんな時間こそ、私たちにとってかけがえのないものなのではないだろうか。

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H25.10.26発売の図書新聞(3132号、2013年11月2日号)に「泥棒は几帳面であるべし」の書評掲載

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2019.2.23.「本が好き!」×「書店フェア」で「あなたの街で本と出会う Vol.2」に「こころを彩る徒然草」のレビュー掲載

2019.04.28.【本が好き!×カドブン】コラボレビュー!第4回『皇室、小説、ふらふら鉄道のこと。』掲載

2020.01.24.「貧乏大名“やりくり”物語 たった五千石! 名門・喜連川藩の奮闘」が「新刊JP」に掲載
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