七尾与史による「ドS刑事シリーズ」(幻冬舎)第3弾「三つ子の魂百まで殺人事件」。主人公は、警視庁捜査一課三係刑事の黒井マヤ。階級は巡査部長だが、「姫様」と呼ばれ、腫れ物に触るような扱いだ。それもそのはず、マヤの父親は、次期長官と見なされている、警察庁の次長。彼女の逆鱗に触れて、へき地に島流しにされてしまったものが何人もいるらしい。
このお姫様、長い黒髪に白磁のような柔肌。超絶美貌なのだが、ドSなうえに猟奇趣味。犯行現場から、遺体の一部をこっそり持ち帰ってコレクションしているのだ。彼女が刑事になったのも、死体が見たいかららしい。頭も切れ、推理能力は抜群なのだが、次の死体が見たいために、自らの推理を秘密にしておくという困った習性がある。
このマヤのお守り役が、代官山脩介巡査。通称、お代官様。なぜかマヤに気に入られて、露骨に秋波を送られている。代官山の方も、マヤの美貌には魅かれているのだが、なんといっても彼女の趣味が・・・。彼の役目は、マヤが推理していることを探り出すこと。
そして、二人と行動を共にしているのが、キャリア警察官である浜田学警部補。階級上は、二人の上司に当たるのだが、ドMで、マヤから、ほとんど犯罪と言えるようなドS行為の受け役となっている。マヤを女神のように崇拝しているのだが、いつも扱いは散々。もちろん、この巻でも、その扱いは変わらず。マヤにとっては、自分と代官山の間を飛び回るお邪魔虫にすぎないようである。
この巻では、マヤの中学生時代の出来事が明らかになる。なんと、騙されて、親友、神童キリコといっしょに誘拐された過去があったのだ。あわやというところで、いっしょに逃げ出したものの、追跡されて、結局自分だけが助かっている。しかし、その時のショックで、当時の記憶は、あまりないらしい。ストーリーは、現在の事件と当時の事件が入れ子構造のような形で進んでいく。
マヤの猟奇趣味は、中学時代からあったようだ。何しろ目の前で起こった交通事故の被害者の爪を持ち帰ってしまうのだから。一方、神童キリコも猟奇的なホラー映画の大ファン。まさに類は友を呼ぶ。二人はすっかり意気投合して大親友になったのだ。しかし、あっさり騙されて、キリコと二人で誘拐されるとは、まだまだこのころのマヤは、小娘に過ぎなかったようである。
現在の事件とは、白井マヤという女性が、胃が破裂するまで、ケーキを食べることを強要されて殺された事件だ。この被害者の名前が黒白逆転のマヤということが、事件にマヤが巻き込まれていくという伏線にもなっているようだ。この被害者、外面はいいが、裏は相当邪悪だったようで、そのせいで自殺した人間もいたらしい。
実は、過去にも同様の猟奇的な事件が発生しているのだが、被害者には、いずれも他人を自殺に追い込んでいるという共通点があった。これらの事件はやがて、マヤが昔巻き込まれた誘拐事件とクロスしていく。
ところで、今回の事件で重要なガジェットとなっているのが、スナッフフィルム。実際の殺人の様子を収めているというとんでもないものだ。マヤは、つてを使って、代官山と上映会に行っているが、洋物なのが不満だったようで、「国産はないのかしら、国産は」なんて言いだしている。しかし、今回の事件では、あわや自分がスナッフフィルムの主役になってしまうところだったのである。ドS女王様が、スナッフフィルムの被害者なんかにされては、シャレにもならない。今回、いくら過去の出来事が関わっているにしても、女王様、行動が、少し軽率すぎるのではないか。
巻が進むにつれ、下僕浜田へのドS攻撃は、ますますパワーアップ。異様な迫力のマヤパパも登場して、マヤと代官山の関係は、どんどん抜き差しならない方向へ。代官山は、マヤに魅かれながらも、やはり猟奇趣味にはついていけないようだ。代官山、マヤパパに撃ち殺される前に、もう覚悟を決めろ(笑)。
最後に、最近小説を読んでいると、作者に電気に関する初歩的な知識がないことにイラッとすることが多い。この作品にも、「高圧電流」(高電圧とか大電流という表現はあっても、高圧電流というものはない)という言葉が使われていた(p133、p331)これには、、「ブルータスお前もか!?」とがっかり。
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