今日は、芥川龍之介の命日、名付けて「河童忌」ということで、青空文庫から、ヘンな作品を探して読んでみることにした。芥川と言えば、「蜘蛛の糸」、「杜子春」など、昔の教科書に載っていたような(最近は教科書を読んだことがないので、今でも載っているかは不明)、なんだか説教臭い作品で有名であるが、この他にも、なんだかよく分からない作品、ヘンな上にやっぱりよく分からない作品も多く書いている。そして、この「虱」は、これらのうち、3つめのカテゴリーに入るような作品だろう。

 簡単に内容を説明すると、舞台は、長州征伐に向かう、京都守護の任に当たっていた加州家の金毘羅船の中。この船、38人もの人間が、ぎゅうぎゅう詰めに詰め込まれている上に、なぜか、沢庵桶が足の踏み場もないほどに並べられているのでむちゃくちゃ臭い。そして、<人間を乗せる為の船だか、虱を乗せる為の船だか、判然しない位である>と書かれているくらい、至る所虱だらけなのだ。どうして船の中で、これだけ虱が大繁殖しているのかは謎だが、乗り込んだ藩士たちは、暇さえあれば虱を取っている。

 人間が38人もいれば、ヘンな奴も交じっている。この船に乗った連中の中にもその例に漏れず、ヘンな奴がいた。それも二人も。一人は、森権之進という男。虱を取ったら、自分が飼うので、殺さずに自分にくれと言うのだ。彼の理屈はこうである。

<体に虱がゐると、必ずちくちく刺す。刺すからどうしても掻きたくなる。そこで、体中万遍なく刺されると、やはり体中万遍なく掻きたくなる。所が人間と云ふものはよくしたもので、痒い痒いと思つて掻いてゐる中に、自然と掻いた所が、熱を持つたやうに温くなつてくる。そこで温くなつてくれば、睡くなつて来る。睡くなつて来れば、痒いのもわからない。――かう云ふ調子で、虱さへ体に沢山ゐれば、睡つきもいいし、風もひかない。だからどうしても、虱飼ふべし、狩るべからずと云ふのである。……>

 そしてもう一人のヘンな人、井上典蔵。こちらは、「虱食う派」だ。彼によると、虱は<油臭い、焼米のやうな味>らしい。この二人には、それぞれシンパが出てきて、時折虱のことで口論が起きる。そして、井上が、森の大事にしている虱を食ったことから、あわや刃傷沙汰。長州との戦争に行くんだろう。大丈夫か加州家。

 聴いただけで体中が痒くなるような話だが、一つの推理が頭に浮かんだ。「船の中に虱を持ち込んだのは、こいつらや!」


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