ダリウス・ミヨーの「フランス組曲」は、アメリカの出版社の求めに応じて1945年に作曲された吹奏楽曲である。(後にミヨー自身が管弦楽に編曲した。)スクール・バンドで演奏されることを想定して、技術的に難しくなりすぎないように配慮されている。

第1曲 「ノルマンディー」、 第2曲 「ブルターニュ」、 第3曲 「イル・ド・フランス」、 第4曲 「アルザス・ロレーヌ」、第5曲 「プロヴァンス」の5つの楽章で構成され、おのおのの地方の民謡のふしが使われている。

ミヨー自身が寄せた文章によれば、これらはどれも第2次大戦でドイツからの解放のために熾烈な闘いが繰り広げられた地方であり、アメリカの若い人たちにその事実を心に留めてほしいと思って選んだのだそうだ。

つまりこの曲は、戦火を逃れてアメリカで生活していたミヨーの祖国への強い思いを反映しており、同時に、戦争で亡くなった多くの同胞を悼む音楽でもある。地中海的な明るさに満ちた骨太ないつものミヨーの音楽とはずいぶん性格が違う。この点は「アルザス・ロレーヌ」の哀切な曲調に明らかだが、8分の6拍子の行進曲で書かれている「ノルマンディー」にも現れている。これは単なる陽気なマーチではない。何しろノルマンディーは連合国による上陸作戦で多大な犠牲者を出した土地であり、ミヨーが作曲しながらその点に思いを致さなかったはずがない。

どういうわけか、今耳にすることができる演奏は、この曲のそういう性格を考慮していないものが多い。とても残念だ。