孫さんのあれこれ雑記

孫右衛門運営、「郷愁小路」シリーズ 一番アウトサイドに位置するこちらまで ようこそおいでくださいました。 郷愁小路本編で受けるイメージとは 随分違うと思いますが、 むしろこれが私の本来の姿に近いと思います。 こちらでは、古い町並の話は一切なしにします。 私の興味あるさまざまなことを取扱います。

カテゴリ: 旅と鉄道

先日のある旅先で。
夕方、町を歩いていると急な雷雨に見舞われた。観光地でもあるこの町、外来客の多くは戸惑い、店や商店街のアーケードに身を寄せた。
私は雨宿りを兼ねて小さな食事どころに入った。一応観光客も相手にしているらしく、麺類などのメニューが並んでいた。
ただ私は夜にさしかかっている時間のこと、まずはビールと単品料理を注文したい。
酒を飲む客は冷淡に扱われるのでは?と少々不安になったが、注文して少し経ってから、
『もし良かったら「からし豆腐」を召し上がってみませんか?』と女性の店の人に勧められた。
当地の郷土料理とのこと。これが実に旨い。
ご主人はその間寡黙に目の前で焼き鳥などを焼いていたが、ふと思いついたように、茄子の刺身と「どぶろく」をそれぞれ少量出してくれた。ご主人のサービスとのこと。
ご主人は畑も持っているらしく、朝採った茄子を輪切りにし、刺身醤油で食べてみよという。これもまた美味だった。こういう食べ方もあるのか・・と。
席に座っている間、ご主人と言葉を交わしたのはそれほど多くない。しかし私が酒とつまみの旨みをある程度解る客と判断したのだろうか、とりあえずの雨宿りのつもりが思わぬ大当たりの店となった。

翌朝。
朝の町歩きのついでに、コンビニで朝食を仕入れて食べるのも味気ないので喫茶店でモーニングセットでも食べようかと探していたら、「モーニングコーヒー」の目印のある小さな店が眼についた。
中の様子はわからないが扉を押した。
カウンターが6席程度。但し、そのうちの1席で60代後半くらいと思われる店主の男性が無造作に野菜サラダを頬張っている。それに、入ってきた私を闖入者のように見ている。
注文時も、ボソボソとした受け答えでやや気まずい思いでモーニングセットを頂いた。食事中は会話なし。ご主人はテレビを見ながらさっきの野菜サラダを食している。
しかし、店を出る前代金を支払った私に「ありがとう」としっかりとした声で言われた。
店をでて気付いた。この店は、基本的には夜の店なのだ。そしてモーニングを注文する客も多くは固定客に違いない。
なので客席に座って野菜サラダをボリボリ食べていても平気なのだ。
初めての客に対しては無愛想だが、何度か通ううちに私も常連客になりえるのだろう。旅先だからそれも無理な話だが。

これは1軒目の店についても共通することだ。

私もこういう店の常連客になりたい。

この春からまた何度か旅館に泊る機会があった。多くは温泉旅館で2食付の、主に観光客向けの旅館だ。
共通しているのは高級旅館ではないということくらいで、部屋も温泉も、それから食事も様々だった。
今思い出すと、各旅館での食事の印象は随分異なったものだった。その中で突出して強い印象として残ったのは、下北半島の小さな温泉旅館だ。

旅館での食事。多くでは会席料理風の献立で、前菜、汁物、焼物などと続き、鍋物か陶板焼のようなその場で加熱していただく一品がある。そういった構成がほぼどこも似た形になるのはある意味やむを得ないだろう。
あとはやはり、食材がどうかということになる。
ややもするとそれらは全国で調達し易いものに傾き、美味であり豪華に見えても、結局は町中のその辺の店で少しだけ贅沢をすれば食せるメニューになってしまう。

さてその下北半島の旅館、津軽海峡に注ぐ大間川の渓流沿いにある「薬研温泉」の小さな、そして外見はとても地味な旅館だ。
海岸沿いの町からそれほど距離は無いが、旅館の周囲は既に深山の趣で私が訪ねようとした時もカモシカに遭遇した。女将によると熊、猿も見かけるという。
後で知ったが全国紙も取材に訪ねたことがあるようで、「薬研温泉のカモシカ女将」とも称されている、ちょっとした名物女将なのだそうだ。

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この映像に写っている夕食の品々の中で、山菜やキノコ類は全て女将自らが周囲の山々で採取してきたものだという。
例を挙げるとカタクリと海苔の和え物、山菜・キノコ10品の小鍋。付け加えると刺身もとても新鮮で、マグロなど醤油に浸すと脂が染み出すほど乗っていた。

これを大型旅館でやったらどうか。山菜類の採取には人を雇い相当な人件費を計上し、宿泊費は高騰するだろう。ちなみにこの旅館の宿泊費は1万円未満。

最近はネットの口コミもあって、事前情報を随分詳しく得ることも可能になったが、やはり実際泊ってみないとわからない事も多い。
その辺りが、当たり外れということになるわけだが、この旅館は相当な当たりだった。

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旅館はややもすると宣伝や建物の外観・設備に良い印象を得ようと注力し、実際が伴っていないことが少なくない。しかしこの旅館は、逆に良い方に騙されるわけである。

近くに大型のビル旅館が廃墟をさらしているそばで、私が泊った当日は満室だった。

三次と江津を結ぶローカル線・三江線。

知らない方がほとんどと思われるこの路線、通常は1両での運行であるところを、昨年は3両編成としても週末などは満員の乗客があるという。
その理由は、この3月に廃線が予定されているため名残惜しむ鉄道ファンが殺到しているからだ。
わたしは残念という思いはあるが、乗りに行く事はせず、動向を静観しているのみだ。

しかし、今日ネットで今の三江線の状況を聞いて、少し感情の高まりを覚えた。

先日来の雪の影響で運休になっているのに加え、トンネルの一部が崩落している箇所があるとのこと。このまま運用終了か?とのコメントが。
ネットの情報なので確実性はどうかわからないが、もし本当にそうなってしまうなら、無念極まりない終わり方ではないか。

わたしは既に鉄道に乗ること自体を目的とした旅をしなくなって久しいが、この三江線には思い出がある。
相当以前のことである。
朝一番の列車で三次に向かい、三江線の列車に乗り継いで、その後江津から山陰本線、宍道から木次線と乗継を重ね、日帰りで帰ってきたことがある。
乗継ぎ待ち以外は列車に乗るだけのものだった。
冬晴れの穏やかな日で、江の川の悠然とした流れを車窓にローカル線の旅を満喫した。
江津に近づくにつれ少し乗客は増えていったように記憶しているが、車内は地元のお年寄り他数人の客がちらほら程度であった。

廃線を惜しんで乗りに来た客が大半を占める今の状態は、既に三江線ではないといってよいだろう。
しかし、
地元の方々にしても今やほとんどが自家用車での移動だろうが、かつては地域の念願かなっての開通を祝っただけあり、廃線に何らかの感慨を抱く人も少なくないはずだ。
何とか運行最終日まで運行を全うして、有終の美を飾ってほしいと、少し離れたところからだが願いたい。

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この秋は出張が多かった。

宿泊を伴うものも多かったが、私は一部を除いて旅館に宿を求めた。
それは旧市街にある古びた旅館であったり、また温泉旅館であったりした。

ほとんど私単独の出張だったので、宿ももちろん夜の食事も私の自由だった。
個人的な探訪では、地場の居酒屋などで地物を食するのを心がけているが、出張中の身ではそういうわけにはいかないので、夕食はチェーン店などの単価の安い店で外食か、スーパーやコンビニで惣菜と酒類を買い込んで持ち込むかのどちらかだ。
ホテルの場合はそうなるし、旅館でも1人客は受けても素泊まりということが多いのだが、最近は2食付ビジネスプランなどと称して、安く泊れる旅館も多い。

もちろんツアー客を受け入れるような大型旅館は、1人客やビジネス客は受け入れていないところも多いが、そのような旅館以外では、ネットでも簡単に予約できるところも少なくない。

実際ある温泉旅館に泊ったとき聞いてみたのだが、ビジネスの客が一定の割合を占めているとのこと。
失礼ながら昭和時代には団体さんなどで賑わったが、設備がやや陳腐に感じられる宿だった。
リーズナブルに食事・温泉付きを希望するビジネス客の需要というのは、少ないものではないと思うので、取り込むことはひとつの生き残りの策ともいえるかもしれない。

わたしは探訪を趣味としていることもあって、出張であってもどこかに探訪要素を入れようと思案する。(もちろん業務優先だが)そのことで出張にも張り合いがでてくるので、全体ではプラスに働いていると思っている。

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この旅館では源泉掛け流しの浴場が貸切状態だった。


1月に「今年京都を訪ねる理由」という記事を書いた。
そのきっかけは、バイト先のホテルが10月にリニューアル工事を始めるというものだった。

それで機会を探っていたのだが、せっかくなら1泊して、それも住んでいた付近にないかと探していた。旧市街には最近空き家になった町家建築を利用した宿泊施設が増えていると聞く。ぎりぎりの9月に入ってからではあるが予約可能だったので、先日実行してきた。

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出身大学構内も久々に歩いたし、件のホテルも外観をしかと眺め写真に記録し、1Fロビーのコーヒーショップに入って余韻に浸った。しかし、当時の社員はほとんどいないだろうし、ましてアルバイトの分際である。
フロントで何か依頼しても、いまや何にも成果は得られないだろう。
そのようなことで、それだけに留めて後にした。

それよりもやはり印象に強く残り、また郷愁感を覚えたのは暮らしていた界隈のことである。
狭い路地に町家建築の連なる西陣界隈だ。

宿に荷物を置き、自転車で界隈を走っていると、良いこと悪いことを含め、様々なことがふと思い起こされてくる。

町家や町並に関心が向いがちな私の探訪、しかしここではさすがに趣の異なるものになった。

西陣滞在中の初日夜と翌昼食は、当時よく行っていた店に行こうと決めていた。
前者は自転車で5分ほどにあった大衆中華料理屋。後者は歩いて3分ほどの小路にある洋食の店に決めた。
とはいえ学生食堂やアルバイト先での賄いがほとんどだったので、そう頻繁に行っていたわけではない。

洋食の店。腰を下ろしたカウンター内には60年配に見えるご主人と20歳前後の若者が。ご主人の顔は何となく見覚えがあるような。
私が強い郷愁を感じたのは、注文した「とんかつ定食B」を受けて、その後主人が小声でつぶやいた「とんB」という一語。

今回の再訪で最も印象的な一場面ともなった。
訪ねるきっかけになったホテルでもなく、町家・町並でもなかった。

この店はとんかつを中心とした洋食の店で、看板のとんかつ定食は、豚肉のボリュームに応じてAからCまでがあって、Bが標準的な量のとんかつとサラダ、味噌汁と米飯が付いて比較的手ごろな値段なので、注文する客も多いのだろう。
私自身、実際この洋食屋に行って、「とんB」を何度か注文したのだろう。
耳に残っていて懐かしいと感じたのだ。

この「とんB」、ずっと意識外にあったのだ。大袈裟に言えばそれからそのとんBを味わって店を出るまで、学生時代に戻ったような感触になった。

ただ、泊った町家宿や夕食に寄った中華料理屋その他で、学生時代良く来ていた(近くに住んでいた)、懐かしい有難うと、思わず打ち明けずに居られなかったのに、この店ではそれが出なかった。思わぬ懐かしいフレーズを聞き、ある意味放心状態になっていたのか。

ゆかりのあるところを再訪する旅の醍醐味は、実はこのような些細な体験なのだろうと、一週間経った今噛み締めている。

暫く間の空いていた京都探訪だったが、これからは定期的に訪ねようかと思う。

懐かしさももちろんだが、まだ知らないことだらけである。

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