2007年09月22日

手紙 その2

今日はホウレン草と春菊の種を蒔きました。
鼻くそみたいにちっちゃな種を、土の中に一粒ずつ埋めていくのです。それがすんだら、また畑を耕し、太陽が沈むまで草むしり。農業はどこまでもエンドレス。
昨日も今日も(きっと明日も明後日も)、シャベルで土を耕し、馬ふんをまき、種を埋め、草をむしる。
農家の嫁にだけはなるまい、と思いました。
あなたは「二日目にしてはや挫折?」と思ったでしょうけど、本当に男並みに働いているのです。

ついさっき、泥だらけでへとへとになって自分の小屋に戻ってきました。
私の泊まっている部屋は、肥料置き場の二階です(まったくシンデレラじゃあるまいし)。
扉を開けると、サササーーっと黒いものが四方八方に散っていくのが見えました。
「まっくろくろすけ!?」と思いきや、ただのゴキブリでした。
まあ、現実はこんなもんです。毎日が物語みたいにカラフルな出来事であふれてるわけじゃありません。
もうミミズにもトカゲにもゴキブリにも慣れっこです。

 * * *

泊めてくれた文吉さん(50歳)とそのお父さん(90歳)のことについて書きます。
江戸時代からつづいている農場を受け継ぐ文吉さんは、根っからの百姓です。
ご飯中も畑の方を気にしてチラチラ見ている様子なんかを見ていると、
「ああ、子どもの時から毎日忙しく畑へ出ていたんだなあ」と思います。
食べるスピードも早いです。いつも100回くらい噛む私も、負けじともりもり食べました。
人間、なんにでも慣れてしまうのです。
食べ終わっても「ま、お茶でも飲んで」とか「ささ、おはぎでも食べて」とかいった田舎的雰囲気は一切なく、「さっ、行こうか」と一声、また畑です。農家の嫁になるにしても、ごろりと昼寝できるところに嫁ごうと思いました。
でも文吉さんのお父さんが若い頃は、朝五時には畑に出て、田植えしながら子どもに持ってこさせた朝ご飯を食べたというのです! 私はその話を聞いた時、7年前のシドニー・オリンピックで、イアンソープ(なつかしいですね)が平泳ぎの練習をしながらサンドイッチをほうばっていたシーンを思い出しました。

文吉さんは、畑に来る都会の人たちに、いちから野菜作りを教える"先生"であり、みんなから「文ちゃん」と呼ばれ親しまれている人物でもあります。
もしゃもしゃの頭につぶらな目、よく日に焼けた顔は、まるで森でシカやアライグマなんかの害のない動物に遭遇したような印象を与えます。
文さんは足を引きずるようにして歩きます。
手の骨格もちょっと変で、熊手のような形をしていました。
リューマチだそうです。
それで今は百姓をやめて、近所の人たちに土地を貸して農業を教えているのだそうです。

文さんのお父さんは、農園のとなりの神社に住んでいます。
すごく歳をとっているのに、立ち姿がしっかりしてて、生きた目を持っているのにすごく好感をもちました。道ですれ違ったときに、「ちょっと話してみたいな」と思わせるような老人です。
名前を聞かれたので「山田真歩だ」というと、ゆっくりうなずいて部屋を出て行きました。
それから紙と鉛筆を持ってきて、ここに書いてくれというのです。
歳ですぐ忘れちゃうんだなと思って、大きな字で(フリガナまでつけて)書いて渡しました。
すると、その文字からなにかを推し量ってでもいるように、しばらくじっと見つめていました。
何だろう?と思っていると、にっこり微笑んで、
「あとで話したいことがあるから来なさい。たぶんあなたのためになるから」
と言いました。
私は心の中で(そうこなくっちゃ!)と喜びました。
だって、本当にいろんな偶然がかさなって今ここに私がこうしているんだから、そういう「ちょっと不思議なおじいさんに出会う」みたいなイベントがなくっちゃ、と思ったんです。

夕飯のあと、おじいさんと私はいろんな話しました。
誕生日を迎えるまえに彼に会えたことは、ひとつの幸運でした。
まあ、今度会った時にゆっくりお話しましょう。ここには書ききれないから。
それにもう9時過ぎで、いささか眠いです。
今から歯を磨きに、もう一度「くろすけ」たちの巣を通りぬけていかなきゃなりません。
また明日は朝早いでしょう(でも、今朝のツルムラサキの美しさといったらなかったな。本当にきれいだった)。
それではおやすみなさい。よい夢を。

にら長靴

mahoyamada929 at 21:24│TrackBack(0)clip!手紙 

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この記事へのコメント

1. Posted by ほりっぱり   2007年09月29日 00:33
わら1本の革命を今読んでいて、興味深くも、先を読むのが恐ろしいです。あまりにも真実だから。読み終えたらどうにかなっちゃいそうです。
そうそう、ハピバースデー。さらに良き齢を。
2. Posted by まほ   2007年09月29日 09:15
いつも優しくてありがとうホリッパリさん。
毎日いろんな出来事があって、いろんな人と出会って、
その影響をうけて自分がつくられていくのを知るのってすごく面白いですよね。
またどこかでコーヒーでも飲みましょう!