極上女の過去、そして、今(別の意味で)増村保造の映画レビュー、これにて完結。

2010年12月03日

デンマーク・日本 ホラー対決

『フレッシュ・デリ』『コワイ女』

『フレッシュ・デリ(原題: DE GRONNE SLAGTERE 、THE GREEN BUTCHERS)』
フレッシュ・デリ2003年、監督:アナス・トーマス・イェンセン。デンマーク映画。 なんでぇ、素敵な映画じゃんか、こいつ~!ってな気分だ。 一応、ホラー。肉屋を開業したがサッパリ売れないスヴェン(マッツ・ミケルセン)とビャン(ニコライ・リー・コス)の2人だったが、冷凍庫で凍死した電気工事業者の死体を動転のあまりマリネにして売ったところ、大売れ(動転してマリネにしてしまうという無茶な流れが爆笑)。だからって、次々に凍死体を作り出し(サラッと書いたけど、つまり殺人ってことね)、マリネを量産していく2人。。。 ま、そんな状況設定だけでも充分に面白い。【食人】をテーマにした映画はそれだけで何故か面白い。カニバリズム映画に駄作無し! 僕にとってのベスト3は『デリカテッセン』『コックと泥棒、その妻と愛人』『フレッシュ・デリ』に確定。どれも優秀なコメディだ。本作の(意外に)几帳面な映像、特に、律儀にシンメトリーを守り通す構図は、【食人】のテーマも併せてピーター・グリーナウェイみたいだった。本作は、そーいう価値観で観て、満足を得られる映画。 で、本作は、2人の主人公の生い立ちや事情や古傷を介して【食人行為】を見つめる構成があまりにも見事。【食人行為】は見事に【料理行為】に変換される。幼くして両親を失い、苛められ続け、性格が曲がり、すぐにキレるスヴェイは、常に自分を認めてくれ、愛してくれる理解者を求めているから、人肉マリネの成功を手放すことが出来ない。交通事故で他界した両親が愛情を注いだ知恵遅れの双子の弟(脳死状態)を憎むビャンは、出会ったばかりの恋人への愛情と人肉販売事業成功の狭間で揺れる。脳死状態の弟を安楽死させようとビャンが図るが、医療機器による介助を停止したショックで弟は生還、ビャンにつきまとう。この事情が、本作に重く、そのくせ、暖かいムードをもたらし、色彩を深める。他にも、飛行機事故で妻の肉を食べた司祭が登場することで、【食人】のテーマ性は一層深みを増す。深みは増すけど、【食人】の可否は曖昧になってきて、僕も「ま、いいか」なんて気分になったことが可笑しい。 クライマックスで、ビャンにとって【死なせたくない存在(=恋人)】と【死なせたい存在(=弟)】が同時に、盟友であるスヴェンに、同時に、一緒に、殺されかけている状況、その構図だけで、本作は人間の本質(エゴ)にナイフを突き立てる。それはシニカルでもあるのだけれども、最終的な質感はヒューマンで暖かい。そーいう鋭い映画だから、「お前は亀かも知れん。しかし、亀は競走馬にはなれんが、1番速い亀にはなれるぞ。」などの明言もサラリと登場し、ちょっとした教え子気分させ味わった。 「自分の作ったもの」が他人に愛される、そんな単純な喜びを生まれて初めて実感するサイコ野郎スヴェンの姿がたまらなく感動的。感動は感動なんだけど、あり得ないオチにも驚き。口あんぐり。 2度3度と美味しい映画だった。観るべきですよ。 スヴェン役のマッツ・ミケルセン、どこかで見覚えのある顔だと思ったら、『007/カジノ・ロワイヤル』(2006)の敵役ル・シッフルじゃん! この人の個性は素敵だ。
エスニック映画・オン・マイ・マインド
【料理映画デリシャス】
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『コワイ女』
コワイ女2006年、監督:雨宮慶太『カタカタ』、鈴木卓爾『鋼-はがね-』、豊島圭介『うけつぐもの』。 異空間的なテーマ性や、短編3本のオムニバス形式であることも含め、【スポンサーへの配慮を一切欠いた『世にも奇妙な物語』】ってところ。それにしても配慮欠きすぎ。つまり、お茶の間へのオンエアは出来ないギリギリのライン。【出来ないギリギリ】だからね。 『フレッシュ・デリ』とホラーつながりで観たのだけれども、最初は、映像クオリティの貧乏臭さに辟易した。でも、すぐに気にならなくなった。本作の貧乏臭さなんぞは、ホラー(怖がらせ)を主目的としすぎた結果に過ぎず、そのホラー成分が濃いものだから、多少の難点には目をつむれる。あ、嘘。じ、実は、怖くて、途中から冷静じゃなかったもので、映像の難点なんか気にしている余裕が無かったんですぅ。怖かったスよ、実際。「うっそ、まっじ!?」系っスよ。 3本とも、基本的には、【正常な主人公】を理不尽に追いかけてくる【正常ではない女】という定型があって、まぁ、それはホラー映画やサスペンス映画でお馴染みの「追い越したのに先回りされてて、目の前に突然ヒュッと再登場するショッキングな恐怖」を思い切り怖く作り込んでる。【正常ではない女】の造形が思い切り怖く(特に『カタカタ』の女、怖すぎ!)、逃げた先に現れる唐突さが思い切り怖く、主人公の真後ろに迫る高速な追いかけが思い切り怖い。その意味では【怖い女像】がステレオタイプでもある。型としての怖さ。だから、例えば女流監督が一本は撮影して幅を作るべきだったかも知れない。しかし、怖さは映像演出だけではない。音響も歪んでて、まじで内臓にきた。深夜にヘッドフォンで鑑賞していた僕は、その音響の気持ち悪さに当てられ、耳を塞いでいる不安も手伝って、何度も後ろを振り返ってしまったくらいだ。 勤務先の町工場の社長から交際を前提に紹介された妹が麻袋をスッポリと被っており、奇行を繰り返すという 『鋼-はがね-』は、笑える短編作品という位置づけなのだろうけど、1作目の『カタカタ』で全神経をビビらせていたチキンの僕には全くコメディに感じられず、アレさえ怖かった。【麻袋女】の脚が妙に綺麗だろと、【麻袋女への欲情】や【麻袋女の欲情】や【麻袋女との性行為】を執拗に描かれようと、僕はクスリとも笑えず、まして欲情なんかできっこなく、ただ怖かった。 久々に体験した【深夜の泣きたい気分】。【ママに依存したい夜】っつうの?(だからって、そんな気分で実際にママに依存した経験が無いのだけど、「ママに依存したい」という気分って、甘くせつなく立ち込めるもので、それ自体は気持ちいいッスすね) 【ママへの依存】100%状態の僕にとって、【ママの異変】を描いた3作目『うけつぐもの』は最も手強いかと思われたが、これ、意外と一番怖くなかった。あ、シナリオにロマン込めすぎじゃないッスかぁ? ダメダメ、怖がらせに徹しないと。半端にロマン込めると貧乏臭くなっちゃう。 3作とも、エンディングがしつこくて語り過ぎだったことも気に掛かったのだけれども、ホラーは怖がらせてナンボなのに、変に監督がチャンスを活かそうとしすぎるスケベ根性(つまり、【ちょっといい話】にしちゃおうって欲、ね)はちょっと減点。エンドクレジットが早めに始まったので、てっきり、最後にショッキングシーンが用意されているのかと期待したが何も無かった。最近のクレジットロールって長い、と改めて思う。(70年代の映画 洋邦とも を観ていると最近のクレジットの長さ=情報量の多さに驚く)
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香川照之 出演作品



majine at 16:16│Comments(0)TrackBack(1)このエントリーをはてなブックマークに追加 mixiチェック Share on Tumblr Clip to Evernote 映画 

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1. フレッシュ・デリ (2003)  [ NORDIC CINEMA ]   2011年09月05日 04:03
オリジナルタイトル:De gronne slagtere English Title:The Green Butchers 日本語タイトル:フレッシュ・デリ 監督:アナス・トマス・イェンセン Anders Thomas Jensen 上映時間:100分 製作国:デンマーク 日本劇場未公開(DVD発売) 予告編 あらすじ 店主のホルガーに

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