ある真実、今まで隠蔽されてきた事実をここで暴露します。正義や倫理の乏しい、経済だけの未来になりませんよう、願いを込めて。勝者が、弱者の全てを総取りする、おそろしい悪夢が未来の社会において現実となりませぬよう。
 私は製薬会社T社の研究所の研究員です。そこで、生殖医療の先端的研究をしております。ご存知の通り、ヒトゲノムの研究は素晴らしい将来を人類にもたらそうとしています。
DNA配列の中から、特定の形質、例えばスポーツ能力だとか、記憶の卓越した先天的能力だとかを見抜けるようになりました。また、外見の美しさや、柔和な性格なども、乳がんの遺伝的確率と同じように、ヒトの遺伝子から判別できるようになったのです。そしてこの研究はある階層の人たち、つまり家系的に国家のリーダーであり続けなければならない人々や、超国家的企業の所有者から、資金的に支持されてまいりました。なぜならば、優秀な後継者がいなければ、せっかく築き上げた国家や企業の体制が崩れてしまうからです。この、目まぐるしく移り変わる情報化した社会の中で、社会のリーダーたちは、今まで以上に優秀な子孫を求めています。端的に言えば、優秀な遺伝子をもつ卵子や精子や受精卵はこういった階層にとって高額の代価に値する商品になるのです。需要と供給と、それを可能にする技術があれば、今や公然の秘密である臓器移植ビジネスと同じように、倫理的バリアはすぐに機能しなくなるのです。
 信用して頂くために、私たちが開発した技術の概要について少しお話します。これは特定の遺伝子を精子と卵子に組み込むという技術のことです。簡単に言うと、ウイルスベクターを利用します。ウイルスに遺伝子を組み込んで、ひとに感染させるのです。みなさんは「おたふくかぜ」をご存じだと思います。ムンプスウイルスによって起こる「流行性耳下腺炎」のことです。このウイルスは、睾丸炎や卵巣炎を起こすことがあり、男性においては造精能を障害させて、不妊症を起こすことがあるのはご存知の方も多いと思います。このムンプスウイルスを利用するのです。もちろん自然界にあるウイルスをそのまま使うのではありません。病気を起こさず、しかも卵巣や精巣には確実に感染する変異ウイルスを使うのです。この変異ウイルスに、クライアントの希望する遺伝子を組み込むのです。高い知能や運動能力、美貌に関連した遺伝情報を導入し、卵巣や精巣に運ばせる。つまり感染させる。ウイルスは卵細胞や精母細胞に入りこむと、目的のDNAを宿主のそれと交換します。やがて受精卵となったときに、そのDNAが目覚めるわけです。この方法を用いれば、自分の子に、卓越した化学的能力や、高い肉体的運動能力を、それこそピンポイントに持たせることができるのです。
 最初、動物実験ではうまくできました。マウスや犬を用いた実験では、おおむね良い結果が得られたのです。確かに目的とする気質が、生まれてきた実験動物に備わっているように見えました。しかし、実験動物でうまくいったからと言って、人間でうまくいくという保証はありません。クライアントも安全かつ確実なものにしか大金はだしません。次のステップは人体で確かめる必要があったのです。
 最初の人体実験、これを我々は「ラルム」計画と呼んでいます。ラルムとはフランス語で涙のことです。実行は社外の秘密組織に準備させました。
 計画は男女カップルの選定から始まります。条件は妊娠はするが産まないこと、すなわち堕胎によるサンプル入手です。海外で行うことも考えましたが、空港で検閲されることや、新鮮なDNAサンプルが得られなくなることを恐れて国内に決められました。調べて分かったことですが、海外では宗教的理由などもあって、日本ほど堕胎の規制が甘くありません。我々は確実にサンプルを入手するため、日本の東京を選びました。
 ターゲットが決められました。由美31才、既婚、6歳の子の母、夫は銀行員。ここ半年、かつての恋人涼と逢瀬を繰り返しています。涼は同じ年の大学の同級生、売れない舞台役者。二人は結婚を決めていましたが、由美の両親が売れない役者の涼の将来に疑問を持ち、無理やり今の銀行員の夫に嫁がせたのでした。二人は偶然街で再会し、逢引が始まったようです。
 二人は決まって都内某所のシティホテルを利用していました。上層階の夜景のきれいな部屋です。由美は夫には女子会ということにして、アリバイは里香という短大からの友人を利用しています。里香も浮気のアリバイに由美を利用しているのでした。彼女は妊娠しないよう経口避妊薬を使用していましたが、利用している薬局のパートの薬剤師を買収し、効果のないニセの薬を持ち帰らせました。ウイルスはひと月前に自宅に潜入し、下着に振りかけることで感染させました。ちなみにこのウイルスは空気中では1日しか生きてはおらず、専用のワクチンを使うことで、予防することが可能です。研究員や工作員は、全て予防接種をさせました。また、DNAの置き換えは永続せず、受精がなければ最長でも月単位で元に戻ることも特徴でした。
 某日、予定通り二人はホテルに現れました。予約した部屋にはすでに、モニター装置が二人に気が付かれぬよう、複数個所設置され、我々は別室のモニター画面で監視していました。プレゼン用の二人の受精場面を記録するためです。もっとも実際に使用するのは数十秒程度なのですが。
 二人は部屋に入ると、いきなりディープキスを始めます。キスするごとに、二人は癒されるどころか、ますます渇きを強めて、更に深く求め合います。
『この一週間、長かった』涼が言います。
『私もよ』由美が応えます。
ベッドに押し倒す涼、小さな悲鳴を上げる由美。キスを繰り返しながら衣服を脱ぎ棄てると、ベッドの上で二人は全裸になって、まずは由美のフェラチオが始まりました。丁寧に舐め挙げる由美のフェラに、涼は目をつぶり、感じるのか小刻みに脚を震わせます。
『だめ、逝きそう』
涼は体位を変えて、今度は由美をクンニしました。ジュルジュルといやらしい音を立て、時には舌をとがらせて由美の女陰をほぐしていきました。完璧な恋人同士の交わりに、私は、そうとも知らずに働いている旦那の顔を思い浮かべました。旦那は34才、某大手銀行の行員であることは、隠し撮りで写した顔写真と共に知っていました。
 やがて正常位での生での挿入です。私が欲しかったのはこの映像でした。この日の彼女が危険日であることも調べがついていたのです。ニセの経口避妊薬を飲んで中だしすれば、受精が期待できます。涼は飢えた獣のように腰を由美に打ち付けました。バックに体位を換えると、一度出産を経験したたっぷりとした臀部に、涼は激しく腰を打ち付け、肉が肉を打つ音が、ホテルのコンクリートの壁の部屋にリズミカルに響きました。正常位に戻ると、クライマックスを迎えて、由美の喘ぎ声が大きく、深くなりました。体の奥底に感じる快感が高まっているのが分かります。ベッドが大きく軋み、やがて涼は呻き声とともに腰を深く打ちすえて、由美の中に果てました。息を切らせながら、結合したままの状態で、余韻をたのしむ二人。愛し合う恋人の様にも見えて、どこか獣のオスとメスの交尾のようでした。しばらく語りあった後、次の逢瀬の約束をして、二人は部屋を出ていきました。すかさず私たちは、さっきまで二人のいた部屋に入り、精液をふき取ったティッシュペーパーを回収しました。精子の遺伝子を分析するためです。ターゲットの遺伝子DNAがウイルスにより組み込まれていることを確かめるためなのです。後の検査で、そのことは確認されました。
 4か月ほどして、由美は行きつけの産婦人科医院に現れました。孕んだ子をおろすことが目的であることを、我々は知っていました。あらかじめ買収していた医療廃棄物業者の運搬係から、我々は目的とする胎児サンプルを入手することに成功したのです。
 このようにして我々は何度か「研究用サンプル」を入手しました。胎児といえども命であることには変わりはないので、我々も良心の呵責を感じていますが、対象となったカップルは、いずれも一度ならず堕胎を経験していることを、病院の電子カルテのハッキングから、我々は確認していたのです。交わりが不倫であること、堕胎経験が二人の間にあること、避妊を失敗させる方法があることが、この実験の前提条件だったのです。

 この「生殖DNAターゲト医療」は数年以内に商品化するめどがついています。世界中の大金持ちを対象に、秘密裡に億単位の価格で販売されるでしょう。すでに「ラルム計画」実験データは70カップル以上で得られ、成功結果が示されています。今行われているのは「ジョイ」計画ですが、その概要については、次回お話いたします。

        (以上はフィクションであり、実在の企業とは無関係です。)