獅子の泉でつかまえて

銀河英雄伝説の皇帝夫妻をネタにした二次創作小説その他

『天幕のジャードゥーガル』

『天幕のジャードゥーガル』12話についてザックリと調べてみた

いよいよ最終回ですね。

12話のタイトルは「いつもと変わらない草原」。
シタラの、「考えをやめて屈するなら、ご勝手に」という言葉に、心を動かされたソルコクタニ。
彼女は、王族や家臣の集まる会議の場に単身乗り込むと、自分のなすべきことは、トルイが遺した息子たちを育てることだとして、グユクとの結婚を断ります。
それは、オゴタイ家の言いなりにはならないという、意思の表明でもありました。

天幕のジャードゥーガル

しかし、グユクとの結婚は、ドレゲネを解放するための条件でもあります。
破談したことで、母親を取り返せなくなったとグユクは焦りますが、この時、ソルコクタニはイルケ将軍に向かって、「大カアンはどんな宝物だって任せるほど、あなたを信頼している」と声を掛け、ドレゲネの身柄をイルケが預かっていることを、暗にほのめかします。
イルケ将軍は、オゴタイの教育係を長年務めた人物です。
宝物=ドレゲネだとピンと来たグユクは、直ちにイルケ将軍の天幕へ向かいます。

天幕のジャードゥーガル

一方、会議後のオゴタイの天幕。
ソルコクタニに叛旗を翻され、不機嫌な様子のボラクチンと、オゴタイの会話。
「私のしたことを、お怒りですか」 「どうしてあなたを責められます? 俺は今、ようやくやりたいことが出来るんです。あなたのおかげで」
オゴタイが、ボラクチンによるトルイ暗殺計画の全容を知ったのは、健康が回復した後と思われますが、結局のところ、トルイが退場したことで、一番得をしたのはオゴタイです。
オゴタイのやりたいこと――とりわけ、モンゴル帝国の首都となる、カラコルムの建設に彼が着手できたのも、トルイ家から移譲された財産あってのことでしょう。

天幕のジャードゥーガル

さて、シラからドレゲネの居場所を教えられたシタラも、イルケ将軍の天幕へ急行。
ドレゲネが囚われている天幕を見つけると、二人は涙の再会を果たします。
この時の、シタラの心底嬉しそうな様子に、ドレゲネはボラクチンに騙されていたと悟ります。
かつて、シタラに「ドレゲネはお前に罪を着せるつもりだ」と嘘をついたように、ボラクチンはドレゲネに対しては、「シタラを信じてはいけない」と言って、二人の離間を謀ったのでした。

ここで、ドレゲネはシタラに、オゴタイに毒を飲ませることになった、その経緯を説明します。
シタラがボラクチンについて、「案外扱いやすいわね」などと豪語していたその夜、ボラクチンの天幕に呼び出されたドレゲネは、彼女からこう唆されていたのでした。
「私はかつてクラン妃に仕えていたが、あの方の無念を感じていた。今でも心の内にモンゴルへの恨みを秘めている。私が力を貸してやろう、あの方の願いを叶えるのだ」
かねてよりオゴタイを殺したいと思っていたドレゲネは、こうしてボラクチンから「鉱山のほこり」を受け取ると、金遠征からの帰路、オゴタイを自分の天幕に呼び寄せ、飲ませた・・・・

天幕のジャードゥーガル

ということですが、ここはミステリー的には、かなりのツッコミどころではないかと。
まず、大カトゥーンになるほどの家柄の人間が、他の妃に仕えるというのが嘘っぽいし、何より矛盾があるのは、ボラクチンが権勢を振るえるのは、皇帝の第一妃だからこそ。
誰よりもオゴタイに生きていてもらいたいのは、他ならぬボラクチンなのに、そんな彼女が、「殺せ」などと言うはずがない――ということは、モンゴルの人間なら誰でも分かることです。
ドレゲネの場合、クランの名を出されたことで動揺していたのかも知れませんが、それにしても、こんな話を信じるとも思えないので、ボラクチンのこのやり方は、無理筋ということに。

では、どうすれば、ドレゲネを使って、オゴタイに毒を飲ませることが出来たのか。
一つ考えたのは、なるべくなら医者を介して、「鉱山のほこり」が少量ならば薬になることを利用して、善意を装ってドレゲネに提供すること。
これを飲むと気分がすっきりするが、全部いっぺんに飲むと命に係わるような強い薬だから、時間を空けて少量づつ服用すること、などと伝えておけば、オゴタイを殺したいドレゲネがそのうち、薬の全量をオゴタイに飲ませる可能性が大だと思われ。
もっとも、全量といっても、それは、ボラクチンが自ら人体実験して適量を得た、死なない程度の量ということになりますが・・・・

天幕のジャードゥーガル

そんなこんなで、シタラとドレゲネが話し込んでいると、突然、天幕にオゴタイがやってきます。
皇帝暗殺未遂という重罪を犯したドレゲネを、自ら処刑しにきたのかと、一瞬緊張が走りますが、オゴタイの目的は他にありました。
彼はグユクを呼び寄せると、宮廷から遠く離れたグユクの領地で暮らすよう、ドレゲネに要求します。ドレゲネにとっても悪い取引でありませんが、政治の場からは遠ざかってしまいます。

この場面、ドレゲネとグユクの親子関係が、何とも興味深いです。
史実のグユクは、皇帝に即位すると、真っ先にシタラを処刑し、その前後にドレゲネも死亡しています。となれば、この親子の関係は、かなり拗れたものだったように思えます。
例えば、殺したいほど憎い男に産まされた子供ということで、母親は子供を愛することが出来ず、グユクは孤独で冷酷な人間に育った――みたいな設定も十分に考えられるところですが、今作のグユクは逆に、母親から溺愛されているんですよね。
となれば、グユクが皇帝になるまで、まだ10年以上の年数がありますが、その間に何かがあって、彼はシタラを嫌うようになった、ということになりそうですが、それは一体何なのか。
今作の最大の見所は、案外そこだったりするのかも・・・・

天幕のジャードゥーガル

この後、オゴタイとシタラは、天文の話で侃々諤々となります。
シタラは科学、オゴタイは伝統的な世界観を語っているので、両者が相容れないのは当然のことですが、シタラが絶対のものだと主張する天体の姿も、現代人の目から見れば、天動説のようなもの? としか思えないのが辛いところ。
ともあれ、文明国出身のシタラには、モンゴルを野蛮で遅れた国だと見下す気持ちがあったはずで、それが、憎しみの炎を燃やし続ける燃料にもなっている、そんな風にも感じました。

皇帝に対しても自説を譲らない頑固なシタラを、ドレゲネと気が合いそうだというオゴタイ。
彼はシタラに、こんな勝負を持ちかけます。
「俺はこれから、このモンゴルをもっと豊かにしていく。父やトルイとは違うやり方で。お前やドレゲネが幸せになれるように・・・・。お前たちがここで幸せになったら、俺の勝ちだ」

天幕のジャードゥーガル

そう言い残してオゴタイは去りますが、一人になると、シタラは感情を爆発させます。
自分を不幸にした張本人、モンゴルの皇帝から、お前を幸せにするなどとしゃあしゃあと言われて、心穏やかでいられるはずはありません。怒りと憎しみがない交ぜになった感情はMAXなのに、相手は強大でどう足掻いても敵わない――叫びたくもなるでしょう。
オゴタイとしては、父やトルイのように略奪をせずとも、交易を盛んにして国を富ませたいと考えてはいるわけです。がしかし、たとえモンゴルの支配下で“奴隷の平和”の状態を受け入れ、豊かな暮らしが出来たとしても、果たしてそれは、幸せと呼べるのか・・・・

草原に倒れ込んだシタラの横を、何事もなかったように、羊の群れが通り過ぎていきます。
この一連の場面は、アニメ版のオリジナル。期待を裏切らない、素晴らしい演出です。

天幕のジャードゥーガル

しばらくすると、ドレゲネがやってきます。
シタラの魂の叫びに感応したのでしょうか、彼女もまた、このままオゴタイの言いなりになるのは悔しいと、グユクの領地へ行かない決意を固めていました。
そして、もう一度私と戦って欲しい、二人でなら嵐も起こせると、シタラの手を取ります。
「この国を、私たちから全てを奪ったモンゴルを、良かったことなんかにさせるものですか。今度は、私たちが魔女となりましょう」
という二人の決意表明で、物語はいったん幕を下ろします。

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第1クールはこれにて終了ですが、エンデイングテーマ後の場面で、今後の物語で活躍する人物がチラと顔を見せていたりすることから、第2クールの制作は確実でしょう。

天幕のジャードゥーガル
トルイの四男アリクブケ(右端)、遂に顔を見せましたね。なかなか癖が強そうな面構えです。

トルイが亡くなった翌年、ペルシャに総督府が設けられ、シタラの故郷は、恒久的にモンゴルの支配下に置かれることになります。しかし、その権益をめぐって、争いが起こると。
ドレゲネはこの頃、第三妃のキルギスタニ、第四妃のモゲを飛び越えて、第二妃となっていますが、人が変わったように、会議にも積極的に参加しているようですね。
おそらく、これまで第二妃だった女性が亡くなって、欠番が生じたものと思われますが、オゴタイにとっては、(長男グユクを産んだ功績を評価して?)ドレゲネの順位を上げるのも、彼女を幸せにする勝負の一環なのでしょう。

天幕のジャードゥーガル

あと、全編を通じて気になったのが、モンゴルへの復讐という大事を成そうとするなら、もう少し冷静沈着であるべきなのに、シタラがすぐに「えっ」とか「ひっ」とか、声を発してしまうこと。
シラは、シタラの口を塞ぐ係なのかとw

何はともあれ、第2クールの放送が、今から待ち遠しいです。

『天幕のジャードゥーガル』11話についてザックリと調べてみた

11話のタイトルは「不器用な石」。
「雄黄」という石の、石らしくない不器用な性質を、己になぞらえたボラクチン。
ということで、今回は、ボラクチンの設定について少し詳しく。

まずは、時間を6年遡って、ボラクチンの過去が描かれます。
まだジンギス・カンが存命で、ボラクチンがその妃だった、1226年頃の話ですね。
隊商が西方から仕入れてきた沢山の宝石類、その中に混じっていた「雄黄(鶏冠石)」という石との出会いが、彼女の契機となりました。
日光に当たると砕けてしまうという、「雄黄」の不思議な性質に惹かれた彼女は、石について調べます。すると、その石は東方では薬とされており、適量を服薬すれば薬になるが、火で熱すると「砒霜」と呼ばれる白い姿に変わり、水に溶けて無味無臭の猛毒になる、というのです。

天幕のジャードゥーガル

その翌年、ジンギス・カンが崩御すると、ボラクチンとモゲは、レヴィレート婚の習慣によって義理の息子オゴタイに引き取られ、ボラクチンはオゴタイの第一妃となります。
オゴタイが彼女を第一妃に選んだのは、単に年長だからという理由ではありませんでした。
彼は、モンゴルを将来的に、東と西を繋ぐ大きな市場にしたいと考えていました。そうすれば、わざわざ戦って奪いに行かなくとも、人も物も自分からここへ来てくれるから、と。
しかし、そうした考えを、従来のやり方を尊重するトルイや家臣たちは分かってくれない、だから、ボラクチンような、未知のモノへの探究心があり、新しい考えを理解できる人に、側にいて欲しかった――オゴタイは、彼女の頭の良さ、優れた気質を、知っていてくれたのです。

天幕のジャードゥーガル

「あなたが妃になってくれて本当に良かった」。
この言葉に、ボラクチンはどれだけ心を動かされたことでしょう。所謂「キュン死」ですね。
この時、オゴタイは41歳、ボラクチンも40代前半くらいでしょうか。
その年齢まで子供がいなかったということならば、彼女はジンギス・カンからはあまり愛されなかった、大勢の妃の中の一人だったのでしょう。それが、いきなり第一妃に抜擢です。
ボラクチンはオゴタイに感謝し、また尊敬と愛情の入り混じった気持ちを抱いたことでしょう。
しかし、その気持ちは、オゴタイが皇帝になると、暴走を始めます。

天幕のジャードゥーガル

「トルイ家の権力は、あの方の自由を奪う、なんとか出来ないものか」
そんな考えに取り憑かれたボラクチンは、ある日、全真教の医者から聞いた話をヒントに、「雄黄」の性質を利用した、トルイの暗殺計画を思い付きます。
それは、オゴタイに先ず、弱い毒「鉱山のほこり」を飲ませて病臥させ、その病気平癒を目的とした祈祷で、トルイに猛毒の「砒霜」を飲ませる――というものでした。
ボラクチンは、オゴタイに飲ませる毒の適量を知るため、自ら「鉱山のほこり」を服用します。
シタラが彼女に初めて会った時の、体調不良や皮膚の爛れは、この人体実験が原因でした。

天幕のジャードゥーガル

また、この時のシタラ&毒消しとなる「ジャダ石」との遭遇は、計画に足りなかった、「病臥したオゴタイの体調を、短時間で奇跡のように回復させる」という要件を満たすことになります。
生物化学兵器が、解毒剤とセットになって始めて、使用されるようなものでしょうか。
かくして、暗殺計画は完成。運命を天に委ねたボラクチンは、侍女に手伝わせて「鉱山のほこり」を加熱、「砒霜」を精製すると、金遠征からの帰路、計画を実行に移します。
そして、トルイが死亡すると、モンゴル帝国の権力は、彼女の願い通り、大カアンであるオゴタイに集中することになったのでした。

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ところで、今作においては、ボラクチンには息子がいない、という設定になっています。
なので、以前作ったオゴタイのハーレム図は、このように訂正させていただきました。

天幕のジャードゥーガル

とはいえ、一般には、ボラクチンが刊行を支援した書物、『道蔵』について記された碑文の内容から、皇太子クチュの生母は、ボラクチンとの説が有力のようです。
普通に考えても、第一皇后に皇子がおらず、皇太子の母親は誰だか分からない、とするよりも、何人もの皇子の中で、三男のクチュが皇太子に選ばれたのは、母親が第一皇后だから、という方が、説得力があるように思えます。
ところが、クチュが生まれたのは、1206年頃。となると、ジンギス・カンが死亡する前から、ボラクチンはオゴタイの妃だったことになり、レヴィレート婚で嫁いだという説と矛盾してしまいます。
おそらく今作では、レヴィレート婚説を優先させて、息子はいない、としたのでしょう。

天幕のジャードゥーガル
チャガタイの後ろに並んだ、オゴタイの息子たち。左から、長男グユク、次男コデン、三男で皇太子のクチュ。

物語をより面白くするためならば、史実や通説通りである必要はないと思います。
しかし、この件に限っては、ボラクチンがクチュの母親だとする方が、作劇的にも盛り上げやすくて良いのになぁ――とは思いますね。
というのも、ボラクチンがトルイを暗殺した、そのわずか数年後に、クチュは若くして亡くなっているのですが、これを、「親の因果が子に報いた」せいだ、とすることが出来るからです。
(もし、クチュがオゴタイより長生きしていたら、彼がすんなりと第3代皇帝に就任したはずなので、皇位を巡るゴタゴタは起こらず、シタラの出る幕もなかった・・・・)

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さて、現在に戻って、グユクの天幕に乗り込んだシタラとシラ。
シタラは、知らない人に怯えるグユクに構わず、ドレゲネを助けるよう迫りますが、そこにボラクチンの使者が訪れ、ドレゲネの身柄を返還する条件として、以下の二点を要求します。
「ドレゲネは今後、グユクの所領で暮らすこと」
「トルイの未亡人ソルコクタニと、グユクが結婚すること」

ボラクチンは、ドレゲネを宮廷から遠ざけると同時に、ソルコクタニ(42歳くらい)をグユク(26歳)と結婚させることで、トルイ家をオゴタイ家に取り込んでしまおうというのです。

天幕のジャードゥーガル

使者が帰るとカダクは、全ては、ボラクチンが仕組んだことだったと、裏事情を解説します。
ボラクチンの目的は、トルイ家の力を削ぎ、皇帝の権威を高めること。そのためには、トルイが皇帝の身代わりになって死んだとアピールする必要があり、ドレゲネを利用して、死なない程度の毒を皇帝に盛ったのだ、と。
ボラクチンのトルイ暗殺計画、完全犯罪のようでいて、結構見抜かれてますねw
でも、大カトゥーンの権力が怖くて、誰も何も言えない、と。

天幕のジャードゥーガル

錬金術で人の生死を操るボラクチンを、まるで魔女だと思ったシタラですが、ボラクチンの天幕に戻ると、グユクとの結婚を打診する、ソルコクタニへの使者の役目を引き受けます。
シタラはそうして、トルイ亡き後、落ち込んでいるというソルコクタニの様子を伺おうとしたのですが、3年ぶりに再会した彼女は、まるで別人のように無気力で、結婚についても、「大カトゥーンのご意向に従います、私の身はいかようにも」と、あっさりと受け入れてしまいます。
かつて、シタラの大切な人を奪いながら、人の痛みにはお構いなし、傲慢な態度でシタラを怒らせたソルコクタニが、今や絶望の淵に沈み、何も考えることが出来なくなっていたのです。

天幕のジャードゥーガル

そんな彼女に苛ついたシタラは、いつものポーカーフェイスをかなぐり捨て、「もうあなたを守る人はいません、考えをやめて屈するなら、ご勝手に。私は考え続けますから!」と、声を荒げてしまいます。が、この言葉が結果的に、ソルコクタニを叱咤激励することになりました。
「ねえ、トルイ、私はじめて、失うことを知ったわ。あの子もそうだったのかしら?」
グユクとの結婚を断る決意をした、ソルコクタニのモノローグ。素晴らしい演出でした。

天幕のジャードゥーガル

この時、もし、ソルコクタニがグユクと結婚していたならば、トルイ家はオゴタイ家に吸収合併されるような形になり、トルイの血筋が、後のモンゴル帝国の主流になることもなかったでしょう。
オゴタイ家からの圧迫を受けながらも、ソルコクタニがトルイ家の独立を守り、若年の息子たちを育て上げたことが、その後の歴史を大きく動かすことになったのです・・・・
というところで、以下次回。たぶん、1クールの最終回。

天幕のジャードゥーガル
良い感じになってきた、シタラとシラ。唯一ほっこり出来る場面だったり。

なお、ミステリ的には、ドレゲネはボラクチンの計画をどこまで知っていたのか、「鉱山のほこり=毒」であることを承知でオゴタイに飲ませたのか、それとも「不老長寿の妙薬」とでも言われて騙されていたのか、この辺りが曖昧なまま残されているのが気になります。
最終回でスッキリすると有り難いのですが・・・・

『天幕のジャードゥーガル』10話についてザックリと調べてみた

これまで2話づつ感想を書いてきましたが、今回は書きたいことが一杯。
最近は内容が一段と濃く、難解になっているので、これからは1話づつ行こうと思います。

天幕のジャードゥーガル

まずは、「鉱山のほこり」を飲まされ、生死の境を彷徨うことになった、オゴタイの精神世界。
美しく幻想的に表現された、シャーマニズムの世界観、死生観は、アニメ版の『天幕のジャードゥーガル』で一番好きなところかも知れません。毎回引き込まれます。
精霊の棲む世界、地底の奥底の「死の家」に囚われたオゴタイのところに、トルイがやってきて身代わりとなりますが、憑代が木彫の人型だったり、日本にも通じるものがありますね。
また、この時の二人の会話から、トルイを亡き者にしようというボラクチンの企みを、オゴタイは全く知らなかったことも明らかになります。

天幕のジャードゥーガル

その頃、地上の世界では・・・・
トルイは、病気平癒の祈祷を終えてすぐ、帰り道で急に苦しみだし、ソルコクタニの天幕に辿り着くや否や亡くなっています(享年40歳)。
アニメではその場に、子供たちもいましたが、この時の彼らの年齢は、長男のモンケが23歳、次男のクビライは17歳、三男のフレグは14歳、四男のアリクブケが13歳と、まだ若い。
「トルイが死ねばトルイ家は終わり」と言われる理由の一つは、その辺りにあるのでしょう。

天幕のジャードゥーガル 天幕のジャードゥーガル
後世のことを思うと、クビライがめそめそ泣いているのが何とも言えず。
兄弟の中では、母親との会話役としてフレグが大活躍。一方、後に皇帝になるにも係わらず、モンケには今のところ台詞がなく、後に兄弟間で争うことになるアリクブケに至っては、実年齢よりもずっと幼く描かれ(トルイの枕元に縋っている)、未だに顔も不明。今作で描かれるであろう範囲からして、最後まで顔出しナシかも。


さて、シラからトルイの死を知らされたシタラですが、彼女が承知しているのは、オゴタイの治療ために、毒消しとなるジャダ石(ベゾアール石)をボラクチンに渡したところまで。
それでなぜ、トルイが死ぬことになるのか? 
いったい何が起こったのかと、頭を混乱させるシタラですが、確実なのは、トルイの死によって帝国の権力が、皇帝オゴタイ、そしてその正妃ボラクチンに、集中するようになったことでした。
息子コデンの領地を増やしたいという、キルギスタニの無茶な要望も、ボラクチンから断事官へ働きかければ、どうにかなるような口振りです。

天幕のジャードゥーガル

そんなある日、ソルコクタニが所持していた『原論』が、ボラクチンからシタラに手渡されます。
ボラクチン曰く、お前が欲しがっていたと話したら、ソルコクタニは快く譲ってくれた、とのことですが、トルイ亡き後、トルイ家からオゴタイ家へと移行したのは、軍事力だけではありません。
当時の文化先進国、ペルシャや中国から略奪してきた書籍、学者などの知的財産の数々も、いつの間にか、トルイ家の元を離れ、オゴタイ家のものとなっていたのです。
ドレゲネのことは忘れて、自分の側近になれというボラクチンは、大量の書籍を目の当たりにして驚くシタラに、こう語りかけます。「これからの帝国を作るのは力ではない、知恵だ。自分の知恵を存分に使ってみたいと思わないか? こんなに楽しいことはないぞ」と。

天幕のジャードゥーガル

ボラクチンの天幕を出たシタラは、広大なモンゴルの景色を見て思います。
こんな景色は、トゥースにいたら一生見ることはなかった、ムハンマド坊ちゃんの短かった一生分よりも、自分はたくさんのことを知った。『原論』も取り戻せたし、奥さまの仇だったトルイも死んでしまった――だからもう、(モンゴルへの復讐は忘れて)前に進んで良いのかも、と。
が、その時、シタラの側で、まるで雷でも落ちたかのような、大きな音が鳴り響きます。
音の正体は大きな金属製の盤で、たまたま解体中の天幕から転がってきたのですが、その音はシタラに、トゥースでの出来事を思い出させるに十分でした。

天幕のジャードゥーガル

屋上から盤を落として大きな音をたて、階下の人々を驚かせていたムハンマド。
そうしておいて、彼はシタラにこう言いました。「落ちる瞬間を見ていた人間は、大きな音がするという未来を予測できたので、(耳を塞ぐなどして)適切にそれに対処した。勉強というのも、そういうこと。君は今、自分の身がどこにあるかも、何が起こっているかも、この先どんなことが起きるのかも、まるで分からないでいる――でも勉強して賢くなれば、どんなに困ったが起きたって、何をすれば一番いいか分かるんだ」と。
爆音が、あたかも神の啓示のように、シタラの目を覚まさせる。最高に好きな描写ですね。

天幕のジャードゥーガル
彼女がにっこりと微笑む時はいつも、胸の内で別の感情が動いている。

ムハンマドより賢くなったなど、思い上がりもいいところだ・・・・
初心にかえったシタラは、『原論』の件で、何かがひっかかっていることに思い至ります。それは、自分が『原論』を欲しがっていることを、ボラクチンはどうやって知ったのか、ということ。
果たして、ボラクチンに確認すると、彼女はドレゲネから、シタラが幾何学の本に興味を持つのは、「父親が学者」だからだと、聞かされていたのでした。
しかし、もし、9話でボラクチンが言っていた通り、ドレゲネがシタラに罪を着せるつもりだったのならば、彼女は本当のこと、シタラは「奴隷」だったと言ったはずです。
それを隠して、わざわざ「父親が学者」だということにして、シタラを上流出身の人間っぽく見せようとした――となれば、ドレゲネがシタラに罪を着せようとしていたとは考えづらい。
従って、嘘をついているのは、ボラクチンということに。

天幕のジャードゥーガル
気分に波があるというグユク。対人恐怖症っぽいですが、まさかこんな青年によって残虐刑に処されることになるとは、シタラも想像できなかったでしょう。まぁ今作では、もちっとハッピーな方向でお願いしたいです。

ソルコクタニは、トルイに先立たれてからは落ち込んで、財産を守る気力すら失せている――シラからそう聞かされたシタラは、全ては、ボラクチンの掌の上だったと確信します。
それに気付けず利用されてしまった己の未熟さを、シタラは悔しがりますが、とりあえずは、罪を着せられたドレゲネを助けようと、カダクを探すことにします。カダクはドレゲネの天幕に頻繁に出入りしており、彼女の事情に詳しいはずですが、逮捕直後に引っ越していたのです。
シタラとシラは、忘れ物の焼印を頼りに、カダクの居所を突き止めますが、カダク曰く、彼も今、自分の主人の命令で、ドレゲネを救うべく手を尽くしている、とのこと。
そして、二人を主人の天幕へと案内しますが、その主人とは、オゴタイとドレゲネの間に生まれた長男、グユク(26歳)でした・・・・といったところで、以下次回。

天幕のジャードゥーガル

ところで、今回特に気になったのが、シラの沐浴の場面。
モンゴルでは、川に入っての沐浴はタブー。この禁忌を侵したイスラム教徒を、チャガタイが殺そうとするのを、オゴタイが機転を利かせて助ける――という、歴史書「集史」に収録された逸話が、副読本「もっと!天幕のジャードゥーガル」で紹介されていました。
シラ自身が、タブーを承知しているのか否かは分かりませんが、この場面、本筋と関係なく挿入されているのが気掛かりです。シタラと上手くいきそうだというところで沐浴が見つかって、処刑されてしまうとか、悲劇的な出来事の伏線でなければ良いのですが・・・・

『天幕のジャードゥーガル』8,9話についてザックリと調べてみた

9話の最後、一瞬だけ映し出された、ボラクチンの「ニヤリ」とした口、怖かったですね。
金への遠征で大きな戦果を上げた直後に、トルイが死亡したのは史実。
死因については、病気になったオゴタイの身代わりになった、との説がありますが、今作においては明確に、ボラクチンによって仕組まれた毒殺として描かれたことになります。

天幕のジャードゥーガル

ただ、ボラクチンに買収されたと思しき祈祷師が、“悪霊を封じた水”を血縁者に飲むよう促したとしても、あの場には、クチュやコデン、オゴタイの子供たちもいたわけで、必ずしもトルイが飲むとは限らなかったんですよね。ミステリーの観点からは、少し引っかかるところです。
が、そこは、男気のあるトルイが引き受けることに、ボラクチンは賭けた、ということでしょうか。
そして、その賭けに勝ったからこその、「ニヤリ」だったと・・・・

いったん8話に戻ります。
ボラクチンの体調不良、皮膚の爛れの原因は、「鉱山のほこり(雄黄)」という、少量なら薬にもなる劇物を、長期にわたって摂取していたからでした。
シタラは、これまでに得た「錬金術」の知識を以てそれを言い当て、毒消しになる「ベゾアール石(ジャダ石)」を削って彼女に飲ませることで、大カトゥンの信頼を得ます。
シタラはこの時、「鉱山のほこり」は「錬金術」や「丹薬」の基本材料だから、ボラクチンが劇物を摂取したのは、“不老不死”が目的だ――そう結論付けていますが、これはミスリード。

天幕のジャードゥーガル

というのも、モゲの回想の中で、全真教の医者が、ボラクチンにこう語っていたから。
「かつて、道教には“外丹”という思想があり、肉体を黄金のごとく不朽のものに変えるとされる丹薬が、硫黄や水銀、雄黄から作られたが、実際に飲んだ者は皆、毒にやられて命を縮めた。とっくの昔に廃れた試みだ」と。
確かに、今は13世紀、永遠の命を求めた始皇帝が、水銀入りの丹薬で命を縮めた紀元前の時代に比べたら、医学も格段に進歩したことでしょう。
で、もし、ボラクチンが不老不死に拘るならば、このような丹薬に否定的な医者は、クビになったはずですが、そうなっていない。となると、彼女の真の目的は、他にある、ということに。

天幕のジャードゥーガル

ボラクチンに信用されるようになったシタラは、度々、彼女の天幕を訪れることになります。
そしてある日、帝国の軍事力から知的財産まで、その大半を掌握するトルイ家に話が及んだ時、シタラはかつての主人について、ボラクチンにこう告げます。「ソルコクタニは、トルイを大カアンにすること、自分が大カトゥーンになることを、諦めていない」と。
今作のボラクチンは、大カアンよりずっと年長で、皇太子クチュの母親でもない、という設定ということで、周囲では、彼女がなぜ大カトゥーンなのかと、訝しがる声がありました。
そんな状況を知るシタラは、そう聞けば、己の地位を保全したいボラクチンが、トルイ家を敵視するようになり、権力の不安定化に繋がる――そこを狙って、有ること無いこと吹き込んだわけですが、この後の「案外扱いやすいわね」という発言から判断して、シタラとしては、自分の企みは上手くいっていると思ったのでしょう。

ですが、ここはボラクチンの方が一枚上手だった模様。
シタラの知らないところで、ある夜、ボラクチンはドレゲネを呼び寄せると、何事か命じます。
それこそが、彼女の真の目的だった、と。

天幕のジャードゥーガル

でもって9話。
ジャダ術を用いて嵐を呼んだトルイ軍4万は、三峯山の戦いで、金の主力軍15万を撃破。
オゴタイ軍と合流すると、金の都・開封の攻略は宿将たちに任せて、オゴタイやトルイは本国へと帰還していきます。が、その途上で、オゴタイが発病します。
その症状は、以前のボラクチンと同じ。オゴタイは「鉱山のほこり」を飲まされていたのです。
ボラクチンの天幕に呼ばれたシタラは、半分ほど残っていたジャダ石を、大カアンの治療のため提供しますが、それにしても、誰が毒を飲ませたのか。

天幕のジャードゥーガル
トルイ軍の将軍が回想するジンギス・カン。顔は絶対に見せないという、強い意志を感じるw

「鉱山のほこり」の保管場所を知っていたこと、日頃からオゴタイに反抗的だったことから、ドレゲネが疑われ、天幕から「鉱山のほこり」が見つかったことで、彼女は逮捕されてしまいます。
発病の前夜、オゴタイがドレゲネの天幕を訪れていたことは、シタラも目撃しています。
となれば、ドレゲネが実行役であることは確実ですが、ストーリーの流れからして、彼女がそんな大それたことをやらかしたのは、ボラクチンに命じられたから・・・・
そのボラクチンは、シタラに対しては、お前に罪を着せて逃げるつもりだった、とか、ソルコクタニのところからやってきたお前を易々と信じるものか、とか、ドレゲネについて無いこと無いことを吹き込み、離間を狙っている様子・・・・

そして、冒頭の祈祷の場面。
シタラが提供したジャダ石の解毒作用で、オゴタイの病状は回復に向かっていました。
にもかかわらず、「外国の医者に頼ってばかりでは良く思わない人も多い、だから、モンゴルの伝統に則って祈祷もしたい」、そんな理由で祈祷は実施されます。
オゴタイの家族が見守る中、トルイが“悪霊を封じた水”を飲み干したところで、以下次回。

天幕のジャードゥーガル

ボラクチンの謀略が、レベル高すぎ。
先ず、オゴタイに毒を飲ませ、その病気平癒を目的とした祈祷で、トルイに毒を飲ませる。
オゴタイにはシタラのジャダ石があるので回復するが、トルイは死亡する――ジャダ石の解毒作用のことを知らない人間にしてみたら、悪霊が乗り移ったように見える、と。
しかも、オゴタイに毒を飲ませる実行役は、どう言い包めたのか、ドレゲネにやらせています。
彼女は、ボラクチンの企みをどこまで知っていたのか、なぜ、命令に従ったのか・・・・
また、ボラクチンの嘘に翻弄されたシタラの心は、このままドレゲネから離れてしまうのか・・・・
謎が持ち越されただけに、次回がいっそう楽しみです。

天幕のジャードゥーガル
モンゴル軍が城内に入ってきた時には、すでに多くの人間が餓死していた模様。

ところで、モンゴル軍に包囲された開封は、その後どうなったのか。
それまでの戦闘で多数の避難民が流入していた城内は、たちまち食糧不足に陥り、400~500万もの城民は、人肉相食む悲惨な状況に陥ったといいます。
やがて、皇帝哀宗は、少数の側近とともに開封から脱出。この状況を見て、守備隊長の崔立がクーデターを起こし、皇族を捕らえてモンゴル軍に献上、開封は陥落します。
哀宗はその後、蔡州へ逃亡するものの、追撃してきたモンゴル軍に城を囲まれ、進退窮まった彼は、自ら縊死したのでした。

『天幕のジャードゥーガル』6,7話についてザックリと調べてみた

アニメ『天幕のジャードゥーガル』ですが、6話の「メルゲンの民」、良かったですね。
特に感心したのは、巫者でもあるメルキト族の長・ダイルが、トランス状態に入っていく場面。
年齢に不相応な、力強い太鼓の音と激しい踊り、動画ならでは表現に引き込まれました。

天幕のジャードゥーガル

そのダイルが死亡する場面、空が赤く染まっていましたが、あれは低緯度オーロラですね。
日本でもまれに観測されることがあるそうですが、ドレゲネたちが目撃した1204年のオーロラについては、藤原定家が日記『明月記』に、“赤気”が見えた、と書き残しているとのこと。

天幕のジャードゥーガル

ダイルの娘クランは、部族を守るため、ジンギス・カンに嫁ぎましたが、その後、チンギス・カンに寵愛され、第一夫人ボルテに次ぐ第二夫人となり、コルゲンという皇子を生んでいます。(チンギス・カンの死後は、レヴィレート婚でオゴタイの妃になっている)
下の図は、ジンギス・カンの軍事力(単位:人)を、誰がどれだけ相続したのかをまとめたものですが、コルゲンは庶子にもかかわらず、トルイを除く正妻の子たちと同数になっています。

天幕のジャードゥーガル

で、7話「兄弟」ですが、情報量がやたらと多いですね。
オゴタイが大カアンに選出されたものの、上の図のように、軍事力ではトルイが他を圧倒しているという状況の中、クリルタイ(総会議)では、金への遠征が話し合われます。
オゴタイは、本音ベースでは、首都の建設や街道の整備などを行い、交易を盛んにすることで国を豊かにしようと考えています。チャガタイも、法整備に取り組むなど、オゴタイに協力的ですが、積年の敵である金とは、どうしても決着をつけなければなりません。

天幕のジャードゥーガル

軍事を仕切るトルイによる、金の都「開封」の攻略作戦は、以下のようなものでした。
大カアンが、黄河を挟んで開封の北に陣取って相手を引き付けている間に、トルイが南宋領内の険しい山路を通って南から回り込み、挟み撃ちにする。同時に、叔父のテムゲは、東側からゆっくりと進軍することで、大勢の住民を開封の城内へと追い込み、備蓄した食料を早く尽きさせる(こういう策は「キングダム」でも見た気がする)というもの。

清明上河図
ちなみに、中国で最も有名な絵画『清明上河図』は、宋(北宋)の都だった開封を描いたもの。
この遠征の約100年前、徽宗皇帝の時代に、北宋文化は絶頂期にありました。
北宋を占領した金は、1153年に都を燕京(今の北京)に移したので、開封は衰退しましたが、燕京がチンギス・カンの攻撃を受けるようになると、都を維持できなくなり、やむなく、1214年に都を開封に戻していたと。


そして、オゴタイの第一皇后(大カトゥン)ボラクチン登場。
皇帝の妃の中で最も高齢で、夫よりも随分と年長のように描かれていますが、元々はチンギス・カンの妃の一人。レヴィレート婚によりオゴタイと再婚、彼の正妃となりましたが、史実では年齢、出身部族とも不明、ただし、頭脳明晰で思慮深い人物だったと。
そんな彼女は現状、体調が悪く、皮膚にも異常が見られ、まるで毒に冒されているかのよう。
「不老不死」について書かれているという、全真教の医学書を読んでいるので、もしや、始皇帝のように、水銀の入った丹薬でも飲んでいるのかと思いましたが・・・・

天幕のジャードゥーガル

クリルタイに出られなかったボラクチンは、モゲから会議の様子を聞いていますが、同じ頃、ファーティマ(シタラ)も、ドレゲネから会議の内容を聞いています。
そして、ボラクチンとファーティマは揃って、もし金への遠征が成功すれば、最も功績の大きいトルイ家の力がますます強くなり、たとえ本人に二心がなくても、トルイを恐れて他家が結託するようなことになりかねず、モンゴルは分裂の危機に瀕する――そう予想しています。

オゴタイの理解者・協力者で、彼の政権の安寧を願うボラクチンと、オゴタイどころかモンゴルを滅ぼしたいと願うファーティマでは、本来、方向性が真逆です。
しかし、ボラクチンはオゴタイのためにトルイを排除したい、ファーティマにとってもトルイは大切な人を殺した憎い仇、ということで、対トルイでは、両者の利害には一致している点もある。
金への遠征で大活躍した直後に、不可解な亡くなり方をしているトルイですが、彼を死に至らしめたのは、果たしてボラクチンなのか否か。以下次回。

天幕のジャードゥーガル

ところで、アニメの1クールで、どこまでストーリーが進むのかという件。前回は、「トルイが死亡する辺り?」と書きましたが、7話まで見たところ、もっと先まで進むのは確実ですね。
歴史年表から推察するに、1クールの最終話は、1236年の南宋&西方への大遠征に、ジンギス・カンの孫世代、クチュやバトゥが出発していく場面、と予想しますが、どうか。

1229年 オゴタイが第2代皇帝に即位
1230年 モンゴル軍、金への遠征を開始
1232年 モンゴル軍、金の主力を撃破(三峯山の戦い)、開封陥落
      トルイ死亡(40歳)
1234年 モンゴル軍、金を完全に滅ぼす
1235年 モンゴル帝国の首都、カラコルムが建設される
1236年 バトゥ(ジュチ次男)を総指令とする西方遠征軍が出発
      皇太子クチュ(オゴタイ三男)を総指令とする南宋遠征軍が出発
      皇太子クチュ死亡(30歳)
1238年 西方遠征中、コルゲンが戦死(30歳頃)
1240年 西方遠征軍、キエフ公国を滅ぼす
1241年 西方遠征軍、ドイツ・ポーランド諸侯連合軍を撃破(ワールシュタットの戦い)
      第2代皇帝オゴタイ死亡(55歳)
      オゴタイの皇后ドレゲネが監国(摂政)となる
1242年 チャガタイ死亡(57歳)

『天幕のジャードゥーガル』4,5話についてザックリと調べてみた

今週はバタバタと忙しく、映画館に行けていません。
「キングダム」と「ちいかわ」だけは、来週中に絶対見なければ!

さて、『天幕のジャードゥーガル』ですが、作中では8年の年月が経過し、その間にチンギス・カンが死去、オゴタイがモンゴル帝国の第2代皇帝(カアン)に就任し、シタラはドレゲネと運命的に出会い、新しいキャラも沢山登場・・・・ということで、改めて調べてみました。

まずは、何はともあれ、“蒼き狼”ことチンギス・カンですね。
西域遠征から帰ってきたと思ったら、一言も発しないうちに死亡(1227年)。享年65歳。
アニメではオオカミの斃れる絵で彼の死が比喩されていましたが、顔を見たかった!

天幕のジャードゥーガル

チンギス・カンと正妻ボルテの間に生まれた、ジュチ、チャガタイ、オゴタイ、トルイの4兄弟では、
長男のジュチが、チンギス・カンに先だって、1225年に41歳で亡くなっています。

天幕のジャードゥーガル
年齢は、オゴタイが皇帝に即位した1229年時点での、おおよその年齢。

◆ジュチ家
ジュチの死については、ナレーションすらなく、いつの間にか存在が消されているという雑過ぎる扱いでしたが、チンギス・カンの遺産は、ちゃんとジュチ家にも分配されています。とはいえ、モンゴルでは末子相続が基本。上の兄弟は「のれん分け」よろしく、財産の一部を貰って独立していき、末子が残った全てを引き継ぐシステムです。
このため、チンギス・カンの残した軍隊129,000人は、長男ジュチ、次男チャガタイ、三男オゴタイは各4,000人づつ、庶子や他の親族が合わせて16,000人、残りの101,000人を四男トルイ が受け継ぐことになり、これによって、オゴタイが皇帝となったモンゴル帝国では、皇帝を圧倒する強大な兵力をトルイが有するという、不安定な状況が出現することになりました。

天幕のジャードゥーガル
大カアンの即位式に出席していた、ジュチの息子たち。左が弟のバトゥ(22歳)、右が兄のオルダ。
7年後、彼らは西方に遠征し、ヨーロッパを恐怖のどん底に突き落とすことになります。


◆オゴタイ家
大カアンとなったオゴタイには、作中に登場するだけで、4人の妃がいます。
第一皇后(大カトゥン)のボラクチン、第三妃のキルギスタニ、第四妃のモゲ、そして第六妃のドレゲネ。二と五が欠番になっているのは、子供(男子)を産まなかったからでしょうか?
アニメにはまだ登場してきませんが、ボラクチンにはクチュ、キルギスタニにはコデン、ドレゲネにはグユク(後の第3代皇帝)という男子がいます。この中では、正妃の産んだクチュが皇太子ということになり、オゴタイも彼に期待を寄せていたのですが・・・・。
年齢が近いこともあり、皇位継承レースにおいては、まだ一波乱も二波乱もありそうです。

天幕のジャードゥーガル
オゴタイの后のうち、ボラクチンとモゲは(一説によるとキルギスタニも)、父ジンギス・カンの未亡人を、レヴィレート婚の習慣に則って、息子のオゴタイが娶ったもの。なおコデンには、グユクの弟だという説もあります。
今作の設定では、ボラクチンに皇子はいない、クチュの母親は不詳、とのこと。

◆トルイ家
ジンギス・カンの末子「炉の主(オッチギン)」という、最有力な立場にありながら、皇帝になれなかったトルイ。しかし彼は、温厚な性格のオゴタイを後継者に指名した父親の遺言を尊重し、兄弟で協力してやっていこうと誓います。
一方、兄弟の結束を危ぶのは、妃のソルコクタニ。そも、彼女がシタラから「原論」の講義を受けたのも、皇后となった自分が、皇子たちに西域の進んだ知識を伝授していこうとの目的があってのことでした。しかし、その思惑が外れた今、彼女は、大カアンとトルイの仲を引き裂く可能性があるとして、チャガタイの動向を探るようシタラに命じますが・・・・

天幕のジャードゥーガル
仲の良いトルイとソルコクタニ夫妻の間には、4人の男児が誕生しています。
即位式に参列していたのは、左から、次男のクビライ(14歳、第5代皇帝)、三男のフレグ(11歳)、長男のモンケ(20歳、第4代皇帝)。画面には登場しませんが、彼らの下に、四男のアリクブケ(10歳)がいます。


◆チャガタイ家
4兄弟の中で、オゴタイと特に仲が良かったのがチャガタイ。
アニメでは、二人が度々、飲食を共にしているように描かれていましたが、こんなことを言うチャガタイを、オゴタイはやさしい性格で、自分の立場をわきまえていると評しています。
「これだけ国が大きくなれば、モンゴルは習慣も信仰も違う者たちの大集団となる。衝突が起きた時、真っ先に犠牲となるのは女や奴隷、弱い人たちだ。でも、チンギス・カンの定めた法が行き渡っていれば、みんなを守ってやれる」と。
法に厳格なチャガタイ。シタラの悪巧みには不利に働きそうですね。

天幕のジャードゥーガル
サラブレッドと比べると、チビ(体高120~140cm)で短足なモウコ馬ですが、絵柄と相まって超カワイイ。

◆ジャダ石
シタラが羊の腸の中から偶然見つけた石は、要は結石なのですが、モンゴルでは「ジャダ石」と呼ばれ、嵐などを呼びおこす呪術に用いられている、と。
ところが、同じ石が、ペルシャでは「ベゾアール石」と呼ばれ、解毒作用があることが知られている――つまり、この石を所有し、かつ科学的に正しい使い方を知っているのは、モンゴルではシタラだけ。となれば、毒と組み合わせることで、いろいろな謀略に利用されそうな予感。

天幕のジャードゥーガル

ソルコクタニの下で、8年もの間、面従腹背の日々を送っていたシタラは、オゴタイが皇帝に即位するや、ソルコクタニから密命を受けてチャガタイに近づこうとしますが、この石がきっかけとなって、ドレゲネと出会うことになります。
煽り文の「復讐の絆で結ばれた二人が、地上最強の帝国に嵐を起こす」ではないですが、モンゴルへの深い恨みを心中に秘めた二人を結び付け、嵐を呼ぶとなれば、呪具としての「ジャダ石」にも、抜群の効力があったと言えそうです。

ところで、アニメ『天幕のジャードゥーガル』は、1クールでどこまで話が進むのでしょうか。
1232年にトルイが死亡する辺り? 死因も気になるし、そろそろ単行本を購入せねばw

『天幕のジャードゥーガル』1~3話についてザックリと調べてみた

7月開始のアニメでは、『天幕のジャードゥーガル』と『ワールド イズ ダンシング』の2本。
この後放送開始の『逃げ上手の若君』と、4月から連続放送の『黄泉のツガイ』と合わせて、今夏は、計4本を視聴することになると思います。私の場合、このくらいの容量が限度ですね。

日本史ものでは比較的マイナーな、南北朝時代の始まりと終わりを舞台にした話が重なるのも面白い現象ですが、問題は『天幕のジャードゥーガル』ですよ。
世界史的な大事件、モンゴル帝国による征西の時代を題材にしているのだから、ハードな内容になるのは予想出来たこととはいえ、絵本のような絵柄だったので、つい油断してしまった。
3話まで視聴したところで、多少なりとも時代背景について予習復習しておかないと、深いところまで入れなさそうな物語だと分かって、少し焦ったり。
自分の中国史の守備範囲は盛唐以前なので、ここでは全く役に立たないし・・・

天幕

少女と妃。
復讐の絆で結ばれた二人が、地上最強の帝国に嵐を起こす。


母を亡くし、故郷からも遠く引き離された幼い少女・シタラは、学者一家の心優しい奥方・ファーティマに拾われる。
「勉強して賢くなれば、どんなに困ったことが起きたって何をすれば一番いいのかわかるんだ」ファーティマの息子・ムハンマドの言葉に心を揺さぶられたシタラは、"知"の可能性と大切さを知り、教養を深めていく。いつの日にか、ムハンマドに追いつくことを夢見て。

その頃、皇帝チンギス・カンによる地上最強の「モンゴル帝国」が日に日に勢力を拡大していた。その歴史のうねりは、ついにシタラの住む街をも巻き込んでいく。
帝国の第四皇子トルイによってすべてを奪われ捕虜となったシタラは、ただ一つ残った“知恵”を駆使して王族に取り入り、帝国を内側から崩壊させようと決意する。
奥方から受け継いだ"ファーティマ"を名乗って。

心に復讐の炎を宿しつつ、表向きは帝国に仕える身となったシタラはある日、第三皇子オゴタイの第六妃ドレゲネと運命的な出逢いを果たす。彼女もまた壮絶な過去を抱え、心の内に帝国への深い恨みを秘めていた。
シタラとドレゲネ。出逢うはずのなかった二人が手を取り合うとき、運命が大きく動き始める。

主人公シタラのモデルは、モンゴル帝国第2代皇帝オゴタイの第6皇后ドレゲネの側近として仕えたファーティマ・ハトゥン。生年は不明ですが、アニメでは、モンゴルの捕虜となった1220年の時点では、10代半ばの少女だったものとして描かれています。
幼いシタラが住んでいたイラン東部の都市トゥースを襲撃したのは、チンギス・カンの第4皇子トルイ。トルイには同腹の3人の兄がいますが、3話で、4兄弟が揃って登場してきました。

天幕

手前・・・第4皇子トルイ(1191年~1232年)
左奥・・・第3皇子オゴタイ(1186年~1241年)
中央奥・・第2皇子チャガタイ(1185年~1242年)
右奥・・・第1皇子ジュチ(1184年~1225年)

『天幕のジャードゥーガル』は、絵本のような背景に合わせて、キャラクターも可愛らしい顔に描かれていますが、このキャラデザの最大の欠点は多分、人物の年齢が分かりにくいこと。
この4兄弟は(生年のはっきりしない人もいますが)、1221年の時点では、長男のジュチが37歳、4男のトルイが30歳くらい。この4人のうち、チンギス・カンの跡を継いで第2代皇帝に就任するのは、温厚そうな顔立ち(本性は不明)の第3皇子オゴタイです。

天幕

物語の舞台は、この後、モンゴル帝国の首都ハラ・ホリム(カラコルム)へ移りますが、歴史年表的には、以下のような出来事があります。

1225年 長男ジュチ死亡(41歳)
1227年 初代皇帝チンギス・カン死亡(65歳)
1229年 三男オゴタイが第2代皇帝に即位
1232年 四男トルイ死亡(40歳)
1234年 モンゴル帝国が金を滅ぼす
1240年 モンゴル帝国がキエフ公国を滅ぼす
1241年 オゴタイ死亡(55歳)
     オゴタイの第6皇后ドレゲネが摂政に就任
1242年 次男チャガタイ死亡(57歳)
1246年 ドレゲネの長男グユクが第3代皇帝に即位
     ファーティマ死亡、ドレゲネ死亡  
1248年 グユク死亡(42歳)
1251年 トルイの長男モンケが第4代皇帝に即位
1260年 トルイの次男クビライが第5代皇帝に即位
     国号を元と改め、大都(現在の北京)に遷都
1276年 元が南宋を滅ぼす

オゴタイの没後、摂政となったドレゲネの最側近として、シタラ(ファーティマ)が権力の絶頂に到達するまで、あと20年。残酷な方法で刑死するまで、あと約25年・・・・
櫛の歯が欠けるように亡くなっていった4兄弟の死因の中には、不可解なものもあり、この辺り、アニメではどのように料理されるのか、大変楽しみです。
元朝の初代皇帝クビライは1215年生まれなので、3話の時点ではまだ5歳の子供ですね。

天幕

尚、作中に登場する『原論』とは、紀元前3世紀頃、アレクサンドリアの数学者エウクレイデスが著したとされる『ユークリッド原論』のこと。幾何学の書物です。
トルイの長男でモンゴル帝国の4代皇帝モンケは、西征の最中『原論』を愛読したそうですが、トルイが、シタラの仕えていた学者の家から奪った『原論』の貴重な写本は、3話の時点では、トルイの正妃ソルコクタニの手元にありました。
ということは、シタラは写本を取り返すことが出来ず、『原論』は母親から長男へ受け継がれたことになる?(現実には、写本は複数あったと思われますが、物語的には、モンゴルには1冊しか存在しないとした方が面白い)この辺りもどう描かれるのか、興味深いところです。
プロフィール
Author:まこりん@高山寺まこ

まこりん01

2006年のWOWOW放送で
はじめて銀河英雄伝説を知り、
銀河英雄伝説@TAKARAZUKAで
宝塚歌劇にはまった主婦

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