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『パージ:大統領令』(The Purge: Election Year)

【スタッフ】
監督:ジェームズ・デモナコ
製作:ジェイソン・ブラム/マイケル・ベイ/アンドリュー・フォーム/ブラッド・フラー/セバスチャン・K・ルメルシエ
製作総指揮:ジャネット・ボルトゥルノ=ブリル/クーパー・サミュエルソン/リュック・エチエンヌ
脚本:ジェームズ・デモナコ
撮影:ジャック・ジョフレ
美術:シャロン・ロモフスキー
衣装:エリザベス・バストーラ
編集:トッド・E・ミラー
音楽:ネイサン・ホワイトヘッド

【キャスト】
フランク・グリロ
エリザベス・ミッチェル
ミケルティ・ウィリアムソン
エドウィン・ホッジ
ベティ・ガブリエル
ジョセフ・ジュリアン・ソリア

【あらすじ】
オーエンズ牧師率いる極右政権NFFAが支配するアメリカ。政府は犯罪抑制の最終手段として、新たな法律“パージ”を施行。これは、1年のうち12時間だけ、政府や警察が活動を停止し、殺人を含めたあらゆる犯罪が合法化されるというものだった。その結果、全米の犯罪率が1%未満にまで低下するという目覚ましい成果を挙げ、政府はパージこそがアメリカを偉大にしていると容認していた。だが、パージは貧困層や弱者を排除しようとしていると訴える無所属のローン上院議員らの台頭により、今や国内は賛成派と反対派に分断され、その是非を問う大統領選が進行中。両陣営が激しく争う中、世界の運命を左右する新たな12時間が幕を開ける。警察も病院も機能しないパージの夜。NFFAの暗殺計画からローン上院議員を守るため、レオは護衛係を務めていた。しかし、潜んでいた裏切り者の手によって、2人は暴力と混沌に満ちた首都ワシントンD.C.の路上に放り出されてしまう。怪しげな武装集団に追われることになったローンとレオ。果たして2人は、無法地帯と化した12時間を生き延びることが出来るのか…?











ジェームズ・デモナコ監督が手掛ける人気シリーズ第三弾。
もちろん『パージ』(2013)、『パージ:アナーキー』(2014)は見ました。一作目と二作目では、魅力は違えど正当な続編といった感じで、どっちも楽しかったです。
一作目の顛末が「暴力を抑するのは、より強い暴力である」っていう救いの無いオチだったのに対して、二作目では「許しこそが暴力の連鎖を止めるものである」っていう真っ当な結論を提示しているのも良かった。悪い意味でかなりアメリカ的な作風だな、っていう。
法律で許されないから暴力を振るわないんじゃない。人の心による救済。良い終わり方だったと思います。
でもね、これまでの一作目と二作目は別に見なくても大丈夫ですね。そりゃ見ていた方が楽しめますけど、見なかったからといって意味の解らないシーンがあるわけでもないんで。「予習してないから」っていう理由で今作を見ないのはもったいないんじゃないですか?

それが今回、まさかの三作目。しかも扱われるのは、国を左右する大統領選挙。
これまでの過去作が「パージの中での人間さしさ」っていう姿が描かれていたのに対して、いよいよ法律としてのパージとの決着というわけです。
しかも主人公であるレオが護衛するローンという人物は、女性大統領候補なんです。貧困層や弱者の排除が目的であるパージの排除がマニフェスト。
これは誰が見たって、記憶にも新しい「トランプvsヒラリー」の大統領選挙をモチーフにした構図ですよね。この作品が制作された時には、まだトランプ氏の勝利は決まっていない時期ですから、どういう結果になるか解らない状態での制作だったはずなんですけども。
こういう出来事ですら直ぐにエンタメに反映させちゃう。それがアメリカのたくましいところでもあり、えげつないところでもあると思います(笑)。

で、今回の『大統領令』ですけども。まず前作でもそうでしたけど、ホラーとかスリラーの要素はかなり少ないです。
一作目が一軒家の中での出来事っていうシチュエーションスリラーの要素が強かったのに対して、二作目は主人公が強すぎて怖くなくなっちゃってましたもんね。街の悪漢どもを片っ端から返り討ちにしていく。
三作目である今回もそんな印象です。パージ参加者たちを返り討ちに。

まず主人公であるレオがとにかく強い。強すぎて他が太刀打ちできないんですよ。二作目でも強かったんですけど、今作でも鬼の強さは健在。
アクションのレベルも上がってると思います。演じるフランク・グリロさん、アクションがキレっキレ! 『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー』(2014)なんかでもアンクションに挑戦してますしね。室内でのガンアクションなんかも様になってます。
レオが強すぎる点については、二作目では弱い一般人が何人か同行していて、彼らの存在が行動を制限してしまうことによって、パワーバランスが保たれている感じでしたけども。今作では同行者も強い(笑)。

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商店の主人は街のギャングとも対等に渡り合うし、そこの商店の従業員はメキシコ出身でサバイバルは日常。その二人の女友達はかつて恐れられた元ギャング。
敵を蹴散らすには十分すぎるほどの戦力が、主人公側に揃ってるんですよ。パージの夜が怖くない!
レオ以外のメンバーのキャラが立ってるのも、今作の魅力だと思います。それぞれの特色だったり得意技があって、物語にも良い影響を与えていますし、彼らが敵を倒す時も爽快感がありますもんね。
パージ参加者である女子高生が、数人に商店に押し掛ける時のその撃退方法なんかは、爽快感ありましたもんね。ちょっとギャグっぽい感じもありましたけども(笑)。
パージ参加者の仮装姿なんかも、ゲームの敵キャラっぽくて楽しいんですけど、それらを倒すメインの登場人物もゲームのプレイヤーキャラクターっぽくて良いと思います。
他にも、途中で鎌のトラップを目前で交わすシーンが出てきますけど、これなんか完全にサバイバルゲームの仕掛けですもんね。

ホラー要素が少ない代わりじゃないですけども、スリラーよりも『96時間』といいますか『ダイ・ハード』といいますか、主人公たちが敵の追跡を交わしながら夜の街を疾走する様がスタイリッシュに描かれています。
アクション映画ですよね、もはや。その点が、もしかしたら不満に感じる人もあるかもしれない点ではあると思います。僕も一作目のジリジリと迫って来る恐怖感が好きではあったので、開かれた空間でドンパチやっちゃうのはジャンルが違うんじゃないかな、っていう。
いや、良いんですよ。そういう派手なアクションとか好きなんで。敵と主人公がガンアクションでカッコ良く魅せてくれてもいい。
でももしそっち側のジャンルに振り切るのであれば、もっと強そうでブッ飛んだ見た目の敵を登場させるとかね。前作のセリフにはなりますけど、せっかく「パージは大人のハロウィンだ!」っていうのであれば、もっと狂った奴らが欲しかったなぁ。
敵の悪い奴も登場しましけど、めっちゃ弱いですからね。割とアッサリ死んじゃう。それなら、もっと強くてしぶとい奴との直接対決なんてのもあったら良かったんじゃないですか。どうなんでしょ。
そもそも暴徒との戦い自体が、これまでの作品と比べるとかなり少なくなってますしね。どんどん話のスケールが大きくなってしまったことによる代償なんでしょうけど。ここまで大きい話にしなくっても良かったよな、っていうのが正直なところ。

最後に、今作で活躍する黒人とメキシコ人の描かれ方について。これも明らかに、実際のトランプ大統領の動きがあっての脚本だと思います。
彼らには彼らの生活があって、でも何者かの都合によって平穏は脅かされる。それでも戦って、自身の平和を守っていく。
パージ参加者の仮装が、歴代アメリカ大統領だったり自由の女神だったりするのも、「アメリカに生活を奪われる」っていうことのメタファーになっているのかな、なんて。考えすぎですかね。
パージっていうのは極端な例ですけど、実際のアメリカでの出来事を風刺していると思われるのは、想像に容易いですよね。トランプ大統領の政策が正しいか間違っているかなんて、僕には解らないんですけど。
映画自体も、最後に救いだけじゃなく新たな問題が起きているという描写を入れることで、今回の結末が全面的なハッピーエンドであるとは言っていないっていう着地になっています。そういう絞め方も、バランスが取れていて良いと思いましたね。
僕は良かったと思います。

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総評としては…、
ジャンルとしては、ホラー要素が目減りしちゃったのが残念!
だけど、これ以上ない終わり方だったと思います。パージシリーズの最終章として、完璧な絞め方。
これまでのファンの方へのご褒美的キャスティングもあったりしますし。
見て損は無いと思いますよ。