モルトファイル表紙041231
ジェイズ・バーには基本的にはドリンク・メニューというものがない。飲みたいものが決まっているお客様は、それで構わないかもしれない。「ジントニック、下さい」「ビール貰います」「ジム・ビームをロックで」「オールド・パー水割りで頂戴」。思い思いに頼めばいいのだから。
もちろん飲みたいものが決まっていないお客様もいる。バーに行くには飲みたいものを決めないといけないなんてことはない。だから、少し不親切なのではないかと、僕自身思わなくもない。席について「さて、今日は何を飲もうか?」なんてぼんやりと考えることもバーで酒を飲む楽しみのひとつだ。その楽しみを助けるためにメニューはひとつの必要な手立てとなる。

僕はスタッフにこう言っている。
「まずはお客様の味の好みを聴きなさい」「カウンター越しにお客様と直接、言葉でやりとりをして、少しづつ飲みたいものを絞り込んでいくように」「おいしいと思ってもらえるものを作ることが肝心」、と。

メニューを見ておいしそうだと思ってカクテルをオーダーしたら、自分の嫌いなリキュールが使われていて、飲み干すのが辛かった。あなたはバーでそんな経験をしたことがないだろうか?
誰がいけないか、という問題はさて置いて。おいしいと思われないものをお出しするのは、バーテンダーとして非常に心苦しい。「メニューを見て自分で決めたのだから、飲んでもらわなきゃ困ります」、なんてことは言うつもりもない。
だから、「まずはお客様の味の好みを聴きなさい」というのが大切になると思う。

ジェイズ・バーでの普段のやりとりは例えばこんなふうだ。

客:「すいません、メニュー下さい」
蓮村:「ごめんなさい、うちはメニューを置いてないんですよ」
客:「……?」
蓮村:「どんなものが、よろしいですか?」
客:「えーと、なんかさっぱりしたものが…」
蓮村:「カクテルで、でしょうか?」
客:「あぁ、はい、そうですね」
蓮村:「さっぱりというと、炭酸が入ってさっぱりしてるとか。ジュース類を使ってゴクゴク飲みたいとか。お酒だけを使ってキリっとしいるとか。どんなふうがいいでしょう?」
客:「うーん、炭酸で、さっぱりで」
蓮村:「炭酸でシュワシュワした感じ?」
客:「はい。シュワシュワで」(笑)
蓮村:「酸っぱいのとか、苦いのとかは大丈夫ですか?」
客:「うん、酸っぱいのはいいけど、苦いのはちょっと苦手かな」
蓮村:「わかりました。お酒は強め弱め、どちらが?」
客:「とりあえず、一杯目なんで弱めで」
蓮村:「了解です。他に嫌いなものとか、これだけは飲めないなんてものはありますか?」
客:「えーと、ヒカリモノが嫌いなんですよ。コハダとか、シメサバとか、あと納豆かな」(笑)
蓮村:「うーん。納豆は駄目ですか。それは困りました。納豆を使わないとカクテルのさっぱりした感じが出ないんですよねぇ。でも、まぁ、やってみましょう」

洒落っ気のあるお客様なら、そんなことも起こりうる。
面倒かもしれない。だから、少し不親切なのかもしれない。
だけどその分、あなたの飲み物に失敗は少なくなるのではないだろうか?
僕の願いはそこにある。
おいしいと言ってもらえるなら、僕は本当に嬉しい。

店を10年もやってきて、僕はシングル・モルトを愛するようになった。シングル・モルトに興味のない人にお節介な事はしたくないが、関心のある人には言いたい事も、聞きたい事もたくさんある。僕の大好きなシングル・モルトの世界をぼんやりと散歩して欲しいから。
だけどその世界はとても広い。散歩には地図があると便利だ。世の中のシングル・モルトに関わる書籍では物足りなくなった。少なくともジェイズ・バーで仕入れたシングル・モルトについて、僕は責任を持ってお客様に紹介したい。ジェイズ・バーのシングル・モルトのことは、僕が一番知っている。

その思いが結実するまで、着想から5年の歳月を要した。手書きのメモから始まり。デジカメを買い。ファイル・メーカーを勉強して(いまだに勉強中)、ジェイズ・バー・モルト・ファイルは完成した。
ジェイズ・バーに足を運んでくれるお客様に見ていただけるようになって1年。ジェイズ・バーを知らないお客様にも見ていただきたい。そんな思いがこのブログを立ち上げるきっかけになった。
だから、いろんな人に見て欲しい。

最後にひとつだけ断っておきたい。ジェイズ・バー・モルト・ファイルはシングル・モルトのメニューではない。僕の個人的なファイルを皆さんに公開しているだけだ。シングル・モルト1杯の値段も書いてあるが、メニューではない。ジェイズ・バーのお客様に「もしも売るのだったら」この値段で売りたい。ということが書いてあるだけだ。

ジェイズ・バー・モルト・ファイルはシングル・モルトのメニューではない。
だってジェイズ・バーにはドリンク・メニューがないのだから。基本的には。
スタッフにも偉そうな事、言っちゃったし。

でも、ジェイズ・バーのシングル・モルトのメニューとしても使える。
便利だ。
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