モルト侍

池袋のショット・バー、ジェイズバーのバーテンダーが、大好きなシングル・モルトを斬る。

2007年03月

Ichiro's Malt TWO of CLUBS(12)

イチローズモルト3種出荷を待つ製品を置くだけの場所を倉庫というなら、ウィスキーの熟成庫は倉庫ではない。樽に詰められ熟成中のウィスキーはまだ半製品だ。ウィスキー作りには熟成という製造工程は欠かせないものだし、その一工程を担うために熟成庫は必要な場所だ。だから、ウィスキーの熟成庫は単なる倉庫ではない。

とても簡単にウィスキーの製造工程を、「発酵」→「蒸留」→「熟成」として話を進めさせてもらおう。もちろん、その後にも「瓶詰」の工程はあるし、「発酵」の前には原材料である大麦を水に浸して「発芽」させ「乾燥」し「粉砕」し「糖化」させる必要がある。糖分を含まないものは「発酵」しない。

「糖化」させた麦のお粥のようなジュースに酵母を加え、自然の力を借りて「発酵」の工程は行われる。簡単に言えば「気の抜けたビール」のようなものを作る訳だ。その「気の抜けたビール」のようなものを、ポットスティルに入れてアルコール度数を高くする工程が「蒸留」である。「蒸留」の工程が済んだ透明な液体は、樽に詰められ「熟成」の工程に受け渡さる。ゆっくりと化学変化を積み重ね、やがてそれらは琥珀に色づき複雑な味わいを持つようになる。

簡単に説明をするならそのようなことがウィスキーの製造工程であるだろうが、「発酵」、「蒸留」、そして「瓶詰」の工程には分かり易い「終わり」があるのだ。それらの工程を作業という側面から捉えるなら、「発酵」、「蒸留」、そして「瓶詰」には、「これにて終了」という着地点がある。一方、どうだろう。「熟成」には分かり易い着地点はあるのだろうか。

「熟成」という工程は何を以って「これで良し」としたら良いのだろう。「もう、いいんじゃないか」と「まだ、早いんじゃないか」。そのふたつの間を揺れ動く気持ちが、そしてそれを飲み込む強さが、「熟成」という工程に関わる人には必要なのかもしれない。彼らはどのような判断を以って「瓶詰せよ」と決断を下すのだろう。

いつの日か出荷されることを待ちながら、熟成庫のウィスキーたちは樽の中で眠る。眠ることが仕事。そこにいるウィスキーはまるで子供のようだ。子供たちが安心してゆっくりと眠れるように願って止まない人がいるのだ。「熟成」の工程を穏やかに見つめる人がいて、ウィスキーは安らかに眠れる。「もう、いいんじゃないか」と「まだ、早いんじゃないか」。僕は先ほど、彼らの気持ちをそう推察したけど、「もっと立派になれるはず」、そう思いながら眠らせる人もいるのかもしれない。

話を戻そう。
羽生蒸留所閉鎖の決断を下したイチローさんである。その決断を下した影響は各方面に及ぶのだろうが、僕がお話したいのはただ一点。蒸留所が閉鎖するということは、イチローさんが子供たちの「揺りかご」を失うということでもある。

子供たちを守るために家を売る決断を下したお父さんは、駆けずり回ってその揺りかごを見つけて来た。子供たちは捨て子にはならなかった。お父さんは子供たちを福島県の笹の川酒造という場所に預けた。お父さんは東京の赤羽で単身赴任。頑張って働いている。子供たちは東北の地でぐっすりと寝ている。

東北の地でぐっすりと寝ているイチローさんの子供たちに言いたい。
お父さんは頑張って秩父に新しいおうちを建てている。
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Ichiro's Malt TWO of CLUBS(11)

イチロー C-2(2)未来を信じたイチローさんは、自らが信じた未来に裏切られることになる。羽生蒸留所は閉鎖される。かつてイチローさんが責任者を務めた羽生蒸留所のウィスキーは売れなかったのである。

昨日も申し上げたが、10年後の世の中を予測不能なまま、彼らはウィスキーを作る。それが予測不能であるならば、たった今自分が作ったウィスキーがまったく売れない可能性すら前提にして、彼らはウィスキーを作らねばならない。「もしかしたら、誰も飲んでくれないかもしれないウィスキー」。イチローさんはそれを作ってしまったのだ。

念のため申し上げておこう。それはイチローさんが不味いウィスキーを作ったからではない。
あえて言えば、「早過ぎた」のだ。

自信をなくし不安に陥り、途方に暮れたこともあるだろう。何故売れないのだ、と天を仰ぎ叫んだこともあるかもしれない。だけどイチローさんは決して恥ずかしい仕事はしなかったはずだ。そのことは彼のウィスキーを飲めば分かるし、彼の人柄を知ればより分かる。

客人の来訪を信じてご馳走を作り続けたイチローさんである。
しかし、客人は現れなかった。

さて、あなたなら用意した料理をゴミ箱に捨てるだろうか?
イチローさんは捨てなかった。いや、恐らくは捨てられなかった。「自分は間違ったことをしていない」という強い信念があっただろう。そう、確かにイチローさんは恥ずかしいことをしていない。しかし、売上という結果を出せなかったことは事実だ。

そんな時、人は何を思うのだろう。ウィスキー作りに手を抜いたつもりはないだろう。恥ずかしい態度で働いたつもりもない。出来上がったウィスキーをおいしいと思う。自分では・・・。

イチローさんには「間違ったことをしていない」という強い信念があったと思う。しかし、どうだろう。そんな局面のその信念など揺れない訳がない。大きく揺れた後、崩れてしまってもおかしくない。自らの蒸留所、羽生蒸留所閉鎖の決断を下そうという時、イチローさんは何を思ったのだろう。

ひとつだけ幸運な事実をお伝えしておこう。
イチローさんが作り続けたのは「ご馳走」という名の料理ではない。ウィスキーなのだ。時が経てば料理は腐るが、ウィスキーは熟成する。イチローさんは考えたのだろう。復活のためにどこまで後退するか、そして、何を失ってはいけないか。

結果としてイチローさんは蒸留所を手放し、その蒸留所で作ったウィスキーを守った。

とても切ない話だが、蒸留所は概ね大量の不良在庫を抱えて閉鎖する。生産されたウィスキーは樽に詰められ熟成庫に入れられる。それらのウィスキーは熟成中という言い方もできるが、出荷する前であれば在庫である。熟成庫のウィスキーは製造工程の熟成中のポジションにいるとも考えられるが、それは常に不良在庫になる可能性を抱えている。製品として品質が不良なのではなく、販売実績を伴わないという意味での不良。

そんな切ない不良在庫を抱え、イチロー走る。
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Ichiro's Malt TWO of CLUBS(10)

イチロー C-2(2)あるお客さんの「イチローさんは何で樽をふたつ使うんですかね?」という質問に、「ヒマなんじゃねぇの?」、「まだ、新しい蒸留所できてねぇから」。などと答えてしまった僕である。その物言い自体は無礼千万、嫌味なことこの上ないが、ある意味実態を表していることは確かではないだろうか。

恐らくはぼちぼち着工し、今年の9月には秩父に新たな蒸留所を手に入れるイチローさんである。かつて埼玉県の羽生市にあった蒸留所を閉鎖してから、長い間不遇の時代を過ごしていたイチローさんであろう。

あなたに少しイメージをしていただきたい。
蒸留所がつぶれるということはどんなことなのだろうと。

例えば10年後、いや5年後でも構わない。その未来をあなたは正確に予測できるだろうか?
もちろん未来は、誰のコントロール下にある訳でもない。その行く末を決めることは誰にもできない。人に欲望があり、故にそこに思惑が生まれ、作為を持って行動し、その結果報いを受けるのも人である。ならば、「未来を正確に予測できた者が幸福になる」と、幻想を抱いてしまうのも人である。

蒸留をして樽に寝かせ瓶詰をして出荷するまで、ウィスキーの作り手たちはその利益を手にするまで、一体何年待たねばならないのだろう。10年物のウィスキーであれば10年、5年物でも5年である。10年後はカクテル・ブームになっているだろうか?5年後は日本酒が流行っているのだろうか?もちろん、そんなことは予測不能だ。誰にでも。

10年後の世の中を予測不能なまま、彼らはウィスキーを作る。それが予測不能であるならば、たった今自分が作ったウィスキーがまったく売れない可能性すら前提にして、彼らはウィスキーを作らねばならない。「もしかしたら、誰も飲んでくれないかもしれないウィスキー」、あなたはそれを作る気になるだろうか?

あなたは家にいて客人の来訪を待っている。客人を待ちながら、その人のために料理を作っている。来るのか、来ないのか、分からない客人のために、あなたは料理を作っている。あなたはどんな気持ちだろう。もしもその人が来なかったら、あなたはその料理をゴミ箱に捨てられるだろうか?もしかしたら、ゴミ箱に捨てられるかもしれない料理を、あなたは丁寧に作れるだろうか?

その人が来るのか、来ないのか?それは誰にも予測不能だ。もちろんあなたにも未来は決められない。だけど、その人は来るのかもしれない。だとしたら、おいしい料理でもてなしてあげたくはないだろうか。もしもそうなら、あなたは信じるしかない。その人が来ることを信じるしかない。そうでなければ、あなたは気が散って丁寧に料理を作れないはずだ。そして、丁寧に作られた料理はきっとおいしいはずだ。

ウィスキーの作り手もきっと同じ気持ちのはずだ。だから、彼らは未来を信じて働く。そして彼らは思うのだろう。自分に恥ずかしくないように働こう、と。

もちろん、信じたところで裏切られることもある。未来は誰にも決められない。失礼を重々承知で言わせていただこう。未来を信じたイチローさんは、自らが信じた未来に裏切られることになる。羽生蒸留所は閉鎖されるのである。
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イチロー D-3

Ichiro's Malt TWO of CLUBS(9)

ミズナラ表記さて、この連載もそろそろ終わりにしなくてはならないだろう。連載終了に際し、皆様にはまだ世間には広く知られていない「驚愕の新事実」をお伝えしたい。まぁ、この侍の「驚愕の新事実」に今さらながら驚いてくれる人は少ないと思うが。

イチローさんのウィスキーは概ねその熟成に樽をふたつ使う。例えばこの連載でもご紹介した「イチローズ・モルト・クラブの2」の裏ラベルには、
1st Cask Type Hogshead
2nd Cask Type Japanese Oak “Mizunara” Hogshead
とある。
イチロー C-2(2)表には「JAPANESE OAK “MIZUNARA” FINISH」とあるのを見ても明らかなように、その最後はミズナラ樽で熟成を終えたということである。

1番目と2番目の樽があるというのであれば、気にならないだろうか。蒸留したのが2000年、瓶詰をしたのが2007年。トータルの熟成期間は6〜7年程度。同じ中身を移し変えてミズナラの樽に入れたのであれば、それぞれの樽にどれほどの年月熟成されていたのであろうか?

昨日はあれこれと思いを巡らすのも愉しみのひとつと申し上げたばかりだが、この手の話は僕の想像の域を超えている。わからないことは素直に聴いた方がよろし、とイチローさんにメールを出したのだが、返事が来るよりも先にご本人の登場、というのが先月末の話である。

ジェイズ・バーで実際にイチローさんに語っていただいたところによると、ミズナラ樽での熟成期間は「1年程度」とのことであった。以上で「驚愕の新事実」の発表は終わる。

先日も申し上げたが、実のところミズナラ樽がそのウィスキーの味や香りに、どのように影響を及ぼしていくのか?ということについて、僕もハッキリしたことは言えない。確かにキャラメルのような香りはその特徴のひとつであろうが、他にもキャラメルのような香りのするシングル・モルトはない訳ではない。だからもちろん、キャラメルはミズナラ樽だけが持つ独特の特徴ではない。しかし、ミズナラ樽の熟成期間が1年程度で、このようになるのかというのも僕にとっては驚きであった。

さて、少し話を戻したい。
先ほど、イチローさんのウィスキーは概ねその熟成に樽をふたつ使う、と言わせていただいたばかりであるが、先日あるお客さんに「イチローさんは何で樽をふたつ使うんですかね?」と聴かれた。ごく普通に類推をして模範的な解答をするなら「その方がより複雑さを増し、奥行き感のある重層構造を作れるからではないですかね」、「とはいえ、散らからずにまとまりのある仕上がりに持っていくのは大変だと思います」。そう答えておけば良かったかもしれない。僕の本心でもある。

先週金曜の「ババ抜き」の恨みかもしれない。
僕はその質問に、
「ヒマなんじゃねぇの?」、「まだ、新しい蒸留所できてねぇから」。
そう答えてしまった。

ごめんね、イチロー。
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Ichiro's Malt TWO of CLUBS(8)

先週金曜に、
赤いカードは「万人受けする方向」へ、黒いカードは「飲み手を選ぶ方向」へ。僕にはそう思えてならない。

「イチローズ・モルト・カード・シリーズ」全般に対して、僕はそんな思いを持っているとお話したばかりだ。その記事は金曜の朝に更新して皆さんに読んでいただいていると思うが、何とその晩イチローさんに来ていただいた。もう12時に近い時間で、金曜ということもあり店内は賑わっている。たくさん話もしたいのだが、こちらも忙しい。

まぁ、イチローさんもこちらがある程度忙しいのは思った通りだろう。金曜の夜なのだから。そんな時に来たからは、そりゃ、イチローさん自身も仕事というよりはプライベートでふらりと飲みに来たとみた。ゆっくり話ができないのも事実だが、今日は普通にお客さんとして扱わせていただこう。

そうこうするうちに、鶴ちゃんが来て、N氏が女連れで来て、ラーメン屋が来て、とイチローさんを囲むように並び、手持ちのボトルをイチローさんに飲ませ話が弾んでいる様子。カウンターの中で働いている僕から見ても、街場の飲み屋風の素敵な光景だ。良く笑い、良く喋り、見ていて気持ちが良い。イチローさんに向かい、臆することなく聴きたいことを聴き、言いたいことを言う。そんなジェイズ・バーのお客さんを僕は誇らしく思う。

イチローさんにしても、先日のロビン・トチェックにしても、僕らバーテンダーが実際に酒を作る人の話を直接聴ける機会というのは、そう多いものではない。だからそれはある種特別な時間で、普通はその本人に会うより以前に、僕らはその人が作る酒に出会う。仕入れた酒の封を切り、その中身を味わい、その酒に対する思いというものを自らの胸のうちに落とし込む。

そこに僕なりの作法があるとするならば、それこそが「シングル・モルトの森」をイメージし、新たに出会ったその酒がその森のどの辺りに位置するのかを決めていく作業である。その人に会うことはなくとも、その酒を飲み思いを巡らせることは僕の中で習い性になっている。その習い性の成せる技が、本日の記事の冒頭の感想である。

勝手ながら思いを巡らせ、あれこれ考えることは決して辛いことではなく、またつまらないことでもない。まさにそれこそはシングル・モルトを愉しむひとつの手である。しかしどうだろう、折角そのご本人が目の前にいるのだから、素直に聴いてみれば良いのだ。先週の金曜日、僕はつくづくそのことを思い知らされる。イチローさんのいくつかのシングル・モルトを飲み、赤いカードは「万人受けする方向」へ、黒いカードは「飲み手を選ぶ方向」へ。などと思ったばかりだというのに。

イチロー D-3N氏の連れの女性が目の前のボトルを指し、非常にシンプルな質問をイチローさんに向けた。ちなみに彼女はシングル・モルトになぞ興味はない。
「このお酒は何で、ダイヤの3なんですか?」。
イチローさんは答える。
「ラベルはお酒の顔ですから、それを決めるのはとても重要な作業になります」。
なるほど、その通りである。
「なので、それを決めるのにとても重要な会議を開きます」。
おぉ、知らなかった。「ラベル・デザイン決定委員会」であろうか。
「主要なメンバー全員を集め、その会議の席にトランプを持ち込み・・・」。
むむ。
「ババ抜きをします」。
??
「ババ抜きをして最後に残ったカードをそのラベルにするのです」。

イチロー殿、正気の沙汰であるか?
「ふーん、そうなんだ」。と言ってまたN氏と話し込む彼女であるが、この侍の耳には未だ耳鳴りが止まぬ。「ババ抜き」「ババ抜き」「ババ抜き」、・・・。

「黒いカードが・・・、赤いカードが・・・」。
などと思いを巡らしたこの侍の気持ち、どうしてくれよう。
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本日 7時10分開店

俊輔と高原を招集したペルー戦。
早目に開店します。

Ichiro's Malt TWO of CLUBS(7)

イチローズモルト3種あなたが自らのヒット・ゾーンを知ろうとすることは、これからのあなたのシングル・モルトの愉しみを大きなものにしてくれるだろう。しかしだからといって、僕はあなたにそれを強要しない。あなたが好きなシングル・モルトの銘柄を、確実にひとつだけ知っていて、それ以外のものを絶対に受け付けないという態度でシングル・モルトを飲んでいたとしても、僕はそれを邪魔しない。

あなたがこだわりを持って十分にシングル・モルトを愉しんでいるというなら、もちろんそれで構わない。それで十分なら、それ以上を望むことはないのかもしれない。だけど、僕の仕事はあなたのヒット・ゾーンを知ることである。僕があなたに向かい、間違いのない投球を続けるために、僕には必要なことだと思っている。

そんな態度で仕事を続ける僕は「イチローズ・モルト・カード・シリーズ」全般に、ある共通の傾向があるのではないかと思っている。

「カード・シリーズ」というからにはボトルのラベルにトランプのカードが印刷されている。トランプはA(エース)からK(キング)まで13枚のカードが、「ハート」「ダイヤ」「スペード」「クラブ」の4種類で構成されており、ジョーカーを含めればその総数は53枚になる。つまり、イチローさんは今までのものも含め、合計53種類の「カード・シリーズ」を瓶詰しようと企んでいるのだ。

そのすべては(今後も恐らく)、シングル・カスクのシングル・モルト。つまり、「ひと樽もの」である。トランプのゲームで1枚づつカードを切るように、シングル・カスクのシングル・モルトをひと樽づつ瓶詰しようというのだ。結果として樽ごとにカードの種類が違うラベルになる。

イチローさんにはちょっとしたプレッシャーを与えておきたいと、偉そうなことを申し上げるが、「ならば、ジョーカーにどんな思いを込めるのだ」ということが、僕にとっての愉しみのひとつである。また、すべてのカードが出揃った後、「なるほど、あのカードが僕にとっての切り札であったなぁ」などと感慨にも耽りたい。

いやいや、話を脱線させてはいけない。戻そう。
結果として樽ごとにカードの種類が違うラベルになるのだ。だとすると、カードごとに何か共通の特徴はあるのだろうか?「ハート」には「ハート」の、「ダイヤ」には「ダイヤ」の、「スペード」には「スペード」の、「クラブ」には「クラブ」の何か共通した特徴があるのだろうか。あるいはキングにはキングの、エースにはエースの・・・。

まず僕が思ったのは、絵札には何か強い思いが込められ、数札は肩の力が良い意味で抜けている感がある。その分やはり、数札の方が価格も低目に設定されている。

そして、「ハート」「ダイヤ」「スペード」「クラブ」、それぞれの違いこそまだ掴めていないが、赤いカードか黒いカードかということで言わせていただくなら、赤いカードは「甘く柔らかい」。そして黒いカードは「ユニークで個性的」。職業人の立場の僕としてはそう思っている。

言葉を替えるなら、赤いカードは「万人受けする方向」へ、黒いカードは「飲み手を選ぶ方向」へ。僕にはそう思えてならない。

いかがだろうか?
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Ichiro's Malt TWO of CLUBS(6)

イチローズモルト3種イチローさんのシングル・モルトに対して、ぼんやりと思うことをお伝えしておきたい。
そう切り出して、「何を思うか」を伝えないまま前回の続きである。とはいえ、前置きはまだ続く。

僕はイチローズ・モルト・カード・シリーズに対して全般的に共通の傾向があると思っている。その「もの思う自分」がどんな種類の自分であるのかについて説明をしておきたい。どんな立場のどんな視点を持った自分が思ったことなのか。簡単に言ってしまえば、「自分が思ったこと」を語ろうとする自分なのか、職業人として「お客さんの顔を思い浮かべてしまう」自分なのか。その答えを先に言うなら、職業人としての僕が思うことを皆様にお伝えしたい。

僕はシングル・モルト売りの自分を打撃練習用投手だと思っている。つまり、バッティング・ピッチャーである。ピッチャーという立場からすれば非常に切ないことに、バッターに打たれることが僕の仕事だ。キャッチャー・ミットに心地良い音を立てて投球が吸い込まれることを良しとするのではなく、あなたのバットから快音が生まれ、打球がヒット・ゾーンに向かうことを望まねばならない。それが僕の仕事だ。

当然のことだが、バッターにはそれぞれクセがある。個性と言っても良いだろう。背の高さも違えば、構え方も違う。そのスウィングもそれぞれだ。一般的なストライク・ゾーンは決まっているが、そのすべてがバッターにとっての好球ではない。ストライク・ゾーンであってもバッターによりヒット・ゾーンは変わる。バッターからすれば、すべての良い球は好きな球ではないのだ。

だから僕の仕事はバッターを良く知ることから始まる。あなたにはあなたの個性があるのだ。僕があなたを知ろうとするのは、あなたから三振を獲るためではない。あなたにヒットを打たせるためだ。あなたがヒットを打てる球を放ること、つまり、あなたがおいしいと思う1杯を差し出せること、それは僕の喜びである。すべてのバッターがホームランを打てる投球が存在しないように、すべての飲み手が心の底から「おいしい」と思えるシングル・モルトも存在しない。

あなたにはあなたの嗜好がある。それをクセといっても良いだろう。僕があなたのクセを見抜くことができれば、あなたは簡単にヒットを打てるようになるだろう。実はまだ、あなたは自分のヒット・ゾーンを知らないのかもしれない。ならばなおさら、僕の投球を打ってみて欲しい。次にどんな球を放るかを事前に伝えれば、あなたは臆することなくバッター・ボックスで待てるかもしれない。少しづつあなたは自らのヒット・ゾーンを知ることになるだろう。

バッターのクセを見抜くことにかけては、僕なりの自信はある。
だからやはり、あんなことを言われると切なくもなる。

自らのヒット・ゾーンを知るようになれば、あなたは僕に向かってどんな球を放って欲しいのか注文を出せるようになる。あるいはそれまで打ったこともないような球を放って欲しくなるかもしれない。そしてそのうち、苦手な球が打てるようになるかもしれない。もちろん、わざわざ打たなくても良いのだが。とはいえ、それらのことはすべて自らのヒット・ゾーンを知ることから始まる。

時々、悪球打ちだけが得意のバッターもいて、僕を驚かせることがある。初対戦のバッターに向かい、僕はど真ん中の緩いストレートばかりを放っているのに打ち損じてばかり。だけど明らかにストライクから外れた外角に流れて落ちるスロー・カーブに、きっちりと合わせてヒットを打つバッターなんていうのもいるのだ。それが好きなら構わないが、ど真ん中を見逃すこともないだろうとは思う。人の好みはそれぞれだ。

主に次の3点を考えて、僕は自分の投球を組み立てる。
「スピード」と「コース」と「球種」。速い球か、遅い球か?内角高目か、外角低目か?ストレートなのか、カーブなのか?

「スピード」はアルコール度数も含め「切れ上がりの良さ」に通じるところがあるし、「コース」はまさに地域区分のようでもある。そして「球種」は樽の違いやピートの要因のようだ。僕はそんな風に考えて投球を続ける。そしてあなたのヒット・ゾーンを知ろうとする。あなたのバットに快音を響かせてもらうため。あなたにおいしいと言ってもらうため。

イチローの「イ」の字も書かぬうち、
明日に続く。人気ブログランキング

ちょっとしたお知らせ

ロビンと侍皆さまにちょっとしたお知らせを。僕にとっては嬉しい話。
2月の中旬に侍に会うためジェイズ・バーに来てくれた、ブラッカダー社のロビン・トチェックである。ブラッカダー社のサイト「フレンズ・オブ・ブラッカダー」というペイジがあり、彼らのお友達が紹介されているのだが、ジェイズ・バーもそこに紹介されることになった。

ちょっと覗いてみてくれるとありがたい。
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Ichiro's Malt TWO of CLUBS(5)

イチローズモルト3種「ウィスキー・マガジン・ライブ」でロビンに口説かれていた様子のイチローさんである。イチローさんのブースでイチローズ・モルトをいくつか飲んだ後、イチローさんはロビンのブースにも連れ去られたらしい。

ロビン、お前は本気なのか!
どうだろう?もしも、ブラッカダー・ロウカスクのイチローズ・モルトなんていうシングル・モルトが出たら、ワクワクしないだろうか?

もちろん、実現する可能性について合理的に考えてみたところで意味などない。いずれにしたって僕は酒を売る側の末端、最前線に立つ身である。いや、むしろこんな話は純粋に飲み手側として考えてしまう。そんな酒が飲めたら愉しい。

申し訳ないが、勝手に妄想は膨らんでしまう。できれば口説かれ上手なイチローさんであって欲しいものだと思ってはしまうが、まぁ、望み通りには行かないだろう。しかし、今月初旬にまたロンドンでライブがあり、そこでまたイチローさんはロビンに会っていることだろう。ふたりの間で何か話が進展しているかもしれない。いや、そうそうテンポ良く話は進まないだろうが、ふたりがその仲を深めてくれることは僕の望むところでもある。

「トウキョウの侍がよろしく言っていたと伝えてください」。
イチローさんにそうメッセージをお願いした。ロンドンでロビンに会ったイチローさんは僕のことを伝えてくれただろう。いろんな人がいろんなところで出会い、何か新しい動きが生まれてくれたら愉しいじゃないか。そう思う。

さて、最後になるが、僕がイチローさんのシングル・モルトに対して、ぼんやりと思うことをお伝えしておきたい。

僕は普段から「自分がどう感じたか」を記事にしようとしている。調べれば誰もが知り得るような情報や、誰か他の人が語ったテイスティング・ノートなど二の次で良いと思っている。だから僕はシングル・モルトを飲んで「自分が思ったこと」を書き続けようと思っている。多くの読者の皆様はご存知の通りだと思う。

ただ、僕も職業人としての、バーテンダーとしての、シングル・モルト売りとしての立場とその視点は当然ながら持ち合わせている。だから、「自分が思ったこと」と同時に、「うちのお客さんはどう思うだろう」ということは常に思ってしまう。僕がどんなに好きだと思っても、売れないものは仕入れられない。個人的に飲むために欲しいものを手に入れることはあるが、それは僕の買い物であって仕入ではない。

だから、僕はシングル・モルトを飲むとお客さんの顔を思い浮かべてしまう。ひと口飲んだ瞬間に特定の誰かの顔を思い出す。「この酒はあの人に合うだろう」と、たくさんの顔を思い出すこともあれば、「この酒はあの人くらいしか良いとは言わないだろう」とか。逆に「この酒を悪く言う人が思い浮かばない」なんてこともある。

もちろん、お客さんの好みは当然推移する。どこかに固まったまま変わらないということはあまりない。むしろ、固着したまま身動きが取れなくならないように注意するのが、僕の仕事だとも思っている。移り変わるお客さんの好みを追いかけながら、「うちのお客さんはどう思うだろう」ということを考えるのが僕の仕事だ。

続きは次回。恐らく長い前置きもまだ続く。人気ブログランキング
そうそう、明日は祝日

Ichiro's Malt TWO of CLUBS(4)

イチロー C-2少し間が空いたが、本日からまた前回の続き。

先月末の土曜日、午後8時過ぎくらいの早い時間にイチローさんは現れた。大きな荷物をゴロゴロと転がし、ふと見ると若い女性を連れている。その日の朝方の僕のメールを受けて、早速来ていただいたのだろう。ありがたいと思い、僕も顔がほころぶ。

挨拶もそこそこに連れの女性と共にシングル・モルトをオーダー。先日の「ブラッカダー・ロウカスク・ナイト」の残骸がある。僕はその中から勝手にふたつのシングル・モルトを選んだ。
この時間、この荷物、まず1杯目のシングル・モルト。恐らくは旅の帰り、東京に着いて、食事をして、軽めに飲んで、ジェイズ・バー。違うだろうか?

さて、そんなことより読者の皆さんも気になるのは連れの女性のことだろうか。
「イチロー、恋の逃避行か!?」。いやいや、まさか。

僕も大体のことは察しが付いていた。前回の来店時に「紹介したい女性がいる」とのことだった。きっとその女性のことだろう。聴けばやはりその通り。9月にできるイチローさんの新しい蒸留所のスタッフである。イチローさんのお弟子さんと言っても良いだろう。東北新幹線で東京に戻り、池袋に着いて食事をした後の来店のようだ。樽に眠るイチローズ・モルトのご機嫌を窺ってきたのだろう。

実はその時点でジェイズ・バーにはまだIchiro's Malt TWO of CLUBSは入荷していない。方々に手を尽くして探してみたのだが、どこも売り切れ。今回リリースされた4本の中では値段も手頃だったせいもあるだろうが、凄まじいほどの売れ行きであった。瓶詰の総数は318本。イチローさんのシングル・カスクのシングル・モルトとしては少ない方ではない。のんびりしていても間に合うだろうとタカをくくっていたのがバカだった。

「いやぁ、スゴイ売れ行きじゃないですか?」。
「おかげさまで」。顔のほころぶイチローさんである。

どうやら確実に手応えを感じている様子のイチローさん。先日の「ウィスキー・マガジン・ライブ」も、イチローズ・モルトのブースは盛況だったらしい。「まだまだ、シアトル・マリナーズのイチローですか?なんて聞かれることも多いですが…」。「とはいえ、それはそれで興味を持ってもらえるだけ、良いことだと思ってます」。相変わらず謙虚なイチローさんだ。

まだまだこんな風に売れない時代から付き合いのある侍としても本当に嬉しい。少しづつ、世界のイチローになってくれれば良い。

さて、イチローズ・モルトに興味を持つのは何も侍だけではない。我らがロビンもどうやら気に入ったらしい。ブラッカダーのロビン・トチェック氏である。「ウィスキー・マガジン・ライブ」の当日、ロビン・トチェック氏もイチローさんのブースに何度も顔を出したそうだ。さすがはロビン。何事にも手が早い。

続きは明日。人気ブログランキング

すんません

所用でただいま帰ってまいりました。
寝ます。
夕方、記事をアップします。
必ず。

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スゴブロ

去年のことになるが、「ブログ進化論」という本にこのブログ「モルト侍」を扱ってもらった。僕にとっては非常に嬉しいことであった。著者は岡部敬史さん。そのことが縁でジェイズ・バーにも時々来てもらっている。概ねひとりでふらりと現れ、シングル・モルトを2,3杯飲む。たわいもない話をして帰る。それが彼のいつものスタイル。

岡部さんが「スゴブロ」という新しいサイトを作ったようだ。「日本初の人力選別ブログポータルサイト」、とのこと。まぁ、つくづく、いろんなブログがあるものだなと、そう思う。

このサイトの「仕事人」カテゴリーに「モルト侍」も紹介されている。
嬉しくなったので、皆様にもご紹介させていただく。

そういえば、岡部さんは最近来てないな。
公私共に忙しそうだ。
先日来た時に、「あ、もしかして、このブログがすごい!の取材ですか?」って聞いたら笑われた。
だよね。

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新企画

最近どうにも色んなことを思い付いてばかりで、思い付くわりにはまとまらず、話をとっ散らかしたまま先へと進んで行きがちな侍である。それなりに反省はしております。

さて、今回は皆様をツアーにご招待したい。
ウィスキー街道の基点となるエルギンの街を出発して幹線道路A941を南下。ウィスキー産業の中心地であるローゼスの街に至るまで、街道沿いのいくつかの蒸留所をご案内したいと思う。思い付いたのは良いのだが、話は壮大に膨らみ過ぎて途方に暮れている。

距離にすれば9.9マイル。車で行くならおよそ33分の行程のようだ。
少し真剣に思案してみましょう。

本日はこれにて。
イチローさんの記事は来週。
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リンクウッド1973 ディスティラリー・コレクション 49.7%

リンクウッド-DC 32YO本日は確定申告の期限最終日。長い行列の最後尾に並び、朝一番に提出して参りました。
毎年思うのだが、これでやっと自分の平成18年が終わる。経営者としての成績を自分で付けて自分で申告に行くのである。深刻ではないが感慨深い。振り返れば、13回目の成績表である。

本来なら昨日の続きを書くところであるが、本日は軽めの記事でご勘弁を。アップした後、風呂に入って少しゆっくりビールでも飲みたい。何だか冷たくてパリパリのレタスとおいしいオムレツが喰いたい気分だ。厚く切ったロースト・ビーフなんかもよろしい。「ご苦労様でした」とひとりでつぶやいて、シングル・モルトを1杯だけ飲んで寝よう。

さて、本日ご紹介するのはリンクウッド。1973年蒸留、49.7%、スコッチモルト販売のディスティラリー・コレクションからのリリースである。

そもそも、リンクウッドという蒸留所は、侍の中では「切れ上がりの良い」タイプ。スペイサイド・モルトらしく華やかで、しかし、べったりと甘いウィスキーではない。どちらかと言えば硬質な印象のものが多いが、ネガティブな印象はなくシャキっとした感触が心地良い。甘くて柔らかいものに興味のある方に好まれることは少ないが、切れ上がりの良さを重視する飲み手には十分に受け入れられる。

シャキっとした感触欲しさにピーティなアイラ・モルトばかりに目が向く方には、目からウロコの愉しみがある蒸留所である。

今回のこのリンクウッド、何よりこの30年を超える長期熟成が売りですな。
切れ上がりの良さを失わないまま、丁寧に「トゲ」を抜いてある印象。和食の職人さんの綺麗な手仕事のようである。十分にコクもある。比較的短時間に香りも落ち着き、しっとりと微かに甘い。その甘さはメープル・シロップのよう。しかし、隣のテーブルのパンケーキの上にかけたくらいの距離感。

ちょっとした苦味にアクセントが効いている。切れ上がりの良さを支えているひとつの要因だろう。ある意味スパイシーと言っても良いのだろうが、炭酸飲料を飲んだ時のような、口の中でパチパチ弾けるような感触が印象的。30過ぎたくらいじゃ、まだ若いのがリンクウッドなのだろうか?

恐らくはストライク・ゾーンのど真ん中ではないはずの鶴ちゃんと中村君も絶賛。
愉しみの多いリンクウッド、しばらく¥2,500でどうだ。
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Ichiro's Malt TWO of CLUBS(3)

イチロー C-2さて、それではミズナラ樽で熟成すると「何がどうなの?」って言うことである。どのような特徴があるのか?どのように個性的であるのか?ミズナラという木は日本ではごく当たり前にあるものかもしれないが、果たしてミズナラ樽熟成のその味わいは「日本的」なのだろうか?

正直に言わせていただくなら、僕にも良く分からない。ただ、「イチローズ・モルトのクラブの2」に素直なキャラメルの香りを感じたことだけは確かだ。芳ばしいカラメルの香りではなく、どこか懐かしい「森永のミルクキャラメル」のパッケージを思い出した。

もちろん僕のテイスティング・ノートにはある種の思い込みが存在する。僕は確かに飲む前から、「日本的なウィスキーとは何だろう?」という思いを持ってイチローさんのウィスキーを飲んでしまった。それに日頃から、日本のシングル・モルトとイチローさんに期待するところが大きい。イチローさんのウィスキーがまだこんなに売れる前からのお付き合いでもある。たくさんの人に飲んで欲しいと願って彼のウィスキーを扱って来た。それは僕の日常でもあったのだ。

そのイチローさんが(恐らくは)、何か思いを込めて出したウィスキーなのだろうとの思いが僕にはあった。それは僕の偽らざる気持ちでもある。どんなウィスキーに対しても、皮肉なことは言うまいと思っている。しかし、好きな酒に寄りかかることだけが僕の立場でもない。とはいえ、どうしたって「良いところを見つけたい」とは思ってしまう。「悪いところは後回し」にして。

ミズナラにキャラメルのニュアンスが出るということは、わりと良く聞く話でもある。しかしそれはミズナラ独特のものではない。ミズナラ以外の樽にもキャラメルの香りを感じることは十分にある。だから結局、ミズナラ樽のどこが日本的なのだと聴かれると、僕にも良く分からない。しかし、あえて言うなら、僕はこのシングル・モルトに予感を持ってしまう。未来に賭ける期待、そう言っても良い。

この「Ichiro's Malt TWO of CLUBS」。7年程度の熟成にも関わらず、しっかりした印象であることは確かだ。硬質ではあるが底の厚い感じと言ったらいいだろうか。けれど、ダイヤのキングほどには複雑でない。どこかに「芯」のようなものを感じ、香りの印象とその味わいに若干落差がある。意外と言ってもいいかもしれない。味わいに塩味を感じる。

実は「イチローズ・モルト・カードシリーズ」4本同時リリースの報を聴いて、イチローさん本人にメールを出した。そのうちの何本かを仕入れて、またきっとこのブログの記事にもするだろうと思っていたのだ。ある意味僕の思惑通りというのも失礼だが、メールを読んだイチローさんに早速その日に来ていただいた。先月末の土曜日のことだ。

続きは明日。人気ブログランキング

Ichiro's Malt TWO of CLUBS(2)

ドングリマーク写真はイチローズ・モルトのスクエア・ボトル15年のラベルから。今から1年くらい前のリリースだっただろうか。
イチローさんの会社であるベンチャー・ウィスキーのサイトのトップペイジにもあるが、この「ドングリ・マーク」はイチローズ・モルトのロゴとして良く使われる。前回の続きになるが、樽材に使われるミズナラという木もドングリの木である。

そもそもこのミズナラ、日本全土に広く自生する木のようだ。ミズナラは漢字で書けば「水楢」。水分を多く含み、燃えにくいところからそう付けられたようだ。重厚で強度に優れかつては家具材として重用され、戦前はインチ規格に製材され国外に輸出され、外貨を稼ぐ手立てにさえなっていたのだ。ただ、イチローさんの話によれば、ミズナラはとてもねじれた構造を持った木材のようだ。

水分を多く含むということは樽を造るために乾燥するにも時間がかかるだろうし、ねじれた構造を持つその材質は板を合わせるのも不自由だろう。樽に詰めたウィスキーが漏れてしまっては仕方がない。ミズナラはウィスキーの樽材に使うには不適合なところも多いようだ。日本全土に自生するミズナラ。かつては手近な樽材として使われたこともあったかもしれないが、今となってはわざわざそんな面倒なものを使わなくとも良い時代になったのだろう。ミズナラ樽熟成のウィスキーは、「ちょっと珍しいもの」として存在しているようだ。

ただ(ここから先の話は僕の憶測の域を出ない)下衆の勘ぐりとして聴いていただきたいが、ジャパニーズ・ウィスキーがヨーロッパでもその品質を評価され注目を集めるようになった昨今、あちらのバイヤーさんは「日本的なウィスキー」を求めるのではないだろうか?そのベースの品質の高さは手堅い。それを前提として、それより以上に商品として面白いもの。それが「日本的なウィスキー」、つまりミズナラ樽熟成ではないだろうか。

そんな風にミズナラは注目されて行きそうな気がする。
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イチロー C-2

お休み

実は本日、確定申告のためお休みをいただいている。
店の営業の方は、ピンチヒッターで横井君に入ってもらっている。
ご心配なく、営業はします。

記事を書こうと思ってはいたが、こちらは申し訳ない。後回し。
夕方にでも書ければ書きたいなと。

では、
頭が真っ白になってますが、やります。

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ザ・トリニティ

トリニティ気鉢最近ニュー・リリースの記事をほとんど書いていない。平日は連載中の記事をこなすのに忙しいなんていうのもおかしな話だ。たまにはジェイズ・バーで何を売っているかを書こうと思う。

本日ご紹介するのは「ザ・トリニティ供。兇箸いΔらには気あったのだが、このネーミングのセンスの良さもあってか、確かになかなか売れたモルト・ウィスキーだったと思う。恐らくは前回の「トリニティ」の好調な売れ行きにあやかっての二番手の登場である。

今回も感じるのは、落とし所に優れたモルト。アイラ・モルト好きにも「物足りない」と言わせないだろうし、アイラ・モルトに特別な思い入れがない方にも納得してもらえる仕上がりだろう。

蒸留所の名の明かされぬまま瓶詰されたウィスキーだが、中身はシングル・モルトではない。アードベック、ラフロイグ、ボウモアの3種を使ったヴァッテッド・モルトである。アードベック、ラフロイグ、ボウモアのそれぞれの比率は50%、45%、5%。整った甘味とダシの味わいが十分なコクをもたらし、アクセントにピート、最後は口の中に煙たさを残す。トリニティ、つまり、三位一体である。

アイラ・モルトの中では決して下品なものではない。もちろん上品とは言えないが、十分に丁寧な印象。「止めを刺して、もう寝るか」という時には物足りない方もいるだろうことは察するが、なかなか飲み飽きない酒である。侍も気に入った。

なので1杯、¥1,000。

さて、ちょっとお知らせが、
昨日ご紹介した、Ichiro's Malt TWO of CLUBSであるが、大好評に付きもう半分売れてしまった。申し訳ないが、本日よりハーフ・ショットでのご提供とさせていただく。正直なところ、2本目が手に入る目途が立たない。より多くの人に愉しんでいただきたい。もちろん値段も半分。

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イチロー C-2

Ichiro's Malt TWO of CLUBS

イチローズモルト3種昨日までの連載はまだ終わっていないが、本日より数回にわたり話題を替えさせていただきたい。皆様のあくびが出る前に。

昨年末にベンチャーウィスキーのイチローさんに来ていただいたことは記事にした。これまで何度も記事にして来た「イチローズ・モルト」のイチローさんである。いつも通りいろんな話をうかがうことができたし、国産のピートをいただいたり、いろいろネタを拾わせていただいたのだが、帰り際に「年明けの2月頃にまた新しいカード・シリーズを出します」、とおっしゃる。続けて、「4本出すか、2本にするか、少々迷ってますが…」、とのことだった。

2月と聴いて、「なるほど」と思わないことはなかった。先日ジェイズ・バーに来たロビンと同様、イチローさんも「ウィスキー・マガジン・ライブ」に出るのだろう。そこに合わせてのリリース。その時僕はそう思った。

「4本出すか、2本にするか」そう言っていたイチローさんだったが、気になるのは4本と2本で何が違うのか?ちなみに、今までのリリースの仕方を振り返ると、確か必ず偶数で出していたはず。1本とか3本とか5本ということはなかった。それはトランプが「ハート」「ダイヤ」「スペード」「クラブ」の4種類で、色に分けると赤と黒の2種類だからだ。4種類の中から1枚づつのカードを切るか、赤と黒から1枚づつ2枚のカードを出すか。今まではそんな風にリリースしている。

とはいえ、何かがイチローさんを迷わせている。「出すべきか?出さざるべきか?」。イチローさんはそう思っているのだ。結局、何をどう迷っているかについては何も語らず帰ったイチローさんであった。妙に不敵な笑みを浮かべたまま。

「4本出すか、2本にするか」。恐らく大事なのはその本数ではない。イチローさんが迷っているのは恐らく1本。何かとても特徴のあるシングル・モルトを出そうか出すまいか、迷っているのではないだろうか?僕はそう思っていた。その1本を出すのならリリースは4本になるだろうし、出さないのなら2本なのだろう。

年が明けてしばらく、そのトピックは僕の心の中の多くの部分を占めていたのだが、僕の方にも思わぬ話が舞い込んでくる。ブラッカダー社のロビン・トチェックの来店である。僕はその準備に忙殺され、新たにリリースされるカード・シリーズのことは心の隅に忘れられることになった。

「ウィスキー・マガジン・ライブ」の翌日、ロビンはジェイズ・バーに現れ、みんなで愉しい夜を過ごし、タクシーに乗せて帰らせた後、僕はまた後片付けに忙しく、ホッと一息ついて数日後、カード・シリーズがリリースされたことを知る。そして、それが4本であることを聴いて僕は少し冷や汗をかくことになる。

そもそも僕にそのことを教えてくれたのはこちらのご主人。
「イチローさんの新しいヤツ、4本出たの知ってました?」。

4本ということは、つまり、気になる何かが出ている可能性が高い。考えてみれば当たり前だ。「ウィスキー・マガジン・ライブ」に出ているのは何もロビンだけではない。イチローさんも。
新しい4本の「カード・シリーズ」はそれに合わせてリリースされるはず。

僕は次の台詞を聴いて、ガックリと肩を落とした。
「残念ながら、ミズナラ樽熟成のクラブの2は完売です」。

ミズナラ表記気にしていることのその正体も分からぬまま、ひとりヤキモキしていた侍であったが、何とそれは「ミズナラ樽」であったか。今思えば、そのヒントは前回の来店時のイチローさんの話の中にあった。とはいえ、完売である。地団駄を踏む侍であった。

しかし、捨てる神あれば、拾う神あり。なのである。
実は今週火曜日からジェイズ・バーでもミズナラ樽熟成のイチローズ・モルトはリリース済み。
ジェイズ・バーで飲めます。「Ichiro's Malt TWO of CLUBS」。
お一人様、1杯限り。¥1500でごめんなさい。
侍の時代は終わったか?人気ブログランキング

「スタンダード18」という考え方。(30)

さて、そろそろ僕からあなたへの問い掛けも終盤を迎えつつある。あなたはきっと自らの立ち位置とその眼差しを今までより理解したのではないかと思う。今どこにいるのかが分かったのなら、次に考えるのはどこに行くのか?僕らはぼちぼち未来に目を向けようではないか。そもそもは、平日の午後9時にジェイズ・バーに来て、ジン・リッキーを飲みながら、ブルイックラディについて語るあなたの話から始まったのだ。

まずはとても悩ましい質問から伺おう。
「アードベックとグレンフィディックと山崎。その3本の中で一番好きなウィスキーはどれですか?」。

そう、確かにあなたはうまくその質問に答えられない。素直に答えたら良いのか、好きだと思うものをひとつ挙げてその理由を説明した方が良いのか。好きであることの理由(つまり切り口)を替えれば、違うものを「好きである」と言えるようになったのが今のあなただ。カウンターに肘を付きその上にあごを乗せ、あなたはまだその手で口を塞いでいる。どうやら喋りたくないらしい。

「じゃあ、この中で一番おいしいと思うものは?」。
「うーん。それも難しい質問ですけど、やっぱり山崎なんじゃないかな」。
「何で山崎ですかね?」。
「ちょうど良いのだと思います」。
何て素敵な答えだろう。

「ちょうど良い?」。
「そうです。飲み応えがあるんだけど、飲み易い」。
「だから飲み飽きない?」。
「そう、そうです」。

もちろん、すべての人の答えがあなたと一緒になることなど考えられない。「飲み応えがあるんだけど、飲み易い」というあなたの答えは、あなたの個人的な感想の域を出ない。けれども僕はあなたが個人的な立場で、「どのようにシングル・モルトを選ぶか」ということの為に今まで話を聴いてきた。あなたの選択は人類の存亡を賭けている訳ではない。お気軽に行こうじゃないか。

「だったら、一番飲み易いシングル・モルトは?」。
「あぁ、グレンフィディックですね」。

そのことについてはもう聴かなくとも構わないだろう。恐らく、あなたの中でグレンフィディックは「飲み易いけれど、飲み応えがない」シングル・モルトなのだろう。そのことを思えば、あなたは飲み易いシングル・モルトを求めてはいるが、飲み応えに欠けるシングル・モルトやインパクトが少な過ぎるシングル・モルトもあまり面白くないと思っているのだろう。今までの話の流れから推察するに、あなたをシングル・モルトの面白さに気付かせたのはアードベックだったのだろう。

「それでは、一番面白いシングル・モルトは?」。
「アードベックですね」。

あなたはニヤリと笑いながらその台詞を口にした。
とても素敵な笑顔だ。
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とことん

今年に入ってから平日の記事は落としたことがなかったと思う。
言い訳がましいとは思うが。

今日は久々にとことん飲んだ。
バランタイン17年のボトルが空いた。
タクシーの中で寝た。
まだ眠い。
だから寝ます。

おやすみなさい。
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「スタンダード18」という考え方。(29)

そうやって僕は正解のない(あるいはすべての答えが正解の)質問を繰り返し、あなたを理解する。その背景に何があるのか、何をおいしいと思うのか、おいしいと思う理由は何なのか、愉しみを優先するのか、おいしさを優先するのか、求めるウィスキーに一貫性があるのか、ないのならその脈絡のなさこそを愉しんでいるのか。僕はあなたと話をしながらそんなことを考えている。いつでも。

あなたに3本のシングル・モルトを三角形に並べてそこに境界線を引いてもらった。昨日は「濃いか?薄いか?で境界線を引くなら」、というところで話は終わっていたけど、僕があなたに聴いたのはもちろんそれだけではない。「甘い」、「辛い」、「しょっぱい」、「重い」、「オイリーさ」、どんなキーワードでも構わない。様々な切り口を使ってあなたに境界線を引いてもらった。

僕がとても嬉しかったのは、あなたがそれを愉しんでくれていたようだからだ。僕の質問に答えることで、あなたは自分の価値判断の基準が明らかになったのではないだろうか。シングル・モルトを飲むのにたくさんの切り口を持つことの大切さに気付いてくれたのかもしれない。シングル・モルトを飲み下した後にしみじみと感じる「おいしい」。そのおいしさは確実にあなたの中に手応えとして残るが、そこに至るまでには様々なプロセスを通過するであろうことにあなたは気付いたかもしれない。

「痛いか?痛くないか?」、「固いか?柔らかいか?」、「濃いか?薄いか?」、「甘いのか?」、「辛いのか?」、「しょっぱいのか?」、「重いのか?」、「オイリーなのか?」。もちろん、それだけではない。他にも様々な切り口であなた自身がシングル・モルトを感じているのだ。それらの様々なプロセスを通過した後、あなたの中に感想は落ちてくる。そして思わず口にしてしまう「おいしい」。

あなたはまだ分からないかもしれない。それを説明できないかもしれない。だけど、良く考えて欲しい。「おいしい」からには理由があるのだ。思い出して欲しい。あなたが「おいしい」と言うシングル・モルトにはある一定の傾向がある。あなたがそのプロセスを説明できなかったとしても、あなたの中には「まずいものを排除するフィルター」があるのだ。そこに引っ掛からなかったものをあなたは「おいしい」と言うのだ。あなたはそれを説明できないけれど、あなたの中に「おいしい/まずい」を判断する基準はある。

あなたは、「おいしい/まずい」が分からないわけではない。
「おいしい/まずい」の基準を説明できないだけだ。
あなたの中にその基準はある。
何故なら、あなたが「おいしい」と言うシングル・モルトにはある一定の傾向があるからだ。

随分長い時間をかけて、僕はあなたに語ってもらった。
どんな風にお酒を飲んで来たのか?どんな風にウィスキーを飲んで来たのか?どんな風にシングル・モルトに出会ったのか?そして、それらの時間をどんな風に過ごして来たのか?
それから僕は、いくつかのシングル・モルトを飲んでもらい、具体的な感想を聴き、3本のシングル・モルトを用意し、いくつかの切り口でそこに境界線を引いてもらった。

僕は少なからずあなたを知ることができたし、あなたもきっとウィスキーに向かう自分を理解したかと思う。さて、そろそろ最後の質問をさせてもらおう。
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「スタンダード18」という考え方。(28)

僕はいつだってそんな風に話を進める。
改めてそんな風に質問をされるとびっくりされることは多いのだが、いくつかの質問に答えるうちに自分が何を思っていたのかが明確になってくる。そして結果として、自分が好きだと思うものが浮かび上がってくれれば僕は嬉しい。難しいことは考えることはないし、面倒な知識など必要ない。素直にあなたがどう思うかを答えてくれれば良い。

共感のテーブル-3さて、次の質問をしてみよう。
「固いか?柔らかいか?で境界線を引くなら、どこにそれを引くでしょう?」。
あなたは考えている。先ほどの質問よりは困っている様子だ。
「多分さっきの質問と同じ答えじゃないですかねぇ」。
「アードベックが固いシングル・モルトで、グレンフィディックと山崎が柔らかいシングル・モルト?」。
「ですね」。

固いものを痛いと感じ、柔らかいものには痛さを感じない。確かに妥当な結論には思える。
「さっきの質問より難しかったですか?」。
「そうですね。固いとか、柔らかいとかってあんまり気にしてなかったですね」。
確かにあなたの悩ましさが理解できない訳ではない。
「だったら、この3本を柔らかい順に並べたらどうなります?」。
「なるほど、だったら答えは簡単です」。

そう言ってあなたは目の前のボトルを手繰り寄せて並べた。
1位、グレンフィディック
2位、山崎
3位、アードベック

「グレンフィディックを一番柔らかいと思って、アードベックを一番固いと思う?」。
「そうです」。
「だとすると、山崎が柔らかいのか、固いのかで迷った?」。
「そうです。悩んだけど、柔らかい方にしましたけどね」。
つまり、1位と2位の間で線を引こうとするか、2位と3位の間で線を引こうとするのか迷った訳だ。

どちらかといえば、一般的にこの質問は「痛いか?痛くないか?」の答えと一緒であることが多い。グレンフィディックよりもアードベックを柔らかいと思う人はほとんどいない。

共感のテーブル-4「じゃあ、次の質問。濃いか?薄いか?で境界線を引くなら、どこにそれを引くでしょう?」。
「なるほど」。あなたは勘が鋭いのかもしれない。あなたは図のように境界線を引いてくれた。つまり、グレンフィディックが薄いシングル・モルト。山崎とアードベックが濃いシングル・モルト。

「ちなみに薄い順に並べると?」。
1位、グレンフィディック
2位、山崎
3位、アードベック
先ほどの柔らかい順と一緒である。

「山崎には何か濃さを感じますか?」。
「そうなんだと思います。腰が強いって言うか…」。
「複雑さですか?」。
「かもしれませんね」。

答えは人それぞれ、僕の質問に正解がないことは既にお伝えした通り。
でも、僕はあなたのことが少し分かったかもしれない。
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「スタンダード18」という考え方。(27)

平日の午後9時にジェイズ・バーに来て、ジン・リッキーを飲みながら、ブルイックラディについて語るあなたの話をさせてもらおう。池袋のある店で飲んだブルイックラディが甚く気に入ったあなたの話だ。僕はそんなあなたに、先ほどアードベックとグレンフィディックを飲ませたばかり。あなたは僕の質問に答えるように色々なことを語ってくれた。それはもちろん、シングル・モルトに関わることばかりではない。

共感のテーブル-3僕はまたあなたに問い掛ける。
「例えばこんな風にアードベックとグレンフィディックと山崎を三角形に並べたとします。痛いか?痛くないか?で境界線を引くなら、どこにそれを引くでしょう?」。
「間違いなくここですね」。あなたは躊躇なく答える。その答えは図の通り。
「アードベックが痛いシングル・モルトで、グレンフィディックと山崎が痛くないシングル・モルト?」。
「そうですね」。
「だとすると、グレンフィディックと山崎は同じ仲間だということになりますね」。
「そうですね」。
「アードベックは仲間はずれ?」。

言葉にこそ出さなかったが、あなたはしっかり頷いている。
どうだろう、ぼちぼちあなたはアードベックに対する過剰なまでの執着を捨てるのかもしれない。あなたの中にある「アードベックを好きにならねばならない」、あるいは「アードベックを飲むべきである」、そんな気持ちをあなたは捨てるのかもしれない。有体に言えば、あなたの中にあるアードベックに対する「こだわり」である。

こんな時、僕はあなたにちょっとしたイジワルを言ってみたくなる。
「こだわり」とはそんなに素敵なことだろうか?そもそもそれは、些細なことを必要以上に気にすること、拘泥することを意味する言葉である。アードベックにこだわり過ぎたあなたは、必要以上に気にすることでエネルギーを消耗したのではないだろうか。

過剰なまでの執着は誰をも幸せにはしない。もちろん、あなたさえ。
こだわることにこだわり過ぎて、あなたは自分を苦しめていたのではないだろうか。こだわることを目的として何かに執着しても、それはあなたを愉しくしないのではないだろうか。「こだわり」とは通り過ぎた後に浮かび上がってくる言葉ではないだろうか。結果として必要以上に気にしてしまう対象があることに事後に気付き、そのことに自分が僅かながら苦しめられていることを、あくまでも自嘲気味に扱うために「こだわり」という言葉はあるのではないだろうか。

だから僕は、「こだわりを持たない人は愚かだ」という論調が好きにはなれない。それでは、たくさんの「こだわり」を持つ人は素晴らしいのだろうか。僕から見ると「たくさんの苦しみを抱える人」にしか見えない。

誰にだって、「やめられない何か」はあるのではないだろうか。
それがあなたを苦しめているのなら、恥ずかしいことではあるだろうが、誇らしいことではないはず。だとすれば、「こだわり」を持つことを目的にするのは本末転倒ではないだろうか。

もちろん、僕も人のことは言えないが。
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「スタンダード18」という考え方。(26)

一昨日、圧倒的な賛成多数で「アードベックが痛い」に決まるだろう、と申し上げた。それが大前提であるかのような言い方であったが、そもそもウィスキーを飲んだ感想に「痛い」とはどういうことだと思われる方もいるかもしれない。

「痛い」が駄目なら、「ドライ」とか「ヘビー」という言い方をしたら良いのだろうか?それらのキーワードを否定するつもりはないが、僕の中では「ドライ」とか「ヘビー」という言葉よりも先に、「痛い」が浮かんでしまうのがアードベックだ。僕は最初に思い浮かんだ言葉を軸にシングル・モルトの感想を組み立てる。

確かに「痛い」は苦痛やつらさを感じるさまを表す言葉であるので、ネガティブなイメージそのものであるが、「痛いのが好き」な人は結構多い。僕も「痛い食べ物」はあまり食べたいとは思わないが、「痛いシングル・モルト」なら時々欲しくなる。シングル・モルトは嗜好品であるのだ。

シングル・モルトを飲み慣れない人に、「ドライ」とか「ヘビー」という言い方は適切だろうか?それともそれらの言葉の意味や感触を理解した後でないと、シングル・モルトは飲むべきではないというのだろうか。僕らは「ドライ」とか「ヘビー」という言葉よりも、日常的に「痛い」という言葉を使う回数の方が多いのではないだろうか。

シングル・モルトを語るのに面倒な作法などできれば使わずに済ませたい、というのが僕の立場だ。裾野を広げたい僕は垣根を低くしたい。「ドライ」とか「ヘビー」とか、あるいは「エステリー」とか「フェインティ」とか、そしてできれば「ピーティ」なんて言葉も、実は僕はあまり使いたくない。なぜならそれらの言葉はあまり日常的ではないからだ。日常使わない言葉はイメージを喚起しづらい。

他人と同じイメージを共有できることは愉しみである。「ドライ」とか「ヘビー」という言葉よりも、「痛い」の方が共感し易い。

シングル・モルトを飲んで、「痛い」という表現をしても構わないと気付いた途端、あなたの愉しみは広がっていく。飲んだシングル・モルトを「痛い」という切り口で、「痛い順」に並べてみたらどうだろう。ひとつの基準を用いただけで、それまでよりは確実にその違いを明確にすることができる。あるいは「何故、痛いと思ってしまうのか?」、について思いを馳せてみたらどうだろう。ピートの度合いだけが痛さの基準ではないことに気付くだろう。

さて、随分と寄り道をしたがぼちぼち元通りに軌道修正をしたい。大きく話をもとに戻そう。
そもそもは平日の午後9時にジェイズ・バーに来て、ジン・リッキーを飲みブルイックラディについて語るあなたの話だ。アードベックとグレンフィディックをテイスティングしてもらいながら、山崎の思い出を語るあなたの話だ。

そのあなたに僕は聴きたい。
テーブルに三角形に並べたアードベックとグレンフィディックと山崎。「痛いか?痛くないか?」で境界線を引くなら、どこにそれを引くだろう?また、基準は「痛い」だけでなく、「固い」、「柔らかい」、「濃い」、「薄い」、「甘い」、「しょっぱい」、「煙い」、いろいろだ。

あなたの線の引き方で、僕はあなたを理解するだろう。
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