イチローさんのモルトイチローさんに、スペード・エース、ダイヤ・キング、ハート・クイーン、クラブ・ジャックの4本のシングル・モルトを持ってきて頂いた。それらについて素直な感想を述べさせていただきたいと思う。そのすべては埼玉県の羽生蒸留所のヴィンテージ違いのシングル・モルトである。ファースト・カスクをホッグスヘッドで、その後の数ヶ月を様々な樽でフィニッシュ。それぞれの個性の違いは少なからずフィニッシュの樽の影響を受けていることだろう。しかし、僕はこの羽生蒸留所のハウス・スタイルらしきものとして心地良い酒質の固さとスパイシーな味わいを感じた。
その4本ともすべてが、ノンチルフィルター、ノンカラー、カスク・ストレングス。

1985−スペード・エース
蒸留:1985年、瓶詰:2005年、ボトル総数:122本、度数:55%。
1stカスク:ホッグスヘッド、2ndカスク:スパニッシュオーク・シェリーバット
シロップ感のある濃厚な甘味、奥行きのある味わい。しかしハウス・スタイル由来のものだろうか、力強くパワフル。4本の中で僕がもっとも気に入ったシングル・モルト。素直に「これが一番好き」と言える。池袋の有名ラーメン店「生粋」の店長岩井さんは「これは値段の高いシングル・モルトの味がする」とコメント。そのコメントは正解である。

1988−ダイヤ・キング
蒸留:1988年、瓶詰:2005年、ボトル総数:124本、度数:56%。
1stカスク:ホッグスヘッド、2ndカスク:アメリカンオーク・シェリーバット
この4本のシングル・モルトの中で一番異彩を放つ不思議な味わい。そのどれもが当たり前なのではあるが、「これが一番スコッチ・ウィスキーらしくない」。どうしても飲み手はこれらの4本のシングル・モルトについて、スコッチ・ウィスキーを飲むつもりで飲んでしまうと思うが、そんな思い込みを排除しないと不思議な感覚に陥る。僕自身はその不思議さを十分に楽しめた。
ピートを絡めた複雑さはどこかアイラ・モルトを彷彿とさせるが、「ダシっぽさがアイラと違う」、そんな気分にさせるシングル・モルトだ。

1990−ハート・クイーン
蒸留:1990年、瓶詰:2005年、ボトル総数:125本、度数:54%。
1stカスク:ホッグスヘッド、2ndカスク:フレンチオーク・コニャックカスク
多くの人にほど良い飲み応えと丁寧さを感じさせると思われるシングル・モルト。万人受けすることは「没個性」ではない。華やかな香りと穏やかな苦味。バランスに優れ、繊細にして力強い。

1991−クラブ・ジャック
蒸留:1991年、瓶詰:2005年、ボトル総数:124本、度数:56%。
1stカスク:ホッグスヘッド、2ndカスク:アメリカンオーク・シェリーバット
この適切な力強さが心地良い。痛くなく、辛過ぎず、パワフル。穏やかな香りとほど良い甘味。力強いマッカランのよう。シェリー由来のものだろうか、独特のエグ味を感じるがどことなく「青臭い」。若木を折って口に含んだような感覚。力強さを背景にそれは決してネガティブな要素ではない。


すべてをいただいて僕はイチローさんに聴いてみた。
「何故、トランプのカードのデザインのシングル・モルトを作ろうと思ったのですか?」。
イチローさんは答える。
「それぞれに個性的なシングル・モルトを瓶詰したいと思ったのです。キャラクターの違うシングル・モルトを用意して好きなものを選んで欲しい」。
確かにシングル・モルトは嗜好品である。嗜好品である以上、「良し、悪し」は重要ではない。僕らはシングル・モルト評論家ではないのだから。自分にとっての「好き、嫌い」がすべてだ。であるなら、好きな酒を覚えておくことは大切だ。酒は思い出の中にもある。トランプのカードの中の1枚と好きなシングル・モルトのキャラクターが符合することは、僕らにとってありがたいことかもしれない。
イチローさんは続けて言う。
「トランプには53枚のカードがあります。そのすべて、53種類のシングル・モルトを瓶詰できたら嬉しいなと思うのです」。

そう、イチローさんは「53枚」とおっしゃった。52+1の53枚である。
イチローさんはジョーカーにどんなシングル・モルトを選ぶのだろう。

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