さて、問題Aに素直に取り組み、見事に正解であるミルバーンに辿り着いた中村君である。それでは、正解がハイランド・パークである問題Bに、彼はどのように挑んで行ったのであろうか。

アンケートの結果から察するに、彼は今回のハイランド・パークをミルバーンに比べ、より柔らかく地味な薄味で、甘味は少ないがより塩味を感じるシングル・モルトと捉えていたようだ。僕の立場からこの結果に考察を付け加えさせていただくことは「後出しジャンケン」に他ならないが、彼の持つこの感想は非常に妥当なものと思われる。ハイランド・パークはミルバーンに比べ「より柔らかく地味な薄味で、甘味は少ないがより塩味を感じるシングル・モルト」。正解がそれぞれハイランド・パークとミルバーンであることを知らされていたなら、なおさらそう思うのではないだろうか。

ふたつのシングル・モルトを飲み比べその距離感を彼はつかんだ。アンケートに答え、どちらがより甘いか、どちらがより濃いか、どちらがより柔らかいか、どちらがよりしょっぱいか、そしてどちらがより華やかか。彼はそのひとつひとつを自分の中に落とし込んで行った。結果としてその違い、その差異こそが、シングル・モルトの森の中での2本の木の距離となる。

問題Aはミルバーン。それがスペイサイドの林の1本の木であるとすると、その距離感はぼんやりとつかんだ。「であるなら、問題Bはハイランド・モルトではないだろう」、くらいのことは察しがついたかもしれない。問題AからBまでの距離はそんなに近くはない。

彼がシングル・モルト上級者でなかったことは幸いだったかもしれない。問題Aからある程度の距離があるのが問題Bだとしても、それはアイラの林に存在する木ではないと思ったかもしれない。上級者でないが故に「アイラ・モルトは全部ピーティ」という思い込みがあったかもしれない。問題Bにはあからさまなピーティなど存在しない。「問題Bはピーティではないからアイラではない」。彼はそう思ったかもしれない。確かにそれはある種の短絡に他ならない。今回の選択肢に挙げたブナハーブン(アイラ)はピーティなシングル・モルトではない。その選択肢はある程度の知識のある飲み手を戸惑わせるかもしれない。しかし、初心者には親切だ。結果として彼は選択肢から「アイラ」を外した。初心者に当たり易いブラインド・テイスティング。それは、僕の狙いでもあった。

ローズバンクという選択肢には彼も悩んだかもしれない。ローズバンクには「柔らかさ」がある。彼は問題Bに「柔らかさ」を感じている。例えるなら、その柔らかさは「しっとりとしたスポンジケーキ」のような柔らかさではなく、「口融けの良いウェハース」のような軽快さでもある。「柔らかさ」を軸に問題Bを理解するなら、答えをローズバンクにすることは妥当であると言えなくもない(事実ローズバンクとの解答は多かった)。しかし、彼は問題Bにより塩味を感じている。さらに問題A(ミルバーン)の方により甘味を感じている。そして、傍らのマイケル・ジャクソンの本に「ローズバンクは甘く花のようであるが、塩味があるとは書かれていない」のである。

さて、その選択肢をもう一度すべて記しておこう。
1. バルブレア(ハイランド)
2. ミルバーン(スペイサイド)
3. ハイランド・パーク(アイランド)
4. ブナハーブン(アイラ)
5. グレン・スコシア(キャンベルタウン)
6. ローズバンク(ローランド)

そして中村君はこう考えた。
問題Aをミルバーンとしたから問題Bはミルバーンではない。その距離感から言って、問題Bはハイランド・モルトであるバルブレアほど近くない。問題Bはピーティではないのでアイラ・モルトであるブナハーブンではない。ローズバンクであるなら、より甘くしかも塩味を感じないはずだ。結果として彼は選択肢からバルブレア(ハイランド)、ミルバーン(スペイサイド)、ブナハーブン(アイラ)、ローズバンク(ローランド)を外した。残るはグレン・スコシアとハイランド・パーク。正直なところ彼が何故グレン・スコシアを外したか、それは僕にも分からない。

最後にブラインド・テイスティングを愉しむコツである。
まずはしっかりと味わう。アンケートに答えながら、その違いを理解する(つまり距離感をつかむ)。そして、カンニングをする(つまりシングル・モルト関連の書籍を読みながら答える)。

中村君は言うのだ。
「すいません。ジャクソンください」。
それで良い。

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