「バーテンダーはモルト「だけ」に頼るべきではない」。
もしもあなたがそう仰ったのなら、僕もその意見に全面的に同意する。僕自身、当たり前のようにカクテルを作る毎日であるし、自分が作ったものが少しでもおいしくなるよう努力をしている。お客さんを不愉快にさせたくはないし、愉しい時間を過ごしてもらいたい。だから、人としても真っ当でありたいと願って止まない。僕だって、シングル・モルト「だけ」に頼って働いている訳ではない。

人と酒の間に立つのがバーテンダーだ。僕らの職業意識の中で恥かしくないと思う方法で、お客さんを愉しませるのが僕らの仕事ではないだろうか。確かにシングル・モルトだけに頼る必要もないだろう。だけど、「モルトに頼るべきではない」。そう仰ったあなたは、それでは何に頼っているのだろう。

あなたの言い方を使うなら、僕は「モルトに頼る」バーテンダーだ。僕なりに言い換えさせていただくなら、「シングル・モルトを得意とする」あるいは「シングル・モルトを提供することを軸に仕事をする」バーテンダーだ。あなたは何に頼り、何を得意とし、何を軸に仕事をしているのだろう。

例えばそれはカクテルなのだろうか。
では、伺いたい。モルトに頼るバーテンダーに否定的なあなたは、
「バーテンダーはカクテル「だけ」に頼るべきではない」。
そう言えるのだろうか?

バランス良く、様々なことに精通してこそバーテンダーであると、もしもあなたが、そういう主旨のことが言いたくて「モルトに頼るべきではない」と仰ったのであれば、バーテンダーはラムにも、ワインにも、テキーラにも、そして当然カクテルにも、つまり、何かひとつのことに頼るべきではないのだろうか。

もしもあなたが、僕に向かって「バーテンダーはモルト「だけ」に頼るべきではない」、と仰りたいのであれば、あなたもまた「カクテル「だけ」に頼るべきではない」のではないだろうか。僕にもあなたにも、お互いにバーテンダーとして仕事の軸となるものがあるだろう。それはつまり、それぞれが得意とすることである。僕にとってのそれはシングル・モルトであり、あなたにとってのそれはカクテルなのだろう。

どうだろう。僕らはそれぞれが違う種類のバーテンダーだという認識を前提に、お互いをリスペクトし合うことはできないだろうか?

「モルトに頼る」バーテンダーに否定的なあなたのことだ。さぞかしカクテルがお得意なのだろう。そういう自負があるからこそ、「バーテンダーはモルトに頼るべきではない」と発言なさったのだろう。だけど、あなたは恐らく知らないはずだ。シングル・モルトを提供することの意味を。

この連載の初回に僕はこんなことを書かせていただいた。
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「買って来たものを量って売るだけなのがシングル・モルト」、ということが言いたいのだろう。
「ラクで良いよね」って。
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あなたはきっとこんな気持ちで「バーテンダーはモルトに頼るべきではない」、と言ったのではないだろうかと僕は思っている。もちろんそれは僕の憶測の域を出ない。だけど、もしもそうだとするなら、あなたの僕に対する認識は間違っている。

あなたは恐らく、知らない。

毎度のことですが、長くなってすみません。人気ブログランキング